表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

5章② 幽霊の正体見たり枯れ尾花

 …気づけば私は、スカビオサに背を撫でられていた。言葉があるわけでもない、撫でられている感覚もなく、胸が締め付けられるのみ。しかし、それがどうも心地よかった。

 星空の下、奇妙な友情が生まれた私達は互いを見つめ合いながら無言で時が流れるのを感じていた。



ーーーーーー

『…』

◎「フ…バケモノとは何回も言われたけれど、本物に出くわすのは初めて。」

剣は、明らかにピエロ男に刺さっているくせに、手応えが全く感じられない。服の穴から覗いているのはスーちゃんと同じ色をした肌。

『ワタシは殺せマセンヨ。今更、生かせも殺せもシナイ。カミサマと言った方が寧ろ正しい気すらあル。』

◎「…此処まで屈辱な負けは他にないわね。捕らえることも出来ない、私は一方的に消耗するだけ。降伏しましょう…だけど、殺さないでね。ヒトちゃんの為にも。私を殺したら、私の協力者があの子の事殺すかも。それに、右目の植物の種…アレを処理するのは一体誰がやるのかしら。」

殺気立ってるし、焦ってる。


『ミュオ、と言いなよ。もう彼女はヒトじゃない。』

漸く絞り出したのはそんな言葉か…。


 ピエロ男は一見すると落ち着きがあり冷静かもしれないけど、中身は短気で感情的になりやすい時がある。更に、一つに集中すると周りに目が行かなくなるという弱点も。ミュオちゃんの傷だって、彼がついやっちゃった物ではないかと予想する。


 …一応、もうあの種と少し生えた芽は摘み取ってある。そこまで心を捨てた覚えはないので。


『お言葉に甘えてその口、閉じさせて頂きまショウカ。』

何の躊躇もなく顎に入れられる。視界が上に行ったと思えば、もう意識はなかった。



ーーーーーー

『サテ、と…一度ミュオの様子を見に行きまショウ♪』

イケナイ…最近はすぐ感情的になりやすい。気をつけなくては。そう思いつつ、彼女の眠る部屋へ向かう。恐らく、もう起きてはいるのだろう…花の種だけどうしようか、そう思いつつ扉を開ければ、其処に彼女の姿はなかった。

『ミュオ?相変わらず好奇心旺盛な子ですネェ…。ソンナんじゃすぐこの世界ではシンデシマイマスよ?ワタシが守って差し上げますけど…出ていらっしゃい!』


 部屋を一つずつ見る、が彼女の姿はなし。ピアノのある部屋で、彼女が繋げたらしい楽譜を見つける。変な所大雑把だなァなんて思う。マスキングテープがぐちゃぐちゃ…。ソレよりも、気になったのは部屋の大きさだ。書斎は本棚がある分奥行きがあるはずなのにピアノの部屋は小さい。家は綺麗な直方体(屋根あり)なので恐らくはこの奥に隠し部屋がある。…外から回ったほうが早い。


 家を出て、海側の壁を見れば窓らしき物が壊れカーテンが蠢いていた。入ってみると少し狭い部屋。窓があるのは不自然だが、遮光性のカーテンで完全に見えなくする事は出来る。カモフラージュ、といった所か…?


 部屋には一脚のシンプルな椅子があり、しかし縄や鎖など、繋ぐためのモノはない。果たしてここは、なんの為の部屋だ?ミュオを此処に監禁する事は、仲間が居れば可能だがその様な気配は感じられない。


 誰か此処に住んでいた…しかし、出口は書斎の本棚が邪魔で実質窓しかない。窓も、開閉できるものではない。流石に毎回窓を破壊しながら出入りするのは非効率だ。考えられるのは、監禁。だが不自然なのはやはり簡単に破壊できる窓と何もない拘束道具。矛盾したその2つの要素に、あの女の気色悪さを感じる。


 仮に監禁された奴がいるとしよう。ミュオも一緒にいないのは何故?逃避行にミュオを…イヤ、使えると思える様なポテンシャルはあの子にはない。あるとすれば、ヒトを知る者(魔法陣を使える者)のみ。


 …ヤツはミュオを連れて何処へ逃げた。


 林、海、村…。余所者を嫌う村はあり得ないだろう。監禁された奴は村の奴等にとっては新顔だろう。林…。わざわざそんな所に逃げるか?林に逃げ込んだとてあの女から逃げられるとは到底思わない。しかし、残るは海。言っておくが向こう側の小島まで相当距離がある。泳いで渡ろうなんざ無謀でしかない…とすれば、飛んだか?しかし、そこまでの魔素の精密動作を可能にするには代償が必要不可欠な筈である。


 しかし、今はソレ以外は思いつかない。海を超えて小島に行くことにした。身体の中の魔素を羽根に変え、翼に変え一気に飛ぶ。空と魔素の色が混じって、何とも言えない黒になる。


 …ワタシの触覚と痛覚は、当に技術力促進の為の代償の例といえる。両腕、両足をもがれた苦痛に、精神が耐えきれなくなって16歳、ワタシの身体は痛みを感じさせなくなった。まさか、ソレが代償認定されて魔素を自在に動かせる様になるとは思いもしなかったが…。おかげでワタシの身体は魔素だけになって尚人間を形作っている。ワタシに急所はない。生死も、幸せも…そして、差し出せる代償も。ソレが何を意味するか



ーーーーーー

星もそろそろ見飽きた頃、スカビオサは語り始める。

「貴様、記憶がないんだよな。ナァ、聞きたいか?貴様の知らない出来事を。」

其れは、悍ましくも興味を唆られる、魅惑的な誘い。喉を鳴らし、彼女の誘惑に頷く。

❖「良かろう。私の皮に、肌に手を触れてみろ。」

スカビオサは私の手を引っ掴んで自らの鎖骨に手を当てさせる。照れるまもなく、記憶はいつものようになだれ込む。



 此処は、村…?どうせ此処も頭おかしい風習やらが残ってるのだろうと思っていると、何やら様子がおかしいのに気づく。この視点は、地面?何やら複数人の声も聞こえる。

【「救ってくだされ!どうかご慈悲を、そして恵みを…我らは、もはや食べ物もマトモに作れませんので!」「カミサマ!カミサマ!」「まさか幼き少女の姿だとは…黒髪は髪の証じゃ!」】


 魔法陣の上に立っているのは、わずか7歳程度の少女。ソレは記憶の中の私と全く一緒の容姿。黒髪、黒目。しかし様子が変なのだ。


【「ァ…ギ、グァ゛…ぅ゙オェ゙ッ」】


 顔色が、様子が明らかにおかしい。明らかに苦しんでおり、嗚咽の後彼女の目から、口から、ありとあらゆる所から大量の魔素が出てきて地面に落ちた。


【『ヒト!』】


 いつも通りソティスがやってくる。彼はもう、今と同様仮面をかぶっている。その背丈は前回見たよりも更に高い。そして、驚くべき事に苦しんでいない。何処か、必ず欠損した部位がある筈なのに彼は平然と彼女を担いで翼を生やし、行ってしまった。


【「行ってしもうた…」「何も残さず、」「結局アレは嘘だよ!」「でも、長老の姿…みなよ!若返ってる」】


 彼等の視点は魔素に注がれる事なく、若返った長老に向けられた。男は恐らくは20から30代…つまり、50程度のおじさんに長老、といっているらしい。何処か違和感を感じる。


 突然、視点が動き始める。人間達とは逆方向に、村の離れへ向かっているようだ…行き先を見れば、少し煙が上がっている?やがて魔素の動きはやみ、眼の前には焼け焦げた少女がいた。もはや死んでいるといっても過言ではない状態で、彼女の口からは未練が飛び出る。


【「…し…な」「た…く…」「に…な、…い」】


 死にたくない、と言っているのだろう。しかし、見た所呼吸はどんどん浅くなりどう考えても死にそうだ。すると魔素が、彼女の身体を登り、広がっていく。彼女の肌を形成するように、彼女の傷を消すように。


 …恐らくは、彼女の願いに反応して動いたのだろう。使ってわかるが魔素は強く念じる事で形を変える。恐らく、色以外なら何でも…


【「いた…い」「い…おま、なん…」「な、にが…ァ…」】


 やがて彼女は魔素の肌を手に入れた。それに伴い視点が彼女の目からとなる。しかし、瀕死なのは変わりない。何とか這いずりながら、何処に行けばいいかも分からず只動いていた。


 寒く冷たい夜が過ぎ、劈くような日差しが照らす朝がやってくる。最期を悟ったか上を向き、目をゆっくり閉じる…。


【◎「…」】


 最後に写したのは、血に染まった特徴的な三つ編みをした女性…再度目を開くと驚いた様に此方を見ているのが分かる。


【◎「ぁ…」】


 何か話そうと思ったのか口を開けたが、疲れが上回ったか目を閉じる。其処で映像はとまった。



❖「ソレが、私を監禁した女…アベリアだ。」

「あ…成る程。」

❖「全身が火傷に覆われたのは、昔の村の連中のせいだ。私は一つ目…れっきとした人間である筈なのに、見た目が違う化け物と言われ。やがてカミサマへの生贄という理由で焼かれたさ。その後、あんな魔法陣がある事を知って、焼かれ損だったがな。」


❖「戦争帰りのアベリアが私を見つけ、何をとち狂ったか私を美しい等…」

そう言った彼女が嬉しそうな顔をしたのは気のせいか。所謂ストックホルム症候群というヤツか?幸せなら、いいのだろうか…いや逃げてるしな。


「これから、どうするの?」

❖「帰れたら…アイツが私を見つけられたら帰るさ。所詮その程度の決意。」

「監禁、されてたのに?わざわざ逃げたのに?」

デリカシーがないのは分かっている。でも、聞かずには居られなかった。返答次第では帰さないと思うのは偽善か?

❖「逃げようと思えばいつでも逃げられるようにしている時点で、本当に縛り付けようとはしてないさ。…所詮逃げられてもいい相手、とでも思っているのかもしれないがな。大切に、蝶よ花よと世話した所で私はカミサマ等ではない。その事に、気付いてしまったのか…。」

「…」

何も言えない。彼女が求めるのは返答などではない、告白を聞いてくれるだけの相手。

❖「いっそ…いっそ。アイツの眼の前で、アイツがトラウマになるような死に方でもして永遠に縛り付けてやろうか。」

「…しようと、思ってもないくせに」

❖「…貴様も所詮同じ穴の狢さ。」

胸に刺さる。私がこの家出を誘った理由はピエロからの愛を確かめるのも一つだったかもしれないから。私はもはや無知で純粋な子などではない。ソティス(ピエロ)が望み、愛したであろうヒトでもない。私の行為により殴られた、というのが証明している。


 いっそ死ねたら良かったのにとは思うのに。死ぬ勇気も湧かず死なない理由探しもやるものだから救いようがない。



 不意に、バサッという大きい鳥が飛んでいるような音が聞こえる。にしても余りに近い…周りを見渡した時、一つの黒い羽根が降りてきた。

『ミュオ。此処に、イマシタか。』

「ピエロ…」

安堵と、不安を感じる。また、申し訳ないという気持ち…。まるで、幼稚園のお迎えが先に来てしまった感。

『色々言いたい事はアリマスが…まずは、ごめんなさい。アナタを傷つけてしまったコト。』

「素直に言う事を聞かなかった…私も、いけなかったから。」

…流石に、殴ったピエロの方が悪いのは私にも分かる。だけど、謝らねばならない。そんな雰囲気があった。

❖「…念のため聞こう。アベリアは?」

『アノ女ネェ…大丈夫。今ではぐっすり眠ってるんじゃない?』

❖「…アイツが負けるとは到底考えにくいが、まァでなければ考えられない事は沢山ある。」

『彼女と同様物分かりがイイんダネ。』

❖「一緒にするな。私は只目の前で起きた事を飲み込むのが上手いだけ。」


『じゃあ本題に移ろうカ。ミュオを返しなサイ?』

❖「そして私も死ねと?」

『…ハイ♪』

 ヒュッと喉の奥から音がする。寄生花の時も…彼は、同じ様な事を話していた。ヒトのために魔素を持った者を殺す。実際に言われると恐怖で鳥肌が立つ。


❖「まぁいい。なら死ぬ前に貴様に質問をさせてもらおう。…貴様は、生き物を愛した事があるか。」

『…ソウダネ♪でも、ソンナ事聴いて何になるノ?』

❖「その答えで十分だ。貴様、もはやヒトの事なんて愛していないんだろう?…いや、語弊があるな。子供になって、貴様の事を忘れて、人格が変わって、身体ももはや魔素で構成された…もはやヒトと言っていいかすら分からない。ミュオの事なんて最早義務感に迫られて守っているだけ。」

『…』


 否定しないピエロを見て、頭が凍りつく。さっきまでは…来てくれたという、わざわざ探し出してくれたというれっきとした愛情を感じて、感じたと、思っていたのに。


❖「テセウスの船を知っているか?とある哲学さ。少しずつ部品を変えていって、やがて全てのパーツが新しくなった時、それは果たして元の船と同じなのか?…貴様の答えなんざ、聞かなくてもわかる。」


 ピエロは又も何も言わない。


❖「大事なのは、本質と周りからの評価だと私は考えている。教えてくれよ、前の彼女はどうだった?今とは違うか?まァ人格形成には環境も大きく関わっている。お前を作ったのはヒト(前の彼女)だし、ミュオ(今の彼女)を作ったのは紛れもない貴様だ。」


 心臓に、何かが触れている様な感覚がする。苦しい、苦しい。昔と比べないでなんて言えない。言う権利がない。


❖「貴様も貴様だ。全身はもはや魔素で構成され、代償として差し出せるのはもう貴様の記憶のみ。記憶を失えば貴様は形を保てなくなる。今まで形があったのがおかしかったのだからな。」


 私の心に衝撃が走る。出来る事なら、一緒に帰りたいと思っていた。この世界はお互いにとって悲しすぎるから…あまりにも、此処に住むには向いていないから。


❖「貴様はどうするつもりだ?私はどうせ殺すのは分かっている。しかし、貴様は此処から帰ることは出来ない。魔法陣を知るものは文字通り誰一人として消える。野望が叶って良かったなぁ?」


尚もピエロは動かない。口を挟みそうになるが、挟もうとしたところで話す言葉が見つからない。


❖「私の言いたいことは以上だ。やってみたかった悪戯が成功したのでな、殺せよ。私はヒトと、魔法陣を記憶した魔素をたっぷり含んだ化け物だ。化け物で言ったら貴様もだがな。」


 私が止めようとした所で、私はもはやヒトではないし愛されてもいない…。何か出来る筈と思うのに肝心の頭は働かない。無力感を悟る。


❖「ミュオ。別に貴様の事はどうとも思っていないさ…恨みたいとも、貴様さえ居なければ、とも。案ずるな、そして忘れるな。貴様を愛す者はいる筈なんだ…なんて、会ってまだ一日も経っていないヤツに言えることではないがな。」

視界が黒に染まる。感じるのは聴きたくない海と、何かが切れる音。やがて、首に何か衝撃が来るのを感じた。意識が切れる。




ーーーーーー

◎「あ゛ぁ…朝だ」

 暫くして、目を覚ました。どうやら…朝のようだ。日差しが目に刺さる。久しぶりに誰かと戦えてストレス発散になったという感情と、あの敗北は解せぬよなぁという不完全燃焼感を抱え、身体を起こす。


 …今日は色々な事があった。はやくスーちゃんの顔を見たい。ピアノの部屋へ行く。しかし、其処で気付く。ピアノに、マステでくっつけられた楽譜がある…。謎を、解かれた?いや、ソレだけじゃ意味はないはず。ピアノを弾いて、急いで書斎へ行く。隠し扉を開ける…が、もぬけの殻だった。窓が開いてカーテンが靡いている。椅子に触れるがもう既に冷たくなっている。


 スーちゃんが、独りで出たとは考えにくい…なら、十中八九居なくなったミュオちゃんの仕業だろう。

◎「…逃げちゃっ…たんだ。」

別に、本当に縛り付けたかった訳じゃない。いつか彼女が逃げたいと思ったら、自分の怠慢で不足でしかないから、逃げれる様にしていた。そもそもあの家を作った理由だって彼女が余所者と変わり者を嫌う愚かな村人から守る為だ。建前でしかないかもしれないが。

◎「スーちゃん、スーちゃん…」

逃げられるかも知れないと分かっていたのに、逃げられても仕方ないと思っていたつもりだったのに。何故悲しいのだろう、何故寂しいのだろう。何故、足はスーちゃんを探す事を望んでいるんだろう。




ーーーーーー


 その後笑顔の村人達に宝石だと、いつもの御礼だと大きな海色の瞳と美しい白の糸の様な物を渡され、聞けばバケモノの死体からとったのだと…自慢する様に皮を剥がれ目をくり抜かれ、骨が折れ所々千切れかけ髪は引き千切られた小さな遺体を指さしながら言われるアベリアの姿があった。


 …どうか、せめて生きていて欲しいと、ソレすら叶わないなら自分の知らない所で幸せに死んで欲しいという願い虚しく。


 彼女の目には、その無残な亡骸すら美しく映るのだろうか。彼女は、村人達を…いや、これ以上言うのは無粋というものか。





 ね、彼等の旅はもうすぐ終わりますよ。彼等の足跡の周りにあるのは愛ばかり。彼等の愛の終着点を、貴方はどう予想しますか?


 …話は変わりますけれど、私は運命を自在に操れますよね。

自分が好きなように。

面白いように。

刺激を味わうために。

自分の欲求を満たすために。


 転移と代償という設定を作ったのは私。もう救いようのない世界を作ったのも私。魔素を生み出したのも、あの子を孕ませたのだって、あの子を残酷な運命に引きずり出したのだって言ってしまえば…私。


 …厨二病ガッツリなのは認めます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ