5章① 幽霊の正体見たり枯れ尾花
『ハァッハッハッハッ…』
こんなつもりじゃない。只動揺していただけ。彼女が、ヒトが真実を知ってしまった事が、怖かっただけ。
手を伸ばして脈を、体温を測ろうとしたが既に感覚はない事を思い出す。ピエロの仮面は外れかけていた。ぐったりとしている彼女に必死に呼びかけていると、短髪女の声がした。
✴「ミュオ!?オマエ、どうしたんだ!!」
近づいてくる。手を伸ばして、ヒトに触ろうとしている。
『ヒトに、触るなァァッッ!!』
殺す、と思っていた時には既に彼女の喉元に魔素を突き刺していた。
『ァ…殺しチャッタ…』
ピエロの面を急いで直し、元の口調に戻す。元、なのかどうかは最早区別はつかないが。
『マ、殺すツモリでしタシ、ラッキー♪とでも思っておきまショウか。』
落ち着いた分冷静になり、自分のすべき事を考える。
・ミュオを生かす
・工場の爆破
魔素を変化させて翼を生やし飛ぶ。時刻は既に夜、月も見えない黒洞々たる夜が身を包む。工場の上へまわり、体内の魔素を凝縮して一つの塊を落とす。地面に落ちると、魔素は工場を爆破させた。やがて魔素は手の平に戻ってきて、再び体内へしまう。
『さて…何処へ行きまショウか。ワタシには彼女が生きてイルかどうかすら分からない。』
あの人間、ミュオの生死を確かめさせてから殺すべきだった。
『アァ!ワタシの目的も果たせる一石二鳥の場所がありまシタ!あまり行きたくはアリマセンでしタ、ガ。』
『デハ行きまショウ。神に愛でられし子の寝床、遊蝶花へ。』
また救ってみせるから、それまではどうか死なないで。
1時間程飛んだ後、漸く海が見える。海岸付近にある村こそ、今回の目的地だった。森の中に着地し、ミュオを抱えながら村へ向かう。
村は柵で囲まれており、入り口は一つしかない。門番らしき人間がいたので、話しかける。
『スミマセン。コノ村一番の医者はいずこに。』
・「ァア゛?おン前、余所者なぞに教える訳ねェだろうに!」
聞いた事ない方便に、黒髪の意味を知らない奴。6年前にはいなかった、新参者らしい。
『確かに、アナタから見ればそうなるでショウネ。長老様等にハナシを通してもらえレバ、恐らく通じると思ワレマスガ。』
・「お前…アベリア様に飽きたらずジュデーシー様まで…お前はナニサマなんでぇ?けぇれヨ!どうせオマエも此処の作物目当てナンだろ?え?」
此方を悪者扱いして…どうせソッチだってそうなんだろ?という言葉は飲み込んだ。
『…モウ良いです。アナタとの話は疲れる。正しい事をシテイルツモリですカ?この子が見えないのデスカ?アナタを殺した方がキット早いでショウガまァイイ。』
関係ない人間を殺すのは避けたい所ですカラネ。
・「ハ!ドーセ?そうやって身体わるーふりすンのが魂胆!女もグルなァ!」
『…オマエの腕一本折って悲鳴出させる方が早いな。』
そろそろ我慢の限界だ。そう思った時、目の前に馬鹿を庇うように不思議な髪をした女が前に出て来た。
◎「あら!珍しい来客ね。こんにちは、不思議な子達よ!」
前髪を2つに分けて三つ編み、後は団子にして間から布を垂らした大きい女。垂れ目から覗く緑の瞳に妙に圧がある。目に傷が入ってるのを見る限り、コイツが…
・「あ、アベリア様!今、コイツがですねェ!」
◎「話は聞いたから大丈夫。クナン、門番としての責務は全うしているけどちょっと頭が硬すぎる。」
・「ァ…はい…」
◎「でも、君のおかげで村が守られているんでしょうね。ありがとう、礼を言っておくわ。」
・「ハイ!」
…なんだこの茶番。成る程、こうやってコイツは支持を集め、コノ地位に上り詰めたって訳だ…気色悪い。
◎「改めて…その子?患者さんは。」
『ソーダヨ。この子…頭を何処かにブツケちゃったミタイでネ。ワタシは生まれついての病気で触覚がなく体温も分からない。見てあげてくれ。』
少し嘘が混じっているが…マァ支障はないからイイダロウ。
◎「うん…うん。死んではいない、傷跡から見るにそこまで深い訳でもない。ちょっと脳が揺れて脳震盪が起こっちゃっただけ。でも不安だからね…寝かせておく?」
『…ソレはありがたい!ワタシ達は旅人でシテ、安定して宿が取れない。』
◎「分かった。じゃあ私の家へ行きましょう。」
やけにすんなり事が進む。少し怪しむべきか…
◎「着いた。」
其処は、村から少しばかり離れた、海に最も近くて窓が沢山あって、開放感のありそうな家。村どころか地域一の医者の家、と言うと少々小さい様に見える。
アベリアはドアを開けて、ワタシ達を招く。
◎「君達…特にそっちの女の子は、ヒトだよね。黒髪はこの世界にはいないんだ。元々そういう色素が作られていない、そしてこの世界ではもう髪を染めるのは流行ってなくてね。」
『ホぉ。流石、お詳しい。』
誤魔化しは不要、か。
◎「私はその時居なかったんだけどね。教えてもらったんだ。」
『で?どうするおツモりで?』
◎「いや?只の興味です。」
『どうだか。』
ベッドにミュオを寝かす。見た所ミュオをどうこうしようという気はなさそう、だが油断はしない。
『医者として優秀…だが、一方で歴戦の戦士の空気を感じさせる。違うカイ?』
◎「!…。ええそう。分かっちゃうのね、君。」
『目の傷もダケド、立ち方と警戒の仕方、影の消し方カナ。…五年前起こった戦争。当時同じに見られた戦力は片方が圧倒的な力を持っており優勢だった。』
◎「…今では戦争が起こった事すら知らない人間の方が多いのに。」
『軍団長が優秀だったと。腕は更なり育成や知識、作戦や経験。マトモに受けた傷は左目。アナタも同じ位置に傷がアル。』
◎「あー、もう大丈夫。理解したから。」
『そんなアナタが、何故医者等?』
◎「私はもう随分人間を傷付け殺した。せめてもの償い。」
『ソンナ理由で信じるとデモ?』
◎「本音何だけどね…。」
うーんと、目を細めながら首を傾げる。それすらわざとらしく腹が立つ。
◎「一度ボコせば信じてくれる?」
『自分が勝つと信じて疑わない…本当に神に愛されていると確信しているヨウダ。イイでショウ。』
ーーーーーー
「うぁ…どこここ」
瞼を開けると知らない天井…。窓から日差しが差し込んで、明かりはないのに明るい。窓を見れば、海が見えた。ピエロ、は…。最後の記憶は曖昧で、殴られたという事しか覚えていない。ピエロの仮面がイヤに瞼の裏に映る。信じたくはない、がそういう事なのか。
ベッドから降りる。頭には包帯、看病されたのかな…。扉は開いていたので出る。廊下…他人の家は少々苦手だ。片っ端から扉を開けても怒られないだろうか。いやでも、折角看病してもらったんだからお礼言わなきゃいけないし!そう言い訳して家を調べる事にした。
一つ目の部屋、はお手洗いだった…。やけに清潔感がある、家主はきっと几帳面な人間だ。…ワンチャンピエロの可能性もある、か。
2つ目の部屋は洗面所兼脱衣所。誰もいなくて良かった…風呂は所謂猫足バスタブと言うやつで、なんか広いし高そう…鏡ピッカピカ、珍しいな。シャンプーリンスはしっかりお高い。ボディソープは肌に優しいやつ。
3つ目の部屋、は書斎?試しに一つ取ってみるがちんぷんかんぷん。文字が沢山、それに専門用語?がいっぱい…英語…。暫く歩き回って漸くあった私にも分かる本は、料理の本と猫の飼い方。猫?毛一つ落ちてなかったけどな…。
四つ目の部屋、はピアノがあった。他人の家にピアノがあったら弾きたくなるよね。凄く音が綺麗に響いた。大きさ的にも、ピアノ教室でもやってそうだ。他、は…チェロケース?他も探せば色々ありそうだ。多才なんだな。少し高めの譜面台の上には楽譜と鉛筆が乗っていた。しかしその割には楽譜は白い…弾く暇がないのかな。
5つ目の部屋…扉は付いてなかった。台所と、ダイニング。1人分の椅子のみなのを見ると一人暮らしか?植物が沢山ある。冷蔵庫を少しだけ開けてみると沢山の野菜と牛乳、卵…。自炊ちゃんとするタイプか。
残りの部屋は、恐らく物置と家主の部屋だろう。物置には棚、と整理された薬品や救急箱。家主の部屋にはシンプルなベッドと色々な本や紙、ペンが乗った机。なんか何処かで見た社長室みたいだ。
なんか、不思議な家だ。猫はいないのに猫の本、一般人とは思えない程集められた薬品、多くある楽器の割に暇がなさそうな家主。楽譜もそれなりに難しそうなものばかり…。猫の毛どころか家主の髪すら見つけられそうにない。
玄関はとっくに見つけたが、好奇心に負けて私はこの家の不思議を明かす事にした。
まずは一番怪しそうな家主の部屋。机の上を調べる、が難しすぎて理解出来なかった…。分かりそうな言葉は複数あるが、言葉で文章を理解するには知らない単語が多すぎる。後回し。後あるのはベッドくらいか…しかし布団をめくっても何もない、ベッドの下にも何もない。この部屋にはなさそうだ…、が、気付く。引き出しに、少しの紙がのぞいている。人様の家の引き出しを、勝手に見ていいものか。多少の葛藤の後、欲望に負けた私は紙だけ拝借する事にした。コレは…楽譜?の切れ端。決して難しくなく、今からでも弾けてしまう。しかし、下半分がなくて弾けない。
これ、下半分見つけてあのピアノで弾けば何か起きるんじゃ…!次!次は物置だ!ない…寝てた部屋!…ない。ダイニング、書斎、脱衣所、お手洗い…なし。
コレピアノの部屋にあるの…?たくさん部屋あるのに中々同じ部屋に2つギミックある事ないよ?いや、そういう心理状態を利用した巧妙なヤツなのか…。ピアノの部屋に入って、試しに譜面台をよく調べてみると楽譜の後ろに下半分の楽譜の紙切れ。床を台パンした、これ床パンかしら。
マスキングテープで上と下を繋げてピアノで弾く。難易度は、キラキラ星と言ったら伝わるだろう。変奏曲の方じゃない、片手だけで弾ける方。
「これで何か起こればいいけどな…。」
只、そんな某RPGでありそうな音はならない。これホントにあってるのか…?試しに隣の書斎を調べてみる。おぉ!奥の本棚が動いて…動いただけ?いや、そんな筈はない。よく見てみる。こんだけ手がこんであって「わぁ♡奥の本が取れるようになったね♡便利〜」じゃない、流石に!
暫く調べてみたが、書斎が広いのもあって何処を調べればいいか見当もつかない。なんで縦長なんだよ!同じくらいの横幅してるピアノの部屋は横長なのに…ん?書斎とピアノの部屋の奥行きが違う…?本棚が動いて奥行きが増えた。ならピアノの部屋の奥におそらくは、隠し部屋がある…!ピアノの部屋側の壁を試しに叩く。…何もないか?そう思ってたらいきなり壁が回った。出て来た部屋に倒れ込む様にして入る。
此処が、家主の隠し部屋…!!身体を起こすと、シンプルな部屋の中に、一人の少女が、いた。
❖「…。」
青い一つ目、長い白髪、その皮は漆黒…。この世ならざる美しさを持った少女が其処に座っていた。
「あ…」
❖「貴様はヒトか。私が恐ろしいか。」
…!この子は、ヒトを知っている。だが、口を開けない。何か喋ろうとするが言葉が出てこない。
❖「私を生み出したのもまた貴様だというのに。」
上等な布、髪飾り…蝶よりも花よりも丁重に扱われているのが伺える。
❖「私の名は、スカビオサ。私はれっきとした人間だ。誰に造られた人造生物でもない。」
どう、声をかけるべきか。
❖「私の皮は、肌は、ない。正しく言えば魔素、と呼ばれたもので出来たものさ。もとはちゃんとたんぱく質で出来ていたんだがな。」
「私、がやったの?」
そう恐る恐る言うと、いっそ気持ち悪いくらい美しく笑って彼女は答える。
❖「何だ貴様…記憶がないのか。私をこんな姿にした張本人が!…いや、其れは語弊があるか…貴様も一応被害者ではあるからな。」
「貴方は、何者ですか。この家の、家主ですか…。」
❖「ほぉ、貴様本当に何も知らないか。私は此処の家主ではない。此処の家主、アベリアに幽閉された哀れな子さ。」
幽閉…、?
❖「ピンと来ないのも分かる、が事実だよ。私は彼女に丁重に、人形の様に扱われているタイプだ。見ろよ、紙もこんなに艶々だ。」
そういった彼女の髪は、本当に絹のようでサラサラだった。思わず見惚れていると、スカビオサが口を開く。
❖「水、持ってるか」
「え?いや…」
❖「この家の外は海だろう、取ってこい。手の平ですくうだけでいい。」
「あ、はい…」
そう言われてすぐ家を出て、言われた通り手に沢山の海水を掬い彼女の元へ持って行った。するとすぐさま彼女は私に言い放つ
❖「私に掛けてみろ。」
「はい…エッッッ」
❖「いいから。」
そう言われても、と思いつつ、手に持っていた水を彼女の髪に浴びせる。こんなので怒られないかな…もったいないな…と思っていたら、まるで魔法かと思う様な…そんな事が私の目に映った。
❖「私の身体は魔素のせいで特殊でな…見ろ、水に触れれば鱗が生えるんだ」
そう言った彼女の姿は、まるで人魚だ。
神を祀るかのような部屋、着せられた服、窓一つだけある隠された部屋。私が此処に来させられた時を思い出させる。此処の家主は、私を看病してくれたらしい家主は、あの男の様な狂った狂信者なのだろうか。
「逃げ、ません、か。」
無意識に言葉が溢れた。彼女はその大きな目を目一杯開いて、笑う。
❖「ははは!貴様…罪滅ぼしのつもりか?少しでも罪悪感から逃れたいか?所詮その程度。愚か、愚かだな。…だが、いいだろう。その偽善に付き合ってやろう。」
胸が痛む。図星なような気がしてならない。
❖「連れて行ってくれ、アイツが驚くくらいに遠い所に。アイツの目がもう一度驚きで見開かれるくらい。」
彼女の瞳が焦がれる色をしたのは、見間違いだろうか。
彼女は案外普通に歩ける様で、1枚あった窓を突き破ってすんなり外に出た。窓に細工なんて物はないし弱い力で割れるような、そんなただの窓。幽閉しようと言うのなら、何でこんなにも脆い、人間一人通れる窓を付けたのだろう。他にも疑問はある…何故、隠し部屋を家主から最も離れた部屋にしたんだろう。監禁して、逃げる事さえさせないならいつでも監視できる書斎の部屋を自室にすれば良かったのに。
彼女は、偶によろけながら生き生きと海岸を走り回っている。
❖「窓越しじゃない海は久しぶりだ。」
彼女はまるで無邪気な只の子供のようで。
❖「忌々しいこの身体を、初めてイイと思ったかもしれない。」
海に触れた彼女の鱗は日の光が反射して七色に輝いていて。
❖「あの海を越えた、小さな島に行こう。」
悪戯な表情をしながらと好奇心を含ませた顔をして。
❖「鱗があるから人間共に疎まれる。人間の姿を保っているから魚に逃げられる。私は、何処にいるのが正解なのだろう。」
まるで海が本来の居場所であるかのように自由に泳いでいるのに。
❖「アイツが嫌いなわけじゃない。怖いわけでもない。ただ、少しばかりの家出、意地悪って奴だ。」
私を上に乗せて泳ぎながら、そういった。
❖「貴様は、生き物を愛した事があるか。」
「…えっ」
それは、私にとっては当たり前な、逆に違和感のある質問。
❖「答えろ。」
彼女の海に溶けそうな色の目は、少し切なそうに此方を見る。急いで、答えようとする、けど言葉がつまる。
「あるよ。あるよ、ある。私、ピエロ好きだよ。裏切られた…かもしれない、けど。好き。別に恋とかじゃないの、只、好きって。愛してるの。優しくされたから、守ってくれたから…今も、私の知らない昔も。」
涙が、もはや何色とも分からない涙が流れた。私は、何者なんだろう。
スカビオサちゃんが一番好き。大体お花から名前は取ってます。
・カサブランカ→ユリ 無垢 純白
・ジプソフィラ→カスミソウ 幸福 祝福
・マルス・ドメスティカ→リンゴ 選ばれた恋 優先
・フリージア→友情 感謝
・ミモザ→友情
・スカビオサ→不幸な恋 不変の愛 私は全てを失った
・アベリア→強運
・ミュオ→?
・ソティス→?




