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5章番外編 神に愛されし子

◎「ア。…」

限界、だろうか。自分に限界があるのを初めて知った。「頼りになる」とか「貴方だけ」とか、笑いそうになる様なふわふわした言葉は沢山聞いたのに私の本質に触れるような、寄り添うような事はなかった。あるのは独りと善人になりたげな奴等。そうやって遠ざけて嫌いになる理由を作ってる私も又、同じ穴の狢であるという事実には蓋をする。


 昔からそうだった…。私は最初から頼りになる子、優しい子、強い子。少しあった凶暴性もなかった事にされ、私に傷付けられた子が必死に訴えかけても誰もが信じない構図は…優越感より先に気持ち悪さが出た。別に手放しで愛されるのが嫌だったわけではない。でも、私をまるで神のように崇めんとする村人の気色悪さを理解してほしい。両親はマトモで常識を知り本を読ませた。全てが変わったのは7歳だ。


・「ホントだ!カミサマからのお告げを聞いたんだ…!この村に、カミサマから愛された素晴らしいお子が生まれる、となァ!」

・「オレも聞いたべよ、オレだけじゃね!」

・「そんな祝福を受けた子なんて、アベちゃんしか考えられね!」

 いつもただでさえ凄い子だ、なんて持て囃されてきたがソレの5、6倍は扱いに丁寧さと下心と気色悪さを増した。両親は気付けば消えていた。ソレについては考えたくもない…。


 明くる日は「カミサマにおらの全てを曝け出す事で真の忠誠心となるんだ!」とか言って見たくないものを見せ、明くる日は何か踏んだと思ったら下卑た笑い声をする大人だった。気付けば「カミサマに愛された子」だった筈が「カミサマ」になっていたり、女神とかも言われた。マトモに外に出られない。月の日だとか、血がにじまないかとか勘付かれて目の前で感動の涙を流されないかとか、ずっと考えていた。


 時には下水道をあけられた。死にたくなったが死体でさえ人間の扱いをされること無く祀られると考えるとおちおち死ねなかった。逃げられない。


 転機が訪れたのは国から徴兵令が出た時。女子供関係なく、村の薄汚い老人とコレから同じ様になるであろう子供達、病人以外は駆り出された。…ソレでもまだゴネていたが、見せしめに一人殺されたとなれば、あくまで恩恵を受けるのは自分だという下心を持った奴らは氏にたくないから黙った。



 戦場だからって救われる訳じゃない。嫌な光景感触匂い音は全て残る。精神が可笑しくなりそうなのは変わらない。やがて何も感じなるかと思うと自分の恐ろしさに絶望した。トラウマが2つに増えるだけ、夜眠る時に出てくる夢が二パターンになるだけ。


 地頭がよく身体能力も高い。実力主義だった為私は軍団長まで上り詰めた。だが負担も仕事もあまり変わらない。前を向いて突っ切れば、目に痛みが走り刺されたと分かる。でも止まれない。止まった所で行き先は変わらないから。



 …そして、限界が来て今に至る。お前等が神聖視して、自分の尊厳を踏み躙る行為をしてまでごまをすった相手が、こんなのとは…期待外れも甚だしいだろうなぁ。

 地頭がよく身体能力も高く才能も十分にある。当にカミサマが利き手で描いたような子だろう!だがな、所詮人間だぞ。

◎「はは、ハハは、ハハハハハハ!!」

何とも無様。あのクソのボケ老人共に見せてやりたいさ…お前等の期待した相手を。

◎「ハハ、ハハハハハハッ……」

そしてやがて限界がきて意識が切れた。戦場の端っこで、バタリと。

 こんな時でも運がいいのか私のいた所に爆弾は投げ込まれなかったし上を走られて圧死か背骨を折られることもなかった。マトモに負った傷のなかで、後遺症として残るのは右目くらいか…どちらかといえばメンタルに対するダメージが酷かった。


 起きたら、周りに死体以外誰もいなかった。音もしない、振動もない。飢え死ぬ前にせめて足掻こうと思い必死に歩いた。皮肉なものだ、死に場所を見つけたいと思った戦地で地獄を知り、まだ死にたくないと足掻く。どうせ戦争が終わった所で私の帰る場所などありはしないのに。


 やがて道に出る。歩く。道に沿って歩く。歩いていたら、岩程の影があるのを見つけた。避けようと思った、のに私の目は追ってしまった。

◎「きれい…」

ソレは、人間に対して始めて湧く感情だった。彼女の目が開かれる。綺麗な青色をしている…。しかし、やがて力尽きたように閉じられた。其処で、彼女も限界状態だったんだなと気づく。


 急いで、道の先へ向かう。何でもいいから、何処でもいいから、どうか休む場所を…。そこにあったのは、小さな村。忘れもしない、私が住んでいた、村。

 動悸が収まらない。呼吸が乱れている。でも、此処しかない。そんな私の動揺を感じ取ったのか、彼女は起きてゆっくりと私の胸に触れた。布越しではあったが、安心した。彼女が口を開く。

❖「嫌なら、無理に救う必要はない。私を捨てても構わない。」

何を勘違いしたのか彼女は私が捨てようか躊躇していると考えている。でも、その言葉で決心がついた。彼女を絶対幸せにしよう。何不自由ない生活で、愛に満ちた人生を歩んでもらおう。


 私は彼女をマントで包み、村の入り口へ向かった。村には門番がおり、よく見ると見知った顔だった。

◎「アベリア=カラーリーフ。入れて欲しい、漸く生きて帰ってきたの。」

・「アベリア様…?皆のもの!アベリア様がお帰りになられたぞ!!」

煩い。でも、仕方がない。門番を無視して海岸へ行く。どうせ元の家は見る影もない宗教部屋になってるか宗教にかこつけて自分の欲を曝け出そうとする奴等の溜まり場になってるだけだから。


 此処は確か、戦争で亡くなってしまった女の家だった。入ってみると、中々古いが使える。申し訳ないが使わせてもらう事にした。念のため、カーテンを閉めて扉が開かないようにして、漸く彼女を寝かせられた。


 其処からは中々大変だった。掃除をして、直して、作って。一旦は人間二人住めるようになった。問題は、金。此れだけはどうにもならない。奴等は布施なしで無条件で恩恵を貰えると思っている。金は集まらない。…医者が手っ取り早い、か。昔は医師免許があったが今はもはやない。なろうと思えば誰でもなれる、だが信用がいる職ではあった。



 多くの客が来た。その中には勿論下卑た奴もいたが、ちゃんとした客が多かった。この村だけでなく他の地域からも来てくれる人間は多くいたので金に困ることはなかった。只、一度好奇心旺盛な人間によりスカビオサ…スーちゃんが見つけられそうだったので、隠し部屋を作ることにした。才能に恵まれた事をありがたく思う。

 作れそうなスペースは書斎辺りくらいか…。書斎の本棚が動くシステム、意外と好きだったりしたんだよね。ピアノを弾くとっていうのもロマン。

 楽譜は、簡単な物にしておいた。別に弾けないことはないけど…念のため。


 ある日、どうも限界になって自分でもよく分からない内に隠し部屋を開けていた。何も言わない私は不思議だっただろうか…きょとんとした顔も綺麗だったのを覚えている。抑えきれずに手を伸ばしてしまった。彼女の肌に触れようとしたのはこれっきりだ。私は彼女に、髪以外直接触れたことはない。

 彼女は恐れず、ゆっくり私の腕を掴んだ。勿論服を挟んで。そして、妖艶な表情でこう言うのだ。

❖「やめておけ。貴様にとって見たくないものが此処には詰まっている。見たくないものは見ない方がお互い幸せさ。何も全部知らなければ愛ではない、という事でもない。私達は私達なりの関係を結ぼう。」

嗚呼、好きだなぁって。彼女はこうも言った。

❖「ソレに、貴様にとって私は美しいのだろう?美しい事は罪だとするなら、私を犯そうとする事は犯罪だ。上手いだろ?」

そういう彼女が一層可愛くて、美しくて。私は彼女が一番大事なのに彼女の一番深い所には触らせてもらえなくて。そんな関係が、好きだった。


◎「月が綺麗だよ。」

カーテンを開けながら、少し自分の台詞に照れる。愛の告白なんて初めてだ。

❖「何だ貴様、私より月が綺麗というのか?」

少し悪戯そうに笑って。

❖「まぁ確かに惚れ惚れする美しさだ…だが、高嶺の花より私の方がお得だぞ?なぁ。」

私の髪をそっと撫でる。ソレが、昨日の会話だった。




◎「愛してる…愛してるんだ。」


 亡骸を抱く。直接触れる勇気はないから、布にくるんで。

 髪を綺麗にするのが好きだ。髪だけ唯一触れて良くて、舞い上がって髪のケアを入念に、時間の許す限り行った。私にとっても彼女にとっても自慢の髪。肌と髪の色のコントラストが好きだった。光に溶けるのが好きだった。


 彼女の目を見るのが好きだ。海の色をして、何処までも深くて。きっと私が想像もできないほどの事を考えているんだろうなぁ、なんて。海にいる姿もいつか見たいと思っていた。水に浸かれば鱗が生えるのは知っていた。驚きより美しいと思う気持ちが大幅に上回った。私より大きくてぱっちりした可愛いお目目。


 彼女の身体が好きだ。別にやましい思いは…ないと言えば嘘になるが。小さくて、壊れそうで。可愛い手足。私の手にすっぽりはまって、朝や日にさえこの子を渡したくはなかった。直接触れられなかったのに、今はこんなにも近い。


 家に初めて一緒に帰った。「ただいま」が初めて聞けたかもしれなかった。どうしようもないから彼女の目も髪も近くに置いた。亡骸になっても身体を傷つけたくはなかった。無理矢理繋ぎ合わせるのも違うと思った。


 絵を描こうと思った。せめて、彼女の姿を残せるものを作りたかった。写真見たいな絵は描けるのに、彼女の生きている絵だけはどうにも描けない。何でも出来る、才能は十分にある…でも、一番したいことは出来ない。私が表したいのは彼女のこんな姿ではない。辛くなって外へ出た。すっかり夜になっていて、三日月が出ている。目の前にあるのは海…海、海。彼女はどこへ、どうやって逃げたのだろう。あの小島へ行ったのかな、小島へ行って動物に襲われたのかな。怪我して流されて、村に着いちゃったのかな。考えない方がいいと分かっても、頭は思考する。


 海を憎めばいいか。彼女を盗んだ…いや、彼女の一番の協力者である海を。


 海に手を入れた。生温くて、どうも心地よかった。全身浸かると、服が気持ち悪いが何とも言えない安堵感が生じた。



ーーーーーー

❖「お前の思惑に乗ってやるとすれば…死んでもいいわ、だな。」

創作では右の◯ネタ好きだし、右が推しなパターンが主。大好きな子には幸せに未練なく死んでもらい、左にエグいくらいの絶望と罪悪感と未練永遠に抱えてて欲しいタイプ。一生後悔して欲しい…別に左も好きだよ?

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