かならず迎えに来てくださいね
荒野を抜け、集落へとたどり着いたアイリスたち。
そこは自由に生活する人間が残っているオアシスであった。
岩壁の狭い隙間を通り抜けた先。
そこは荒野の過酷さを忘れさせるような光景が広がっていた。
切り立った岩の間に細い小川がせせらぎ
その周囲を囲むようにして
簡素な掘っ立て小屋が身を寄せ合っている。
『ロック・アイランド』
そこは鉄の死神たちが闊歩する地上において
わずかな人間たちが息を潜めて命を繋ぐ
泥臭くも温かなオアシスであった。
「アイリスちゃん、ここがウチのホーム!」
「 ま、超ボロいけど……そこらの廃墟よりはマシっしょ?」
集落から少し離れた場所に降り立ったリアは
ビットを隠すようアイリスに伝え、彼女もそれに応じる。
そして少女にローブをかぶせて目立たないようにした。
準備を終えたリアは
手慣れた様子で通りかかる人々に挨拶を交わしていく。
道すがら壊れた何かの機器や錆びついた浄水器を抱えた人々が
「リア、これ後で見てくれよ」「助かったよ」
「その鳥のオモチャいいな、どこで見つけたんだ?」
と次々に声をかけてくる。
「リアさんは、エンジニアなんですね」
「まーね! こう見えて機械いじりは得意なわけ」
「私を育ててくれた『タオ爺』ってのが、マジで神レベルの技師でさ」
「生きるために必要なことは、全部あの爺ちゃんに叩き込まれたんだ」
リアの瞳に、一瞬だけ寂寥の色が混じる。
彼女の夢は過去の遺物となった人類の技術を復元し
この世界を再び人の手に取り戻すことなのだという。
だが、その師匠であるタオ爺も
今はもうここにはいない。
「タオ爺さんは今は一緒にはいないのですか?」
「……そう。ここから東にある『王国』ってとこがあんだけど」
「そこを支配してる『王女』とか名乗ってる四罪の一体に拉致られちゃったんだよね」
リアは腕の縄をぐいと引き込み
青い小鳥を顔の前に突き出した。
「おい、鳥!」
「 アンタなら知ってんでしょ?爺ちゃんがどこに収容されてるか!」
「……クドいぞ小娘」
「共有ネットワークから遮断されている現状で、俺に知る由などナァイ」
「それに、貴様ハ根本的な誤解をしてイル」
小鳥は羽を整えながら
冷徹な声で言葉を継いだ。
「隷属させるとは言ったが、それはなにも痛めつけて拷問することではナイ」
「労役に従事し従順かつ成果を残す者には、人間であろうと『市民権』が与えられるンだ」
「衣食住が保証され、外敵に怯える必要のない生活がナ」
「は? 何が市民権よ。鎖に繋いでるくせに!」
「それは我々オートマトンも同様だ」
「軍用機として生まれた我々も、功績を立てればいずれは自由意志を認められ、市民権を与えてくださる……それが王女様が掲げる正義。ゆえに——」
小鳥はアイリスを横目で
信じられないものを見るような目つきで見つめた。
「正直、そこのオートマトンもどきが我にいきなり『自由意志』を与えたことに関しては論理回路がオーバーヒートしそうだ。ありえン!」
「……は?どういうこと?」
リアの問いに
小鳥は嘴をカチリと鳴らす。
「本来、個体に自由意志を付与し人格をリライトするような権限を有しているのはあの『王女』様のように、四公の方々のみなのだ」
「それができる貴様は……一体何者なノダ?」
アイリスは何も答えず、ただ自分の掌を見つめた。
その手は到底オートマトンとはいえない人間と同じものだった。
「なんなのでしょうね……わたしも、それが知りたいのです」
「ビーちゃん……」
少女の問いかけに虚空から一機のビットが姿を現す。
そして抑揚のない口調で答えた。
「個体名:アイリスがスリープから目覚めるまで経過した年月は500年」
その答えにリアは驚愕の声を上げた。
「ま!?500年もあそこに埋まってたってコト……!?」
「てか確かそれって人工知能が暴走して反逆戦争が起きた頃だっけ……」
「アイリスちゃんあんた……」
少女の白銀の長い髪が荒野の風に揺れる。
彼女は考えた。
人間ではない存在の自分が、人工知能側であったとするなら
それを意味するのは人類の敵―――
「まじパないね!?」
「え、興奮やばいんだけど!?」
「とりあえず……おかえり……?ってカンジ?」
―――だが目の前にいる人間は目を輝かせて歓迎した。
「こういうときは……」
「た、ただいま……で、いいんでしょうか……?」
その様子を小鳥はまたも理解できないと
首をかしげて見ていた。




