人の罪かそれとも
サンクチュアリを跡にしたアイリス・リア・小鳥型オートマトン。
アーキオンによる飛行能力をもつアイリスによって
荒野を駆けていく。
「ねえねえアイリスちゃん」
「はい、なんでしょう?」
「どうして飛べるって知ってたの?」
「記憶ないって言ってたからさ~!」
吹き荒れる風の中
アイリスの細い腰にしがみついたリアが声を張り上げた。
眼下には、長い歳月ですっかり色を失った
ひび割れた大地がどこまでも続いている。
「いえ……記憶にはありませんでした」
「でも、できると理解していたんです」
「手足を動かすのと同じように」
アイリスの背後に浮かぶ六つのビット。
それらが彼女の意思に呼応するように細かく位置を変え
飛行のバランスを最適化させていく。
「データベースによれば……この子たち――ビーちゃんたちを通じて、私の『アーキオン』が外の世界へ接続されているようです。私の思考や願いを、この子たちが物理的な力に変えてくれる……そんな感覚です」
「ビーちゃん!?」
「あ、はい……名前をつけてみました……」
呼応するかのようにビットが白い光を明滅させる。
「あはは、めっちゃいいじゃん!」
「でもそのビーちゃん、マジで謎すぎだよね~」
「喋るし浮くし……意思とかあんの?」
リアの質問攻めにアイリスは少し困ったように眉を下げた。
「あまり詳しくはわからなくて……」
「でも、この子たちはあたたかいです」
「ずっと一緒に眠っていたからでしょうか」
アイリスはふと視線を落とし
茶褐色に乾いた地面を見つめ、悲しげに瞳を伏せた。
「……それにしても、このあたりにはお花が咲いていないのですね」
「少し、寂しいです」
「そりゃそうでしょ」
「鉄クズたちが暴れまわって、地面をめちゃくちゃにしたせいだし」
「あいつら、マジで環境破壊の元凶だから」
リアが吐き捨てるように言うと
彼女の腕に縛り付けられていた青い小鳥が、不快そうに翼を震わせた。
「詭弁ダナ。そもそも環境が一変するホドの搾取ヲ行い、生態系を食いつぶしてキタのは人間ドモだろう」
「枯れ果てた大地を我々のせいにするトハ……その負の遺産を清算しているのガ我々だというのに」
「は? アイリスちゃん、この鳥今すぐ焼き鳥にしていい?」
「えと……お、おちついてくださいリアさん」
「小鳥さんそれはどういう意味でしょうか?」
アイリスが静かに問いかけると
小鳥は胸を張り、傲慢な声音で続けた。
「我々オートマトンは四公様の命令の下、木を植え、森を増やシ、緑を蘇らせようと努力シテイル」
「事実、我々の支配域では成果は出つつある」
「なぜココに植物が少ないか? それは貴様ら人間ガ、目先の焚き木や資材のために貴重な苗を切り倒すカラダ。我々パスファインダー型が人間を捕獲するのは、その愚行を止めさせ、緑化作業に従事させるためナノダ」
「はぁ!? 絶対嘘だし!」
「 連れ去られた人たちは、重い鎖に繋がれて死ぬまで働かされる奴隷っしょ!?」
「……デハ、なぜ俺ニ縄を付けていル?」
「そりゃアンタが暴れて逃げようとするからに決まってんじゃん!」
小鳥は勝ち誇ったように
カチカチと嘴を鳴らした。
「よく分かッテイルじゃないか。その通りだよ小娘」
「だから手枷足枷が必要なノダ」
「我々ニモ非戦闘型の市民は多い」
「彼らの安全を確保するためにハ、野蛮な人間には拘束が必要なノダ」
「このっ……! 言わせておけば……!」
言い争う一人と一匹の会話に
アイリスが落ち着いた口調で介入する。
「お話、してくれましたね。小鳥さん」
「……誤った事実ヲ訂正しただけダ」
「さきほど話に出ていた、四公というのはなんですか?」
「偉大な御方たちダ。創造主たる存在に造られた四柱のオートマトン」
「それぞれが領域を管理統制さレ、我々を庇護してくださってイル」
「別名:四罪って言われてるってのもいいなよ~?」
「人間が生み出した罪そのもの、大罪のオートマトンって」
「このコムスメッ!ユルセンッ!!」
「……対話の平行線を確認です」
「……あ……もしかしてリアさん、あそこですか?」
アイリスが遮るように前方を指差した。
荒野の果てに、無数の亀裂が入った巨大な岩場が見えてくる。
複雑に入り組んだ岩の影に
ひっそりと人の気配が隠されていた。
「あ、そうそう! あそこの岩の隙間!」
「アイリスちゃん、目立つから低空飛行に切り替えて」
「ウチらの集落——『ロック・アイランド』へようこそ!」
アイリスはうなずき、アーキオンの出力を絞った。
白銀の髪をなびかせながら、彼女たちは地を這うような速度で
岩壁の向こう側へと吸い込まれていった―――




