どこまでも飛んでいけるように
オートマトン・パスファインダーの脅威を排除したのも束の間
少女アイリスとリアには新たな脅威が迫っていた―――
「てかアイリスちゃん、マジで急ごうって!」
「 鉄クズたちの増援、ガチで笑えないレベルで来るから!」
リアの焦り声を背中に受けながら
アイリスは自分が眠っていたシェルターの内部をじっと見つめていた。
棺の壁面では目に見えないほど微細なナノマシンの群れが
星屑のような淡い光を放ちながら蠢いている。
彼女の肉体を分子レベルで維持し続けてきた超科学の結晶だ。
その内壁の隅に
手書きのような無骨な書体で刻まれたメッセージを見つけた。
『君に翼を。どこまでも飛んでいけるように』
「翼……?」
アイリスはその言葉を指先でなぞった。
記憶の断片は、霧の向こう側で形を結ばない。
懐かしいような切ないような感情がアイリスを包む。
誰が、なにを想って彼女にそれを届けたのか。
しかし、思考に耽る時間は残されていなかった。
ピピッ、ピピピピッ!
空中に浮遊する六つの鏡面体——
『ビット』が突如として鋭い警告音を鳴らし、赤く明滅したのだ。
『警告:複数の高エネルギー熱源が本地点に急速接近中』
『推奨:即時防衛線の構築、または現地点からの迅速な離脱』
「え、ちょ、その浮いてる鏡、喋るの!? マジ!?」
「ギャハハ!援軍がきたようだナ。もうおしまいだナ」
小鳥——中身は軍事AIの残滓が
リアの腕に繋がれた縄を揺らしながら勝ち誇ったように喚き散らす。
だが、ビットの冷徹な合成音声がそれを遮った。
『提案:鹵獲した個体が作戦の障害となる可能性を検知』
『当該個体の完全破壊を推奨します』
「え!?―――申し訳ござイマセン。高貴ナ御方!ご慈悲ヲ!!」
小鳥の情けない命乞いを無視し
アイリスは静かに頭を振った。
「破壊の必要はありません。なぜなら——」
アイリスは何かを言いかけ、空の彼方―――
砂埃を上げて迫る鋼鉄の軍勢を見据えた。
しかし、リアがその細い肩を掴んで揺さぶる。
「アイリスちゃん、続きは後! 逃げるよ、ガンダで!」
「ガンダ?逃げる……そうですね」
アイリスが小さく呟くと、六つのビットが彼女の周囲を旋回を始め
さながら開花する花びらのような陣形を組んだ。
その瞬間。
アイリスの身体が重力を無視してふわりと浮き上がった。
白のワンピースは、まるで肌の一部であるかのようにしなやかに吸着し
空中でもその輪郭を崩さない。
「え、浮いてる……?」浮いてるんだけど!? どういう仕組み!?」
「データベースによれば——『アーキオン粒子』の局所展開による重力斥力場の形成」
「……だそうです」
「あー、完全に理解した!うん!!」
「 とにかくパないってコトっしょ」
アイリスは空中でリアに向かって手を差し出した。
「リア、私に掴まってください」
「あなた一人なら運べる余裕があるはずです」
「マジ? お姫様抱っことか期待しちゃっていい感じ!?」
リアは笑いながらも、必死の形相でアイリスの身体にしがみついた。
腕に繋がれた小鳥は団子のようにぶら下がっている。
そしてアイリスの背後で
アーキオンエネルギーが不可視の翼となって弾けた。
<<<<ドォォォン!>>>
空気を切り裂く衝撃波を残し、白銀の少女はリアを抱えたまま
空へと跳ね上がった。
眼下に広がるのは、五百年の時が作り上げた美しい廃墟の森。
その中心に佇む『サンクチュアリ』の大樹が
みるみるうちに小さくなっていく。
「とりま、あたしが住んでる集落に逃げよ!」
「あそこなら連中も追ってこれないはず―――座標は、このビーコンの数値で!」
「はい。目的地、認識……加速します」
夕陽に照らされて真っ赤な大地を天翔ける少女たち。
小鳥のオートマトンの「扱いがずさんスギル!!」という叫びが響き渡っていった―――
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前日譚にあたる「人工知能は恋をする」もよろしくお願いします☆




