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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第二章 元警備隊員の来訪
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ある職業案内人の再会

 ◇ アーリア視点 ◇


 何してんだろ、私。


 警備隊を始め、街の皆が戦っているのに、子供やお年寄りと一緒に私は避難。

 カーマから託されたゲホゲホを連れて、闘技場(コロシアム)まで来たは良い物の、罪悪感にさいなまれて自分が嫌いになりそうだ。


 ここに集う人々は、迫り来る魔物が怖いのだろうが、私の場合、恐れている物が違う。

 私は只、仲違いした相手と、顔を合わせるのが怖いのだ。


 でも、私にはゲホゲホを守ると言う、自分だけに託された使命がある。

 今は、街の外の事は忘れて、ここで時間を潰そう。


 私は、気を紛らわすかの様に、ゲホゲホの頭を撫でて平常心を保とうとしていた、そんな時だった。


 私の隣で、大人しく佇んでいたゲホゲホが、急に荒ぶる様子を見せ、闘技場(コロシアム)の出口に向かって走り出したのだ。


「えっ! ちょっと! 待ってよ、ゲホゲホ!!」


 私の叫び声も空しく、闘技場(コロシアム)を飛び出したゲホゲホは、正門に向けて一目散に走り出した。

 当然、馬の足に敵う筈も無く、あっと言う間に、ゲホゲホの姿を見失ってしまった。


 どうやら私は、唯一の使命さえ、無くなってしまったらしい。

 何とも言えない喪失感に襲われた私は、【時計下通り】の淵で、両膝を着いて呆然としていた。


(カーマ、ごめん。せっかく、ゲホゲホの御守(おも)りを頼んでくれたのに……守れなくて、ホントにごめん)


 もう、私に出来る事は、大人しく避難する事しかない。

 そう思って立ち上がろうとした時、大量の荷物を抱えた集団が、私の目の前を通りがかる。


「あれ? アーリアさんだ! こんな所で何してるんです?」


 通りがかった集団は、ヤニー亭の従業員の一団だったのだ。

 そして、その中の一人で、元同僚のニーナが私に声を掛けて来た。


「ニーナ! あなたこそ、何してるのよ?」


「何って、避難ですよ。仮に門が突破されたら、店が滅茶苦茶にされちゃいますし、何より、私達が道具と材料さえ持っていたら、避難所に店を開けますし……それで、アーリアさんは?」


「……わ、私も……避難しようと……」


「じゃあ、一緒に行きましょうよ! 良かった、アーリアさんが居るなら、百人力ですよ!」


「……そ、そうね。行きましょう」


 ニーナは、根っから明るい、とても真っ直ぐな子だ。

 私が彼女の教育係を務めた事もあり、今でも変わらず慕ってくれている。


 お互い、警備隊を同時期に辞めている事もあり、そんな共通点もあってか、辞めた後に、一段と仲良くなった気がする。


 先に行ってしまったヤニー亭の人達を追いかける様に、ニーナと闘技場(コロシアム)に向かって歩みを進めていると、裏門の方から、猛スピードでこちらに向かって来る、一頭の馬の姿があった。


 その馬は、真っ白な体毛に、背には飼い主の髪の赤い男を乗せて、人の居ない【時計下通り】を爆走していたのだ。


(何で、ゲホゲホがカーマを乗せてここに? ……さっき、正門の方に行った筈なのに……)


「アーリア!! ニーナさん!!」


 私達の姿を見つけたカーマの叫び声が響き渡る。

 どういう訳か、ゲホゲホと一緒にいるカーマに、私は謝る事にした。


「カーマ、ごめん。ゲホゲホを止めれなくて」


「いや、寧ろ助かったくらいだ。そんな事より、今は時間が無い! 手を貸してくれ!」


「え? 良いけど、何をすれば?」


「二人には、無茶を承知で、この戦いに参戦して欲しい!」


「まっかせて!! 街のピンチだから、私も協力するよ!!」


 私が返事をする前に、ニーナは元気な声で即答していた。


「ありがとうございます。ニーナさんには別で、今からワインと煙草も用意して貰いたいんですが、良いですか?」


「良いよ! ルートさんとメリサちゃんの分で良いよね?」


「はいっ! 代金は後日、本人から払わせますので……」


「分かった! 直ぐに用意して来るよ!」


 ニーナは一目散に、ヤニー亭へと向かい走り出した。


 ニーナを見届けていた私に、先程まで共に避難していたゲホゲホが歩み寄る。

 そして、ゲホゲホの背から、カーマにもう一度問いかけられる。


「お前はどうする? 別に強制はしないよ。けど、出来たらアーリアに来て欲しい。……アーチを助けてやってくれないか?」


「……何で、寄りによってアーチなのよ? あの子なら、平気でしょ?」


「……今、一番危険な状態だからだ。お前がどんな理由で過去に揉めてるかは知らないが、騎士団も居ない今、俺が知ってる中で、唯一、カッタルさんに対抗出来そうなのは、アーリアしか居ないからだ」


 アーチが苦戦している事にも驚きだが、それよりも耳を疑ったのは、カーマの口から、アーチと揉めた原因の女の名前が飛び出した事だ。


「……アーチは、カッタルと戦ってるの?」


「ああ。だが、劣勢だ」


「……だろうね」


 自由奔放なアーチは、幼少の頃より、周りに敬遠されて来たらしい。

 それ故に、幼馴染以外で初めて仲良くなった同性の友達が、闘技場(コロシアム)で出会ったカッタルだったそうだ。


 アーチは、あんな風に見えるが、意外と友達思いの優しい子だ。

 そんな相手と、本気で殺し合いは出来無いだろう。


 それは、アーチの教育係をやった私が、一番良く分かっていた。

 それに、カッタルの事は、元々、私の蒔いた種でもある。


 もう、後悔はしたくない。

 私が行って、けりを付けなくては。


「……分かった。……私が行く」


「本当に良いのか?」


「……うん。何処に行けばいい?」


「俺が合図を鳴らすまでは、壁の上に待機していてくれ。その後は、ニーナさんと正門の右側を助けてくれ。アーチは、その最前線に居る筈だ」


「……分かった。鎧に着替えたら、ニーナと合流するよ」


「ああ、それと一つ、アーチに伝えて欲しい事がある」


「何よ?」


 カーマから作戦の全容を聞いた私は、急いで自宅に戻り、警備隊時代の鎧に袖を通す。


 カーマに言われた通りに、外壁上に向かうと、そこには、鎧姿のニーナが既に待機していた。


「ニーナ、早かったわね」


「私も来たばかりですよ。……それにしても、やっぱりアーリアさんは、私服より、鎧の方が似合いますね!」


「それ、褒めてんの? 悪口じゃない?」


「褒めてますよ! 私、アーリアさんの事、尊敬してますから!」


「なら、良いけど」


 ニーナに褒められて満更でも無い私は、壁の上で、想像よりもずっと酷い戦況を眺めながら、どうやって、遮る魔物の壁に突破口を開けて、アーチの元まで向かうかを考えていた。


「アーリアさん! 久しぶりに、あれ、やりましょうよ!」


 この状況にも臆する事の無いニーナが、ある提案を始めた。


「あれって?」


「私達が二人で警備してた時、良くやってたあれですよ! 丁度、私達の前、敵しか居ないじゃないですか!」


 ニーナの考えている事は、直ぐに理解出来た。

 恐らくは、ニーナの風と私の炎を合わせた、広範囲の混合出力だろう。


「良いけど、急に出来るの?」


「私は全力を出すんで、後はニーナさんが合わせて下さい。そうすれば、きっと出来ますよ!」


「だと、良いけどね」


 そんな希望的観測を繰り広げていると、カーマが時計塔に炎の矢を飛ばして、街中に鐘の音が鳴り響く。


 カーン、カーン、カーン、カーン。


「合図ね。……ニーナ、そろそろ行くよ!」


「アーリアさん。私、アーリアさんの事、大好きです。でも、アーチさんと姉妹みたいに過ごしていた時の方が、もっと大好きです! だから……」


「そんな事、私が一番分かってる。行くよ!!」


 私達は、外壁の堀に足を掛けて、同時に飛び降りる。


「行きます! 【具現(ぐげん)広域出力(こういきしゅつりょく)――螺旋大竜巻スパイラルトルネード】!!」


 ニーナの放った、莫大な範囲を誇る渾身の竜巻は、右側の戦場を覆う様に渦を巻いて、魔物達を巻き込んで行く。


「ニーナ、そのままよ! ……具現出力(ぐげんしゅつりょく)――火柱フレイムタワー】!!」


 広範囲に敵を巻き込む巨大な竜巻に手を添えて、私は火柱を発現させる。


 轟音と共に竜巻と掛け合わさった火柱は、強烈な熱風を纏って、竜巻の中を焼き尽くしていく。


 灼熱を纏った竜巻が消え去る頃、正門から見て右側に沸いて出た、邪魔な魔物達を一掃すると同時に、私達の視線の先には、前線への道が開けていた。


「アーリアさん!! 今ですっ!! 道は開けましたよ!!」


「うん、行って来る!! ニーナはここで、敵を食い止めて!!」


「畏まりました!!」


 壊滅状態に近い冒険者達の援護をニーナに頼み、私は駆け出した。


(さて、どういう顔で、アーチに合おうかな。……まぁ、結局は、出たとこ勝負しかないよね)


 私は、遠目からターバンを外したカッタルの姿を捉えると、先程よりも多くの魔力を右手に集約させ、大地を蹴り上げた。


 不意を付けるのは、最初の一撃だけ。

 頭で思い描くのは、天まで届く、燃え盛る時計塔。


「【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――炎魔の大黒柱(イフリートタワー)】!!」


 背後から距離を詰め、カッタルの足元に特大の火柱を発現させる。


「「何よ、これっ!! ――うわぁあああああああああーーー!!!」


 叫び声と共に、灼熱の渦に飲み込まれたカッタルを見届けながら、後方に転がっているアーチに向けて、私は振り向いた。

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