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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第二章 元警備隊員の来訪
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あるバイト門番の現実逃避

 ◇ セルド視点 ◇


 俺は今、何処で転がっているのだろう。


 威勢良く飛び出したは良いが、結果は惨敗。


 本性を露にしたカッタルさんには歯が立たず、手持ちの大剣も簡単に砕かれてしまった。

 最後は、勢い良く壁際へと蹴り飛ばされ、天地が何度も入れ替わった後、ここでぼんやりと空を眺めていた。


 皆、死ぬ気で戦ってるのに、俺は途中棄権。


(情けねぇな……)


 こんな最悪の日だってのに、目の前には綺麗な青空が広がり、ジリジリと太陽が照り付ける。


(気持ちぃーなぁ……)


 日向ぼっこ何て、何年振りだろう。

 どうせ、全身が痛すぎる事だし、このまま目を瞑ってもいいかな。


 俺は、現実から目を逸らす様に、ゆっくりとまぶたを下ろそうとした時だった。


「おいっ! 起きろよ!」


 どこからか、俺を呼ぶ声が聞こえた。


 声の方に視線を向けると、そこには、傷だらけの大男が、覚束おぼつか無い足取りで、両手に抱えた風呂桶を落とさない様に運んでいた。


 こいつは確か、闘技場(コロシアム)に出てたガバガ・バナンスだったか。

 こいつが俺に何の用があるんだよ。


「聞こえねぇのか? 起きろっつってんだよ!!」


「起きてるよっ! 何なんだよさっきから!!」


 引っ越し屋の強い口調に合わせる様に、寝っ転がりながら見上げて言い返す。


「お前がセルドだな?」


「だったら何だよ?」


「セルド宛に、カーマからの荷物が届いてる。これを受け取ってくれ!」


「カーマから!?」


 俺は、突然聞こえた後輩の名前に驚き、(だる)い身体に鞭を打って起き上がる。


「何だよ、お前一人で立ち上がれるんじゃねーか! それじゃあ受け取れ、これがカーマから預かったお届けも――あああああーー!!!」


 俺の目の前で小石に躓いた引っ越し屋は、お届け物を渡す前に、風呂桶に入った液体を俺の全身にぶちまける。


「つめてぇ!! 何しやがる!!」


「悪い!! 足がもつれちまって!」


「これ、カーマからの荷物だったんだろ? どうすんだよ?」


「文句なら、こんな物を運ばせたカーマに言ってくれ」


 引っ越し屋のうっかりの所為で、俺は、通り雨にでも打たれたかの様に、ずぶ濡れになりながら立ち尽くしていた。


 一体、カーマは俺に何を届けたかったんだろうか。

 俺の被った液体は、粘土も匂いも無い事から、恐らくは、水で間違い無いだろう。

 だが、そんな物を態々(わざわざ)、この状況で運ばせるか。


 この、意図がありそうで無さそうな、謎の運搬物に頭を悩ませてた俺は、水気を吸って垂れ下がった前髪を掻き揚げながら問いかける。


「おいっ、引っ越し屋! カーマは、他に何か言って無かったか?」


「そうだ! 伝言があったんだ!」


「それを最初に言ってくれよ!」


「済まない、俺も一杯一杯なんだよ。えーっと……って、もう成ってるじゃねーか! 水の滴る良い漢によ!」


 ガバガは、俺の顔を見るなり一人で納得して、安堵の表情を見せていた。


「はぁ? 伝言はどうしたよ?」


「カーマからの伝言はこうだ! ……必ず、お前の力を借りに、馬車で迎えに行く。だから、その時までに、風呂桶の水を使って水も滴る良い漢になってろ……だってさ」


「確かにもう、成ってるな水の滴る良い漢に」


「自分で言うなよ」


 カーマの考えは何だか知らないが、俺にもまだ、ここで出来る事があるならやるだけだ。


「それと、これも持ってけ! お前の剣だろう?」


 引っ越し屋は、そう言いながら俺に背を向けると、背負っていた物を取り出す。

 それは、大きな背中に隠れていて見えなかった、警備隊支給の大剣だった。


「ああ、これで俺も、まだ戦える」


 俺は、引っ越し屋の背中から大剣を受け取ると、気持ちを新たに、先程まで見ない様にしていた戦場に目を向ける。


 カーマの伝言では、一先ず待機って事だろうが、こんな時に立ち止まって居ては駄目だ。


「ガバガ! もう一仕事出来るか?」


「今度は何だよ?」


「俺達で戦闘不能になってる人を、安全な所まで運ぶぞ!」


「任せろ!!」


 カーマが馬車で迎えに来るのは、何時か分からない。


 途中で亜人達にやられる可能性だって十分にある。

 だったらせめて、今出来る事をして、その時に備えるだけだ。


 俺達は、満身創痍の体を引き摺って戦場を走り回り、共に戦ってくれた傷だらけの仲間を運び続けた。

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