あるバイト門番の未来
◇ カーマ視点 ◇
まさか、あのカッタルさんが、亜人だった何て、誰が予想出来ただろうか。
セルドが右側に走った事で、左側の戦場は、同期三人で防衛を続ける事となっていた。
とは言っても、俺の役割は変わらず、回復も出来ないのに、トーマスの後方支援を続けるだけだった。
不幸中の幸いは、まだ、俺達の元に亜人が現れて居ない事だ。
そんなトーマス頼みの状況で、何とか踏み留まっていると、前線からようやく頼れる人達が帰って来たのだった。
「みんな、お待たせ! ちゃんと、無事だよね?」
「遅いですよ! ゲータさん! フェイさん!」
ようやく戻った二人は、溜まっていた魔物を蹴散らしながらも、平然と俺達を気に掛けているが、本人達の鎧に付着した夥しい量の返り血が、前線での激闘を物語っていた。
そんな中、フェイさんが周囲を見回しながら、俺達に問いかける。
「お前ら、状況は? セルドはどうした?」
「セルドはアーチの応援に、中央のルートさんも押され気味で、冒険者達の回復が間に合ってません!」
「そうか。なら、警備長が戻るまで、俺が中央に回る。お前達は、ゲータを中心にここの守りを固めろ!」
「「「はいっ!」」」
離れた位置に居たトーマスとメリサも、フェイさんからの指示を聞いていた様だ。
だが、フェイさんが俺達の元を離れようとした時、魔物の合間を縫って、水色の長髪を揺らした一人の男が、一体の亜人を引き連れて、俺達の目の前まで姿を見せた。
後ろに付いて来たのは、黒い体毛の耳と尻尾が特徴的な獣の特性を持った、二足歩行の亜人だった。
俺が初めて間近で見にした亜人は、他の魔物達とは一線を画す、異質なオーラを放っている様に見えた。
「しぶといなぁ、フェイ」
「お前とやり合う前に、俺が負ける訳無いだろ」
ドーズの挑戦的な言葉に、フェイさんも負けじと言い返す。
「だろうな。……だが、そんなお前に朗報だ。お前達の頼みの綱の警備長は、罠で封じさせて貰った。もう帰って来る事は無いぞ」
ドーズの言葉に、俺達は、驚愕と疑念の混じった視線を向けていた。
しかし、信用出来ないと分かっていながらも、その言葉に心を乱されたのは、俺だけでは無さそうだ。
だが、フェイさんは、動じる事無く話を続けた。
「……かもな。敵の勢いを見れば、それが嘘じゃない事は分かる。だが、分からないのは、その方法だ。お前達は、どうやってあの警備長を封じたんだ?」
「ふっ……意外と簡単だったぞ。カッタルの店にあった、動物捕獲用の魔道具を使った。どうやら、魔力を持たない最強の男は、動物扱いだった様だな。面白いだろ?」
今、ドーズの言ってた魔道具って、あの時、カッタルさんに勧められた【束縛化になろう】って奴の事だよな。
こいつ等、そんな卑怯な手まで使って来るのかよ。
「全然、笑えないな。……ドーズ、やっぱり俺とお前では、粗利が合わんらしいな」
「じゃあ、そろそろ、決着付けるか?」
「良いだろう。だが、場所ぐらいは俺に選ばせて貰うぞ」
「勝手にしろ。……バースはそこの奴等を頼むね! 全員、殺していいから!」
「りょーかい!」
ドーズは、大鎌を背中から取り出すと、律儀にフェイさんの後に続いて、中央の戦場に戦いの場所を移した。
「じゃあ、僕の相手は君かな? 狼男君?」
ゲータさんが、残った黒髪の獣人族に声を掛ける。
「別に俺は、全員で掛かって来ても問題無いぞ」
「そんな卑怯な事はしないよ。でも、戦う場所は変えてもいいかな? 狼男君」
「いいぜ! だがな、狼男じゃねぇ! 俺は、獣人族のバースだ! 良く覚えとけ!」
「どうでも良いよ。どうせ敵何だし。……じゃあ、行こうか」
ゲータさんは、フェイさんと同様、俺達を巻き込まない様に、正門から離れた、左側の前線に狼男を誘導してくれた。
頼れる先輩達の計らいに感謝しながらも、取り残された俺達は、これから訪れるであろう未来に不安を抱いていた。
何故ならこの先は、正門の左側を俺達同期三人だけで、襲い掛かる全ての魔物達を相手にしなければならないという事だ。
絶望的だ。
皆はこの先、疲弊する一方だ。
頼みの綱の警備長は、罠に嵌められ身動きが取れない。
何か、盛り返すきっかけを掴まなければ。
(そうだ、トーマスなら未来を……)
俺は、思い付きでトーマスの居る前線まで走り出す。
「トーマス! 俺と前線を代われ!!」
「急にどうした?」
「トーマス、俺が時間を稼ぐ間に、あれを使え!! 誰でも良いから、仲間の未来を!!」
「分かった! すぐ戻るから、それまで繋いでくれ!! ――【よちよちタイム】!」
トーマスは、俺と持場を変わりながら、【よちよちタイム】を発動した。
「どうだ?」
「…………」
だが、トーマスの顔は、数秒後には額に冷や汗を浮かべ、青冷めた表情に様変わりをしていた。
そして、表情同様に、生気の感じられ無くなった両目からは、涙が頬を伝う。
トーマスが、一体、誰の未来を覗き見たのかは、俺には分からない。
けれど、トーマスの顔付きを見れば、見えた物が絶望に近い事は、容易に想像出来た。
そんなトーマスの顔色を伺っていると、突然、トーマスの叫び声が響いた。
「カーマ!! 逃げろっ!!」
「えっ?」
俺は、トーマスに気を取られる余り、自分が最前線に出た事を忘れていたのだ。
「カーマ君!! 上っ!!」
そして、メリサの悲痛な叫びによって、視線を上に向けた時、寄りにもよって、あの魔物が飛び掛かって来た。




