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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第二章 元警備隊員の来訪
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あるバイト門番の未来

 ◇ カーマ視点 ◇


 まさか、あのカッタルさんが、亜人だった何て、誰が予想出来ただろうか。


 セルドが右側に走った事で、左側の戦場は、同期三人で防衛を続ける事となっていた。

 とは言っても、俺の役割は変わらず、回復も出来ないのに、トーマスの後方支援を続けるだけだった。


 不幸中の幸いは、まだ、俺達の元に亜人が現れて居ない事だ。

 そんなトーマス頼みの状況で、何とか踏み留まっていると、前線からようやく頼れる人達が帰って来たのだった。


「みんな、お待たせ! ちゃんと、無事だよね?」


「遅いですよ! ゲータさん! フェイさん!」


 ようやく戻った二人は、溜まっていた魔物を蹴散らしながらも、平然と俺達を気に掛けているが、本人達の鎧に付着したおびただしい量の返り血が、前線での激闘を物語っていた。


 そんな中、フェイさんが周囲を見回しながら、俺達に問いかける。


「お前ら、状況は? セルドはどうした?」


「セルドはアーチの応援に、中央のルートさんも押され気味で、冒険者達の回復が間に合ってません!」


「そうか。なら、警備長が戻るまで、俺が中央に回る。お前達は、ゲータを中心にここの守りを固めろ!」


「「「はいっ!」」」


 離れた位置に居たトーマスとメリサも、フェイさんからの指示を聞いていた様だ。


 だが、フェイさんが俺達の元を離れようとした時、魔物の合間を縫って、水色の長髪を揺らした一人の男が、一体の亜人を引き連れて、俺達の目の前まで姿を見せた。


 後ろに付いて来たのは、黒い体毛の耳と尻尾が特徴的な獣の特性を持った、二足歩行の亜人だった。


 俺が初めて間近で見にした亜人は、他の魔物達とは一線を画す、異質なオーラを放っている様に見えた。


「しぶといなぁ、フェイ」


「お前とやり合う前に、俺が負ける訳無いだろ」


 ドーズの挑戦的な言葉に、フェイさんも負けじと言い返す。


「だろうな。……だが、そんなお前に朗報だ。お前達の頼みの綱の警備長は、罠で封じさせて貰った。もう帰って来る事は無いぞ」


 ドーズの言葉に、俺達は、驚愕と疑念の混じった視線を向けていた。

 しかし、信用出来ないと分かっていながらも、その言葉に心を乱されたのは、俺だけでは無さそうだ。


 だが、フェイさんは、動じる事無く話を続けた。


「……かもな。敵の勢いを見れば、それが嘘じゃない事は分かる。だが、分からないのは、その方法だ。お前達は、どうやってあの警備長を封じたんだ?」


「ふっ……意外と簡単だったぞ。カッタルの店にあった、動物捕獲用の魔道具を使った。どうやら、魔力を持たない最強の男は、動物扱いだった様だな。面白いだろ?」


 今、ドーズの言ってた魔道具って、あの時、カッタルさんに勧められた【束縛化になろう】って奴の事だよな。

 こいつ等、そんな卑怯な手まで使って来るのかよ。


「全然、笑えないな。……ドーズ、やっぱり俺とお前では、粗利が合わんらしいな」


「じゃあ、そろそろ、決着付けるか?」


「良いだろう。だが、場所ぐらいは俺に選ばせて貰うぞ」


「勝手にしろ。……バースはそこの奴等を頼むね! 全員、殺していいから!」


「りょーかい!」


 ドーズは、大鎌を背中から取り出すと、律儀にフェイさんの後に続いて、中央の戦場に戦いの場所を移した。


「じゃあ、僕の相手は君かな? 狼男君?」


 ゲータさんが、残った黒髪の獣人族に声を掛ける。


「別に俺は、全員で掛かって来ても問題無いぞ」


「そんな卑怯な事はしないよ。でも、戦う場所は変えてもいいかな? 狼男君」


「いいぜ! だがな、狼男じゃねぇ! 俺は、獣人族のバースだ! 良く覚えとけ!」


「どうでも良いよ。どうせ敵何だし。……じゃあ、行こうか」


 ゲータさんは、フェイさんと同様、俺達を巻き込まない様に、正門から離れた、左側の前線に狼男を誘導してくれた。


 頼れる先輩達の計らいに感謝しながらも、取り残された俺達は、これから訪れるであろう未来に不安を抱いていた。


 何故ならこの先は、正門の左側を俺達同期三人だけで、襲い掛かる全ての魔物達を相手にしなければならないという事だ。


 絶望的だ。

 皆はこの先、疲弊する一方だ。


 頼みの綱の警備長は、罠にめられ身動きが取れない。

 何か、盛り返すきっかけを掴まなければ。


 (そうだ、トーマスなら未来を……)


 俺は、思い付きでトーマスの居る前線まで走り出す。


「トーマス! 俺と前線を代われ!!」


「急にどうした?」


「トーマス、俺が時間を稼ぐ間に、あれを使え!! 誰でも良いから、仲間の未来を!!」


「分かった! すぐ戻るから、それまで繋いでくれ!! ――【よちよちタイム】!」


 トーマスは、俺と持場を変わりながら、【よちよちタイム】を発動した。


「どうだ?」


「…………」


 だが、トーマスの顔は、数秒後には額に冷や汗を浮かべ、青冷めた表情に様変わりをしていた。

 そして、表情同様に、生気の感じられ無くなった両目からは、涙が頬を伝う。


 トーマスが、一体、誰の未来を覗き見たのかは、俺には分からない。

 けれど、トーマスの顔付きを見れば、見えた物が絶望に近い事は、容易に想像出来た。


 そんなトーマスの顔色を伺っていると、突然、トーマスの叫び声が響いた。


「カーマ!! 逃げろっ!!」


「えっ?」


 俺は、トーマスに気を取られる余り、自分が最前線に出た事を忘れていたのだ。


「カーマ君!! 上っ!!」


 そして、メリサの悲痛な叫びによって、視線を上に向けた時、寄りにもよって、あの魔物が飛び掛かって来た。

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