あるバイト門番の配置転換
◇ セルド視点 ◇
戦況は、時を重ねるごとに悪化していく一方だ。
いつもは、緑一面で行商人達の列が出来ている正門前の平原は、魔物と亜人、そして人間の血と魔物の死骸で溢れ返っていた。
俺は門の左側で、比較的楽な持場から、トーマスの撃ち漏らした敵をカーマと共に撃退していた。
だが、開戦して三時間が経っただろうか。
魔物達と違い、皆の疲弊は溜まる一方だ。
いつ、防衛線が決壊しても可笑しくない。
実際に、肝心のトーマスは、メリサの回復で何とか前線を保っているが、度重なる連戦に疲労を隠せていない。
さらに、前に出ているフェイとゲータさんも、限界が近いだろう。
そもそも俺達は、二時間に一度は、しっかりとした休憩を取らないと、集中力が持たない様な勤務形態で働いて来ている。
集中力が切れた時は、総崩れだ。
そんな時に、一番大きな異変見せたのが、右側の戦場だ。
「あ、あれって……カッタルさん、だよな……」
突如、ターバンを外したカッタルさんが現れ、戦局を大きく動かそうとしていた。
姉御の操るゴーレムが一方的に壊され、姉御にも足を上げた。
詳しい事は分からないが、親友の姉御を蹴り飛ばしている姿を見るに、味方では無さそうだ。
急なカッタルさんの乱入に、他の冒険者達も次々に倒れて行った。
このままでは、、右側から均衡が崩れるのは避けられない。
どうする。
悩んでいる場合じゃないよな。
俺は、隣で剣を振るう後輩に、後を託す事に決めた。
「カーマ!!」
「どうしたセルド? どこかやられたか?」
「違う! とにかく、姉御がヤバいんだ!! 俺が右行く!!」
「でも、アーチで敵わない奴にお前が行っても……ここは、フェイさんが戻るまで待った方が――」
「そんな事言ってる場合じゃねーだろ!! あっちが崩れたら、こっちもお終いだ!!」
「だけど、お前が――」
「先輩命令だ! ……フェイが戻って来るまで、カーマ、トーマス、メリサ、こっちはお前達に任せる。いいな?」
「はいっ!」
「任せろ!」
「……お前、死ぬなよ」
「お前もな!」
三人はそれぞれ返事をしたが、カーマは、最後まで首を縦に振る事は無かった。
俺は、カーマに向かって右手を上げると、そのまま、右の戦場を目指して走り出す。
カーマの言いたい事は良く分かる。
俺がカッタルさんに勝てる可能性何て、万に一つも無いだろう。
けど、俺には、カッタルさんに、どうしても聞いておかなければならない事がある。
ルートさんが、獅子奮迅の活躍をしている中央の戦場を、巻き込まれない様に走り抜けると、姉御が片膝を地面に付きながら、カッタルさんと相対している右側に辿り着く。
この様子じゃ姉御は、カッタルさんに手を出せなかったんだろう。
真面にやり合えば、姉御が一方的に負ける事は無いからだ。
「姉御!! スイッチ!!」
「へっ? ……セルド?」
「俺が代わってやるよ。だから、この隙に右側を立て直せ!」
「あ、……ああ。わ、分かった」
いつもとは対照的に言動が弱々しい姉御は、俺に流されるまま、逃げる様に冒険者の援護に向かった。
そして、俺は背中から大剣を抜き、目の前のカッタルさんと向き合った。
「姉御が離れるまで、待っててくれて、ありがとうございます」
「……いいのよ、出来れば私もアーチとは戦いたくないし」
「そうですか。ならついでに、俺から一つ質問させて下さい」
「良いわよ。けど、今更、裏切った理由なんて、聞かないでよね」
「そんな事じゃないですよ。只、俺が聞きたいのはな、……あんたがやってた、あの魔道具店は、暇潰しの遊びだったのかって事だよ!!」
俺は、一番聞きたかった事を口に出す。
この際、カッタルさんが敵でも味方でも関係ない。
路地裏に自分の城を構えて、限られた常連客を相手に、自分の琴線に触れた商品を売りに出す。
俺が憧れたあの店は、商売人として一つの完成形に思えた。
だが、姿を隠す為の遊びでやっていたのなら、話は変わって来る。
「……遊びじゃないよ。……闘技場に出たのも、その賞金で店を開いたのも、亜人として王都に潜伏を続けたのも、全部本気。全部、本心でやりたいと思った。……それがどうかしたの?」
「いいや。……何か安心しました。これで俺は、心置き無く貴方と戦えます」
「あらそう。……それで、貴方で私の相手が務まるのかしら? ……セルド君……だったっけ?」
「構いませんよ」
「死んでも恨まないでね」
「構いませんよ。俺も本気で貴方を止めますから。……【憑依】!!」
自身の両足と大剣の刀身に水の魔力を纏う。
最初から、勝てる何て思い上がっちゃいない。
全力で飛ばして、目一杯時間を稼ぐだけだ。
後は頼んだぞ、皆。
俺は、身体に最大限の魔力を纏わせて、全力でカッタルさんに特攻を仕掛けた。




