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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第二章 元警備隊員の来訪
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あるバイト門番の決裂

 ◇ アーチ視点 ◇


「親父の奴は、何してんだよ!」


 あたしは、作りだせる最大数である、十体のゴーレムを作り出し、右側の魔物を殲滅していたのだが、さっきから、中央の様子が可笑しい。


 これじゃあ、親父の力を信じて、左右に戦力を固めた意味が無い。

 こうなったら、ゴーレムを中央に回して、あたしが右に残るか。


 フェイがこの状況を見れば、十中八九、中央に戻って守りを固める筈だ。

 あたし達の陣形は、回復の出来るルートさんと、メリサに懸かってると言っても過言では無い。


 だから、悩んでいる場合じゃない。


 あたしは、ゴーレム達を中央に動かそうとした、その時だった。


 一体のゴーレムが、突然、胴体から破裂したのだ。


「はぁ!?」


 続けて、二体、三体と、次々に崩れ落ちていくゴーレム達。


 あたしの作るゴーレムは、並みの上級程度であれば、一方的に負ける事は無い。

 となれば、犯人は亜人だよね。


 どこのどいつにやられたか知らないけど、そんな危険な奴は野放しには出来ない。


「あたしのゴーレムを壊した奴、今すぐ出てこい!!」


 あたしは、ゴーレムの残骸に向かって問いかける。

 すると、残骸の周辺から、誰かが姿を現した。


「…………アーチ、久しぶりね」


 そこには、ゴーレムの残骸に背を持たれながら、手を挙げる親友の姿があった。


「……カッ、タル?」


 何で、カッタルが此処に居るんだろう。


 亜人の進行を食い止める為に参戦した、闘技場(コロシアム)の戦士の中に、カッタルは入っていなかった筈だ。

 てっきり、避難している物と思っていたが、こんな戦場に居たのか。


「カッタル、援護ありがとう! それで、ゴーレムの仇は取ってくれた?」


「……仇は取ってないね。……だって、私が犯人だから」


「……へっ?」


「ゴーレムはね、私がこうやって壊したの」


 カッタルは、あたしの前方に居たゴーレムの胴体を容易く蹴破った。


「え? ……どういう事、なの? カッタル?……」


「まだ、分からないの?」


「分かんないよ!!」


 あたしは、目の前の光景を見て、呆然と思考を停止させていた。


 頭では、理解している。

 それなのに、やっぱり受け入れられない。


 所詮、あたしは、自分の都合の良い様にしか、解釈出来ないらしい。


 幼馴染のゲータを覗けば、カッタルは、あたしに出来た初めての友達だ。

 学園に馴染めずにいたあたしが、闘技場(コロシアム)で小遣いを稼いでいた時に、対戦相手として出会い、今では一番の大親友だ。


 (なのに、どうして……)


「アーチに一つ、言い忘れた事があってね……」


「……何よ?」


 カッタルは前置きをそこそこに、頭のターバンを解き始めた。

 そして、あたしは、カッタルの伝えたい事を理解した。


 ターバンの隙間から覗く、長い金色の髪の隙間から、初めて見るカッタルの頭頂部には、人ならざる物の耳が、真上に向かって生えていたのだ。


 髪色と同じく、金色に輝くふさふさの耳。


「……き、狐の耳?」


「うん。私はね、亜人連合から人間の国に潜伏していた狐の獣人族。つまり、アーチの敵って事よ」


「どうして? ……どうして敵になるの? ……カッタル、あたし達、親友だよね?」


「……どうしてだろうね。……でも、しょうがないよ。私は亜人で、アーチは人間の王族。そんなの、戦わ無い方が難しいよ」


「例え、それが難しくても、あたし達が戦わない道もあるでしょ! だったら、二人で探そうよ! 和解だってあたし達が協力すれば――」



「出来ない!! 出来っこない!!」


 未だ、現実を受け入れられないあたしは、和解を提案するが、その声は、途中でカッタルの怒号にかき消される。


「どうして、やる前から諦めるのよ!!」


「……私のお母さんは、二十五年前、王都を襲撃して戦死した。誰にどうやって殺されたかも分かんない。でもね、こんな境遇、私達亜人には珍しくない。それに、アーチのお兄さんも似た境遇でしょ。それでもあんたは、和解何て生温い事が言えると思ってんの?」


「思ってるよっ!! いつか、ううん。近い将来、あたしが王様になったら、カッタルも、フェイも、苦しむ皆を納得させて、和解させる。それが私の夢だから!!」


「甘いわね、アーチ。……そんな夢、叶う訳無いわよ」


「それでも、あたしは諦めない! だからっ――」


「もういいわ……どの道、もう貴方達の負けだから」


「何言ってんのよ? まだ戦いは、始まったばかりでしょ!」


「いいや、終わったよ。人間界最強の英雄、グロス・クルーパーは、既に奥で封じた。あの人が自由になる頃には、あんた達は全員死んでるよ」


「ハッ、それは嘘だね!! 親父はあんなクソ野郎でも、間違い無く最強だ。簡単に封じれる様な奴じゃない」


「いいや、あの人だからこそ罠にかかった。門の正面に魔物が溢れてるのが、その証拠でしょ?」


 カッタルの指す方には、ルートさんの迎撃仕切れない魔物達が、正門を目指してじりじりと距離を詰めていた。


 不味い、せめて、私だけでも中央に戻らないと。

 けど、カッタルは簡単には行かせてくれないよね。


 どうやって、この場でカッタルを出し抜くかを考えていると、右側の戦場から、一人の男が駆け付けた。


「どけっ! 警備隊の姉ちゃん! あいつは俺が倒す!!」


 颯爽と現れたのは、最近、闘技場(コロシアム)で名を上げていた屈強な体格の男だった。


「引っ越し屋のガバガ・バナンス!」


「おうよ!! ここは俺に任せろ!!」


「……貴方で、私の相手が務まるのかしら? 闘技場(コロシアム)の時みたいに手加減はしないよ」


「やってみろよ! これが、俺のリベンジマッチだ!! 【憑依(ひょうい)】!!」


 ガバガが、自身の両足と両肩に炎を纏って、恵まれた体躯を活かして突進を仕掛ける。


「遅いよ」


 だが、カッタルは避ける事無く、向かってきたガバガの顔面に、左足で強烈なハイキックをお見舞いする。


「ぐわぁっ!!」


「貴方じゃ役不足よ。どっか行きなさい」


 強烈な蹴りを浴びて、動きを止めたガバガに、今度は右足で腹部を蹴り飛ばす。


「かはっ!!」


 一撃で腹部を打ち抜く様に蹴り飛ばされたガバガは、その勢いのまま、正門に転がると、最後は外壁にぶつかって勢いを止めた。


 ガバガは、あの一撃で気絶してしまったのか、立ち上がる事は無かった。


 幸い、あそこにはルートさんが居る為、気づいて貰えれば、死にはしないだろう。

 とにかく、私はカッタルを止めないと。


「行けっ! ゴーレム!」


 あたしは、残った三体のゴーレムを中央に送ろうとするも、目の前のカッタルは隙を見せない。


 あたしに構う事無く、背を見せたゴーレムを一体ずつ、飛び蹴りで仕留めて行く。


「待ってよカッタル!」


 だが、敵として現れたカッタルは、耳を傾ける事無く、展開していた全てのゴーレムを再起不能にしていた。


「アーチ、まだ分からないの? これは只の戦いじゃない! 人間と亜人の存続を懸けた殺し合いなのよ! 躊躇してると、あんたも私に殺されるよ!」


 カッタルの回し蹴りが、腹部に突き刺さる。


「ぐはっ! …………で、でも、あたしは、親友を信じている。だからっ――」


「うるっさいんだよ!!」


「うっ……」


 頭部に繰り出されるハイキックに、掠るだけで意識まで飛ばされそうになる。


 こんな威力、真面に当てられたら、一撃でガバガの様に吹き飛ばされるだろう。


 さて、どうやって、カッタルを突破しようか。

 果たして、あたしにカッタルは殴れるのかな……出来るのかな。

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