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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第二章 元警備隊員の来訪
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ある警備長の奢り

 ◇ 警備長視点 ◇


 左側の戦場で、一際大きな氷の山が降り注いだ。


 (フェイの奴、飛ばし過ぎじゃな。アーチの方が、余程、冷静に戦っておるわい)


 両側が、激しく戦いを繰り広げて居ながらも、儂は、冷静に戦場を眺めていた。


 不安に思われた冒険者や警務隊の面々は奮闘しているし、カーマとセルドも問題無い。

 後ろに控えたルートが、参戦してくれた冒険者達の回復を行いながら、援護をしてくれている。


 こうなると、気に掛かるのは、やはりフェイだ。

 だが、若干急ぎ過ぎの様な気はするが、フェイの狙い自体は、決して悪くない。


 無理に急ぐ必要の無い奴等の狙いは、十中八九、持久戦じゃろう。


 こちらの防衛専が疲弊し、抜かれるより先に、魔物を操っているドーズと、単体でも壁を壊せる巨人を戦闘不能にしてしまえば、自ずと、勝機を失った奴らは引き上げると思われる。


 なら、儂のする事は、目の前にたむろしておる、巨人共を始末する事じゃろう。


「おらぁっ!!」


 儂は、目の前の空気を殴り飛ばし、巻き起こす衝撃波で周囲の雑魚を弾き飛ばす。

 これで、道は開いたな。


「どうじゃ、巨人共。お望み通り、儂が来てやったぞ」


「流石は、竜人様と張り合った男だな。ガッハッハッハッ!! お前ら! やれっ!!」


 巨人族の中でもリーダー格と思われる、先程の大男が、一番奥から大声で命じると、儂を取り囲む様に三体の巨人が襲い掛かる。


「手下を道具の様に使うとは、リーダーの風上にも置けん奴じゃな!」


 巨人族なら、あの時も戦っている。

 こ奴らは、圧倒的な体格から繰り出す力は、あの邪龍にも勝るとも劣らずだが、故に、速さが足らんし、小回りも利かん。


 先ずは左からじゃな。


「ふんっ!!」


 棍棒を振り回して来た巨人の腹部に、正拳突きを入れて動きを止め、顎下を拳で強引に振り上げる。


「ほれっ!!」


 右から迫る巨人は、側頭部に渾身の飛び蹴りを放ち、吹き飛ばす。


 正面から巨大な槍を持って突っ込んで来た巨人は、手首を蹴り飛ばし、槍を手から離させた所で、その大木の様な大槍を強奪する。


「うらぁっ!!」


 そして、相手の鎧ごと、両手で持ち上げた巨大な槍で貫き、投げ捨てる。


 数秒の間に襲い掛かる巨人三体を下し、さらに前線へと歩みを進めて行く。


 如何やら、残りの巨人族は、リーダー格を含め、八体と言った所だ。


「どうじゃ? お前も、そろそろ儂と戦わんかの?」


「馬鹿言えよ! 俺は魔物と違って、馬鹿じゃねぇんだ! 誰が、お前と真面に戦うかよっ!」


「お前、図体の割には、小さい男じゃの」


「ガッハッハッハッ!! そうかもな。だがな、俺が小心者のお陰で、お前は負けるんだよ!」


 巨人族のリーダー格は、叫びながら先程の巨人が落としていた棍棒を、此方に向けて、力任せに投げ込んだ。


 儂は少し、この巨人を見誤っていた様だ。


 迫りくる棍棒の速さも、威力も想像以上。

 これは、避けねば。


 棍棒の軌道から外れる様に、辛うじて、横っ飛びで転がる。

 だが、避けた先には、別の刺客が待ち構えて居たのだった。


「完璧よ、ビグルビー!! 【硬化(こうか)】!」


 先程、顔を見せた鳥人族の女が、栗色の翼を銀色に変えて、猛スピードで、突っ込んでくる。


 得体の知れない変化を見せた翼は、危険だろう。


 儂は、咄嗟に地面を蹴り上げ、空に逃げ場を求めていた。

 だが、またしても、空中に待ち構えて居る者が居た。


「貰ったぁ!!」


 空には、鍛え上げられた屈強な人間の身体に、漆黒の体毛に覆われた耳と尻尾を持ち、狼のたてがみの様な、長い襟足が印象的な獣人族の男が、鋭い爪を振り下ろしていた。


 だが、いくら空中でも、そんな攻撃は、儂の脅威にはならない。

 儂は、迫りくる爪を避ける事無く、カウンターで拳をぶつけに行く。


「邪魔じゃ!!」


「やべっ!! 【強制回避(きょうせいかいひ)】!!」


「何っ!?」


 獣人族の男は、儂への攻撃を途中で止めると、空中で身体を不自然に(ひね)らせ、確実に捉えたと思った拳が、手応え無くすり抜ける。


(今、何が起こったのじゃ?)


 じゃが、奴の不自然な回避技も、着地直後では隙が出来るだろう。


 儂は、先に着地した獣人族に向かって、真上から拳を叩き込む。

 だが、今回も、新手に阻まれる事になる。


 獣人族との間に入り、その身体と変わらない程の大盾で向かって来たのは、憎き蜥蜴(とかげ)男だった。


「バース! 俺に代われ! 【絶対防御(ぜったいぼうぎょ)】!!」


「くっ……ぞろぞろと! じゃが、まとめてお終いじゃ!!」


 儂の頭上からの一撃は、いとも簡単に、大盾によって跳ね返される。


「何じゃと!?――くはっ!」


 何故か、大盾に触れた感触が無いままに、反動で空に投げ出され、近くの大木に打ち付けられる。


 こいつ等、何かが可笑しい。

 まるで、不思議な力で守られているかの様に、不自然に攻撃を躱され、防がれた。


 これは、明らかに儂の知っている亜人の力では無い。

 早く、フェイ達にも伝えねば。


 攻勢に転ずる為、儂が木の幹を蹴り、地面に降り立った時だった。


 突然、足元が怪しげな薄紫の光に包まれる。


「今度は何じゃ!?」


 すると、次第に光が強くなり、儂を中心に、薄紫色で半円状の膜が出来上がる。


 突如として出現した、その膜に手を触れてみると、そこには、明確に壁の様な何かが、儂を阻害していた。


(何だこれは?……もしや、閉じ込められたのだろうか……)


 試しに膜を内側から殴ってみても、ビクともしない。

 これも、奴等の奇妙な術の範疇なのか。


 何度、本気で蹴り上げても、膜は何の変化も見せない。

 そんな中、膜の代わりに反応を見せたのは、まだ、姿を見せて居なかったドーズだった。


態々(わざわざ)、こんな遠方まで、お一人で足を運んで頂いてありがとうございます。……これで、ようやく我々は、この戦いに勝利する事が出来ます」


 膜の外で、敬語を使いながらほくそ笑む男は、相変わらず気味が悪い。


「ドーズ、お前、儂に何をしたっ!?」


「警備長、【束縛化になろう】って言う、魔道具を知ってますか?」


「それがどうした?」


「この魔道具は、地中にセットして、生まれ付き魔力を持たない動物を捕獲する、言わば便利グッズなのですが、貴方の様な人間の理を外れた怪物にまで、効果が適応されるとは、正直、驚きましたよ」


 ドーズの言葉で、自分の置かれている状況を理解する。

 つまり、まんまとこいつ等の罠にめられたという事か。


 亜人達の主力と思われる連中を集め、撹乱し、儂を誘導するとはな。

 じゃが、気になるのは、この希少な魔道具の入手経路だ。


「お前、こんな物、どこで拾ったんじゃ?」


「友達に腕利きの魔道具屋が居るもんでしてねー。……カッタル、出ておいでよ」


「カッタルだとっ!?」


 ドーズの後ろに目を凝らすと、此処には居ない筈の、見知ったターバン姿の女が現れる。

 彼女は、闘技場(コロシアム)の支配人を務めている儂からすれば、決して知らない仲じゃない。


「ご無沙汰してます、警備長。闘技場(コロシアム)では、大変、お世話になりました」


「……カッタル……儂らを裏切るつもりなのか?」


「いいえ」


「なら、どうして、お前がこいつ等に協力している? ドーズに、旨い話でも持ち掛けられたか?」


「警備長、それは誤解ですよ。……なんせ私は、そもそも人間ではありませんし、警備隊を辞めたドーズを、亜人連合に勧誘したのは……この私ですから」


「……お前っ、……亜人、だった、のか……」


 カッタルの告白に、儂は、自らの過ちの悟る。


 何かを隠す様に巻かれたターバン姿のまま、コロシアムの舞台に上がる事を許可したのは儂じゃ。

 誰しも、触れられたく無い事は、有って当然だと、甘い考えで生きて来たからだ。


 だが、こうなると、話は変わって来る。


 奴等は、只、突発的に仕掛けて来た訳じゃ無い。

 潜伏を続けたカッタルが、元警備隊のドーズと計画し、勝機があると見て攻め込んで来た。


 カッタルは最低でも、闘技場(コロシアム)に出場し出した五年前には、既に、この街に潜伏していた事になる。


 どうやら、儂は、亜人を見誤っていたのかも知れない。

 現に、巨人族を始末しようと、正門から離れすぎた結果がこの様だ。


 儂は、自身の奢りに頭を抱えながら、五年前に闘技場(コロシアム)を訪ねて来た、当時のカッタルを思い出しながら、膜の向こう側へ問いかける。


「お前、夢だった魔道具商を始める為に、闘技場(コロシアム)で賞金を稼ぎに来たと言ってたな。……闘技場(コロシアム)で連勝を重ね、人気者になった時。その資金で魔道具店を開店した時。……儂に、笑顔で報告しに来ていたのは、全部、嘘じゃったのか?」


「……いいえ。闘技場(コロシアム)と魔道具商人。……どちらも、私にとっては仮の姿でしたが、楽しかったのは本当です。そして、貴方の娘にも、大変お世話になりました」


 そうか、長い間、アーチと仲良くしていたのは、警備隊の内情を探る為だったか。


「良いのか? ……仮でも、親友と呼んだアーチと、殺し合う事になっても」


「…………構いませんよ。私は、誇り高き亜人の民ですから」


「そうか、残念じゃ」


 カッタルは、儂の返答を聞き切らないままに、背を向けて、正門に歩き出す。


 それを見て、儂を取り囲んでいた亜人達も、静観を止めて動き出す。


「ドーズ、俺は、このジジイの見張りで良いんだよな?」


「ああ、巨人族で、ここの守りを固めて置いてくれるか?」


「良いだろう。だが、余り俺達を待たせすぎるなよ。ガッハッハッハッ!!」


 笑い声も豪快な巨人族のビグルビーは、仲間を連れ、儂を取り囲む様に座り出した。


「それでは、警備長。ここで大人しく、王都が陥落する様を、特等席でご覧下さい」


「ドーズ。これが警備隊を辞めてまで、お前のやりたかった事か?」


「ええ、後は、貴方の子供二人を手に掛ければ、心置きなく、亜人連合に戻れます」


 その言葉だけを残して、ドーズは振り返る事無く、ゆっくりと正門を目指した。


「くそっ!! くそっ!! 邪魔じゃ!! 退けっ!!」


 何度も、拳をぶつけるが、膜はビクともしない。

 儂とした事が、こんな罠に引っかかるとは。


 このままでは、儂の抜けた穴から、陣形が崩されてしまう。


 フェイ、アーチ。


 早く、儂が捕まった事に気づいて、中央の穴を埋めてくれ。


 前線で戦っているお前達が頼りだ。


 後は、頼んだぞ。

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