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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第二章 元警備隊員の来訪
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元警備隊員の告白

「おい、出来損無いっ! 後輩が出来たからって偉くなったなもんだな。……まあ、その辺は調査済みだけどな」


「どういう事だ?」


 ドーズの意味深な発言に、フェイさんが喰らい付いた。


「そのままの意味だよ。フェイも、仕事してて疑問を感じなかったのか? 第三警備隊が出勤する時にだけ、やけに、珍しい敵に遭遇するなってさ……」


「お前っ! まさか、魔物を使って偵察してたのか?」


「流石は、俺を押しのけて隊長になっただけ、勘が鋭いな。……そうだよ! メタルリザードに始まり、オルトロス、五十を超えるオークの群れ。全て、俺の兵隊だよ!」


「……ドーズ……お前、どうやら落ちる所まで落ちた様だな」


「何とでも言えよ。新戦力はルートの妹に風使いの冒険者、アーリアの代わりに雇った数合わせのゴミ。……そんなんじゃ、俺達は止められない。俺はな、俺を認めなかったお前達をぶっ潰す為に警備隊を辞めたんだよっ!!!」


「ドーズ!! 今朝の一件も、お前の仕業か?」


「勿論だ。馬鹿な騎士共は今頃、王都が狙われている何て知らずに、自分達でどんどん離れて行ってるよ。ハッハッハッ!!」


 狂ってやがる。

 自分の計画通りに事が進むのが、そんなに楽しいか。


 自慢げに話す、その声を聞いているだけで、虫唾が走る。

 だが、悔しいのは、それだけじゃない。


 俺は、初対面の男にゴミと言われて我慢出来る程、出来た人間じゃない。


「おい、ゴミ野郎! お前、自分で辞めておいて、何様なんだよ!! 普通な、世話になった職場に泥塗る真似はしねぇだろ!! 人の気持ち考えた事あんのかよ!!」


「人の気持ちねー……それを、こいつ等、警備隊に(ないがし)ろにされたから、こんな真似してるんだけどな」


「そんな訳ねぇ! 俺は、この半年間、ここで大切な事を、たくさん学ばせて貰ったんだ!」


「そうかな? ……真面な人間は、無駄に過ごした半年間の事を振り返った時に、その、何の役にも立たない期間の事を、燻りって言うんだよ。ゴミでも知っているだろ? ここの歪んだ家族経営っぷりを。……勤務態度の悪い娘を解雇せず、義理の息子という理由で、俺より劣った男を隊長に昇進させる。そんな場所、潰れて当然だとは思わないか?」


 ドーズの言っている事は、偏見に満ちた見当だ。

 警備長が、そんな理由で人を判断していない事くらい、半年居るだけの俺でさえ理解出来る。


「思わないね。やっぱり、警備長の判断は正しいと思うよ! あんたは、隊長には向いてない!」


「ほう? ……それは、この国の歴史を知ってからでも、同じ事が言えるかい?」


「何っ!?」


「さっき、そこの出来損無いも、俺の素性はどうでも良いって言ってたけどね、君達こそ、味方の素性を良く知るべきだと思うがね」


「味方の素性?」


「やっぱり、聞いてないか。……お前、この国の英雄伝説を知ってるか?」


「はぁ? 知ってるよ、そん位」


 ドーズは、俺に向かって一歩前に出ると、先程と比べ、一段と大きな声で演説の様に語り始めた。


「もういい加減、この国の民に、真実を伝えるべきだと思いませんか? グロス・クルーパー。……いや、婿に入ったから違うか……」


「あんた、何言ってんだよ?」


「なら、もっと分かりやすく教えてやろうか? お前らも聞いた事があるだろ? この人は、只の警備長じゃない。二十五年前に邪龍と戦い、降伏した元騎士団長、ロムガルド王国が誇る英雄、グロス・ロムガルドだ!!」


「「「「はぁ!?」」」


 ドーズの伝えた事は、一部の人間を覗いた全ての正門前の人間に、驚愕の事実を突きつける事となった。


 皆が、警備長の方を向いて固まる中、警備長も首を横に振る事は無かった。

 そんな警備長の反応を見て、皆の疑念が確信に変わる。


 (警備長が、邪龍と戦った英雄だと? 出鱈目に強いのは知っていたが、まさか、本当に俺の憧れていた英雄だった何て……)


 だが、子供の時から英雄に憧れ、近所の爺さんから、散々、伝説を聞かされて育った俺には、何かが引っかかっていた。


 それもその筈だ。

 ドーズ言葉には、一つ、俺の知っている伝説とは異なる点があったのだ。


「ちょっと待てよ!! それが、仮に警備長だとして、二十五年前の英雄は、邪龍を討伐した筈だ!! 嘘を付くなよ!!」


「嘘では無い。これは、ロムガルド王国が、自国に都合の良い様に作った英雄譚だ。実際は、邪龍に降伏し、滅亡までの猶予を貰う形で、その場を収めたのだ。そして、今日がその時だ」


 ドーズの言った事を信じる事は出来ないが、同時に否定する事も難しい。

 どちらも、絶対の証拠が無いからだ。


 多分それは、この場に居る本人以外の皆も、同じ気持ちだろう。


「……ドーズ、それが向こうで、お前の聞いて来た答えかの?」


「ええ。この国が、あの方を()()と呼んでいるのが、全てを表しています。それに、貴方が英雄と知った時もショックでしたが、降伏した事も、同じ位ショックでしたよ」


「そうか。……じゃが、真実を言えば、どちらの伝説も不正解じゃな。……結局、国ってもんは、どういう訳か、自分達の事を勝者にしたがる」


「何だと?」


「二十五年前の本当の結末は、紛れも無く引き分けじゃ。両者、戦闘不能に付き、続行不可能。頭である邪龍が倒れた事で、奴らは、逃げる様に引き上げて行った。それっきり姿は見ておらん」


「う、嘘を付くな、俺は本人から聞いたんだぞ! グロス・ロムガルド!!」


「やめい、その名前や肩書は当に捨ててる。今の儂は、只の警備長、グロス・クルーパーじゃ!!」


「あんたはそうでも、娘のアーチは違うだろ? 名前は消せても、王家の血筋は消えねぇだろ!!」


 ドーズの言葉に、皆が英雄伝説の続きを思い出す。


 そうだ。

 邪龍を倒したとされる英雄は、褒美として、絶世の美女と言われた王女様を嫁に貰うんだ。


 って事は、その間に子供がいても、何ら不思議じゃない。


 そう言えば、アーチの夢って確か……王様って言ってた様な……。


 あの時、ヤニー亭でセルドと茶化した事が、まさか、本当に王家の血を引いていたとは……。


 俺は、アーチの事を心底、誤解していたらしい。

 後で、あいつに謝らねぇと……だけど、その前にあいつだよな。


 ドーズは、アーチの顔の前に大鎌を突き付けると、威勢良く吠え出した。


「さっきは良くもやってくれたな馬鹿女っ!! お陰で俺の兵隊が減っちまったじゃないか!!」


「……クソドーズ、これで満足した? あたし達、今日、仲間の送別会があるんだよ。だから、そろそろ帰ってくんない?」


 アーチは大鎌に臆する事無く、ケロッとした顔で、言い放った。


「まぁ、いい。生意気なお前は、今日、俺の手で確実に消してやるよ」


 ドーズが、憎たらしい顔で詰め寄ると、お返しとばかりに、フェイさんがその首筋に刃を付きつける。


「もう、止めろよ、ドーズ。……俺は、二十五年前、あの現場に居た。だから、本当の事を知っている。警備長が誰と戦って、何が起こったのか。……ドーズ、それでもお前は、向こうに付くつもりか?」


「……分かってるさ。けどな、信じる物を信じる。それでいいだろ?」


「……そうか……なら、お前が今、一生懸命時間稼ぎをしているのも、()()を信じているからか?」


「くくくっ……やっぱり、フェイには見破られるか……そうだよ、お前ら出て来てくれ!!」


 ドーズは何かを諦めた様に、仲間に声を掛けた。


 すると、アーチが魔法を放った辺りから、ぞろぞろと、何者かが姿を現した。

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