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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第二章 元警備隊員の来訪
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元警備隊員の来訪

 正門前に戻ると、既に、裏門を警備しているトーマスとメリサを覗いた、第三警備隊の面々が集まっていた。


 それに加えて、参戦を表明してくれた民間人達は、外壁の上に、冒険者や闘技場(コロシアム)の猛者達に加え、マワリ―さんを始めとする警務隊は、正門の前に集まり、ジリジリと近づいて来る脅威に、相対していた。


「戻ったか、カーマ!」


「はいっ! 信頼出来る人に預けられたので……」


「よし、正門を封鎖しろ!!」


「「はいっ!!」」


 警備長の合図で、セルドとゲータさんが、正門の二重の門を降ろし、出入を完全に封鎖した。


 これで、最低限の準備が整った。

 初めて、完全に門を閉ざした正門を見上げていると、後ろから声を掛けられた。


「遅かったわね、ゲホゲホは?」


「アーチか。……あいつは、怖がってたから預けてきた。それより、裏門はどうなってる? トーマスとメリサは?」


「裏門は異常無し。二人は、第二警備隊が裏門に到着次第、こっちに来るよ」


 俺達が状況を共有していると、段々と、影に隠れていた者達が姿を現し出した。


 遠目から影と錯覚していた何かとは、地平を埋め尽くす程の魔物の大群だったのだ。


(う、嘘だろ? ……何て数だよ。しかも、デカいのもいやがる)


 目を凝らすと、(おびただ)しい数の魔物達の中には、ちらほら、上級と思わしき魔物も見受けられた。

 圧倒的な数の絶望感に、皆が呆然としていると、魔物達の方から、こちらに向かって駆けて来る、一人の男性の姿があった。


「誰かぁっ!!! 助けて!! 助けてくれー!!」


 行商人と思わしき男性は、何度も同じ言葉を繰り返し叫び、後ろを気にしながら、なりふり構わず走っていたが、俺達の前まで来ると、安堵した表情を浮かべ倒れ込んだ。


「【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――祝福の光(ヒールライト)】! ――大丈夫ですか?」


 ルートさんが、倒れ込んだ男性にすかさず治癒魔法をかけると、男性は倒れたまま、ゆっくりと目を開けた。


「大丈夫かっ! 何があったんじゃ?」


「……と、突然、街道に魔物の大群が現れて、行商人の馬車が片っ端から襲われたんだ! 私以外の皆は、もう……」


「そうじゃったか。……済まない。仲間を助けてやれなくて。……一応、聞いておくんじゃが、魔物が現れる前に、何か奇妙な事は無かったかの?」


「奇妙な事……ですか?」


 男性は、警備長の質問に頭を悩ませた後、思い出した様に答えた。


「……ま、魔物が出現する、少し前の事ですが……お、男が、男が一人、平原の真ん中に立ってました」


「何じゃと? その男とは、どんな奴じゃった?」


「……えっと、……確か、フードの付いた黒いローブに、水色の長髪で、背に大きな鎌を背負っていました」


「「「「「なっ?」」」」」


「それは誠か?」


 男性が、不審な男の外見を口にすると、突如として、皆の表情が一変したのだ。


 特に、フェイさんとルートさんは、他の隊員が驚愕の表情を浮かべているのに対して、二人だけは、怒りにも見える、険しい顔を見せていた。


「……フェイ、ルート。決して、早まるなよ。まずは、確かめてからじゃ。アーチ! 派手にやれ!」


「オッケー! ……そんじゃあ、行くよ! 【具現(ぐげん)広域出力(こういきしゅつりょく)――大地の巨槍群(グランドランサー)】!!」


 【具現(ぐげん)広域出力(こういきしゅつりょく)】とは、その名の通り、頭で描いた物を魔力で広範囲に具現化する出力方だ。


 一度で広範囲に影響を及ぼす事が出来る一方、必要とさせる魔力と魔力操作の練度は、通常の【具現出力(ぐげんしゅつりょく)】とは、比べ物にもならない程、高難度の魔法とされている。


 だが、警備長に名指しされたアーチは、魔物の軍勢に両手を向けると、容易く、凄まじい量の魔力で広範囲に土魔法を放つ。


 すると、ゆっくりと進軍中の魔物達の足元から、地面が裂け、巨大な槍にも似た、鋭利な岩石が天に向かって何度も突き上げる。


 そして、アーチの恐ろしい所は、その攻撃範囲だった。


 この回避が不可能に近く、殺傷能力の高い地面からの攻撃が、平原を埋め尽くさんとする魔物達に向けて、横一線に放たれたのだ。


 突然の出来事に、前線の魔物達は為す術無く貫けれ、瞬く間に数を減らしていった。


(す、すげぇ。これがアーチの実力かよ。圧倒的じゃないか!)


 だが、そんな蹂躙劇に待ったを掛ける様に、土煙の向こうから、巨大な斬撃が飛んで来たのだ。


「危ないっ!!」


 俺が叫んだ時には、前に出たフェイさんが、いつも背負っている長剣で受け流していた。


「……ルート。……残念ながら、人違いじゃ無いらしいぞ」


「……分かってるわよ、そんな事……」


 二人が深刻そうに会話をしていると、裏門からトーマスとメリサが駆け付ける。


 二人は、躊躇する事無く壁の上から飛び降りると、一目散に俺の元にやって来た。


「カーマ! 何があった?」


「俺も良く分かんねぇ! けど、怪しい男と、魔物の大群が突然現れたってのは、間違い無い!」


「って事は、相当ヤバいって事は間違い無いな!」


「そうだな!」


「間違い無い以外の情報は無いの?」


「「無いっ!」」


 何かを察している先輩方に比べ、俺達があたふたしていると、アーチの魔法によって発生していた土煙が消え始めた。


 すると、平原の真ん中に、一人の男の姿が浮かび上がる。


 そして、土煙が完全に消える頃には、その男は、俺達が並ぶ正門前と目と鼻の先まで接近していた。


「……やはり、お前の仕業か……」


 フェイさんは、現れた男を見るなり、呟いた。


 黒いローブに水色の程良くウェーブの掛かった長髪、背中には人の背丈程の禍々しい大鎌。


 誰だか知らないが、特徴から見て、行商人の言っていた、例の男で間違い無いだろう。


「……久しぶりだな。……フェイ、ルート。元気にしてたか?」


「……貴方が来なければね……今は最悪の気分よ」


「そうか、それは残念だ」


 男は、ルートさんと慣れた様子で言葉を交わすと、目の前に立ち塞がるフェイさんに睨みを利かせた。


「フェイは、俺に言う事は無いのか?」


「……あると、思っているのか?」


「……ったく、久しぶりの再開だってのに、随分嫌われた物だな」


 男が軽口を叩いていると、警備長が、ゆっくりと前に出た。

 この様子だと、警備長も顔見知りだろうか。


「……ドーズ、久し振りじゃな」


「お久し振りです、警備長。お元気そうで何よりです」


「それで、久し振りに顔を見せたかと思えば、何の用じゃ?」


 すると、ドーズと呼ばれた男は、丁寧な口調でとんでも無い事を口にした。


「……そうですよね。通行には来訪理由が必要ですもんね。……では、本題に入らせて頂きます。……突然、お騒がせしてすみませんが、これより、ロムガルド王国は、我々の手によって滅亡して頂きます」


「「「「なっ!?」」」」


「嫌じゃと言ったら?」


「手荒い真似はしたくありませんが、仕方ない。当然、実力行使になります」


「ほう? あの鼻タレ小僧が、見ない間に随分偉くなったもんじゃな」


「勿論、私だけではありません。()()と共に戦いますよ」


 ドーズと呼ばれた男は、丁寧な言葉を崩さずに宣戦布告を行うと、後方に視線を向けていた。


 恐らく、()()とは、その視線の先に居る、魔物達の事を指すのだろう。


 アーチの土魔法で、かなりの数を減らした様に見えたが、その後も、絶える事無く増え続ける魔物の脅威は変わらない。


 だが、気になるのは、魔物の事だけじゃない。

 あの人は何者なんだ。


 目の前で行われているやり取りに、まるで除け者にされているかの如く、付いていけないのだ。

 そして、それは俺だけでなく、トーマスとメリサも同じだろう。


 思ずと、張り詰める様な空気に、言葉を発する事すら躊躇っていたが、事情を知っていそうなセルドが、正門を閉めて俺の隣に来てくれた事もあり、水色髪の男について聞いて見る事にした。


「……なぁ、セルド。あの人の事、何か知ってるか?」


「知ってるも、何も……そうか、お前は時期が被って無いから知らないよな」


「時期って、どういうことだよ?」


「あの人、ドーズ・グローバーは、一年前まで在籍していた、元第三警備隊の正規隊員で、フェイやルートさんの同期だ。それと、カーマに分かり易く言うなら、今お前の使っている部屋の前任者だ!」


「本当かよ!?」


「えっ? あの人、ルー姉の同期って事?」


「それじゃあ、俺達の先輩って事か?」


 どうやら、メリサとトーマスも、あの男の素性が気になり、聞き耳を立てていた様だ。


「俺だって、数カ月しか被ってないから、詳しい事は知らん。けど、どんなカラクリを使ってるかは知らんが、魔物を率いて宣戦布告したんだ。この際、あいつの素性何てどうでもいいだろ!」


 付き合いの短いセルドも、ドーズ先輩には、余り良い感情を持っていない事は確かだ。


「おいおい。さっきから、偉そうに解説してる奴が居ると思えば、お前、新入りの出来損無いじゃないか! 名前は……覚える価値も無いから忘れてしまったよ!」


「くっ……」


 一つ、分かった事がある。


 セルドを煽って見せたドーズ先輩は、人によって態度や言葉使いを分かりやすく変える、気味の悪い男だという事だ。


 俺は直感で、ドーズが善人では無い事を感じ取っていた。

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