あるバイト門番の選択
◇ カーマ視点 ◇
答えに辿り着く事無く、一人で寮に辿り着くと、俺を玄関の外で待ち構えている男が居た。
「お疲れ、カーマ」
「お、お疲れ、セルド」
「……ちょっと顔貸せ!」
「はぁ? いきなり何すんだよ?」
「安心しろ、ゲホゲホはもう寝てるから!」
「そういう問題じゃない!」
抵抗空しく、連行されるがまま連れてこられたのは、毎度お馴染みの【ヤニー亭】だった。
「お前、まだ飯食ってねぇだろ?」
「ああ。そういや、まだだったな」
俺は考え事をしていた所為で、セルドに言われるまで、自分が空腹な事にも気づかなかった。
「じゃあ、行くぞ。――今から二人で、上の個室って入れますか?」
「いらっしゃいませ! 二名様ですね、大丈夫ですよ!」
ウエイトレスのお姉さんに案内され、二階の個室に足を踏み入れた。
今日は、良く個室に案内される気がする。
「取り敢えず、串の盛り合わせと生麦酒二つ下さい!」
「畏まりました!」
セルドは、飲み物と摘みを注文すると、無言のまま俺の反対側に座った。
「お待たせしました。生二つと、串盛りになりまーす!」
「どうも―! じゃあ、ひとまず乾杯だな」
セルドにジョッキを手渡され、乾杯に応じる。
「「乾杯!」」
いつもは声が出る程に上手い酒も、今日は新鮮に感じない。
「…………で? お前はどうすんだ?」
乾杯の後の沈黙を破る様にセルドが切り出した。
「いきなり何だよ?」
「お前、夕方、アーリアさんと騎士団の募集がどうこうって喋ってたろ? その件だ」
「……聞いていたのか?」
「まぁな。……でも、安心しろ、他の奴には言ってねぇ。多分、姉御も気づいて無いと思うぞ」
「そうか。…………なぁ、セルドは、どう思う?」
「どうって、お前の事だろ? 何で、俺に聞くんだよ?」
「自分でも、何が正解なのか分かって無いんだ。……正直言って、迷ってる」
俺は、個室という事も相まってか、セルドに心の内を曝け出していた。
思えば、セルドとこうやって真剣な話をするのは、初めての事だった。
そんなセルドは、俺の相談を聞きながら、呆れた様に溜め息を付いた。
「……だろうな。お前って悩んでる時、分かりやすいからな。……でも、ちょっとがっかりだ」
「……どうしてだ? もしかして、俺が悩み何て一つも無い、能天気な奴だとでも思ってたか?」
「そういう事じゃない。……お前さ、深刻そうな顔して、俺に迷ってる、何て言いながら、本当は背中を押して貰いたいだけ何じゃないか?」
「なっ!? ……ち、違う! 俺はただ――」
「違わねぇよ!! お前の腹の内は、とっくに決まってんだろ? なのに、何を迷ってやがる! 一丁前に気でも使ってるつもりか? 現状に満足して夢を捻じ曲げるつもりか? 違うだろ、カーマ・インディー!!」
個室に響き渡ったセルドの言葉は、俺の胸に深く突き刺さった。
何もかも、言われた通りだ。
答えなんて、最初から決まっていた。
だが、今の生活を捨ててまで、一歩踏み出す勇気が無かった。
だからと言って、誰かに決めて貰う物じゃない。
そんな奴は、がっかりされて当然だ。
これは、俺の道なんだ。
自分で決めて、自分で進まなくては。
「セルド。……やっぱり、……やっぱり俺、騎士団に入りてぇよ!!」
「……知ってるよ。だから、これ以上、俺をがっかりさせるなよ」
「ああ、任せろ!!」
俺は、セルドと固い握手を交わした。
「ふぅー。やっと、いつもの調子に戻ったな!」
「しょ、しょうがないだろ。誰だってこういう日はあるだろ?」
「今日は、そういう事にしといてやるよ。……そうだ、事前に警備長とフェイには伝えろよ」
「分かってる。どの道、俺には建前何て、使えねえからな」
「だろうな」
「だろうなって何だよ?」
「事実だろうが。それより、早く食わねえと串物が冷めちまうぞ!」
「忘れてた!!」
俺達は、急いで串物に手を付けて、腹が満腹になるまで、料理と酒を満喫していた。
閉店の時間が近づき、帰りの支度を始めると、セルドが珍しく財布を持って立ち上がる。
「どうしたセルド?」
「今日は、俺が特別に奢ってやる。騎士団に受かった入団記念って奴だ。その代わり、試験に落ちたら、その足で、俺に倍の金額の飯を奢れ、それでチャラにしてやるから」
「いいのかよ?」
「当たり前だ。俺は、これでも、お前の教育係だからな」
「あ、ありがとう、セルド! ……お前、ちゃんとした先輩だったんだな!」
「何だと思ってんだよ。ほら、明日も早いんだ。帰るぞ!」
「おう!」
ヤニー亭からの帰り道は、辺りを覆っていた分厚い雲が消え、夜空に輝く星空が俺達を出迎えてくれた。
気付けば、俺以上に俺の事を分かってくれる、頼れる仲間が近くに居てくれた。
思えばアーリアも、俺に中途半端な迷いを捨てさせる為に、この時間を作ってくれたのだろう。
皆に感謝して、俺は後悔しない道を選ぶ。
次の日は、いつも通りに正門で仕事をこなし、アーリアの元に向かった。
ゲホゲホは、今日も寮でお留守番だ。
「すいません。アーリア居ますか?」
「カーマ? ……取り敢えず、そっちの部屋に入ってて!」
アーリアは、カウンターで別の男との接客中だった様で、昨日も使った個室に入り、アーリアが来るのを暫くの間待つ事になった。
さっきの人も、騎士団に応募したのかなと、無駄な考えを巡らせていると、部屋の扉が空いた。
「お待たせ、カーマ。思ったより早かったじゃない。私は、てっきり、期日ギリギリまで掛かると思ったのに」
「まぁな。善は急げって言うからな」
「じゃあ、一応聞くけど、応募って事で良いんだね?」
「宜しくお願いします」
俺は、頭を下げて、机の上に並べられた募集用の書類にサインをする。
「これで、準備は一先ず完了だよ。詳しい日程は追って連絡が来るから、それまで、鍛錬を積んでおく事、分かった?」
「ああ、言われなくてもそのつもりだ。……あとさ、ありがとな。俺に悩む時間くれて。お陰で自分の気持ちを再確認出来たよ!」
「と、当然でしょ! 私は、職業案内人なんだから!」
「やっぱり、ダサいなそれ!」
「うっさい。……それよりあんた、職場には伝えたの?」
「セルドにだけは伝えた。警備長達には明日、ちゃんと伝えるよ」
「そう。頑張りなさいよ」
「ああ。色々、ありがとな」
俺は、アーリアに別れを告げ、真っ直ぐ寮に帰宅した。
寮の中ではいつも通り、皆が楽しそうに寛いでいたが、明日、職場を辞めると切り出す身としては、その中に混ざる気分にはなれなかった。
自室に籠り、ゲホゲホと一緒に丸まって寝っ転がる。
「なぁ、ゲホゲホ」
「きゅう?」
ゲホゲホは、寝転びながら、俺の方に顔を向ける。
「お前は、ここに居たいか?」
「…………」
問いかけるも、当然の様に、返事は無かった。
だが、何かを感じ取ったゲホゲホは、俺の顔を何度も舐め回した。
顔を背けても止めない事から、これがゲホゲホなりの意思表明なんだろう。
「ごめん、ごめん。俺達はずっと一緒だったな」
「きゅううーー!!」
満足したのか、ゲホゲホはようやく、顔を元の向きに戻して、寝息を立て始めた。
俺も、不安を和らげる様、ゲホゲホに抱き付いて眠りに就いた。




