あるバイト門番の交渉術
「やっと降りて来たか。それじゃあ、三人で、三千ロームだ。早く払え」
「おいおい、第二警備隊のバイト門番よ。あたしらが、お前如きの言う事に耳を貸すと思っているのか? 早く、話の通じる上の人間を呼んで来い!」
「ごねても無駄だぞ。対応はマニュアル通りにすると決まっている。それに、俺は第一警備隊の正規隊員だ!!」
アーチの先制攻撃は、予測されていたのか、簡単にいなされてしまう。
ならば、次は俺が精神に攻撃を加える。
「先輩、マニュアル通りに生きてる男って、くそダサいって、この前ルートさんが言ってましたよ。器って言うか、男としての対応力って大事ですよね?」
「ルートさんは、決して、そんな事は言わん。そもそも、お前らみたいな連中と揉めない為に、マニュアルは存在している。早く払え!」
第三警備隊以外の男達の憧れ、ルートさんを使った俺の攻撃も、マニュアルという壁に阻まれ、完璧に捉える事は出来なかった。
だが、突破口はまだある筈だ。
俺は、嫌でも目に付く金色の大盾に的を絞る。
「先輩、その盾、凄く高価に見えるんですが、どうされたのですか? もしかして、パクったとか?」
「馬鹿言え、ちゃんとボーナスを注ぎ込み、三年ローンで買ったんだよ!」
どういう事だ。
たかが、大盾でローン何て、聞いた事が無い。
そこまでする程に、高価な物だと言うのか。
「ローン? ……ちなみに、その盾、いくらだったんですか?」
俺は、先輩の言葉に煽る事も忘れ、純粋に質問をしていた。
すると先輩は、得意げな顔で眉毛をピクリと上げて語り出す。
「特別に教えてやろう。……五百万だ!」
「「「五百万っ!?」」」
俺達は、盾に年収以上の財産をつぎ込んだ男に恐れをなす。
こいつ、本物の化け物だ。
「カーマ、一流になりたければ、一流の物を身に付けろって言うだろ?」
「は、はぁ……何か聞いた事がある気がします」
「俺はな、自分に見合う物をビックリクラフトの女神、カエヤ様に選んで貰ったんだ!! これは、伝説の金属、パチハルコンを使った国宝級の大盾だ!!」
「「「プっ!!」」」
パチハルコン。
十中八九偽物と思われるその名を聞いて、俺達は吹き出してしまったが、国宝と信じてやまない先輩に、真実を告げるのは酷だろう。
俺は、段々と可哀そうになって来た先輩に同情し、口を閉じた。
だが、俺達にはまだ、セルドが居る。
「……先輩、貴方はこのままでいいんですか?」
「ああ、お前らが通行料を払えばそれでいいが」
「そうじゃなくて! 俺達の誰も貴方の名前を知らない。この状況を恥ずかしいと思わないんですか?」
「……何が言いたい?」
おや、難攻不落の先輩が、セルドの問いに僅かな揺らぎを見せる。
これは、突破口が見つかったかもしれない。
「何って簡単です。取引ですよ。あなたがこの場を見逃してくれれば、俺達は、貴方の名前を憶えてあげると言ってるんです。悪い話じゃないと思いますが、どうでしょう?」
「…………分かった。お前がそこまで言うのなら」
名前の分からない先輩は、思いつめた表情で、数秒、空を見つめると、机の上に置いてあった魔道具に手を掛ける。
この人、もしや、助けを呼ぶ気か?
「ちょっと待――」
ピーン……ポーン。
止めに入ろうとしたが、遅かった様だ。
音が二回、異常発生の合図か。
「セルド、交渉決裂だ。俺はお前らなんかに、名前を呼ばれなくても平気だ! 何故なら、ルートさんは、いつだって、俺を名前で呼んでくれるからな!」
周りの通行客が振り返る程大きな声で、先輩が俺達に言い放ったと同時に、正門の内扉が勢い良く開かれた。
「何があったの?」
慌ただしく飛び出して来たのは、名無しの先輩の憧れである、ルートさんだった。
「ルートさん、助けて下さい! さっきから何度言っても、通行料を払わない輩がいるんです!」
「分かった。私が対応するわ、案内して頂戴っ!」
「はいっ、こちらです!」
ルートさんは、先輩に案内されるまま、小走りで俺達の前に現れた。
「ルートさん、こいつ等です!」
「ご苦労様。……はぁ……で、何であんた達が揉めてるのよ?」
駆け付けたルートさんは、俺達の姿を見るや、呆れたように溜め息を付いた。
「ルートさんじゃん! お疲れー!」
「お疲れじゃないわよ。……アーチ、貴方昨日、あんなに落ち込んでたのに、何やってるのよ?」
「いやー、セルドに誘われて外に出たら、シンプルにお金が無くってさー」
「セルドは?」
「俺も、カーマの付き添いで外に出たら金が無くって……」
「カーマ、お前か?」
「違います! ゲホゲホが外を走りたいって言うから!」
「きゅうううーん?」
突然、名前を呼ばれたゲホゲホは、馬車に繋がっている為、俺に飛び掛かっては来ないが、こちらを向いて、首を傾げていた。
「ゲホゲホはそんな事言わん!!」
ルートさんは、真偽を確認するよりも先に、俺に飛び蹴りを放つ。
「何で俺なんで――ぐはぁっ!!」
「取り敢えず、今回の分は、来月の給料から引いとくから、それで良いわね?」
「「「そんなぁー?」」」
「本来は、警務隊に引き渡すんだけど、来週のシフトに穴開けられても困るからね。そもそも、自分達の職場何だし、トラブル起こさないでよ!」
「すいませんでした!」
「宜しい。それじゃあ、大人しく帰りなさい」
「ねえねえ、ルートさん。今日も夜、飲み行こうね!」
「はいはい。それなら、メリサも誘っといて!」
「はいよー!」
ルートさんの仲裁もあって、警務隊に引き渡されずに済んだ俺達は、馬車に戻る事した。
俺達が、帰り出した事もあり、後ろでは、一安心した名無しの先輩が、ルートさんと話している声が聞こえて来ていた。




