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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第一章 あるバイト門番の燻り
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あるバイト門番の交渉術

「やっと降りて来たか。それじゃあ、三人で、三千ロームだ。早く払え」


「おいおい、第二警備隊のバイト門番よ。あたしらが、お前如きの言う事に耳を貸すと思っているのか? 早く、話の通じる上の人間を呼んで来い!」


「ごねても無駄だぞ。対応はマニュアル通りにすると決まっている。それに、俺は第一警備隊の正規隊員だ!!」


 アーチの先制攻撃は、予測されていたのか、簡単にいなされてしまう。

 ならば、次は俺が精神に攻撃を加える。


「先輩、マニュアル通りに生きてる男って、くそダサいって、この前ルートさんが言ってましたよ。器って言うか、男としての対応力って大事ですよね?」


「ルートさんは、決して、そんな事は言わん。そもそも、お前らみたいな連中と揉めない為に、マニュアルは存在している。早く払え!」


 第三警備隊以外の男達の憧れ、ルートさんを使った俺の攻撃も、マニュアルという壁に阻まれ、完璧に捉える事は出来なかった。


 だが、突破口はまだある筈だ。

 俺は、嫌でも目に付く金色の大盾に的を絞る。


「先輩、その盾、凄く高価に見えるんですが、どうされたのですか? もしかして、パクったとか?」


「馬鹿言え、ちゃんとボーナスを注ぎ込み、三年ローンで買ったんだよ!」


 どういう事だ。

 たかが、大盾でローン何て、聞いた事が無い。

 そこまでする程に、高価な物だと言うのか。


「ローン? ……ちなみに、その盾、いくらだったんですか?」


 俺は、先輩の言葉に煽る事も忘れ、純粋に質問をしていた。

 すると先輩は、得意げな顔で眉毛をピクリと上げて語り出す。


「特別に教えてやろう。……五百万だ!」


「「「五百万っ!?」」」


 俺達は、盾に年収以上の財産をつぎ込んだ男に恐れをなす。

 こいつ、本物の化け物だ。


「カーマ、一流になりたければ、一流の物を身に付けろって言うだろ?」


「は、はぁ……何か聞いた事がある気がします」


「俺はな、自分に見合う物をビックリクラフトの女神、カエヤ様に選んで貰ったんだ!! これは、伝説の金属、パチハルコンを使った国宝級の大盾だ!!」


「「「プっ!!」」」


 パチハルコン。

 十中八九偽物と思われるその名を聞いて、俺達は吹き出してしまったが、国宝と信じてやまない先輩に、真実を告げるのは酷だろう。


 俺は、段々と可哀そうになって来た先輩に同情し、口を閉じた。

 だが、俺達にはまだ、セルドが居る。


「……先輩、貴方はこのままでいいんですか?」


「ああ、お前らが通行料を払えばそれでいいが」


「そうじゃなくて! 俺達の誰も貴方の名前を知らない。この状況を恥ずかしいと思わないんですか?」


「……何が言いたい?」


 おや、難攻不落の先輩が、セルドの問いに僅かな揺らぎを見せる。

 これは、突破口が見つかったかもしれない。


「何って簡単です。取引ですよ。あなたがこの場を見逃してくれれば、俺達は、貴方の名前を憶えてあげると言ってるんです。悪い話じゃないと思いますが、どうでしょう?」


「…………分かった。お前がそこまで言うのなら」


 名前の分からない先輩は、思いつめた表情で、数秒、空を見つめると、机の上に置いてあった魔道具に手を掛ける。

 この人、もしや、助けを呼ぶ気か?


「ちょっと待――」


 ピーン……ポーン。


 止めに入ろうとしたが、遅かった様だ。

 音が二回、異常発生の合図か。


「セルド、交渉決裂だ。俺はお前らなんかに、名前を呼ばれなくても平気だ! 何故なら、ルートさんは、いつだって、俺を名前で呼んでくれるからな!」


 周りの通行客が振り返る程大きな声で、先輩が俺達に言い放ったと同時に、正門の内扉が勢い良く開かれた。


「何があったの?」


 慌ただしく飛び出して来たのは、名無しの先輩の憧れである、ルートさんだった。


「ルートさん、助けて下さい! さっきから何度言っても、通行料を払わない輩がいるんです!」


「分かった。私が対応するわ、案内して頂戴っ!」


「はいっ、こちらです!」


 ルートさんは、先輩に案内されるまま、小走りで俺達の前に現れた。


「ルートさん、こいつ等です!」


「ご苦労様。……はぁ……で、何であんた達が揉めてるのよ?」


 駆け付けたルートさんは、俺達の姿を見るや、呆れたように溜め息を付いた。


「ルートさんじゃん! お疲れー!」


「お疲れじゃないわよ。……アーチ、貴方昨日、あんなに落ち込んでたのに、何やってるのよ?」


「いやー、セルドに誘われて外に出たら、シンプルにお金が無くってさー」


「セルドは?」


「俺も、カーマの付き添いで外に出たら金が無くって……」


「カーマ、お前か?」


「違います! ゲホゲホが外を走りたいって言うから!」


「きゅうううーん?」


 突然、名前を呼ばれたゲホゲホは、馬車に繋がっている為、俺に飛び掛かっては来ないが、こちらを向いて、首を傾げていた。


「ゲホゲホはそんな事言わん!!」


 ルートさんは、真偽を確認するよりも先に、俺に飛び蹴りを放つ。


「何で俺なんで――ぐはぁっ!!」


「取り敢えず、今回の分は、来月の給料から引いとくから、それで良いわね?」


「「「そんなぁー?」」」


「本来は、警務隊に引き渡すんだけど、来週のシフトに穴開けられても困るからね。そもそも、自分達の職場何だし、トラブル起こさないでよ!」


「すいませんでした!」


「宜しい。それじゃあ、大人しく帰りなさい」


「ねえねえ、ルートさん。今日も夜、飲み行こうね!」


「はいはい。それなら、メリサも誘っといて!」


「はいよー!」


 ルートさんの仲裁もあって、警務隊に引き渡されずに済んだ俺達は、馬車に戻る事した。


 俺達が、帰り出した事もあり、後ろでは、一安心した名無しの先輩が、ルートさんと話している声が聞こえて来ていた。

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