あるバイト門番の共犯
正門前には、第一警備隊の先輩方が三名で、昼の通行ラッシュ時の受付を担当していた。
だが、街から外に出る俺とゲホゲホの姿を見るなり、その中で、一際派手な金色に輝く大盾を背負った先輩が、嫌な顔で聞こえる様に小言を呟いた。
「第三警備隊は、いーよな。特別扱いして貰えて」
「先輩方、お疲れ様です」
「そう思うなら、仕事増やさねー様にしてくれよな」
「ちょっと外を歩くだけなんで、通行を許可して貰って良いですか?」
「ああ、忙しい時間を外してくれれば、勝手に通って良いぞ」
「すいません」
最近、嫌でも実感するようになったのが、警備隊における他の隊との孤立感だった。
どうやら、第三警備隊は他の隊の方々から、凄く嫌われている様だ。
勿論、フェイさんやアーチといった、力も態度も強い人には、こういう態度を見せる事はない。
したがって、いつも難癖を付けられるのは、大概、俺かセルドの役割だ。
今だって、後ろの席にアーチが乗ってるって分かっていれば、あんな事は言わなかっただろう。
正直な所、毎日の勤務では他の隊と接する時間は、交代時に行う引継ぎの時間位しか、関りは無い。
だが、俺達の起こしたとされているトラブルの皺寄せが、他の隊の負担に繋がっているのに、声と態度が大きい事が、主な不満の原因らしい。
思い返せば、この間もオルトロスを擦り付けたばかりなので、俺には頭を下げる事しか出来ない。
「何よあいつら! 後輩に当たって情けない! あたしやフェイの前では、面と向かって何も言えない癖に」
「そりゃ、あんたらに言うと、酷い目に合うって分かってるからだろ」
「そうだぜ、姉御。聞いたところによると、こないだ、姉御が裏門にぶつけた岩のせいで、あの人達、業務中に壁の修繕してたらしいぞ」
「へー。そんな事があったとは。あいつらも災難だねー」
「こいつ、自分がやった事を忘れてやがる」
嫌みな先輩の前を通って、正門を抜けると、いつも仕事中に眺めている広大な平原が俺達を出迎えた。
村から出て来たときは、外壁に圧倒されて何とも思わなかったが、馬車の上から見る景色は、今になって分かる良さがある。
きっと、行商で大陸中を渡り歩く人達も、意外と楽しんで、街道を走っているのかも知れない。
「さあ、ゲホゲホ! おもっきり走って良いぞ!!」
「きゅうううー!!」
ゲホゲホは、俺の合図で、街の外周を時計周りに走り出す。
始めは、慣れない馬車を気にして、探り探り走っていたが、裏門付近に到達する頃には、遠慮を捨て、自分の好きな様に走り出していた。
「「「うおおおおおーーー!!」」」
遠慮を無くしたゲホゲホは、俺達の想像を超える速さで駆け回る。
馬車が速度を上げるにつれて、向かい風が次第に強風となって、馬車の中の俺達を吹き付ける。
「ひゃっほー!!」
アーチも髪を全て後ろに流しながら、身を乗り出して、爽快感を楽しんでいた。
「めっちゃ早いけど、そんな事より、すっげぇ、風が気持ちーな!!」
「ああ、俺も馬車欲しくなって来たぞ!」
「ホント、気分転換にピッタリだわ!」
「ゲホゲホ! お前も楽しんでるか?」
「きゅうううー!!」
ゲホゲホも、気兼ねなく走れている様で、何よりだ。
それにしても、ゲホゲホの奴、馬車を引いた事があるどころか、引き慣れてるって感じだな。
いきなり、馬車を引きながらこんなに速度を出せる馬も、中々いないだろうに。
これからは、気分転換の為にも、こうやって、定期的に外を走らせてやらないとな。
その後、三周程外周を走り回ったゲホゲホが、満足して足を緩めたので、街の中に帰る事にした。
帰りは、行商の列に並んで、自分達の番を待つ。
「こうして、並ぶ側に来るのも、変な感じだよな」
「だなー。でも、通行客側でも、早くして欲しい気持ちは変わらんな」
「多分、あいつらがあたし達より、客を捌く速度が遅いんでしょ?」
「そんな人で変わるもんか?」
「誰がやっても、変わんねーよ。ほら、カーマ。そろそろだぞ」
ようやく、俺達の番が回ってくると、先程の先輩が受付に入ってくれたが、今回は打って変わって、楽しそうな表情を浮かべていた。
(何か、良い事でもあったのかな?)
「それでは、お次の方、お名前と年齢、ご来訪の理由をお聞かせ下さい」
「いやいや、先輩、俺です。カーマですって」
「カーマさんですか。それで、年齢と来訪理由は?」
先輩は、笑顔のままだが、何かがおかしい。
「だから、俺は十八ですって、さっきそこで喋りましたよね?」
何故、俺を認識せずに通行客として扱うんだよ。
あんなに嫌みを言って来ておいて、俺の顔を忘れたとは言わせないぞ。
「それで、来訪理由は?」
「馬を走らせて満足したので、街に入りたいんですが……」
「そうですか。それでは、通行料千ロームになります!」
「はあ?」
「はあ? って言われましても、こちらも商売な物でして……それでは、通行料千ロームになります。……早くしろよ。マニュアル通りの対応って事は、お前も分かってんだろ?」
「ちょっと待って下さいよ! 少し外に出て戻るだけで通行料取るんですか? 俺達同僚ですよね?」
確かにマニュアル通りであれば、正門の通行にはお金が掛かるが、同じ職場の仲間が少し外に出た位、融通を利かせて欲しい所だ。
この先輩、もしかして、始めから通行料を徴収するつもりだったのか。
だが、こうなれば、あいつ等の出番だ。
「すいませんでした。そういえば、通行料って馬車に乗ってる人間にも発生しますよね?」
「そうだが、中に誰か乗っているのか?」
「ええ、アーチとセルドが乗ってまして……」
「そうか、では、三人で総額、通行料三千ロームになります」
「分かりました。よし、隠れてないで、出てこいお前ら」
俺は、お金の話になった途端、影を潜めていた乗組員を巻き込んで、マニュアル人間と化した、先輩門番を言い包める方に、方向転換する。
「カーマ、何で、あたしらの名前を出したんだよ?」
「そうだぞ! お前が大人しく払えば問題ないだろ?」
「お前らが隠れて、他人事みたいな顔してるからだろ。それに、アーチが居れば、あの人も変な態度は取ってこないだろし」
「じゃあ、俺は巻き込むなよ!」
「うるせぇ。お前も馬車で楽しんだろ? じゃあ、共犯だ」
「俺は、お前に付き添ってやっただけなのに……」
「ちなみに聞いておくが、お前ら今、何ローム持ってる?」
「安心しろ。俺は、無一文だ!」
「あたしも、セルドが金が掛からないって言ったから、勿論、持って来てないよ。カーマは?」
「俺は、三百ロームだ。……よし、強行突破だな」
「だな!」
「暴力なら、あたしに任せなさい!」
目的のはっきりした俺は、馬車を他の通行客の邪魔にならない様に外壁に沿って停めると、二人を連れて、馬車を降りた。




