あるバイト門番の振る舞い①
ゲホゲホを寮に戻ったゲータさんに預けた俺は、貰ったばかりの給料を握り締めながら店内に進むと、そこには知った顔が受付に並んでいた。
「お前もここにいたのか」
「……う、うん。こ、こういうのは早い方が良いって、ルー姉が言ってたから……か、カーマ君もここに借金あったの?」
「ああ、入隊初日にヤニー亭でちょっとな」
奇しくも同じ店で借金をする羽目になった俺達は、並んで、借金の支払いを行う。
「カーマ・インディーです。借金の返済に来ました」
「お越し頂き有難う御座います。借入金額を確認して参ります」
受付のおじさんは、一度裏に戻ると、俺が以前に記入した契約書を持って再度姿を見せた。
「それでは、カーマ様の返済金は、六千ロームになります」
「六千? 俺そんなに借りて無いって!」
何かが可笑しい。
あの時借りた金額は、確かに千ロームだった筈だ。
俺はおじさんから提示された金額に驚き、契約書を確認すると、そこには元の金額の隣に、利子プラス五千ロームと記載されていた。
(やられた。……そりゃあ、タダで金貸してくれる所なんて、ある訳ないよな……)
「すいません。六千ローム返済します」
革袋から千ローム硬貨を六枚取り出し、おじさんに手渡す。
「丁度、お預かり致します。またのご利用お待ちしております」
隣では、万単位の返済を済ましていたメリサが、引き攣った顔で店内に立ち尽くしていた。
「メリサ……何というかお疲れ」
「お疲れ様。……本当に何もしてないのに、疲れたね」
借金から解放された俺達は、アルアルファイナンスを後にした。
「そういや、メリサは給料の使い道は決めたか?」
「うーん……せ、せっかくの初任給だから、記念になりそうな物でも買いたかったけど、返済で余裕無いから、お酒に消えちゃいそう」
「はははっ、俺も全然余裕無いから気持ち分かるわー。でもさ、それって、メリサらしい使い道だと思うぞ」
「それ、褒めてるの?」
「褒めてるって」
俺達が初任給の使い道について話し合っていると、【親知らず通り】の一角にある古びた建物から、見知った顔が姿を現した。
その男は建物の前で、子供達に囲まれながら、湯気が立ち上る大きな鍋に次々と食材を投入していた。
「ね、ねぇ、あれって!」
「ああ、あいつが子供と一緒にいる。中には女の子もいるぞ」
「と、止めた方がいいんだよね?」
「当たり前だ! 急ぐぞ!」
幸い、その男は、こちらに気づいてはいない。
やるなら、後ろから一撃で決める。
俺は、目の前で、仲間が罪を犯す現場は見たくない。
今ならまだ引き返せる。
「俺があいつの動きを止める、メリサは、子供達を頼む!」
「任せて!」
メリサと共に、いつでも、飛び掛かれる体勢を作って、悟られない様に距離をジリジリと近づいていく。
すると、鍋を囲んでいた、一人の少年が振り返り、俺達の事を指差した。
「ねえ、あの人達だーれ? お兄ちゃんの知り合い?」
「どうしたサム? まだ鍋は出来てないぞ」
「でも、あの人達、こっちに近づいて来るよ?」
「院長の友達かな? 兄ちゃんが話聞いて来るから、プルは鍋を見ててくれるか?」
「うん!」
異変に気付いた男は、鍋の番を隣の少女に任せると、こちらに顔を向けた。
(気づかれたか……だが、流石のお前も不意打ちには対応出来まい)
「トーマス覚悟!!!」
駆け出した勢いそのままに、無防備なトーマスを羽交い絞めにする。
「参ったかトーマス! これで観念したら子供達から離れるんだ!」
「み、みんな、危険だからこの男から離れて!」
「……何だ、お前らかよ……で、何の真似だよ?」
羽交い絞めにされたトーマスは、俺達の顔を確認すると、抵抗する事無く、目的を尋ねた。
どうやら、こいつはまだ、自分の罪を知らないらしい。
「お前が過ちを犯さない為に止めた」
「それだけ?」
「ああ、それだけだ」
「メリサは?」
「わ、私もトーマスを止めただけだけど……」
「そうか。……はぁーあー……」
トーマスは、理由を聞いた所で、一度大きな溜息を吐いて、全力で抵抗を始める。
「とにかく離せ、今は調理中だ!」
「駄目だ! お前が子供と一緒にいるのは危険すぎる。寮まで連行させて貰うぞ」
俺がトーマスの連行に手間取っていると、騒ぎを聞きつけたのか、建物の中から妙齢の女性が姿を現した。
「何をしているのですか!! トーマスさんを離しなさい!!」
「えっ!? ……何で?」
「えっ、じゃないですよ! トーマスさんは、ご厚意で、いつも私たちの孤児院で炊き出しをしてくれる、心優しい方なんですよ!!」
「ですが、彼は――」
「院長の言う通りだ! 兄ちゃんを離せ!!」
「「「そうだそうだ!!」」」
「ど、どうする、カーマ君?」
気付けば院長と呼ばれた女性と子供達に、俺とメリサは追い詰められていた。
(どうする? ……まずは場を落ち着かせなければ……)
「カーマ、一旦俺を離せ。後は何とかしてやるから」
「信じていいのか?」
「信じろ。お前らの考えは大体分かったからな」
俺がトーマスから手を離すと、心配していた子供達が、トーマスに駆け寄って抱き着く。
必死に駆け寄って来た子供達は、皆がその顔に安堵の表情を浮かべていた。
子供達に遅れて、院長と呼ばれた女性が、トーマスの元に駆け寄る。
「トーマスさん、大丈夫ですか?」
「ええ、おかげ様で……」
「もう安心して下さい。この人達は、私がすぐにでも、警務隊に連行しますので」
「院長さん、落ち着いて下さい。この二人は俺の同僚です」
「そうなんですか? とても仲が良い様には見えなかった物で……」
「喧嘩するほど何とやらって奴ですよ。大方、こいつ等もこの炊き出しの匂いで、腹を空かせていたのだと思います」
「では、連行はしない方が……」
「そうですね。無しでお願いします」
「分かりました」
俺とメリサに対する院長さんからの視線は未だに厳しいが、トーマスが機転を利かせてくれたお陰で、この場を収める事が出来た様だ。
「この二人は兄ちゃんの友達なんだ。皆も仲良くしてくれよ」
「そうなの?」
「うん、ちょっとお馬鹿さんな所があるけど許してあげてね」
「分かった! お馬鹿さんならしょうがないよね!」
「それじゃあ、皆揃った所で鍋を囲もうか! 後は煮込むだけなので、みんなはお皿の用意をお願いします」
「「「はーい!」」」
トーマスの言う事には絶対なのか、子供達は競争する様に、準備に取り掛かった。
子供の純粋が故の発言に、少々思う所があったが、これは俺達の勘違いから始まった事だから飲み込むとしよう。
「働かざる者食うべからずだ。カーマ、メリサ、お前らも子供達を手伝って来いよ」
「あいよ」
「わ、分かった」
俺達は、孤児院の中にお邪魔して、子供達の手伝いをしながら、鍋の前に長机を運ぶ。




