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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第一章 あるバイト門番の燻り
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あるバイト門番の信頼

 ◇ カーマ視点 ◇


 半壊した店内で、メリサを取り囲むガラの悪そうな男達と、カウンターから不自然に伸びた二本の足。

 誰かは分からないが、ピクリとも動かないその足を見るに、どうやら、死人も出てしまった様だ。


(やっぱりこうなったか……でも、妙だな。トーマスの姿が見えない。さっき聞こえていたのは、確かにトーマスの叫び声だと思ったんだが……まあいいや)


 今は、目の前の争いがどうなるか、離れた場所で見守るとしよう。

 俺達が小部屋から現れた事を知るや、裏に隠れていた店員のおじさんが、カッタルさんの姿を見て、こちらに走り出し頭を下げた。


「すいません、姉さん。止めれなくて……」


「いいのよ、犯人共に全部肩代わりさせるから。取り敢えず、貴方は、大雑把で良いから被害額の算出をしてくれる?」


「はっ」


 店員さんは、額に汗を浮かべながら、カウンターの裏に戻って行った。


「あん? 何だお前ら、今良い所なんだよ。邪魔すんじゃねーぞ」


「あら、お邪魔だったかしら? ちなみに、ここ、私のお店なんだけど」


 男達は、メリサの方に意識を向けていたが、声の主を見て戦慄する。

 その立ち姿と特徴的な頭を覆うターバン。


 【親知らず通り】に生息していれば、誰もが恐れるコロシアムの女神が目の前に君臨していたからである。


「兄貴ヤバいっす。逃げましょう! あいつカッタルですよ! しかも、後ろにはゴーレム女もいますよ!」


「くそっ! お前ら、ここから逃げるぞ!」


 焦った男達は、カウンターから離れて逃亡を図るが、その先にはカッタルさんとゴーレム女が待ち受けていた。


「【具現出力――土壁ロックウォール】」


 男達の動きを先回りしたアーチが、一早く酒場の出入口に岩石で蓋をする。


「逃げれる訳無いでしょ。あんたら、うちのメリサに何してくれてんのよ!」


「アーチ、落ち着いて。こいつ等の相手は私がするから」


「ならあたしは、出口を固めとくわ」


「うん。お願ね」


「チッ、逃げ道が塞がれたか……お前ら、やるしかねえ! ビビんなよ、数はこちらが上だ!」


 カッタルさんが、店の真ん中で男達と向き合った所で、傍観に徹していた俺とセルドは、コソコソとカウンターまで気配を消して移動し、渦中の一人と思われるメリサに事情を聞いて見る事にした。


「メリサ、無事だったか?」


「うん。おかげ様で助かったよ!」


 そう言って、満面の笑みで微笑んだメリサの瞳は、赤く染まっていた。


「あれ? 意外と普通じゃねーか。酒も入ってたし、俺はもっと暴れ回っているかと……」


「セルドさん、大丈夫ですよ。私、ほろ酔いなんで!」


 ほろ酔いを自称するメリサは、男達に囲まれていたにも関わらず上機嫌だった。


 怪しい。

 歓迎会の時に、フェイさんにも食って掛かったあの酔っ払いが、何もしていない訳がない。

 そうだ、まずはあいつを探そう。


「メリサ、トーマスの奴知らねえか? さっきまで一緒だったろ」


「…………」


 メリサは無言のまま、カウンターから飛び出している二本の足を指差した。


「「……えっ、これ?」」


「ごめん、カーマ君。トーマスを助けられなくて……フフッ」


 言葉とは裏腹に、何故か上機嫌なメリサは、半笑いでトーマスの容態を語り出した。


「これは、紛れもなくトーマス・ドウの足です。彼は自分の使命を全うして、殉職しました。本当に惜しい男を無くしてしまいました」


「本当にこれがトーマスなのか?……」


「私としても、助けたかったのですが、力及ばず残念です……フフッ」


「おい、メリサ。お前、さっきから笑ってないよな?」


「そんな訳……ププッ、ないよ」


 同期の死を笑うとは、何て不謹慎な奴だ。

 だが、これではっきりした。


 トーマスはメリサに消されたと見て、間違い無い。

 そもそもの話だが、メリサならトーマスをいつでも回復出来るのだから。


「カーマ手伝え、トーマスをカウンターから引っこ抜くぞ!」


「ああ、せーの!」


 俺達は、片足ずつを力一杯引っ張って、トーマスをカウンターの中から引きずり出す。


「おい、トーマス生きてっか!」


 セルドが何度もトーマスに平手打ちを見舞うが、反応は無い。

 気を失っている様だが、脈はある。


 まだ、間に合う筈だ。


「メリサ、いい加減そろそろ回復しろ。本当に死んじまうぞ!」


「わ、分かった。すぐ回復するって。【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――祝福の光(ヒールライト)】」


 眩い光がトーマスの体を包み込む。

 視界の奥に見える男達が、あっという間にカッタルさんに蹴散らされている中で、カウンターに寝かされてたトーマスが目を開く。


「……知らない天井だ」


「そうか? お前、さっきまでここに居た筈だろ?」


「あれ? カーマ、セルドも、どうしてここに?」


「無事、買い物が終わったからな。それより、目覚めはどうだ?」


「最悪だな。特に、メリサが視界に入る辺りがな」


 そう言って体を起こしたトーマスは、メリサと睨み合った後に、店の中央で潰れている男達に目を向けた。


「終わった、のか……」


「ああ。後は、カッタルさんに任せて、俺らは帰ろうぜ、トーマス」


「そうだな、二度と荷物番はごめんだぞ」


 俺達は、鎮圧された男達の上に座るカッタルさんに挨拶を済ませ、寮への帰路に付く事にした。


 多分彼らは、酒場の修理代やら、営業妨害だとかで、法外の請求を受けるのだろう。

 店内を壊し、トーマスを半殺しにした、あの男達の末路など知った事ではないが、そのきっかけに、もしもメリサが関わっているとすれば、少し後ろめたい気もする。


 店を出ると、辺りはすっかり日が落ちていた。

 俺は、回復したとはいえ、ついさっきまで意識を失っていたトーマスに肩を貸して、寮までの道を進む。


 まだまだ暴れたりていないアーチやほろ酔いのメリサは、勝手に他の店に突っ込んで行ったので、帰りは、必然的に男三人になっていた。


 すると、俺達より少し前を歩いていたセルドが振り返り、トーマスに疑問をぶつける。


「なあ、トーマス。何でお前やり返さなかった? あんなのお前の負ける相手じゃなかったろ?」


「……まぁーな。でもさ、やり返したらやり返したらで、俺も酒場の修繕費を払う羽目になったんじゃないのか?」


「そうかもしれないけど、セルドの言う通りだ。あれは、やられすぎだ。当たり所が悪かったら死んでたかもしれないんだぞ!」


「何言ってんだよ。俺は死ぬつもりはなかったぞ! なんせ、隣にはメリサがいたんだ。あんなに性格悪くて、猫被ってる奴でも、そこだけは信頼出来るからな!」


「トーマス、お前はメリサの事を買い被り過ぎだ」


「いやいや、お前が俺達の絆を甘く見ているだけだろ」


 トーマスは意外にもメリサを信頼しているみたいだし、本人には、回復させる事を最後まで渋ってた事は、伝えない方が良さそうだ。


「そういえば二人とも、今回の件で分かったんだがな……この前、師匠に聞いた、女と二人きりの時に、敢えて強く当たったり、無茶ぶりすると落とせるって話。あれ嘘だぞ!」


「どんな話だよ!!」


「まじかよっ!? じゃあ、また新しいやり方を師匠に教えて貰わねえとなー」


「ってゆうか、お前らの女関係の師匠って誰なんだよ!!」


「そんな事はどうでも良いだろ。それよりも、早く帰って馬に名前を付けるんだろ?」


「そうだった!急ごう」


 目的を思い出した俺達は、何て事の無い会話を繰り広げながら、帰りを待っている馬の元に向かった。

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