あるバイト門番との出会い②
裏門に戻ると、二人は馬を連れて、安全の為か外壁の上に場所を移して、俺の帰りを待っていた。
二人の傍には、セルドが用意してくれたであろう、水が並々と入った桶の中に顔を突っ込んで、喉を潤している馬の姿と転がった寝袋があった。
「弁当持って来てやったぞ!」
俺は、馬の前に弁当を並べると、匂いで食べ物と判断したのか、水を飲むのを辞めて、弁当にがっつき始めた。
馬は雑食だと聞いた事があるが、人間の弁当でも難なく、口にする様だ。
「警備長には、俺が許可を取っておいてやるから、仕事が終わったら、こいつを風呂に入れてやれ」
「ありがとうございますっ!」
「勘違いするなよ。こいつが汚いまま寮を歩き回られたら適わんからな」
今日は何故か優しいフェイさんは、そう言って事務所に帰って行った。
「なあ、セルド。フェイさんってあんなに良い人だったか?」
「知るかよ。どーせ、休みの闘技場関係で、何か良い事でもあったんだろ」
「凄いな、闘技場の影響力って……」
「まあ、あと半日で連休だ。ちゃちゃっと終わらせて帰ろうぜ」
「だな!」
こうして、馬の世話を続けながら最終日を終えた俺達は、朝日の眩しさに背を向けて、トボトボと寮への道を進む。
「カーマ、警備長には許可取れたからな」
「ありがとうございます。責任持って面倒見ます!」
「ほう、噂のこいつが、俺の弁当を代わりに食いやがった奴か……」
トーマスは馬の首にもたれ掛かる様に肩を回す。
「あれお前のだったの? フェイさんから余りって言われたぞ」
「そんな訳ねえだろ! 俺はフェイさんに、お前の飯ねえからって言われたぞ!」
「たまにはそんな日もあるだろ、気にすんなよ」
「気にするよ! おかげで、【アルトベンリー】まで買い出しに行ったんだぞ!」
「何? 【アルトベンリー】って?」
「知らねえの? 二十四時間営業してて、弁当から日用品まで取りそろえた流行りの便利ショップだぞ」
「そんな良い店あったの? 早く紹介しろよ」
「じゃあ、今度、その馬も連れて行くか?」
「そうだな! こいつの飯も買わなきゃだしな……」
俺達は、眠たい体に鞭を打って何とか寮に辿り着く。
「よっしゃー、連休だー! まずは皆で風呂行こうぜ!」
「レッツ、バスロマン!!」
寮に辿り着くや否や、服を脱ぎ捨てて、走り出したセルドとトーマスを尻目に、俺も馬を連れて浴室に向かう。
「お前、水とか平気か?」
馬は、俺の顔を覗き込んで、頷いて見せた。
「綺麗にしてやっからなー」
「僕も馬を洗うの、手伝うよ」
ゲータさんは、嬉しそうに手にブラシを持って現れた。
俺は、良心の塊の様なゲータさんと共に、馬の両側からお湯と石鹸の泡を使って、丁寧に汚れと匂いを落としていく。
最初は、お湯にビビっていた馬も、石鹸の泡に囲まれ、ブラシで撫でられる頃には、安心した表情に変わっていた。
洗えば洗うほど、見違える様に綺麗になる様は、俺達からしても洗い涯のある馬である。
尻尾まで洗い終わった所で、浴槽に肩まで浸かっていたトーマスが、驚いた様に声を上げる。
「なあ、その馬、白くなってないか?」
「えっ? まだ泡が残ってるんじゃねーか?」
トーマスに言われた俺は、もう一度馬をお湯で流しながら全身を確認する。
「……本当だ。お前、白馬だったのかよ」
馬は何の事か分からずにブルブルと体を震わして、水気を払っていた。
「カーマ! こいつを拾ったんだったよな! てことは、もしかすると、もしかするかもしれないぞ!」
トーマスは、見違えるような真っ白な体毛に覆われた馬を見て、鼻息を荒げていた。
「いきなりどうしたよ? いくらお前でも、頼むから、馬には欲情すんなよ」
「しねぇよ! そうじゃなくて、俺の仮説が正しければこの白馬、伝説のペガサスか、ユニコーンだと思うぞ!」
「なーに言ってんだよ、お前、寝ぼけてんのか。カーマが拾ったんだから、馬に勝手に名前つけんなよ。それにそんな伝説、俺は聞いた事ねえぞ」
「僕も、聞いた事無いね。やっぱり、この子の名前は、カーマが付けるべきだと思うよ」
「そうっすね。早いとこ、名前付けちゃいます」
「俺の故郷に伝わる伝説は本当だ! このパターンは間違いないのにっ!」
トーマスは浴槽の中で、その後も伝説について訴えかけてきたが、皆が聞く耳を持つことは無かった。
風呂から上がって自分の部屋に戻った俺は、今になって一つ、大きな問題を抱えている事に気が付いた。
小さな部屋に一人の人間と馬が一頭。
圧倒的にスペースが足りないのだ。
俺は、助けを求める様に隣の部屋の扉を開ける。
「なあ、セルド。人と馬って同じ部屋で寝れるんか?」
「お前が拾って来たんだろ? なら、お前がベッドで一緒に寝るしかないだろう」
「やっぱそうなる?」
「そりゃあ、そうだろ。馬だって、地べたじゃ可哀そうだろ」
「そうだよな……ちなみに俺とお前が一緒のベッドで――」
「無理!」
セルドは、そう言い放ち、勢いよく扉を閉めた。
(まあ、大きめの抱き枕だと思えばいいか)
「分かったよ。……よし、馬よ。こっちにこい。」
部屋の出入り口で居心地の悪そうな顔を浮かべていた馬に手招きをする。
「今日からここがお前の部屋だ。俺もいてちょっと狭いけど勘弁してな」
恐る恐る近づいて来た馬をベッドの上に誘導して横になる。
「今日は疲れたろ? 慣れないだろうけど、我慢してくれ。お休み!」
俺達は、ベッドからはみ出しながらも、落ちない様に抱きしめ合って眠りに着いた。
今回の話で初めての夜勤は終わり、次話からは、カーマが連れて帰って来た白馬との物語も始まります。
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