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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第一章 あるバイト門番の燻り
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あるバイト門番の実戦教育

「ふぁーあ……」


 またこんな時間になってしまった。

 出勤前の仮眠を終えた俺は、欠伸の止まらぬ口に朝食代わりのパンをねじ込む。


 流石に夜勤も四日目となると、疲れが溜まって来たな。

 でも、今日さえ乗り切れば、また連休だ。


 何とか頑張って、その後はたらふく寝てやろう。

 俺は決意を新たに、今日の勤務に臨む。


 事務所に向かい、朝礼を済ませた後、いつも通り配置に着く。

 今日は夜勤では初めて、裏門を担当する事となった。


 基本的に夜勤は、昼勤の時とは打って変わって、裏門の方が忙しい。

 警備長からの計らいで、まだ実戦経験の少ない俺は、正門に配置して貰っていたのだが、今日からは皆と同じで、交互に正門と裏門の配置を交代していく様だ。


 俺は、この職場に来て、二週間程だが、ようやく分かった事がある。

 それは、一緒に警備する仲間の面子だ。


 基本的に正門と裏門で半数に分かれる訳だが、日によっては、配置に偏りがある。

 昨日はゲータさんとメリサと俺の三人で正門の警備に入ったのだが、初めて罵倒や悪戯の無い、中々に充実した一日を過ごす事が出来た。


 そして、バイト門番だけで構成された裏門で、一日を過ごした仕事終わりのセルドは、とても疲れ切った表情で背中を押さえてながら、帰宅していた。


 どうやら、誰が逆立ちしながら、一番多く魔物を狩れるかを、夜通し競っていたそうだ。


 この話を聞いた時に俺は確信した。


 ここで、安全に一日を過ごす為には、正社員と同じ配置になる事が全てだと。

 俺は一心に祈り、裏門に向かう。


(どうか、バイト門番に出くわしませんように……)


 外壁の上に向かうと、寝袋を担いだ女と、昨日から背中の筋肉痛に悩まされている大男が俺を待っていた。


「最悪だ……」


 二人の顔を見ただけで今日の勤務内容が想像出来る。


「あん? あたしと配置一緒で嬉しいっしょ?」


「んな訳ねえだろ! お前とだけは一緒になりたくなかったわ!」


「何だと? カーマの癖に生意気だな」


「酷い後輩だな。姉御はこう見ても相当強いんだからな」


「だとしても、途中で寝る奴は要らねえよ! この間もオルトロスが出た時、使い物にならなかったぞ!」


「それもそうだなー、やっぱ姉御は外れ枠だったかー」


「うるさい、外れ枠共。今日はあたしが裏門のボスだ。いいか私の言う事は絶対だ! いいな?」


「「へいへい」」


 俺達は、ボスの指示通り周囲の監視を始めた。


 夜の裏門は、何処か不気味な雰囲気を醸し出していた。

 門の外には魔物達が多く住み着いている森が広がっているのだが、正門と比べ明りが少ない為、視界がとても狭く感じるのだ。


 この感じだと、正門の時以上に、魔物の発見から対処までに、迅速な対応が求められるだろう。

 そんな緊張感と共に俺を襲うのは、姿が見えなくても、近くに感じる明らかな魔物の気配だ。


 何か、さっきから何かに見られている気がするんだよな。

 気のせいならいいんだが。


「お前達、魔物だよ! カーマ下で! セルドは上から援護!」


「了解!」


「任せろ!」


 珍しくちゃんと監視をしていたアーチから素早い指示が飛ぶ。


 俺は急ぎ足で剣を抜いて、下に降りる。


 内階段を下った時には、裏門の間近にコボルトの群れが近づいていた。


 (俺の目の前に三体、奥には四体か……)


 油断は出来ない、全力で行こう。


「セルドー、奥は頼める?」


「おうっ! お前も朝っぱらからへますんなよ!」


「ああ、【憑依(ひょうい)】!」


 右手の刀身と左手の拳に炎を纏って、コボルトに向かって駆け出す。


 コボルトの脅威は体格に差はあれど、ゴブリン同様に武器は刃の掛けた短剣だ。


 俺は、右手の剣で飛び掛かってくる相手の短剣を受け止め、その隙に左手の拳で致命傷を叩きこむ。


 視線の奥では、水飛沫が飛び散る中で、最後の一体にも同じ様に拳を振り上げる。


 以前なら苦戦を強いられたであろうコバルト達も、仲間と連携して、一体ずつ冷静に対処していけば、俺の実力でも通用する。

 これは、昨日ゲータさんが実践しながら教えてくれた事だった。


「よくやったカーマ! 特に、先輩に容赦なく命令した所が良かったよー! まだ近くに何かの気配があるからさー、取り敢えず下で待機ねー」


「了解!」


 コボルトを撃退した後も、ずっと何かに見られている気がするのは変わらない。

 遠くで様子を見ているのならば、願わくば、オルトロスの様な規格外のモンスターは出てこないで貰いたい。

 もしくは、俺の休憩中に来て頂きたい限りだ。


「カーマ! もういっちょ来るぞ! 次は大物だ、俺もそっちに行くぞ」


 次は、セルドが発見した様だ。


「オッケー、次も任せろ」


 俺は、いつ敵が現れえても戦える様に剣を抜いて、警戒を強める。


「セルドー、今度はあたしが行くわ!」


「いいの? 珍しいな」


「たまには後輩に良い所見せないと舐められっからさー」


「そういうとこだぞ、姉御」


「まー、行ってくるわー。……よっと」


 アーチが階段を使わずに、外壁の上から一瞬で飛び降りる。


「お前が来ると嫌な予感がするんだが……」


「そんな事言って、本当は可愛いあたしが来て嬉しいくせに」


「外壁から飛び降りる奴は可愛くねぇよ! で、本当の所は何しに来やがった?」


「あんたにあれの相手は厳しいかなって思ってねー」


 アーチが言った通り、俺達の目の前にのそのそと現れた魔物は、俺が倒した事のあるサイズを大きく上回っていた。


「お、オーガ、なのか?……」


 伝承に伝わる、巨人と言っても差し支えない大きな図体、下顎から上に生えた二本の鋭い牙が特徴的なオーガは、動きこそ俊敏ではないものの、手に持った巨大な棍棒を力任せに振り回す、中級に位置する危険な魔物の一体である。


 当然ながら、俺が今まで倒して来た魔物達よりも危険度は高い。


「あんたみたいに、小物と戦ってるだけじゃ、いつまで経っても小物のままな訳よ。ここらであんたにも、大型の魔物の倒し方って奴を教えておこうと思った訳」


「それでお前の出番って事か?」


「そゆこと! コツを教えてあげっから見てなさい!」


 一々、小物だの腹立たしい限りだが、間違ってはいないので訂正はしないでおこう。

 確かに昨日は、ゲータさんに色々教わった結果、小さい魔物であればそれなりに捌ける様になったが、大物はまだまだ勉強不足だ。


「其の一、相手よりも大きくなる!」


「はあ!? んな事できっかよ!?」


「【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――土人形ゴーレム】」


 アーチはそう呟くと、アーチとオーガの間で地面が裂け、その間から巨大な岩の塊が飛び出した。


 体長五メートルはあるオーガの倍くらいの大きさとなった岩の塊は、姿形を目まぐるしく入れ替えながら、全身を岩石の装甲に囲まれた人型の人形に生まれ変わる。


「ゴーレム、潰して」


 アーチがゴーレムに指示を出すと、一瞬でオーガとの間合いを詰めたゴーレムが、真上から脳天に拳を叩きこむ。


 振動が地面を伝って俺まで震わせたその一撃は、いとも簡単に、オーガの巨体を再起不能な程に押し潰していた。


「ゴーレム、かえっていいよ」


 仕事を終えたゴーレムは、アーチの指示通りにその場で土に還っていった。


「どう? 参考なった?」


 アーチは、偉そうに両手を腰に添えて、控えめな胸をこれでもかと張っていた。


「なんねぇよ!! あんなのが出来たら困ってねえよ!」


「そうかぁー……じゃあ次は普通に倒してみるわー」


「なら最初っからそうしてくれ。お前だってよ、俺がそんな事出来ないって知ってるだろ?」


「知ってる。でもねー、あたしの事舐めてる奴にはさ、こうやって、分からしてやんないと尊敬してくれないっしょ?」


「お前のそういう所が舐められる原因だと思うぞ。さっさと正攻法を寝る前に教えてくれ」


「はいはい、カーマもそういう所だぞ、可愛げが無いの」


「うるせぇ」


 俺は、近づいてくる足音を察知して、剣を抜く。


「二人共っ! 今度はオーガ二匹、もう一回来るぞ!」


「はいよー」


「それじゃあレッスン再開しようか。――其の二、懐に入ってズドン!」


 アーチが一早く飛び出すと、丸腰のまま前方のオーガ二体に向かっていった。


 アーチは、自分よりも明らかにデカい相手に囲まれるこの状況をどう打開するのだろう。


「【魔源憑依(まげんひょうい)】っ!」


 全身を土属性の魔力に覆われたアーチが、オーガの棍棒を躱して懐に入りこむ。


 そこからはまさに圧巻の出来事だった。


 そのまま俺に宣言した通り、オーガの特徴的な顎にズドンと音が聞こえる程の強烈なアッパーカットを喰らわせていた。

 溜まらず吹き飛ばされたオーガを尻目に、もう一体にも頭部に強烈な飛び蹴りを浴びせる。


「まー、こんなもんよねー」


 強烈な打撃を喰らったオーガ達は盛大に吹っ飛び、林の中にある、大きな木に激突し、そのまま立ち上がる事は無かった。


「す、すげえ!! お前、本当に強かったんだな!」


 俺は、初めてこの女が活躍している所を目の当たりにした気がする。

 恐らく警備長も、素行の悪さ以上に、腕が立つからこそ、こいつを雇ってるんだろう。


 今なら、こいつがあれだけ寝てても解雇されてない理由が分かる気がした。


「でしょー! あたしは最強だかんね! 見直した?」


「ああ! 初めて、すごいと思った!」


「一々、ムカつく野郎だな。取り敢えずさー、あんたはこれが出来る様になりなよ」


「そんな事いきなり言われてもなー……。なあアーチ、その全身を憑依するのってどうやってやるんだ?」


「あー、【魔源憑依(まげんひょうい)】の事? それなら【憑依】で全身を覆うだけよ」


「さっきのあれ、【魔源憑依(まげんひょうい)】っていうのか?」


「あんたそんな事も知らないって何? ちゃんと義務教育行った?」


「行ってるよ! 田舎の皆勤賞なめてんじゃねーぞ!」


「はいはい、悪かったよ。……でもさー、あんた騎士になりたいなら、これくらい出来ないと話にならんと思うよ」


「そんなに重要なのかよ!?」


「だって、あんた魔法のセンスはからっきしだからねー。【憑依】を駆使して、肉弾戦を極めるしかないっしょ」


「……確かにそんな気はする」


「まー気長にやりなよ。上に居るセルドだって、まだ習得出来て無いんだし」


 アーチから【魔源憑依(まげんひょうい)】という、【憑依】の応用技のコツを聞き出して見たが、これは一日やそこらですぐに習得出来る物でも無いとの事だ。


 気長に【憑依】の練度を上げていき、全身を覆えるくらいに自在に魔力を操れる必要があるそうだ。

 今の俺は、一時的に両手と刀身に纏うのが精一杯なので、まだまだ修行が足りないだろう。


「本当はその三もあるけど、あんたにはまだ早いと思うから止めとくわ。という事で、あたしは戻るから後宜しくー」


「了解、そん時はまた頼むぜ、ボス!」


 珍しく大事な事を教えてくれたアーチは、欠伸をしながらトボトボと階段を上って行った。


 これで周囲から粗方、魔物の気配が消えた筈なのだが、まだ何かの視線を感じる。


(ん?……あの辺だと思うんだが……あそこは確か……)


 何かの視線を感じる方角には、先程、アーチから飛び蹴りを喰らったオーガが突っ込んだ林がある。


 さっきのオーガなら動いてない筈だが、息を吹き返したのか。


 俺は、朝から感じる視線の正体を確かめる為に、危険は承知で林の中に向かう事にした。

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