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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第一章 あるバイト門番の燻り
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ある新入り警備隊員の決断

◇メリサ視点


今日は私にとって、初めての夜勤だ。


昨日、同期のカーマ君が女子寮を放火したせいで、散々な休みとなったけれど、幸い、第二警備隊の女子寮の空き部屋を、ルー姉と相部屋で使わせて貰える事になり、荷物の少なかった私への影響は最小限で済ます事が出来た。


しかし、同部屋のルー姉は、煙草のストックを失った事もあり、ご機嫌斜めだった様で、何度も誰かを殺してやると、一人で呟いていたが、社会人にはストレスが付き物だと聞いた事があるので、放っておく事にした。


暫くして、近くの小屋に住んでいるアーチさんが迎えに来てくれたので、準備を整えて、職場に向かう。


「どう? 新しいお家は?」


「ま、まだ慣れませんけど、ルー姉も一緒なので、大丈夫です」


「あんまりルートさんが煙たかったらさー、いつでも、あたしん家来て良いからねー」


「は、はい。ありがとうございます。それにしてもアーチさんすごい荷物ですね」


「今日は夜勤だから色々必要なのよ」


「そ、そうなんですね」


「それじゃあ、夜勤にレッツゴー!」


アーチさんは、私の事をいつも気にかけてくれる優しい先輩だ。


それに今日は、昼勤の時とは違い、出勤前から機嫌がいい様で、緊張しがちな私も楽な気持ちで事務所への歩みを進める。


正直、その背中には何を背負っているんだ、と聞いて見たい気持ちもあったが、それはもう少し仲良くなってから、改めて聞いて見ようと思う。


今日の私の持場は裏門だそうだ。

朝礼後、裏門の外壁上に行ってみると、そこには私の苦手な人が、塀にもたれ掛かりながら、先の見えない暗闇を見つめていた。


私は、急に重く感じる足取りでその人の元に向かう。


何故、あの人が苦手なのかは、考えるまでも無い。

理由は簡単だ。

私は只々、あの隊長が怖いのだ。


「フェ、フェイさん。お、お疲れ様です」


「……ああ、お前か。今日は頼むな」


「は、はい」


フェイさんは私を見つけると、何かに怯えた様に後退りしながら答えた。

何故か、歓迎会以来、私はフェイさんを始めとする男性陣に距離を取られている気がする。


暫く二人で周囲を警戒していると、ようやく、裏門を担当する最後の一人が、下にある裏門の内側から外壁上までを繋ぐ、内階段から上がって来た。


「フェイ! 取り敢えず、下は異常無しだよ!」


「了解。なら一先ず、外壁の上で待機だ。どんな小さい事でも、異常があれば、すぐに報告するように」


「はい!」


「メリサは裏門の真上で、僕と一緒に周囲の監視ね。今日は初日だから慣れるだけでいいからね」


「わ、わかりました。ゲータさん、お願いします」


「うん、宜しくねー! にしても、今日は風が強いよね。マントとか持って来た?」


「いえ、まだマントは支給されてなくて……」


「そうなの? それなら持って来てあげるよ! 夜勤は、急に冷える事も多いから持ってて損は無いと思うよ!」


「お、お願いします」


私は、異常なくらい優しい目の前の先輩に、警備隊指定のマントを取って来て貰い、早速、鎧に括り付ける。


心なしか、外壁の上で感じる風の勢いが和らいだ様に感じる。


「ありがとうございます。本当にゲータさんは優しいですね」


「そんな事ないって、僕は先輩として当然の事をしたまでだよ」


「そうですか?」


「そうだよ。ここには普通の事が出来ない人が多いから、そう見えるだけだと思うよ」


ゲータさんは誰に対しても優しく謙虚な人間だった。

私も、この人みたいに人を思いやれる門番になろうと、そう静かに心に誓ったのだった。


そうして、ゲータさんと他愛の無い会話をしながら警備を続けていると、急に横から強烈な突風に見舞われる。


「本当に今日は風が強いですね」


「……そう……だね。これは嵐でも来そうな勢いだね」


「フェイさんに報告した方がいいですか?」


「大丈夫だよ。ただ風が強いだけだし、ちょっと我慢すれば、時期に止むと思うよ」


フェイさんは、何でも報告するように言っていたが、流石に天気の急変までは知らせる必要は無さそうだ。


マントで体の前側まで覆い、横風に耐え忍んでいると、今度は横風に乗った雨が勢い良く辺り一面を濡らしている。


「ゲータさん、ついに雨も降ってきましたよ! これは本当に嵐が来るかも知れないです。フェイさんに伝えますか?」


「そうだね、一度フェイに報告して、下に降りようか。夜通し濡れて風邪でも引いたら大変だからね」


「はい!」


門の前には、僅かながら雨宿り出来る屋根があるし、最低限の警備は問題無い筈だ。

外壁の上では、見晴らしが良く、周囲の警備に向いている反面、雨風を遮る物は何も無い為、天気を影響を諸に受けてしまうのが難点だと言えるだろう。


今は周囲の監視より、この悪天候から身を隠す方が賢明だ。

私達は、離れた所で警戒を続けるフェイさんの所まで駆け出し、この伝えなくても分かる現状を報告に行く。


「フェイさん! 嵐が来たので一度、下まで降りていいですか?」


「そうだな。一旦、下で様子を見るとするか。どうせ通り雨だろう。止んだらまた、外壁に上がるぞ」


「はいっ」


私たちは、内階段を使い、裏門前に移動を始めようとしたその時。


「お前らよけろーー!!! 【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――氷壁アイスウォール】!!」


突如、フェイさんが空を見上げながら叫び声を上げると、降って来たのは、隣のゲータさんより、一回り大きい程の大岩だった。


私たちは、フェイさんが咄嗟に作り出した氷の防壁の中に、何とか避難していた。


辺りに鈍い衝突音が何度も響き渡る中、空中に展開された氷の壁は、何度も大岩の直撃を耐えてくれている。

幸いにも、大岩は街の中に落ちる事無く、全て外壁と裏門に集中している様だ。


「ゲータ、メリサ、作戦変更だ。下に降りずに様子を見る」


「だね! 風、雨、岩、これでリーチだよね?」


「ああ、次にあれが来たら確定だ。こちらも迎撃準備に入るぞ。確実に一人ずつ消してやれ!」


「ちょっ……ちょっと待って下さい。何を始めるつもりですか?」


私は二人の話に付いて行く事が出来なかった。

何なら、岩が降って来た辺りから、ずっとそうだ。


「何ってお前、そんなの仕事に決まってるだろ」


「は、はぁ、仕事ですか……」


やっぱり私には、隊長の言ってる事が分からなかった。


「メリサ、お前には正門に()が見える?」


「正門ですか? 今は暗くて何も見えません」


「そうか? もっと良く見てみろ。俺には向こうに、給料泥棒の粗大ごみがゴロゴロ転がってる様に見えるぞ」


「えっ? 粗大……ごみですか?」


「僕達、正社員にはね、通常の業務以外にも別の仕事があるんだよ」


「警備以外の仕事ですか?」


「うん、それは、勤務態度の悪いアルバイトへの指導だ」


その時、私は二人の言っている事を、そして、私の身の周りで起こった事をようやく理解した。


「つまり、次に空から炎が降って来る様な事があれば、その時は制裁を加えるという事ですか?」


「そう言う事だ。理解が早くて助かる。勿論、周囲の警戒は怠るなよ」


「はいっ!」


ようやく、正規隊員としての自覚を取り戻した私は、氷の壁の隙間から正門の方角にある空を見上げる。


カーマ君の事だ。

来るとすれば、何も考えずに炎の矢を打ち込んでくるに違いない。

警戒を緩めずに監視を続けると、私の予想通りの物が降って来た。


「来ました! 炎の矢が降ってきます!」


「ビンゴだ! まずは向こうに警告をする。それでも止めなかったら実力行使だ。【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――粉雪パウダースノー】!!」


「フェイ、それでアーチ達が止めると思う?」


「止めんだろうな。だが、警備長への報告書には、事前の警告が必要だ。それに、向こうは、そろそろ充電切れする奴が出て来る頃だろう」


案の上、フェイさんの警告に諸共しない正門のアルバイト達は、その後もこちらに向かって業務の妨害を続けた。


「よーし、お前ら開戦だ。俺はここに残って警備を続けながら、岩女の相手をする。ゲータ、取り敢えず雨が鬱陶しい。殺しても良いから、あのモジャモジャを退場させろ。メリサは下から外周を周り、同期のどっちかを沈めて来い!」


「任して!」


「わ、分かりました。トーマスから殺します!」


「これが片付けば、夜食の弁当が待っている。気合を入れて行け!!」


「はいっ!」


こうして私たちは、人工的な悪天候から解放される為に、勤務態度の悪いバイト達と刃を交える事となったのだった。

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