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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第一章 あるバイト門番の燻り
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あるバイト門番の結束

(ふぁーあ……やっと出勤時間かー)


 俺は、すっかり日の暮れた自室で、寝床から起き上がり仕事に行く準備を始める。


 今日は、初めての夜勤だ。

 今週からいよいよ、午後八時から翌朝八時までの過酷な勤務が幕を開ける。


 俺も、この生活リズムに慣れている先輩達にならって、夕方まで何度も目が覚めながらも仮眠を繰り返し、出勤の時間を迎える。


「うしっ! そろそろ行こうぜ!」


「おう!」


 隣の部屋の大男は、こんな時間に仕事をする事に、すっかり慣れてしまったのか、元気に部屋を飛び出した。

 俺も続いて、出勤前の先輩達と合流して、職場へと向かった。


 俺達の暮らす寮の隣には、昨日、二階部分が全焼した、忌まわしき女子寮が仕事の早い職人達によって、建て替えられている最中であった。


 俺が貰う筈だった給料で立派な寮が建つと思うと腹立たしいが、あの職人さん達には罪は無い、ここは唾を吐くくらいで勘弁しておいてやろう。


「ぺッ」


「何、してんだよ?」


「ちょっとした、社会への反抗だ」


「可哀そうに……遅めの反抗期か……」


 現場を目撃したセルドは、不思議そうに俺を見つめるが、何かを察してくれたのか、特別に(とが)める事はしなかった。


 時間に余裕を持って事務所に到着し、本日の配置を確認した所で、八時を知らせる鐘の音が鳴り響く。

 辺りは真っ暗だと言うのに、テンションの高い朝礼を行い、昼勤の先輩方から業務を引き継ぎ、正門に向かう。


 夜間は、昼間に行った通行客との対応は滅多に無く、人間の代わりに活発に動き出す魔物達の相手をする事が多いそうだ。


 なので、昼勤では開けっ放しの二重の門も、街への出入口となる内側を閉ざして、基本的に魔物が現れるまでは、外壁の上で周囲を監視する事が、主な業務になる。


 他の隊員達からすれば、魔物の相手は面倒だと思うだろうが、騎士を目指している未熟な俺からしたら、自分を高める良い機会だ。


 警備長との特訓の成果も、実戦で確認しておきたいので、勤務中は常に最前線で警備に当たろうと心に誓って、ベルトを念入りに締め上げる。


「今日は、この四人で朝まで正門か……」


 俺は、正門に集まった他の三人を見渡して、すぐに共通点を見つけてしまう。


「バイトしかいねーじゃねーか!!」


「いいじゃねーか! 第三警備隊が誇るアルバイト四人衆で朝までのりきろーぜ!」


「そうそう、なんならあたしは、バイトだけの方が気楽でいいけどね」


「俺も、フェイさんと二人とかは御免だな」


 俺以外のバイト門番達は、寧ろ、正社員が居ない方が嬉しい様に見える。


「まあ、気楽にいこーよ、特にあんた達二人は初の夜勤だから、楽しい方が良いと思うよー」


「そんなもんか?」


「そんなもんよ。取り敢えず、皆の衆、魔物が来るまでが外壁の上で待機ねー」


 何とも軽い形で正門を任された俺達の警備は始まった。

 とはいえ、魔物が来なければ特にやる事も無い訳で、当然の様に無駄口を叩く者もあらわれる。


「セルドー、今月余裕ある?」


「ある訳ないだろ。借金の返済に充てたらほとんど残らねぇよ」


「トーマスは?」


「俺もフェイさんにコロシアムで使われたからなー……」


「そっかー……みんなもギリギリならしょうがないなー。ならー……」


「俺にも聞けよ!!」


 こちらに見向きもしない女の話を強引に遮る。


「……いやー、カーマ君はねえー。色々大変そうだからねー……プププッ」


「そうだよ! お前とお前と、あいつとあいつのせいでお先真っ暗だぞ! 俺は、実家に仕送りしないと行けないのに、どうしてくれるんだよ!」


「あんたねー、どうするも何も、足りない分稼ぐには働くしかないでしょ!」


「今、働いてるよ! それでも足りないんだよ!」


「だから、働くんだよ! ここ以外でな」


「何!?」


 ここ以外ってどういう事だ?

 もしかしてセルドの奴、早々にここを辞める気なのだろうか。


「つまり、副業ってことか?」


「流石はトーマス。俺の言いたい事が分かるみたいだな。いいかカーマ。俺達アルバイトには、副業が禁止されていない。それを利用しない手は無いだろう」


 確かにセルドの言い分は、間違ってはいない。

 禁止されていないのだから。


 だが、問題は何をするかだと思う。

 隙間時間に別のバイトを入れても、状況はそう簡単には好転しないと思えるからだ。


「お前の言い分は分かるが、何をする気だ? 合間に別のバイトを入れるのは体力的にも厳しいと思うぞ」


「お前には前に言わなかったか? 俺には夢があるって」


「ああ、それなら前にも聞いたぞ。確か、自分の店を開きたいんだろ?」


「その通りだ。だからさ、俺の夢を手伝ってくれないか? バイトの俺達だけで一から商売を始めてみるんだ!」


「ちょっと待て、そんなのいくら何でも急すぎるだろ! 大体、何をするんだよ?」


「そんなの始めてから考えればいいだろ! 何とかなるさ!!」


 後先をまるで考えずに走り出そうとするセルドは、不安を顔に隠せない俺とは対照的な顔をしていた。


「そんな簡単な話じゃないだろ! そう言う奴が失敗するんじゃないのか?」


「いいぜ、俺も手伝ってやろう」


「しょうがない……あたしもやるよ」


 二人は、俺の忠告を無視して、セルドと硬い握手を交わしている。


「トーマス、姉御、カーマ、みんなありがとう」


(あれ? 俺、賛同したっけ?)


 きっぱり、反対した筈だったのだが……。


「なら今度の休み、見学に行っちゃう? カッタルの店は参考になると思うよ!」


「そうしよう! そこで店作りの勉強をさせて貰おう」


「あのー、セルドさんよ。勝手に盛り上がってる所悪いが、俺は行かないぞ。それにお前、ナンパして断られた後に、どういう顔で会いに行くつもりだよ?」


「そんなの堂々としてれば、あっちも忘れてるだろ? それに、俺が教育担当を務めるお前には、最初っから拒否権なんて物は無いぞ」


「そうだぞカーマ。これはお前にとっても決して悪い話じゃない。上手く行けば、四人で裏門にいる正規隊員の連中よりも、良い暮らしが出来るかも知れないんだぞ」


 トーマスは、セルドのやろうとしている商売の成功を、心から信じている様で、一人でも仲間を増やそうと勧誘を始めた。


 だが俺には、勧誘よりも別の部分が引っ掛かって聞こえた。


「ちょっと待て、正規隊員ってそんなに良い暮らしをしてんのか?」


「そりゃあ、一応、国が出資してるからねー。特に、フェイとかルートさんなら毎日外食しても困らない位には、貰ってると思うよ」


「なん……だと? それはメリサもか?」


「メリサはどうだろ? 新人だからそこまでじゃないけど、あたし達よりは確実に上よ」


「嘘だろ? そんな事が許されるのか?」


「だから分かっただろ? 俺達バイトは自分の力で稼ぐしかないんだ!」


「ああ、すまなかった。俺もお前達の副業仲間に入れてくれないか?」


「いいだろう。どの道、お前は頭数に入ってたけどな」


 不安が消えた訳では無いが、一先ず、安定した生活を求めてセルドの話に乗る事となった俺の背後に、不気味な足取りでトーマスが近づいて来る。


「お前には裏門に()が見える?」


「えっ……敵か? 俺からは何も見えないぞ」


「それじゃあ、質問を変えよう。敵は、()だと思う?」


「敵? そんなの魔物だろ? それか夜勤だから眠気とかか?」


「違う。正規隊員だぁ!!」


「はぁ!?」


 突然、大声を出したトーマスに後退りをしていると、トーマスの腕に魔力が集まっているのが確認出来る。


「お、お前、何するつもりだ?」


「なぁに、ちょっとばかし、裏門だけ風が強くても分からんだろう。【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――突風エアストーム】!」


「そうだな! それにちょっと裏門だけ、雨が降ってても通り雨って思うだろ。【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――豪雨《土砂降りレイン》】!」


 二人の魔法は、丁度、裏門に居ると思われる正規隊員に向けて放たれる。


 こちらからは、裏門の様子は確認出来ないが、急な強風と大雨に見舞われている事だろう。


 可哀そうに……今頃裏門では、本当に通り雨だと思って、必死に耐えているに違いない。


「お前ら何してんだよ! 仕事中だぞ!」


「二人共、仕事中だからやってんのよ! わかる?」


 アーチは、二人同様に魔力を集約させながら裏門の方を向く。


 こいつだけは何をするか分からない。何としても止めなければ。


「おい、止めろ馬鹿! お前の属性は悪戯じゃすまないぞ!」


「ちょっとばかし、空から岩が降って来ても、気のせいって思うでしょ。【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――岩石の墜落(ロックフォール)】!」


「待て待て! 岩は絶対アウトだろ!」


「あいつらは、あたし達と同じ仕事で倍ぐらいの給料を貰ってやがるの。多少、職場環境が悪くても文句は言えない筈よ!!」


 悪戯の延長だった前の二人に比べ、アーチは本気だった。


 裏門の周辺に、こっちにも聞こえる様な轟音が何度も鳴り響く。

 たぶん、風と雨に続いて、岩が大量に降り注いでいるのだろう。


「止めろ! 馬鹿共っ! これ以上はバレるぞ!」


「こんな真夜中だぞ? こっちから見えない物は、向こうからも見えないって」


「カーマ、夜間の勤務態度なんて誰も見てないぞ。それに、あいつらはな、年に二回も賞与が貰えるんだぞ」


「賞与って何だ?」


「ボーナスよ! つまり、半年に一度、あいつらは給料とは別で纏まった金を貰ってんのよ!!」


「よし、やってやろう。ちょっとばかし、空から炎の矢が降って来ても分かんないだろ。【具現出力(ぐげんしゅつりょく)――炎の矢(フレイムアロー)】!」


 俺は気付いた時には、ありったけの魔力を炎の矢に変え、裏門に打ち込み続けていた。


 暫く無心で裏門に恨みをぶつけていると、ようやく、正門付近に魔物達が姿を現した。


「カーマ、トーマス、二人で下に降りて殲滅してきなさい! あたし達は、裏門への攻撃を継続しながら援護するわ!」


「「了解っ!」」


 俺とトーマスは、急ぎ足で壁の上から門の側面に繋がる内階段を下り、正門の前で武器を構え、魔物達を迎え撃つ。


(あれ? 急に雪降って来たな。今、春の筈だよな……。まあーいっか、今は目の前に集中しなくては)

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