あるバイト門番の断罪
すっかり、暗くなった町を歩きながら、俺は、フェイさんに気になる事を聞いて見た。
「フェイさんは、いつ、闘技場に嵌ったんですか? 何かきっかけってあったんですか?」
「確かに、あの嵌り具合、俺も気になってた所だ」
「……うーん、きっかけって言う程でもないが、昔、俺が色々と悩んでた時にな、警備長が闘技場に連れて来てくれた事があったんだ。一緒に金を賭ける訳でもなく、只、試合を見て応援していただけだったが、その試合を見てる間は、それだけに熱中出来て、辛い事だったり悲しい事も全部忘れられたんだよ。その後、何度も見に行く内に、気付けば賭博の沼に嵌ってたって訳だ」
「そういう些細な事がきっかけで、人はギャンブル狂になってしまうのか……。しかし、あの警備長にそんな優しい一面があったとはな」
確かに、トーマスの言う通り、警備長の優しい一面は想像出来そうに無い。
だが、ゲータさんが寮で話していた事が事実であるならば、フェイさんが警備長に借りがあるって話も、貴重なストレス解消の場を教えたって事で、納得出来る気がする。
「でも、意外でした。フェイさんにも悩み事とかあるんですね」
「そりゃあ、俺も人間だからな。まあ、半分くらいはあいつのせいだけどな」
フェイさんが指差す先には、何処かで買ってきたパンを頬張りながら、嬉しそうに路地を歩くアーチの姿があった。
「あ、アーチ! お前っ! さっきはよくもやってくれたな!」
俺は、メタルリザードの尻尾の件を思い出し、問い詰める。
「あっ! カーマとトーマスじゃん! ついでにフェイも良いとこにいた!」
「それはこっちの台詞だコソ泥女。さっさと俺達の尻尾を返してくれ」
「お金でしょ? あたしも渡そうと思ってあんた達探してたのよ。はい、これあんたの分」
そういうと、アーチは俺に五万ロームを差し出した。
「どうしたんだお前!? 頭でも打ったのか?」
「失礼な奴ね!あたしは、あの店に怪しい噂があるから確かめに行きたかっただけなのよ。はい、これトーマスの分ね」
「……ふん、まあ受け取ってやるが、感謝はしないぞ」
「一々、めんどくさいなお前」
何だかんだトーマスも嬉しそうに、俺と同額の分け前を貰っていた。
「で、実際行ってみて、ビックリクラフトはどうだった?」
「うーん。まだ、はっきりとは断言出来ないけど、かなり怪しいね」
「そうか、だったら早いとこ証拠掴んでこい」
「はいはい、分かったって」
フェイさんとアーチが小声でよく分からない事を喋ってるが、別にほかっておこう。
取り敢えず俺は、アーチの気まぐれに感謝しつつ、この貴重な臨時収入を使って速やかに借金を返済する事にしよう。
その為には、この二人とは、あまり関わらない方が身のためだ。
「でもさー、よかったじゃんカーマ!」
「何がだよ!」
「えーだってー、あんたさ、あたしのおかげで借金返せそうじゃない?」
「確かに感謝はしてるが、借金する羽目になったのはお前のせいだろ?」
「えー、そうだったっけ?」
「何だお前、新人の癖に早々に借金なんてしてたのか」
すると、フェイさんが、俺の借金事情に首を突っ込んで来た。
「そそー、でもこれで完済出来そうだし、助かったじゃん! フェイにバレなくて!」
「……バ、バカ! アーチお前!」
「あ、やべー。ミスった!」
「……ん? 何が俺にバレなくて良かったって?」
「い、いやー……特に何でもありません。あははははは、アーチの言い間違いでは?」
「……カーマ。お前、もしかしてだとは思うが、今日の郵便で俺宛に届いていた、アルアルファイナンスからの手紙と関係あったりしねえよな?」
ま、まずい、このままでは完全にバレてしまう。
何とか逃げ道を見つけなくては。
「いえ、そのー……」
「まあいい。どの道、寮に戻ればはっきりする事だ」
フェイさんが、結論を後回しにしようとしたその時だった。
何故か、トーマスが、フェイさんの前で、右足だけ立ち膝を立てて座り込む。
「フェイ様、進言致します!」
「どうしたトーマス、かしこまって?」
「容疑者、カーマ・インディーは、既にフェイさんの部屋に無断で侵入し、証拠となる、その手紙を燃やしています」
(トーマス! 裏切ったな、貴様ー!)
「なんだと!? お前、正直に言ってみろ! 今なら氷浸けは勘弁してやる」
「すみません! 私がやりました! ちょっとした出来心だったんです!!」
「そうかそうか、自首してくれてありがとう。【具現出力――氷山の一角】」
俺の頭上には、いつぞや直撃した時よりも、数倍はでかい、殺意の籠った氷塊が迫りくる。
「ちょっと待って下さい!! この大きさは駄目ですって! 俺、ほんとに死んじゃいますよ!!!」
「そうか、それならまた、新しい求人を募集しないといけないな」
「フェイ様、次は幼い女の子を募集しましょう!」
「そうねー! あたしも女の子の後輩の方が欲しいわ」
「うわあああああああーー!!!! 許してーフェイさーん! トーマス! アーチ! お前らは死んでも絶対ゆるさねぇぞー!!!! ――ぎゃあああああああああああああー!!!」
「よし、ゴミ掃除は終わりだ。帰るぞ」
「フェイ様、お供致します」
「帰ろ帰ろー」
この日、俺は、上司からの信頼と同僚からの友情を失った。
今回にて、ようやく昼勤が終わり、次からは、カーマにとって警備隊と過ごす初めての休日編が幕を開けます。
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