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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第一章 あるバイト門番の燻り
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あるバイト門番の遊戯②

 暫くすると、ステージの明かりが消え、会場が静まり返る。


「レディース、アンド、ジェントルメーン!! お待たせしました。これより本日のメインイベントを開催します! 司会は勿論この私、【マスク・ド・ケイビ】が勤めさせて頂きます!!」


「「「「「うおおおおおおおおおおーーー!!!」」」」」


 暗闇の中、ステージ中央に一筋の光と共に、覆面を被った大男が現れる。


 覆面男の登場に待ってました、と言わんばかりの大歓声が会場を包み込む。


 田舎育ちの俺は、未だにこういった派手な演出は慣れないが、覆面姿の大男については、明らかに知っている人間という事もあり、気楽にステージを楽しむ事が出来そうだ。


「それでは選手の呼び込みを行います! まずはこいつだー!」


 マスク・ド・ケイビの呼び込みと同時に、選手の登場口から火柱が上がる。


 魔石を無駄遣いしやがってと思っていると、火柱の間から、俺達の期待と今後を背負っている男が姿を現す。


「運搬実績は王都一、彗星の如くこのロムガルドに現れた、期待の引っ越し業者!! ガバガバ通運の若頭! ガバガ・バナンスー!!!」


「うおおおおおおおおおおーーー!!」


 アナウンスと共に右手を大きく天に突き上げた男は、隣に並んでいるマスク・ド・ケイビに負けない程の屈強な体格を持った、見るからに強そうな男だった。


 入場時に盛り上がっていたのが、フェイさんだけなのが気掛かりだが、これは、勝ったんじゃないか。


 対戦相手のカッタル選手とやらが、どんな選手か分からないが、正面からあのガタイの男と戦える人はそうはいないだろう。


「続きまして、このガバガ選手と相まみえる、選手を呼び込みたいと思います! 対戦相手はこいつだー!!」


 再度、火柱が上がる中、会場の九割以上を味方に付けたカッタル選手が颯爽とステージに姿を現す。


「コロシアムに現れ、早五年。積み上げた勝利は129、未だに負けを知らない最強の闇商人!! 親知らず通りの生きる伝説! カッタル・イシス!!!」


「「「「「うおおおおおおおおおおーーー!!!」」」」」


 ガバガ選手とは対照的にアナウンスには反応せず、無表情を貫いているが、観客は会場が揺れる程の歓声を上げている。


「カッタル様ー! 今日も一段と美しい! あ、今、絶対俺と目が合った!」


「カッタル様ー! こっち向いてくれー! でもって、結婚してくれー!」


「カッタル様ー! その綺麗な足で蹴っ飛ばしてくださいませー!」


 中には、この試合に関係の無い声援を送っている者もいる様だが、カッタルは、下馬評通り圧倒的な人気ぶりだった。

 そして、何より驚いたのが、カッタルが遠目でも目を引かれる程のスタイルを誇る、美の化身の様な女性だったという事だ。


 頭には真っ白のターバンを深く巻いていて顔までは見えないが、全身を白に金色の模様が入ったローブに包まれる中、その上からでも漏れ出るオーラは、登場だけで会場を飲み込んでいた。


「へぇー、カッタルって女だったんだな」


「そうだ。だが、今まで勝ち続けてきた実力は本物だ」


「そうなんすね。なんか、女でそんな強いって、アーチみたいですね」


「そんな訳無いだろ、アーチにはあんな胸は無かっただろ」


「確かにあの胸元は危険すぎる……」


 アーチと聞いただけで、おっぱいトークを繰り広げる二人を横目に、そういう事を言いたかった訳じゃないんだけどなと思いつつ、言葉を飲み込む。


「そして、この対戦でのオッズを発表します。カッタル、1,1倍。ガバガは34,3倍となります。かなりカッタルに人気が集中していますが、二人から対戦前に一言伺いたいと思います! まずはガバガ選手、どうぞ!」


「えー、確かに人気は負けているかもしれませんが、この状況をひっくり返してこそ、引っ越し業社だと思いますので、頑張ります!」


「いけぇー! ガバガー! 負けんじゃねーぞ!!」


 隣に居るフェイさんが、聞いた事も無い様な大きな声を張り上げる。


「ありがとうございます、ガバガ選手。続いてー……」


「早く始めて下さい」


 カッタルはマスク・ド・ケイビの司会を遮って、試合を始める様に促す。


「分かりました! さあ、いよいよ本日のメインマッチ、カッタル選手対ガバガ選手! 六十分一本勝負! レディー……ファーイト!!!」


 観衆のボルテージも最高潮に高まる中、マスク・ド・ケイビの合図で試合は始まる。


「【憑依(ひょうい)】っ!!」


 試合開始早々に、体格で大いに勝るガバガ選手が猛攻を仕掛ける。

 何度も距離を詰めながら、炎を纏った拳や蹴り技を仕掛けるも、全て当たる寸前で躱されていく。


 その間、カッタルは魔法を使う訳でも無く、淡々とガバガの攻撃を躱し続ける。


「何やってるガバガ! いけー! そこだ! 顔だ! 顔狙ってやれー!」


 フェイさんの応援もヒートアップする中、ついにカッタルが動く。


 ガバガの攻撃が大振りになった隙を狙い、素早く右足で何度もガバガの左足に蹴りを入れていく。


 だが、ガバガは、一瞬顔を(しかめ)めながらも、その蹴りを諸共せずに再度攻めに転ずる。


「効いてない! 流石は引っ越し業者!」


「いーや、あの蹴りはもう貰わない方がいい」


「どうしてだよ、別にガバガはピンピンしてるだろ」


「今の所はな」


 その後もガバガは前に出続けるが、拳は空を切るばかりで、代わりに左足に蹴りを貰い続けている。


 そして、試合開始から十分が過ぎた頃、善戦を続けていたガバガに異変が生じる。

 ガバガの動きが鈍り始め、次第には左足を引き摺り始めたのだ。


「くそっ、流石の引っ越し業者でも疲れが出て来たのか」


「違う、あれはカッタルのカーフを喰らい過ぎたからだ」


「カーフ……って何だ?」


「ありゃあ、カーフキックって言って、相手のふくらはぎを集中的に狙う(いや)らしい技だ」


(いや)らしいってどういう事だ? たかだかふくらはぎだろ!」


「そのふくらはぎが問題なんだ。あそこは、人が簡単に鍛えられる場所じゃないからな。何度も喰らっちまえば、ガバガみたいに動けなくなり、最後には立ってられなくなる」


「そんなっ……それじゃあ、ガバガはもう……」


 そんな異変を観客達も察知する中、ガバガはまだ諦めていなかった。


 引きずる左足に炎を纏い、強引に足を動かし、カッタルを目掛けて一心に突進をする。

 カッタルも、ガバガの足が限界だと思っていたのか、反応が遅れるも、ギリギリの所で上空に飛び上がり難を逃れる。


 ガバガはそのまま、捨て身で放った全力の突進も叶わず、その場に倒れ込んでしまう。


 すると、ステージにダウンした事を確認したマスク・ド・ケイビが、地面を叩きカウントを始める。


「ワ―ン! ツー! スリー! フォー! ファーイブ!」


「ガバガ負けるな! まだ行けるぞ!」


「ガバガ立てー! まだ試合は終わってねえぞ! お前にいくら賭けたと思ってんだクソ野郎!」


「ガバガーここで負けたら引っ越し王になれねぇぞ! お前はそれでいいのかー!」


 そんなガバガの様子の見て、俺達は金を賭けているからか熱くなり、自然と応援を始めていた。


「クソ、このままじゃあ、俺達の生活が……」


「任せろカーマ、この俺が魔法であの女を凍らせてガバガを勝たせてやる」


「それは流石に駄目ですって!」


 神聖な試合をぶち壊そうとするフェイさんを、トーマスと何とか抑えながら試合の行方を見守る事にする。


「セブーン!エーイト!」


 カウントが進む中、ガバガがゆっくりと立ち上がる。


「「「うおおおおおおおおおーー!!!」」」


 だが、立ち上がる事が精一杯の対戦相手を、絶対王者が見逃す事は無かった。


 離れていた位置から走り出したカッタルの、強烈なドロップキックが、無常にもガバガの顔面を襲う。


 バチンと骨がぶつかりあう音と共に、吹き飛ばされたガバガは、ステージ脇の壁に突き刺さり、再度倒れ込む。


 マスク・ド・ケイビによる、カウントが再開される中、このままガバガが立ち上がる事は無かった。


「ナーイン! テーン!!」


 カンカンカーンと試合の終了を知らせる銅鑼が鳴り響く。


「勝者、カッタル・イシス!」


「「「「「うおおおおおおおおおおーーー!!!!」」」」」


 俺達が落胆し静まり替える中、他の観客達は拳を突き上げて騒いでいる。


 そりゃあ、自分が応援した選手が勝って、金も増えれば嬉しいに決まっている。

 だが、負けた人間もいるんだって事を、少しは理解して貰いたいものだ。


「ざまぁみろ! フェーイ! また負けてんじゃねーか! ワッハッハッハ!」


 先程、フェイさんと醜い言い争いを繰り広げえていたおじさんの豪快な笑い声は、他の観客達と呼応し、止まるどころかさらに騒がしさを増している。


「つっまんねぇ、帰るぞお前ら!」


「つまんねぇ、じゃないですよ! 俺達のお金はどうするんですか?」


「その通りだ、帰ったらきっちり返してくれよ」


「そんなもん、来週またここに取り返しに来ればいいだろ?」


「取り返すったって、もう賭けれる金がないんですよ!」


「じゃあ、初任給が入ったら全部突っ込んでやれ! コツなら俺が教えてやるぞ」


「結構です!」


 持ち金をドブに捨てた俺達は、勝者達が騒ぐ居心地の悪い会場を出て、寮への帰路に付く事にした。

 

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