あるバイト門番の潜入
寮に帰宅した俺は、誰にも気づかれない様、素早く玄関前にある郵便ボックスを確認し、フェイさん宛の郵便を探す事にした。
(何処だ? 【アルアルファイナンス】からの通知書は……)
だが、隈なく探すも、郵便ボックスにはお目当ての物は見当たらなかった。
「やはり、もう回収されたか……」
作戦は第二フェーズに移行された様だ。
フェイさんは、仕事終わりに一度、自室に郵便を全て持ち帰る事が多い。
この第二フェーズは、勝手にフェイさんの部屋に忍び込み、まだ内容に目を通していない事に賭けて、証拠品を焼却する強引な作戦だ。
失敗は許されない。
フェイさんは、トーマスの【よちよちタイム】が正しいのであれば、闘技場にいる筈だ。
ここはトーマスを信じ、思い切って踏み込む事にする。
もし、フェイさんがいても、馬鹿の振りでもして誤魔化そう。
ゆっくりと、二階にあるフェイさんの部屋に近づき、音を立てない様に部屋の扉を開ける。
予想通り誰もいない扉の向こうには、仕事に必要な物がきちんと整理して並べられた棚や作業机に加え、しっかり寛げるスペースも備えた、俺の窮屈な部屋とは違った光景が広がっていた。
全ての物が計算された定位置を守っている様な整えられた部屋は、まるで、フェイさんの性格そのものを現している様にも見えた。
(えっと、通知書、通知書っと……これだ!)
入口付近にある作業机に置かれた、【アルアルファイナンス】からの封筒を見つける事が出来た。
整理されている分、見つけ易くて助かった。
幸い、まだ封は開けられていない。
この様子では、フェイさんも内容は把握できていないだろう。
「【具現出力――着火】!」
俺は、魔力を込めた、右手の人差し指で最低限の火を発生させ、通知書を一気に燃やしきる。
これで、何とか任務達成だ。
少しばかり煙たい気もするが、これでバレる事は無いだろう。
さっさとこの部屋を離れようと、扉に手を掛けた時、何故か、逆側から扉が開く。
「わぁっ!?」
「うわっ!!! ビックリしたー! 何だ、カーマかぁ! 居ない筈のフェイの部屋から気配がするから、僕も可笑しいと思ったんだよねー!」
声の主は、先に帰宅していたゲータさんであった。
そして、ゲータさんの背後には、何かを察知したトーマスとセルドが、後ろから様子を伺っている。
慌てるな俺。
相手はあの心優しいゲータさんだ。
後ろの二人は、俺の犯行動機を知ってる筈の協力者だ。
ここは平然を装い、言い訳から入ろう。
幸い、犯行現場を抑えられたわけじゃない。
「いやー、ゲータさんお疲れ様です。」
「カーマもお疲れ」
「ちょっと、フェイさんに用事があったので、居るかなーって思ったんですけど、やっぱり居なかったみたいです」
「あー、フェイは昼勤だと基本、仕事終わりは出かけるからね」
「そうなんですね」
(ふぅー。……この調子なら、何とか切り抜けられそうだ)
ここは早い所、フェイさんの部屋から離れたい所だが、俺の気持ちを微塵も考えない、後ろの野次馬が動き出す。
「ひっさしぶりだなー! この部屋、相変わらず綺麗にしてんなー」
セルドがフェイさんの部屋に躊躇せず足を踏み入れる。
「セルド、お前何する気だ?」
「なんもしねえよ。ただ、俺はちょっと前まで、この部屋でフェイと相部屋だったから懐かしくてなー」
「確かにね、セルドが追い出されてからもう半年くらいになるかな?」
「追い出されて無いですって、部屋が空いたから出てっただけです!」
「そうだったっけ? でも、僕も久々にフェイの部屋漁ってみようかな!」
「ちょ、ちょっと二人共っ!」
制止する俺の事など眼中にないのか、二人はフェイさんの部屋に入り物色を始める。
「カーマ、諦めろ。俺の予知が正しければフェイさんはまだ帰ってこない筈だ。俺達もリーダーの部屋を漁りに行くぞ」
「お前も漁りたいのかよ!」
便乗した、トーマスと共に、フェイさんの部屋にもう一度入ると、先に物色を始めていた二人が、棚に飾ってある絵を眺めている。
「それ、何ですか? って写真じゃないですか! 何でこんな所に高級品が?」
俺が何かの絵だと勘違いしていた物は、近づいてよく見てみると、紛れもない写真だった。
写真とは、【キタムラ】と呼ばれる専用の魔道具を用いて、紙に見ている光景を映し出し、保存する事ができる高級な代物だ。
俺の故郷【ブレー村】には、一つだけではあるが、村長の家に大切に保管され、村の思い出を後世に残している貴重な物だ。
そして、棚の横に目を向けると、村の宝くらい貴重な筈の【キタムラ】本体が並べられていた。
「懐かしいなーこの写真。これ、全部フェイの持ってるキタムラで撮ったんだよ!」
「ちょっと待て、ゲータさん。写真があるのか? この世界に? それに【キタムラ】って何だ?」
何故か、【キタムラ】を目にしたトーマスが、鼻息を荒げながらゲータさんに詰めより出す。
「あれ、トーマス知らなかったの? この【キタムラ】って魔道具を使うと、紙に思い出を残しておけるんだよ!」
「何だよトーマス、お前、頭良い振りして、【キタムラ】知らねえのかよ?」
「知らねえよ! 何だ【キタムラ】って……カメラじゃねーのかよ!」
「何だよカメラって? これは、キタムラさんって言う偉大な発明家が作ったから、その名を冠してそう呼ばれてるんだぞ!」
「そんなぁ!? 何でだ? どーして俺はトーマスで、こいつがキタムラ何だよ!」
「止めろトーマス、キタムラが壊れる」
「すいません、取り乱してしまって」
トーマスが落ち着いた所で、棚に飾られた写真を見てみる事にする。
ゲータさんが指を差す先には、フェイさんの思い出達がこちらを覗いていた。
せっかくだし、子供の頃のフェイさんでも見てみよう。
右端の写真には、三人の元気一杯な子供達が、こちらに向かってポーズを取っている。
何処か見覚えのある橙色の髪を靡かせる少女を中心に、青紫の髪と、紺色の髪の少年が脇を固めている。
「ゲータさん、これって?」
「これは、僕達が子供の時だね。こん時はまだみんな可愛いでしょ?」
「この右がゲータさんで、左がフェイさん、って真ん中はアーチ!?」
「うん、正解! 僕らはちっちゃい時から、三人ずっと一緒だからね」
成程、だからゲータさんはアーチの扱いに慣れているし、フェイさんの事も呼び捨てで呼んでるのか。
ちょっと待てよ。
そういえばもう一人、年下なのにフェイさんに向かってタメ口を使う奴が居た様な……。
「なぁ、セルド。お前もフェイさんにタメ口使うけど、お前もこの人達と幼馴染なのか?」
「はぁ? んな訳あるかよ。単純にフェイは尊敬に値しないからタメ口を利くだけだぞ。それに俺、ゲータさんには敬語使うし……」
言われてみればセルドの言う通りだ。
しかし、納得出来ない事もある。
俺の知ってるフェイさんはしっかり者の頼れるリーダーの筈だ。
そんなフェイさんを、セルドがはっきりと尊敬しないと言い切るのは、相部屋時代に相当酷い事でもあったのだろうか。
そんな事を考えていると、トーマスが隣の写真に目を付ける。
「これって、もしかして警備長か?」
そこには、先程の写真にも写っていた紺色の髪の少年が、正門の前で大柄の男性と二人で写っていた。
その男性の頭部は、真っ白なヘルムを被っている為、確認は出来ないが、顔と一際大きなガタイはおそらく警備長で間違いないだろう。
「うん。分かりづらいけど、警備長だよ。僕らが子供の頃には、警備長はもう警備長だったからね」
「ゲータさん。何で俺達は、ヘルム被らなくなったんですか? 被った方が安全では?」
「僕が入った頃はみんな被ってたけどね。でもさ、ヘルム被ってるとさ、遅刻した時に警備長が本気で殴ってくるから、すぐに新しいのに替えないといけなくなるんだよね。それで、経費削減で支給されなくなったんだよ。それに、警備長が禿げた原因は、ヘルムの蒸れっていう噂もあるしね」
「な、納得の理由ですね」
何て理由だ。
警備長の可哀そうな髪の毛事情は置いておいて、あの人の拳は頑丈なヘルムを軽々凹ませる程なのか。
ますます、明日の特訓は遅刻出来なくなった。
「にしても、ゲータさん達三人が幼馴染なのは分かったんですけど、警備長とも付き合いが長いのは意外ですね。どうやった知り合ったんですか?」
「確かにな、俺もそれは気になるな。フェイは、相部屋の時も何も言わなかったからな」
セルドも俺と同様の疑問を持っていた様なので、二人でゲータさんにぶつけて見る事にする。
「……うーん。こればっかりは、僕の口からは言えないな。でも、一つ言えることは、フェイには警備長にとても大きな借りがあるって事くらいかな」
「借りですか?」
「うん。まー、そんなにフェイの事を知りたいと思ってるなら、闘技場に行ってみるといいと思うよ。どーせ、いるだろうし」
「分かりました。ちょっと気になるんで行ってみますね。行こうぜトーマス!」
「いいだろう。セルド、案内を頼む」
「俺も行くのかよ?」
「当たり前だろ!」
「ちっ、わーたよ! あんま乗り気じゃねーけど行ってみるか!」
そんなこんなで、無事に任務達成出来た俺は、二人と共に寮を後にし、商業エリアにある闘技場に向かう事にした。




