あるバイト門番の感触
カーン……カーン……カーン……カーン。
午後八時を知らせる時計塔の鐘の音で目を覚ます。
「……お、俺は一体? 確か親知らず通りで……」
辺りを見渡すと、警備隊の事務所で間違いない様だ。
あ、あれ、ベンチで寝てるにしては柔らかく感じる頭の下の感覚に違和感を覚える。
これは、もしや膝枕なのか?
メリサか、はたまたルートさんなのか?
どちらにしても大当たりだ。
俺は期待に胸を躍らせ、膝枕の主を見てみる事にした。
「カーマ、やっと起きよったか。もう勤務時間は終わった所じゃぞ」
まさかの大穴、警備長!
俺は、寝起きもお構い無しに飛び起きる。
「け、警備長、おはようございます!」
「おはよう」
「け、警備長一つお伺いしても宜しいですか?」
「なんじゃ、改まりよって」
俺は、警備長に早急に聞いておきたい事がある。
それは、尻尾の話でも、抜け出した話でもない。
「さっきの膝枕、警備長にしては柔らかい気がしたのは気のせいでしょうか?」
「なんじゃ、流石の儂でも股間はやらこいぞ! なんなら固くしてた方がよかったかの? がっはっはっは!」
最悪だ、よりにもよって筋肉じじいの股間を気持ちいいと勘違いしてしまうとは。
一日でも早くこの左耳の感触は忘れよう。
「警備長、他のみんなは?」
「そりゃあ、時間が来たから先に帰ったぞ。儂もお前が起きたら帰ろうと思っとたんじゃ」
「すいません、迷惑かけてしまって」
「いいんじゃ、丁度、カーマには伝える事があったからの」
何だろう、警備長が俺に伝えたい事って……。
「そうなんすね、それで俺に伝えたい事って?」
「なあに、対した事じゃない、特訓じゃ」
「特訓?」
「本来は明日と明後日は完全な休みじゃが、お前はまだ第三警備隊のレベルに達していない。じゃから、カーマは特別に儂が主催する、警備長格闘倶楽部の特訓に参加してもらう」
「それは、実力不足という事ですか?」
「そうじゃ。お前、今日ゴブリンに苦戦したそうじゃな?」
既に警備長には、フェイさんから、今日の失態が伝わっているらしい。
「はい。地元で戦った時は、難なく倒す事が出来たのですが……」
「カーマは、大陸の南部出身じゃったかの?」
ここで何故か、警備長は俺の出身を尋ね出した。
それが、強さに何の関係があるのだろうか。
「はい、南部のブレー村です」
「それなら、お前は知らなかったかも知れんが、教えておくぞ。このロムガルド王国の領地に出現する魔物は、同じ種族であっても北に行けば行くほど、どういう訳か強くなる。カーマにとって、大陸の中央にある王都のゴブリンが強く感じるのは、そういう理屈じゃ」
「そ、そんな!? 俺、そんな事一度も聞いた事無いですよ?」
王都に来てからという物の、自分の常識の無さに驚かされる事ばかりだが、身を持って体験していた事だったので、初めて聞いた事実でも飲み込むしかなかった。
「安心しろカーマ。儂がお前を一人前の門番に育ててやる。じゃから、明日の早朝は開けておけよ」
警備長の言う通り、確かに俺はみんなの足を引っ張っているかもしれない。
特訓か。
何をするか分からんが、強くなれるなら俺は何だってやってやるさ。
(ん、待てよ、早朝?)
「ちょっと待ってください、警備長。その特訓は早朝しか開催してないのですか?」
「儂も最近、年のせいか朝が早くてな……つまりそういう事じゃ!」
「わ、分かりました。参加します!」
「うむ、朝五時には正門の壁の上に来ておれ」
「はい」
こうして、警備長との特訓が決定した俺は、警備長と共に退勤し、寮への帰路についた。
そして、ここから今日の俺にとっての本題、極秘任務を遂行する事になる。




