あるバイト門番の連携
風の魔力が、剣先に集まる様子が見られないのだ。
そんな俺の心配をよそに、トーマスは深呼吸をした後、一歩踏み出しながら勢い良く俺の愛剣を振り下ろす。
「エクス、カリ――」
トーマスが何かを叫びながら振り下ろすと同時に、メタルリザードの頭部に当たった俺の愛剣が、パリんッという甲高い音と共に、真っ二つに割れる。
「うわあああああー!!!」
「うわあああああああああああー!」
俺もトーマス自身も、予想外の出来事に反射的に叫んでしまう。
そして、我に返って理解する。
こいつ、わざと魔力を込めなかったなと。
「何してくれてんだてめえっ! 俺達約束したじゃねえかよ!!」
「悪い、わざとじゃないんだ。くれぐれもとか、お前が言うからつい……」
「ふざけんなよ、ほんとは名前だって決めてたんだぞ!」
「いいだろこんな一本くらい。どうせ、支給品のよくあるロングソードだろ! 名前なんて付けてる馬鹿いないだろ」
「お前が言うな!」
そんなこんなで、獲物の前で言い合いを続けていると、刺激が加わった所為か、瀕死だった筈のメタルリザードが、唸り声を上げながら想定外の行動に出る。
「ぐぎゃぁあああー!!!」
あろうことか、地面に固定されている尻尾を自ら千切り、逃走を図ったのだ。
「嘘だろ!?」
「流石は蜥蜴だな。やるな」
「感心してる場合か! 追うぞトーマス!」
「ああ、短剣を回収したら、俺もすぐ向かう」
目の前で臨時ボーナスを取り逃した俺達は、急いでメタルリザードを追いかける。
「おらぁっ!! さっさとくたばりやがれ! 【具現出力――炎の矢】!」
「【具現出力――疾風の刃】!」
メタルリザードを追いかけながら、この町に来てまだ一度も役に立っていない炎の矢を放つも、案の上動きの速いメタルリザードには掠りもしない。
追いついて来たトーマスも風の刃を放っているが空を切るばかりだ。
そんな俺達の後方、裏門の方から天使の様な声が聞こえ、だんだんとこちらに近づいてくるのが分かる。
「ふ、二人共、だ、大丈夫だった?」
天使の様な声の主こと、正規隊員のメリサが、戻ってこない俺達の様子を見に来てくれた様だ。
「メリサか! すまん、今は逃げたメタルリザードを仕留める方が先だ。手伝ってくれ!」
「え、もう追い払ったなら、それでいいんじゃ?……」
「それじゃあ駄目なんだ! 頼む! 俺の今後の生活が懸かってるんだ!」
「……か、カーマ君が、そんなに言うならいいけど……」
「よし、纏まったみたいだな」
何故、最後にお前が纏めるんだと、トーマスに言いたい所だが、時は一刻も争う状況だ。
逃げていくメタルリザード相手に、魔法を放てるチャンスは距離的にも一度しかないだろう。
これ以上先は、深い茂みが広がっている為、膝丈の高さで動き回るメタルリザードを捜索する事は困難だと思われる。
「チャンスは一度切りだ、いいかお前ら、俺にとっておきの策がある」
トーマスは先程同様に、不気味な笑みを浮かべながら俺とメリサに語り掛ける。
さっきの囮作戦は何とか上手くいったが、果たして今回はどうだろうか。
不安が積もるばかりだ。
それに、トーマスが俺達同期の中で、何故かリーダー的存在になりつつあるこの序列を何とかして変えたい、いや、寧ろ、ぶっ壊してやりたい。
そして同時に、この退廃した職場に現れた天使の様なメリサに、頼れる男としてアピールするチャンスでもある。
こんな絶好の機会逃すわけにはいかない。
「まあ、待てよトーマス。今回は俺の案で行かせてくれ」
「どうした急に。さっきの囮がそんなに嫌だったのか?」
「違う、そうじゃないが、こればっかりは譲れないんだ」
「ふ、二人共、さっきから何言ってるの? 早くしないと逃げられちゃうよ!」
確かにメリサの言う通り、逃亡を図ったメタルリザードは、茂みの奥に今にも辿り着きそうにも見える。
いきなりだが仕方ない。
我が【ブレー村】に太古より伝わる、対魔物用必殺の連携技を披露する時だ。
悔しいが、この二人は俺より実力は数段上だ。
間違いなく初見でも、俺の意図を組み取って合わせてくれる筈だ。
二人を信じよう。
「お前ら俺に合わせろ! 【ユニゾンアタック】だ!!!」
「え、そんなマニュアルあったっけ?」
「わ、私も全然知らないけど……」
「俺に続け、具現出力――炎の矢】!」
俺は二人を信じ、先陣を切って火矢をメタルリザードに放つ。
ユニゾンアタックは二の矢、三の矢と違う角度から連続した魔法の連携攻撃で、どんな魔物が相手でも三の矢で致命傷を与える必殺奥義だ。
少なくとも、俺はそう聞いている。
案の定、メタルリザードは俺の放った炎の矢を右に素早く飛び難なく躱した。
だが、問題ない、本命は俺じゃない。
「今だ、トーマス、メリサ!」
「「えっ?」」
隣を見てみると、ぽかんとした様子の同期二人が何をするでもなく、只々、立ち尽くしていた。
「えっ? じゃないだろ! 俺の作戦を無駄にする気か! 取り敢えず、いい感じのタイミングで魔法を撃て!」
「ちょっとカーマ君、急すぎて分かんないよ!」
「そうだぞ! 普通、合図くらいくれよ!」
「しょうがないだろ、時間なかったんだから。それよりお前らとっとと撃て!」
「「わ、わかった!」」
「具現出力――【疾風の刃】!」
「具現出力――【光の槍】!」
俺の攻撃から少し間を開け、メタルリザードが体勢を立て直した頃、ようやく二人が別々に得意の魔法を放つ。
風の刃と光の槍が、茂みを掻き分け一直線にメタルリザードを襲うが、森の奥に向かって飛び上がったメタルリザードに惜しくも躱されてしまう。
連携でも何でも無い、個々の遠距離魔法は躱すに容易い攻撃だったのだろう。
メタルリザードは森の奥に消え、俺達の前から姿を消した。
「ああ、俺のボーナスがぁー! なんでお前、さっきみたいに短剣投げ無いんだよ!あれなら行けただろ!」
「えぇー、投げたら取りに行くのめんどいだろ」
「そんな理由かよ!」
「とりあえず、あいつの事は諦めろカーマ、幸い尻尾は確保したんだ」
「そ、そうだよ。フェ、フェイさんが裏門でずっと待ってるから、早く戻らないと」
「メリサの言う通りだな、とっとと尻尾を回収して戻ろう」
「そうだな」
俺達は茂みの中に消えたメタルリザードを諦め、林の入口まで引き返す事にした。




