あるバイト門番の失態
「確か、この辺りだったよな」
「ああ、ここから短剣を抜いた筈なんだが……」
「ほ、ほんとにここであってるの? 綺麗に何にもないけど……」
何かがおかしい。
ここで俺が囮になってトーマスが短剣を投げたが、元は林の中の獣道だった筈だ。
しかし、尻尾は愚か、短剣が刺さっていた穴も無くなり、綺麗な更地になっていた。
「トーマス、場所はここで間違い無いんだよな?」
「ああ、間違いない。やたら綺麗になってて見間違えたが、俺はここで短剣を回収した筈だ」
トーマスは、まるで整備された様に整った地面をしゃがみ込みながら、何かを確かめていた。
「じゃあ何だってんだよ、あれか? 他の魔物がここにあった尻尾を持って帰るついでに、穴が開いた地面を直していったって事か?」
「そうは言って無い。だが、そんな奴でも現れないと説明がつかんだろ」
確かにトーマスが言う通り奇妙な話だ。
そもそも、メタルリザードの尻尾は、俺達人間からすれば高額で換金できる貴重な素材だが、魔物からすれば金属の様な鱗が表面についた、身の少ない尻尾だ。
好んで食べようとする魔物は少ないだろう。
それに、どうして獲物を取りに来た魔物がわざわざ穴を埋める必要があるのだろうか。
「なぁ二人共、尻尾を強奪した奴って、どうやって地面を整えたんだろうな」
「どうだろうな。空いた穴を塞いで、太い丸太でも上から転がせば、ある程度は平らになりそうだが、短時間でやったにしては綺麗すぎる。魔法とか?」
「そ、そんなの事、出来てアーチさんくらいしか……」
「「あいつだっ!!!」」
俺とトーマスは全てを理解し、全力で走りだす。
もし、あいつが本当に尻尾の強奪犯であった場合、今正門には居ない筈だ。
フェイさんか警備長に告げ口をして、捕まえて貰えばまだ尻尾を取り返せるチャンスがある。
「ちょ、ちょっと二人共待ってよー!」
メリサも遅れて着付いて来るが、今は可愛い同期より、目の前のお金が優先だ。
あっいう間に林を駆け抜け、フェイさんの待つ裏門まで戻る。
先程まで、壁の上で監視をしていた筈のフェイさんは、俺達の代わりに裏門の下まで降りて来ている。
「遅いぞお前達! 一体、何処まで行ってやがった!」
すっかり待ちくたびれたのか、頼りの綱である筈のフェイさんはかなり怒っていた。
遠目でもかなり怖い顔をしているが、今は一刻を争う事態だ。
気にしてられない。
「すいません! でも、アーチが、アーチの奴が俺達の尻尾を!」
「俺とカーマが証人です。 今すぐアーチを捕まえて下さい! あいつは勤務中に正門の警備から抜け出して俺達の尻尾を――」
「何だ、さっきから俺達の尻尾って。そんな事よりもだ、お前らには言っておきたい事がある」
「何ですか、今はそれどころじゃ……」
「なぁカーマ、お前達の仕事って何だ?」
俺達の訴えを遮って、フェイさんが問いかける。
俺の隣には、遅れてやって来たメリサが、気まずい空気を察して無言で俯いている。
「門の警備です」
「だよな。で、トーマス、お前らは今まで何してた?」
「何って、隊長の指示通り、裏門に来た魔物達を撃退した所ですが……」
トーマスも、フェイさんの気迫に押されてか、珍しく語尾が敬語になっている。
「そうだな。俺の指示通りにお前ら動いたんだよな?」
「「はい」」
「だったら尚更だ。メリサ、何でお前は門の前を離れた?」
「え、え、えっと……」
フェイさんは不意に厳しい視線をメリサに送り、追及を始める。
メリサは、自分が責められる事を全く予想していなかった様子で、動揺し言葉を詰まらせていた。
だが、メリサは俺達の為に良かれと思って動いてくれた筈だ。
悪いのはメタルリザードを深追いした俺達だ。
「メリサは俺達の援護に来てくれたんです。メリサが来なかったら、俺達も危なかったかもしれません」
「カーマ、俺はそういう事を言いたいんじゃない。俺が言いたいのは、お前達三人がやってる仕事は、あくまで門の警備だ。魔物の討伐じゃないって事だ」
「ですが、メリサは仲間を助けようと……」
「お前ら、俺が言った事を忘れたのか? 俺の事はいない者だと思って戦えって言った筈だ。勝手に林まで深追いした奴を、門の前を離れてまで助けに行く必要は無いって事だ。大体お前らは――」
「そこまでじゃ、フェイ」
俺達がフェイさんに詰められている最中、外壁の上から警備長とおぼしき大きな声が聞こえる。
すると、壁の上から一際大きな人影がこちらに向かって来る。
おそらく、【ピンポンパン】を聞いていた警備長が、裏門側に様子を見に来てくれたのだろう。
フェイさんは壁の上にいる警備長を見上げながら問いかける。
「警備長、どうして裏門に?」
「フェイ、ちっとばかし言いすぎじゃ。まだこやつらは入ったばかりの新人じゃぞ」
「しかし、まだこいつらに、この門を守る事の重要性を――」
「す、すみません。……全部、わ、私の判断ミスです。本当にごめんなさい!」
メリサは自分の行動に非を感じていたのか、上官二人の会話に割り込んで頭を下げた。
涙目になりながら懸命に謝る姿は、軽率な行動をした俺達に罪悪感を抱かせるのには十分だった。
「いいんじゃメリサちゃん。初めはみんなそんなもんじゃからな。な、フェイ?」
「……そんな昔の事はとっくに忘れましたよ」
「フェイもルートも入った時はお前達と何ら変わらん。じゃがな、これだけは覚えといてくれるか。一度でも、この門を魔物や賊に突破された時、この平和で活気溢れる王都は一瞬にして崩れさるという事を」
「「「はいっ」」」
「よし、それだけ覚えといてくれれば、もうこの話はおしまいじゃ。メリサちゃんも反省しとる様じゃし、いいなフェイ?」
「……分かりました」
警備長はこの場を収めると、一仕事終えた様に溜め息を吐いて事務所に引き上げようとする。
そんな中、俺は忘れかけていた事を思い出す。
警備長とフェイさんがこんなに熱弁してくれたにもかかわらず、門の前を飛び出し、俺達のメタルリザードの尻尾を盗んだであろう、あの女盗賊を。




