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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第一章 あるバイト門番の燻り
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あるバイト門番の囮

 先程と同様のゴブリンが二体と、その後方に銀色に光り輝く鱗を纏った、大型の蜥蜴とかげの様な魔物がゆっくりと姿を現す。


 緑が一面に広がる中で、一際目立つ全身銀色の蜥蜴とかげは、三メートル程の体長を誇るも、四足歩行で地面を這う様にこちらに近づいてくる為、余り大きさを感じない。


 向かい合ってみると、寧ろ小さく思える程である。


「って、あれメタルリザードじゃないか! 生で見るのは初めてだ。おい、カーマ、あいつの鱗は高く売れるぞ!」


 一早く存在に気付いたトーマスが情報をくれる。


 どうやら、かなり希少価値の有る魔物の様だ。

 高値で換金出来るなら、借金返済に貢献してくれそうだ。


 この際、あの銀色の蜥蜴とかげがどれだけ強かろうが関係ない。

 あいつの鱗が臨時ボーナスになってくれるなら、喜んで突っ込むまでだ。


「ほんとか! ならあいつの相手は俺がやる」


「ゴブリンと互角のお前じゃきついだろ。ここは二人で協力して討伐するぞ!」


「わかった! メリサ、ゴブリンを頼めるか?」


「うん、二人共、無理しないでね」


「おう」


「任せろ」


 恐らく俺よりも強く、そして優しいメリサに手前のゴブリン達を任せ、男二人掛かりでメタルリザードに挑む為、形振なりふり構わず駆け出す。


具現出力(ぐげんしゅつりょく)――【光の槍(ライトスピアー)】」


 俺達が走る真横で、ゴブリンが光の槍に貫かれている。

 援護もお手の物の様で、残った一体もメリサなら難なく倒せるだろう。


 俺達は、何も考えず目の前の獲物に集中するだけだ。


「おらぁっ!! さっさと鱗を寄こしやがれ蜥蜴(とかげ)野郎!!」


 門の前から裏山に続く林の入口まで走り、間合いを詰めた勢いで何度も剣を振るうが掠りもしない。


 メタルリザードは剣先が当たる直前で、剣の軌道を見切っているかの如く、最低限の動きで躱している。

 そして、この状況はトーマスと挟み撃ちにしても何ら変わらない。


「くそっ、長いくせにチョロチョロと!」


「ばかっ突っ込みすぎるな。あいつは、通常の個体と比べて三倍の速さと硬さを持った変異種だ。真正面から行っても避けられるだけだ!」


「何だとっ!? そもそも通常のあいつとやらを知らんが、どうすれば……」


「カーマ、一度、距離を取るぞ」


「でも、鱗が目の前にあるんだぞ」


「だからだ、勝つ為に一度引くんだ」


「わかった」


 俺達は、メタルリザードの攻撃を警戒しながら林の入口付近から離れる。


 メタルリザードは、素早さと防御面には秀でた物があるようだが、積極的に襲い掛かってくる事が無いのが幸いだった。


「……俺に策がある、少し手伝ってくれるか?」


 トーマスは、人としては少々残念な男だが、こと戦闘においては今一番信用出来ると言って良い。

 戦闘経験の豊富なトーマスなら、最善の一手を選んでくれるに違いない。


「いいぜ。けど、あいつは早くて固いんだろ? 一体どうするつもりだ?」


「簡単な話だ、餌をあえて()き、食いついて来た所を必殺の一撃で仕留める」


「そうか……トーマス、ちょっと待ってくれるかな?」


「どうした?」


 俺にはこの作戦に一つ疑問点がある。


 確かにゴブリンと違い、自分から攻撃を仕掛けてこないメタルリザードを相手にトーマスの案は合理的だ。

 攻撃の当たらない相手に無闇やたらに仕掛けるより、あえて隙を作らせる事で、確実に一撃必殺の攻撃をぶつける。


 二対一だからこそ成立する確率の高い作戦だ。

 一つの引っ掛かりさえクリア出来ればの話であるが。


「トーマス君や、一つ聞いてもいいかな?」


「なんだい、囮君?」


「やっぱ、俺が囮じゃねーか! 何か、他に策は無いのかよ?」


「無いからお前に頼んでいる。お前と俺だと、俺の方が一撃で奴を倒せる確率が高いからな」


 くそっ、ぐうの音も出ない。

 ここはトーマスの案に乗るしかないか。


「分かった。で、どうすればいいんだ?」


「簡単だ。そんなの防具を外して、尻でも叩けばいいだけじゃないか」


「本当にそれでいいのか?」


「ああ、あいつは必ず乗ってくる筈だ」


「そうだよな、これしかないんだもんな。……しょうがない、囮は俺に任せろ!」


「頼んだぞカーマ。ちなみに、あいつの牙には、即死級のもうど――」


「何だよ?」


「やっぱ何でもない」


「そうか。なら行くぞ」


「おう!」


 作戦を固めたトーマスとハイタッチ交わし、配置に着く。


 配置といっても林の中に留まっているメタルリザードに、見える様に目の前で鎧を脱ぎ、尻を半分露出させ、右手を振り上げる。


 後は、トーマスがメタルリザードの死角になるであろう後方に準備を完了すれば、俺の合図、もとい、尻のドラム音で作戦が始まる。


 そろそろか。

 気配を上手く消したトーマスは目的地に辿り着き、既に短剣を構えている。


 頼もしい限りだ。

 幸い、メリサはまだこっちに来ていない為、躊躇する理由もない。


 それじゃあ、行こうか。

 目指すは一番注目を引けるであろう、乾いた歯切れのいい甲高い音だ。


 肩より上に振り上げた右手で勢い良く、自分の尻を引っ叩く。


 林の中にパチンっという乾いた高音が響き渡ると同時に、メタルリザードとトーマスが俺に向かって駆け出してくる。


 しかし、こちらに近づくにつれ、僅かではあるが先にスタートを切った筈のトーマスが、じりじりと離されていく。


「おいっ! トーマスお前頼むぞ! このままじゃあ俺が……」


「大丈夫だ、ここから決める! 【憑依(ひょうい)】!!」


 トーマスは、半分尻を露出したまま、剣だけを装備している俺に自信満々に告げると、短剣に風の魔力を纏わせ狙いを定める。


 あれは、さっきの斬撃じゃない。

 もしや、そのまま短剣を投げる気なのか。


「くらええ! ゲイ・ボォルグー!!!」


 トーマスは何故か伝説の槍の名前を叫びながら、風の魔力を纏った短剣を一直線に投擲する。


 トーマスから放たれた短剣は、林の中をぐんぐんと突き進み、俺に向かって来ていたメタルリザードに後方から迫り、地響きの様な激しい轟音と共に、辺り一面の土煙を上げる。


「やったか!?」


 視界が悪い中であるが、取り敢えず、俺の所まではメタルリザードは来ていない。


 つまり、俺達の作戦が無事成功したという事なのだろうか。

 何はともあれ、まずは、落ち着いてズボンをたくし上げ状況を確認する事にした。


 視界を遮っていた土煙が辺りから姿を消した頃、ようやく状況を把握する事が出来た。


 トーマスの放った短剣は、見事にメタルリザードの後方から尻尾ごと貫き、メタルリザードの体を固定する形で、地面に深く突き刺さっていた。


 メタルリザードは短剣を外そうと藻掻いているが、地面深くまで刺さった短剣は、そう簡単には抜けそうにない。


「カーマどうだった?」


 しっかりとメタルリザードの動きを止め、一撃を加えた大手柄のトーマスは、結果が気になるのか小走りでこちらに駆け寄ってくる。


「ああ、ばっちりだトーマス! 後は、俺がとどめを刺してやるぜ!」


 俺は、剣を両手で構え、いまだ藻掻いているメタルリザードの前に立つ。


「ちょっと待て、カーマ。ここは、こいつに一撃を喰らわした俺がとどめを刺そう。その方が確実だ」


「ダメだ、俺がとどめを刺し、このレア素材を高額で売り払い、そして借金を完済する」


「馬鹿な事を抜かすな、こんなレア素材だ。分けてもお前の借金くらい直ぐに返せる額だ。報酬は二人で山分けにすればいいだろ?」


「それもそうだな、ならこいつ、俺の愛剣を使ってくれ。大切にしてるんだ。くれぐれも壊したりするなよ」


「任せておけ」


 報酬の分け前までしっかり確認した俺は、トーマスに愛剣を手渡し、メタルリザードの前から下がる。


 トーマスは、先程まで俺の居た位置に立ち、俺の愛剣を両手で持ち上段に構える。


 だがここで、トーマスの様子に少しだけ異変を感じる事になる。

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