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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第一部 第一章 あるバイト門番の燻り
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あるバイト門番の初陣

 辺りに夕暮れの気配が混じり始めた頃、裏山に面している木々や茂みの中に不自然な揺れが生じていた。


 故郷の【ブレー村】で下級の魔物を狩猟していた時にも、似たような光景は目にした事がある。

 間違いない、あの林の中に魔物がいる、しかも単体ではない。


 この仕事に就いてから、初めて支給された片手剣を背中の鞘から抜き、辺りを警戒する。

 トーマスとメリサも同様に、気配を察知し、武器を構えている。


「お前ら、林の中から魔物が出て来るぞ! 【 ピンポンパン】を押せ!」


「「「はいっ」」」


 門の近くにいたメリサが素早く三回、ピンポンパンを押す。


 ピーンポーンパーン。

 緊迫した空気の中に、場違いな明るい音が響く。


 これで警備隊全隊に、裏門にて敵襲があった事を周知出来た筈だ。


「今は研修中だから俺が付いているが、実際の勤務は門ごとに三人態勢で警備に付く事もある。俺はいない者だと思って、お前らだけでやってみろ!」


「「「はい!」」」


 一早く異変を察知していたのであろうか、外壁の上で警備に当たっていたフェイさんから指示が聞こえる。


「カーマ君が変な事言うからだよ」


「でも、丁度いい暇つぶしにはなるだろ?」


「だといいけどな……」


 トーマスが意味ありげに不穏な事を口に出してはいるが、俺達は勤務開始から四日目の終盤で、ようやく魔物との戦闘に入る事になる。


 不足の事態ではあるが、フェイさんやまだ実力の知れない同期の前で目立ち、手柄を立てるチャンスだと前向きに捉える事にした。


 ようやく、騎士っぽい事が出来る気がする。

 今までの努力と地元で培ってきた実力を見せつけてやる。


 俺が静かに意気込んでいる中、林の向こうから、襲撃者達がぞろぞろと姿を現す。


 目の前に現れた魔物は、汚れた緑の肌に尖った耳と鼻先が特徴的な、拾い物で最低限の武装をした、地元でも戦った事があるゴブリンの群れであった。


 ゴブリンは、俺の肩より小さい程の身長で身体能力もさほど高く無い為、最下級の魔物と知られているが、集団で行動する事が多い為、決して油断できる相手ではない。


 目の前で確認出来ているのは、初めに林から現れた三匹のみだ。

 だが、木々の揺れを見るに、後数匹は現れても不思議ではない。


「行くぞお前らー! 付いて来い!」


「言われなくてもそのつもりだ」


 数が増えては面倒だ。

 一気に相手の数を減らす為、二人に合図をして畳みかける。


 トーマスと共に前方にいるゴブリン達との間合いを詰めると、俺達の間を眩い光が駆け抜ける。


具現出力(ぐげんしゅつりょく)――【光の槍(ライトスピアー)】!」


 早速、メリサが後方から魔法を使った様だ。

 放たれた光の槍は、一体の胴体を完全に貫き、瞬く間にゴブリンを葬り去った。


 流石はメリサ。

 正規隊員に採用される実力は伊達ではないらしい。


「次は俺の番だな……【憑依(ひょうい)】っ!!」


 可憐なメリサの活躍を横目に、腰に携えた短剣を抜いたトーマスは、自身の両足と短剣に風を纏わせて、走り出す。


憑依(ひょうい)】とは、自身や装備に魔力を纏う事で、属性による特性を生かした能力を底上げ出来る、接近戦には必須の強化魔法だ。


 トーマスの様に、一度に複数の箇所に憑依させる事は、卓越した魔力コントロールが必要になる為、それだけでも、この男が只物では無い事を証明していた。


 風を纏った両足で加速しながら駆け抜け、錆びた短剣しか持っていないゴブリンに向かって、疾風が如く一撃で腹部を両断する。


「ぐぎゃああああー!!!」


 圧倒的な速度で放った風を纏った鋭い斬撃に、ゴブリンは為す術無く、地に伏していった。


 トーマスは見立て通り、戦闘慣れをした実力者で間違いない。


 二人の活躍をまざまざと見せつけられた俺は、最後の一匹に狙いを合わせ、昔から幾度となくゴブリンを仕留めてきた炎の矢を作り出す。


「くらえっ! 具現出力――【炎の矢(フレイムアロー)】!!」


 ゴブリンに向けて放つ必殺の一撃は、標的に向け直線に飛んでいくも、当たる寸前に危険を察知したゴブリンは、ひらりと体を反らし火矢を回避する。


「何っ!?」


「大丈夫、カーマ君?」


「ハハハッ! カーマの奴外してやがる」


「うるっせえ! 次で仕留めるからお前らは黙って見てろ!」


 既に仕事を終えたと言わんばかりの二人が、高みの見物を始めているが、気にせず目の前の相手に集中する。


 皆が一撃で仕留めていた中、初手を外したという焦りが生まれるが、まだ挽回できる。

 まぐれで俺の魔法を避けたゴブリンをとっとと葬ってやる。


「だったら、これでどうだ! 具現出力(ぐげんしゅつりょく)――【炎の矢(フレイムアロー)】【炎の矢(フレイムアロー)】【炎の矢(フレイムアロー)】!!!」


 先程よりも間合いを詰めながら三連の火矢を放つ。


 だがしかし、ゴブリンは難なく全ての矢を躱し、あろうことか錆びた短剣でこちらに切り掛かってくる。


「嘘だろっ!? ゴブリンの癖にっ!」


 何とか、構えていた片手剣で防ぎ、体格の差を活かし、ゴブリンを短剣諸共、弾き飛ばす事に成功する。


 しかし、致命傷は与えられていない。

 ゴブリンはすぐさま起き上がり、足元に落ちた短剣を拾い上げ、再度、こちらに向かって飛び掛かってくる。


 そんな中後方からは、仕事を終えた同期の会話が聞こえて来る。


「メリサ。カーマの奴、ゴブリンと互角だけど、どうするよ?」


「ど、どうするも何も、無いでしょ。加勢しようよ!」


「だな、死なれても困るしな」


 だがここで、俺だけ二人に加勢して貰っては情けない。


「大丈夫だ、これは俺の獲物だ」


「な、なら、いいけど……」


 メリサはトーマスと違い心配してくれているが、その親切心が余計に辛い。


 そもそも、ゴブリン一匹と互角の勝負をしている時点で、既に笑い物かもしれないが、であれば、尚更負けられない。


 それに、林の奥に新手がいる事を考えると、あまり時間を掛けてもいられない。

 残りの魔力の大半を使い切ってでも、このゴブリンは俺が仕留めてやる。


 体中の魔力を剣先に集中させ、深紅の炎を刀身に纏う。


「【憑依(ひょうい)】!!」


 炎の纏った剣を目にしたゴブリンは危険を察知して、後退りをしているが、容赦なく葬らせて貰うまでだ。


「悪いな、くそゴブリン。俺は、自分の名誉の為にも、最下級と言われているお前にだけは負ける訳にはいかないんだ。俺の全力を体で味わえー!!!」


 戦意を喪失しつつある、ゴブリンに向けて剣を振り上げ、肩から腰に掛けて袈裟切りを放つ。


「ぎゃあああああー!!」


 渾身の一撃を食らったゴブリンは、悲鳴にも聞こえる何かを叫びながら、体が二つに分かれた事を理解出来ずに息を引き取った。


「お疲れ様、カーマ君!」


「ナイスファイト、カーマ」


「ああ、二人もお疲れ」


 二人が一撃で仕留めた相手に全力で戦った俺が同じ場にいるのは、なんだか居心地が悪い気がしたが、二人はそれでも優しく出迎えてくれた。


「お前達、まだ、奥に新手がいるから気を抜くなよ」


 外壁の上で高みの見物をしていたフェイさんからは、新たな指示が飛ぶ。


 どうやら林の中の気配は、ゴブリンとは別の何かが控えている様だ。


 気配がこちらに近づいてくるにつれ、こちらにも緊迫した空気が伝わってくる。


 そんな中、トーマスが短剣を構えて、一歩前に出る。


「何が来るかわからん。俺が前衛をやるから、二人は援護してくれ」


「わ、分かった」


「了解っ!!」


 トーマスを前衛に待ち構える俺達の前に、林の中から魔物が飛び出してくる。


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