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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第二部 第一章 あるバイト門番の誤魔化し
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あるバイト門番の代行業務

 ようやく、騒がしい門番達を配置に着かせた俺は、事務所に戻ると、最奥に構える警備長の席に腰掛ける。


「……ふぅー……」


 まだまだ、仕事は始まったばかりだが、自然と溜め息が(こぼ)れる。


「何で、出勤早々に溜め息付いてるのよ?」


 ルートさんが、隣の席でテキパキと書類を掻き分けながら、俺に問いかける。


「すいません。意外に、警備長の仕事も大変だなーって……」


「でも、カーマがやるって言ったんでしょ? 例え数日でも、警備長の仕事をこなすなら、休んでる時間は無いよ」


「いや、分かってるんすけど、そんな俺は、何したら良いんですかね?」


「まずは、それよ、それ。午前中には片付けてよ」


 そう言い放ったルートさんの指先は、俺の目の前に広がる机の上を指していた。


「こ、この量は、これだけで一日掛かるんじゃ……それに、俺が勝手に判断して良いんですか?」


 警備長の机の上には、雑に積まれた書類の山が待ち構えていた。


「そんな気合じゃ、日が暮れても帰れないよ。因みに、カーマの所為で、私が残業になったら、事務所で暴れるからね」


「止めて下さいよ。弟達が社会人のそんな所みたら、トラウマになりますって」


「なら、弟君やラーマちゃんを守る為にも、死ぬ気で終わらせなさい」


「分かりましたけど、そもそも、残業はさせないってのが、この警備隊のルールでは無いんですか?」


「はぁ? そんな物、私達、経営側にある訳無いじゃない。サービス残業なめんなよ?」


「すいませんでした! 速攻、終わらせます!!」


 知られざる警備隊の内情を知ってしまった俺は、すぐさま、書類に手を付ける事にした。


 とはいえ、積まれた書類は、警備隊の内外から集められた報告書や承諾書等が大半を占め、俺の軽いノリで返答出来るのは、警務隊長、オー・マワリ―さんから送られた、飲み会の誘い位の物であった。


(良い年した大人が、こんな形式の書類で、プライベートなやり取りするなよ……)


 おっさん二人のやり取りに呆れながらも、勝手に参加する旨を記入していると、事務所の入り口の扉が開かれる。


「おっはよー!」


「おいっすー!」


 すると、扉の向こうから現れたのは、遅刻したアーチとセルドだった。

 勿論、フェイさんからの目覚ましを喰らった二人は、土砂を被った寝間着姿のままでの出勤となっている。


「やっと来たな、遅刻野郎共!」


 俺は、警備長席から、二人に挨拶を返す。

 すると、アーチと比べ、所々に刀傷も負っているセルドが、俺に睨みを効かせながら口を開く。


「おい、カーマ。何でお前がそこに座ってる?」


「言っただろ? 今週だけ警備長やるって」


「そっか。……それなら、どうして俺を起こさない? 俺達、助け合おうって誓ったよな?」


「時間が無かったんだよ。俺も、ダーマを連れてくのに一杯一杯だったんだ」


「なら、仕方ないか。だがな、次、俺を裏切ったら、お前のダサいエピソードを弟にばらすぞ」


「止めろっ! お前、トーマス並みに性格悪いな」


「お互い様だろ」


 セルドは、ルートさんに傷を癒して貰うと、急ぎ足で裏門へと向かった。


 すると、セルドと入れ違いで、寝間着から警備隊の鎧へと服を着替えたアーチが、珍しく神妙な面持ちで俺の元へとやって来た。


「どうした? お前もセルドと同じ裏門だぞ」


「それは、分かってるんだけどさー……」


「……何だよ?」


 勿体ぶって言葉を飲み込んだアーチに催促をすると、意外にも、仕事とは全く関係の無い事を俺に尋ねた。


「……あんたさ、ラーマの持ってる絵本を、何処で手に入れたか、教えてくれない?」


 アーチの言葉を聞くまでは、黙って裏門に向かえと、即答で返す所だった。


 だが、その質問を聞いた時、頭の中では、忘れかけていた記憶と同時に、謎が呼び起こされる。


(……そう言えば、あの絵本って、何処で手に入れたんだっけ? ……駄目だ。実家の本棚に置いてあったって事しか思い出せないや。……そういや、裏に住む爺ちゃんに無理を言って、毎日の様に読み聞かせて貰ってたんだっけ? ……爺ちゃん、元気にしてるかな? ……俺の銅像、建ててくれるんだっけ?)


 脳裏に白髪頭の偏屈な爺ちゃんを浮かべた所で、現実に戻ると、頭の中で情報を精査した。


 だが、結局の所、俺があの絵本の出処について知っている事は、殆ど無かった。


 只一つだけ、今になって分かる事は、あの絵本は、警備長が英雄に成るまでの生き様を、詳細に描いた作品だったという事だ。


 まるで、実際に作者が、その目で見て来たと言わんばかりに。


「……ラーマの絵本って、英雄伝説の絵本で合ってるか?」


 俺は、内心では分かっていながらも、念には念を押して確認した。


「そうよ。あんただって、今なら、あの絵本の事をあたしが探る意味が分かるでしょ」


 当然だ。

 あの絵本は、アーチの父親と母親の物語だ。


 特に、王女様とされる今は無き母親の話は、アーチにとって特別なのは、考える間でも無い。


 だから、俺も嘘偽りなく、真実だけを伝える。


「ああ。でもさ、本当に覚えて無いんだよ。物心付いた時には、既に実家の本棚に置いてあった気がするんだ」


「本当にそれだけ? 何でも良いから思い出してよ」


「……うーん。……思い出せるのは、近所の爺ちゃんの家まで本を持って行って、毎日、読み聞かせて貰って、そこで、俺も英雄になるって決めて、大事に保管していただけなんだよ」


「肝心な事は何も知らないじゃない!!」


「うるせぇな。なら、警備長に直接聞いてみろよ」


「……それはなー……」


「取り敢えず、仕事だろ。さっさと裏門に行って来い」


「わ、分かったわよ」


「因みに、裏門にダーマと警備長が居るから、宜しく頼むわ!」


「うげっ!? マジかよー」


 セルドから更に遅れたアーチを、ようやく、配置着かせた頃には、まだ、書類を一枚しか片付けて居ないのにも関わらず、どっと疲れが押し寄せていた。


 警備長の仕事は、もしかすると、相当な激務だったりするのでは無いのか。

 てっきり俺は、偉そうに座ってるのが、警備長の仕事だと思ってたが、そんな認識は、早々に改める必要がありそうだ。


 何はともあれ、机に積まれている書類の束と同様に、警備長を代行するにあたって、問題は山積みの様だ。


 (しばら)く、目の前の書類と一人で格闘していると、遅刻魔を起こしに行っていたフェイさんが戻って来た。

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