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あるバイト門番の燻り  作者: 日比乃 翼
第二部 第一章 あるバイト門番の誤魔化し
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あるバイト門番のお試し決戦②

 

 ◇アーチ視点◇


 あたしが何故、出禁扱いを受ける闘技場(コロシアム)に出場を決めたか。


 理由は二つ。


 一つは、あたしに生意気な口を利く、カーマの弟に実力を分からせる事。

 もう一つは、今後の対亜人戦で使える新技を実戦で試す為だ。


 この間の王都襲撃は、親父やアーリアの助けも借りて事無きを得たが、次は無い。


 実験相手は、図体だけの引っ越し屋、ガバガ・バナンスだが、肉体強化を試すにはもってこいだ。


 あたしは、目の前で待ち構えるガバガに悟られない様に、魔力を集中させると、一気に解放させた。


「そんじゃー行くよ。【具現出力(ぐげんしゅつりょく)——土人形(ゴーレム)】」


「早速出たな! ゴーレム女!」


 いつも通りに土人形(ゴーレム)を舞台上に精製すると、身構えるガバガを前に土人形(ゴーレム)の隣に駆け寄ると、両目を閉じて意識を集中させる。


 魔法は、いつだってあたしの傍に居てくれた。


 初めて、魔法で小屋を建てた時、悪戯に知恵を絞った時、魔物から門を守った時。

 いつでも、あたしの考えた突飛(とっぴ)な空想を実現させてくれた。


 だから、今回もきっと、無茶なあたしの味方で居てくれる筈。


 頭の中でイメージするのは、固い岩盤の様な土人形(ゴーレム)の外装を纏った自分自身の姿。


 自らが【具現出力(ぐげんしゅつりょく)】で作り出した土人形(ゴーレム)を取り込んで、一時的に自分の身体に【憑依(ひょうい)】させる。


(……名付けて、【具現憑依(ぐげんひょうい)】ってとこかな)


「これがあたしの新たな力! 【具現憑依(ぐげんひょうい)——土人形(ゴーレム)!!」


 祈る様に両目を開いた時、あたしは、【憑依(ひょうい)】とは一味違った砂色の鎧に身を包まれていた。

 自身に起きた変化を確かめる為に、(てのひら)で上腕や腹部を撫でる様に触ると、岩肌の様なゴツゴツとした感触が残りながらも、その堅牢な身体は、動きづらさを感じる事は無かった。


(これは、成功か? ……確かに、土人形(ゴーレム)の鎧を纏う事には成功したっぽいけど……取り敢えず、試してみるか)


「お待たせ! 再会しようか」


「お前、本当にゴーレム女になっちまいやがったのか?」


「そうなのよ! 色々試したいから全力で来てくれる?」


 初披露のあたしの姿を見て、目を見開いたまま固まっているガバガに、戦いを再開させる様に促すと、目の前の大男は直ぐに動き出した。


「いいぜ! 必殺の引っ越し屋パンチ! 追撃の引っ越し屋キック!」


 引っ越し屋は、勢い任せに渾身の打撃をを連続で叩き込むが、土人形(ゴーレム)の外装を纏ったあたしには、うるさいだけで、その衝撃が伝わる事は無かった。


「とどめの——」


「邪魔よ!」


 腰を落とし、予備動作に入った引っ越し屋が、お得意の突進を仕掛けて来る動きに合わせて、迎え撃つ様に顔面を蹴り上げる。


「どわぁあああああああー!!!」


 引っ越し屋は、想像を超える程に高く舞い上がると、そのまま、闘技場(コロシアム)の屋根を突き破ると、何処かへと吹き飛んで行ってしまった。


「ガバガ・バナンス場外の為、勝者、アーチ・クルーパー!!」


「「「「「うおおおおおおおおおおーーー!!!」」」」」


 親父のアナウンスに続く様に会場中の歓声が一斉に響き渡る中、一撃で勝利を手にしたあたしは、まだまだ物足りなさを感じていた。


 せっかく、新たな力を身に付けたんだ。

 まだまだ、この特別な身体でやれる事は確認しておきたい。


 そして、偶然にも、舞台上に打って付けの対戦相手が居る事を確認すると、あたしは役目を終えて帰ろうとする【マスク・ド・ケイビ】の前に立ちはだかった。


「ちょっと待てよ」


「何じゃ? この試合は、お前の勝ちじゃぞ」


「そうじゃなくて、あたしと久し振りに戦えって言ってんの」


「ほう? この儂に勝負を挑むとは、余程死にたいらしいな」


「今のあたしは、簡単には死なないよ」


「……フッ……ガバガを倒しただけで良い気になりおって。じゃが、良いじゃろう。特別に儂が相手をしてやろう」


「今度は、あたしが半殺しにする番だ。行くぞ!!」


 あたしは、地面を蹴り上げると、全力で自分が知る限りで一番の力を持つ男に挑んだ。


 しかし、果敢に殴り掛かった先に待ち受けていたのは、避ける事の出来ない速度で迫る、大砲の様な一撃だった。


「【警備長流奥義――おはようの肩パン】!!」


「早っ!? うわぁっ!!」


 親父の拳によって、音を立てる様に【具現憑依(ぐげんひょうい)】で作り上げた鎧が崩れ出す中、あたしの顔面に向けて、棍棒の様な剛腕が襲い掛かる。


「追撃のラリアット!!」


「うわぁあああああああー!!」


「とどめの——何じゃ、もうおしまいか」


 顔面を打ち抜かれたあたしは、舞台上に叩き付けられると、頭と顎を強打した影響もあり、そのまま意識を朦朧(もうろう)とさせたまま、穴の開いた天井を見上げていた。


 すると、動けないあたしを見た親父は、あたしの事を雑に持ち上げると、大きな声で会場に呼び掛ける。


「えー、会場にお越しのメリサ君、至急、この馬鹿を引き取りに控室に来る様に。繰り返します。メリサ君、至急、控室に来る様に……」


 親父は、あたしを抱えたまま舞台を降りて、控室へと向かった。


 控室に着くと、備えられたベンチに洗濯物の様に投げられたあたしは、寝転がったまま、気になった事を親父に聞いてみる事にした。


「親父、さっきの攻撃、どれくらい本気で殴った?」


「どうじゃろうな? 八割ってとこか?」


「そっかー……。まだ、本気じゃないのか……」


「でも、あの【憑依(ひょうい)】は悪くない。更に極めれば、儂が本気を出す日も近かろう」


「……だと良いけどねー……」


 その後、控室にやって来たメリサに回復して貰うと、観客席で(うずくま)るフェイをその場に残して皆と合流すると、ラーマちゃんの希望で、時計塔の鐘が鳴る所を見届ける事になった。


 カーン、カーン、カーン、カーン。


「すっげぇー!!」


「本当に鳴った!! メリサお姉ちゃんの言う通りだー!!」


 王都に住むあたし達にとっては、見慣れた光景。

 けれど、初めて王都にやって来た二人にとっては、刺激的で特別な光景。


 今日の試合も、そんな二人の記憶に残ってくれれば、親父に惨敗した事にも意味があったと思える。


(あたしも、旅行とか行ってみたら、こんな風に感動出来るのかな?)


 純粋に感動している二人の輝く様な瞳を見ていると、一度も王都から出た事が無い自分を、重ねて羨ましく感じてしまった。


 すると、そんな目をしたダーマが、不意にあたしの元に駆け寄って来る。


「アーチの試合、凄く面白かったよ!」


「あったり前でしょ! 他の出場者達と、一緒な訳無いんだから」


「うん! アーチって、バイトの癖に結構強いんだな」


「でしょ? チビカーマには、特別にアーチ様って呼んでも良いんだぞー」


「それは遠慮しとく」


「何でよ!」


 一通り王都の観光を終えたあたし達は、ヤニー亭で食事を済ませると、寮の前でカーマ達と別れ、預かったラーマちゃんを女子寮に案内する事となった。

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