あるバイト門番のお試し決戦①
最前列で場所取りをしてくれているのか、はたまた、近くに人が寄り付かなかったのか、一人で項垂れているフェイさんの元に皆で向かう。
「フェイさん、お疲れ様です。調子はどうですか?」
「聞くな。全敗だ」
「すいません」
野暮な事を聞いてしまったなと、俺がフェイさんに謝っていると、隣に座ったダーマが俺の袖を引っ張る。
「兄ちゃん、そろそろアーチ出るの?」
「そうだぞ。あいつは強いから、しっかり見とけよ?」
「アーチ、バイトなのに凄いね。兄ちゃんとはどっちが強いの?」
「そりゃあ、俺に決まってるだろ」
「だよね! 流石兄ちゃん!」
「ちっ……うるさい奴等だ」
「まぁ、良いじゃないすか。……それで、紹介してなかったですけど、こいつが弟のダーマで、あっちでメリサと戯れてるのが、妹のラーマです」
「宜しくお願いします」
「ああ、カーマとそっくりだから直ぐに分かったぞ。これから宜しくな」
機嫌の悪そうなフェイさんに二人を紹介し終えていると、メインイベントの出場選手が会場中の掲示板に張り出される。
そして、その掲示板を見た人々は、揃って歓喜の声を上げていた。
「何っ!? あのゴーレム女が一夜限りの復活だと?」
「あいつが出るなら、俺の全財産をアーチ・クルーパーに一点賭けだぁ!!」
「俺も!!」
「俺も全部だ!」
名前を聞いただけで常連のコロカス共は受付に走り出す中、フェイさんは、静かに勝ち誇った表情を浮かべていた。
「フッ……馬鹿な連中だ。これで、逆に賭ければ、俺だけが本当の勝ち組だ」
「あんた、まだ賭けんのかよ?」
「当たり前だ! 俺はな、勝つまでやるから負けねぇんだよ!!」
「何言ってんすか、あんた」
財布を握りしめたフェイさんは、謎の台詞を残して受付へと走り出した。
「ダーマ、あんな大人になっちゃいけないぞ」
「うん、気を付ける」
フェイさんが席に戻って来る頃、場内が暗くなっていくと同時に、舞台上に光が集ると、その中心に闘技場の支配人も務めている警備長が、覆面を付けて登場する。
「レディース、アンド、ジェントルメーン!! お待たせしました。これより、本日のメインイベントを開催します! 司会は勿論この私、【マスク・ド・ケイビ】が勤めさせて頂きます!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおーーー!!!」」」」」
会場の熱気に押される様に、大人しくしていたダーマも立ち上がる中、出場者が呼び込まれる。
「まずは、こいつからだ!! この闘技場を出禁になる事五回。その度に不正と変装を繰り返して勝利を重ねて来た、闘技場の黒歴史 アーチ・クルーパー!!」
警備長の掛け声と同時に、出場口の両脇に火柱が立ち昇ると、その中から舞台上にアーチが姿を見せる。
「「うおおおおおおおおおおーーー!!!」」
「兄ちゃん!! 本当にアーチが出て来たよ!!」
「ああ、そうだな。ちゃんと応援するんだぞ!」
「うん!」
「フェイさん。アーチの奴、今まで何をやらかして来たんですか?」
俺は、アナウンスの内容を確かめようとすると、フェイさんは、顔に右手を添えながら、渋々口を開いた。
「我が妹ながら情けないから俺の口からは言いたくないが、ゴーレムを使って自作自演の八百長をしたり、【マスク・ド・ケイビ】に喧嘩を吹っ掛けたりと、散々なもんだぞ」
「まぁ、予想通りって感じですね。それで、アーチの対戦相手って?」
「見てりゃ分かるぞ。あいつだ」
「あいつ?」
すると、会場の声が落ち着いて来たのを見計らって、警備長がもう一人の出場者の呼び込みを始める。
「運搬実績は王都一、彗星の如くこのロムガルドに現れた、期待の引っ越し業者!! ガバガバ通運の若頭! ガバガ・バナンスー!!!」
アーチの対戦相手は、まさかのガバガだったのだ。
ガバガには申し訳無いが、この勝負、アーチの勝ちで決まった様な物だ。
俺は、今から負ける事が決定してしまっているガバガを憐れんでいると、アーチ同様に出場口から火柱と共に派手に登場する。
「負けんじゃねーぞ!! 引っ越し屋!!」
残念ながら、フェイさん以外の歓声は聞えないが、やる気十分な顔付きのガバガは、アーチに歩みよると、大声で宣戦布告を口にする。
「おい、ゴーレム女!! 勝手に伝説扱いされているらしいが、俺とやるのは初めてだな。存分に楽しませて貰うぞ!!」
ガバガの大声に呼応する様にアーチも言葉を返す。
「良いけどさー、カッタルの時みたいに一撃で吹き飛ばされないでよねー」
「あの時はお前もボロボロだっただろ!!」
「そうだったっけ? あたし、馬鹿だから忘れちゃった! でも、試したい新技があるんだよね……」
「良いだろう。俺も新しい何かを見せてやるよ!!」
二人の舌戦が白熱する中、【マスク・ド・ケイビ】が間に入って、観客への補足説明を行う。
「それでは、この対戦でのオッズを発表します。アーチ、1,3倍。ガバガは27,4倍となります。かなりアーチ選手に人気が集中していますね。また、試合中では、故意に会場を破壊する行為や、観客や私に危害を加えた場合は、その時点で失格、半殺しとなります。特にアーチ選手は気を付けて下さい」
「いいよー!!」
「俺も問題無い」
「それでは行きましょう!! 六十分一本勝負、レディー……ファーイトッ!!!」
多くの観客が見守る中、【マスク・ド・ケイビ】の掛け声で勝負の火蓋が切って落とされると、先に動いたのはガバガの方だった。
「【憑依】!! 貰ったぁー!!」
ガバガは、首から下の身体に炎の魔力を纏うと、その巨漢を活かしてアーチへ突進を仕掛ける。
「あーらよっと!」
アーチは、ガバガの突進を読んでいた様で、難なく横っ飛びで回避すると、お返しとばかりに煽って見せる。
「それのどこが新しいのよ?」
「もっとよく見ろ! この俺は、新しく足の裏まで【憑依】する事に成功した。つまり、お前に勝ち目は無いって事だ!」
「意味が分かんねぇよ!!」
「分かんねぇのか! 俺の突進は、ほんのちょっとだけ早くなったんだよー!!」
「元々のあんたを知らないからどうでも良いわよ!」
「なら、お前の新技を見せて見ろ。その上で、俺の成長を見せてやる」
「オッケー! じゃあ、ちょっと待っててくれる?」
アーチは突然、何かを始める為に中央で立ち止まった。
すると、そんな様子を見かねたダーマが席を立ったまま、心配そうに俺の方を振り返る。
「兄ちゃん、アーチ大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。あいつは殺す方が難しいタイプの人間だ」
俺が心配するダーマを宥めていると、隣のフェイさんは、周りの人間の視線を独り占めにする程に汚い声を張り上げる。
「今だ引っ越し屋!! 殺せ! やっちまえ!!」
「兄ちゃん、この人ちょっと怖いよ」
「だから言ったろ? 闘技場は怖いって」
「うん。兄ちゃんの言う通りだった」
「でも、ここまで来たら、アーチが何かするから楽しみに見ような」
「うん。アーチ、頑張れー!」
ダーマが懸命に応援を再開する中、アーチは、新たな試みを舞台上で巻き起こす。




