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第二話

何故早く起こしてくれなかったのか?


 何故もっと早く自分は起きれなかったのか?




 そんな風に誰かを、責め立てようとする口に、できるだけ朝食を詰め込んで食卓を飛び出した。




 自室で着替え、洗面所で顔を洗い、入念に歯を磨いて……。広い家を駆け巡りながら急いで支度を済ませ、玄関へ向かう。




 玄関には、ばあちゃんが用意してくれたであろうリュックサックが置いてあった。




 心の中で感謝しながら、リュックサックに片腕だけ通し足に靴を履かせる。




 その最中に、後ろに気配がしたので振り返ると、ばあちゃんがいつも通りの柔らかな笑顔を浮かべて立っていた。靴紐を結び終えた俺は立ち上がり、ばあちゃんと向かい合った。




「じゃあね、ばあちゃん。行ってくるよ」




 そう声をかけたが、ばあちゃんは笑顔のまま俺の顔をマジマジと見上げるだけだった。小っ恥ずかしくなり、ついニヤついてしまう。




「ばあちゃん、何? ジロジロ俺の顔みて、俺の顔になんかついてるか?」




 その質問に、ゆっくり首を振るばあちゃん。




「いえいえ、そういう訳では……ただ……」




 そう言うと、もう一度俺をを見上げた。表情は変わっていなかったが、その瞳の奥には寂しさが宿っているように見えた。




「本当に大きくなられましたね。エルお坊ちゃま」




 恥ずかしさと嬉しさが入り交じったような感情が胸の中を満たす。




 ばあちゃんのお陰だよ。


 心の中で呟く。恥ずかしくてとても言えなかった。


 代わりにとびきりの笑顔を見せてやると、ばあちゃんは満足そうに頷いた。




 俺は玄関を飛び出す。




「いってきます!」




 閉まろうとする扉の向こうに、小さく手を振るばあちゃんが見えた。










 玄関を出ると、くるぶしほどの長さの草原が一面に広がっていた。天井に吊るされた偽物の太陽によって照らされ、青がより青く輝いているように見える。




 その新緑の大地を這うように、玄関から肌色の一本道が伸びていた。




 我が家を背に、その道を進んでいく。この道に沿っていけば、中央都市に迷うことなく着くだろう。しかしとてもじゃないが、授与式に間に合わなくなる。




 こういう時のための俺特製の近道があるのだ。




 道に対して左に曲がり、少しの間、道無き緑を歩いていく。すると草葉の絨毯がめくれがり、濃い茶色の土が顔を覗かせてる場所がある。




 いつものように、そこに足を揃えて立つと、両手を後ろへ振りかぶり足を曲げ腰を落とす。そして両手前へ振り上げると同時に、両足で全力で地面を蹴り飛ばす!




 ATK:9999を超えた脚力は、いとも容易く体を吹き飛ばし、空高く持ち上げた。我が家から街へ向かっての立ち幅跳び。本来なら何時間も掛かる道のりを、鍛え上げた筋力の暴力が数分に縮めてくれる。




 ただ着陸に失敗すると、ただの捻挫じゃ済まされないというリスクもあるが、今日ばかりはそうは言っていられない。




 気の遠くなるほど長い対空時間を経たあと、弧を描き終えた体は、街の近くの草原に叩きつけられた。着陸と同時に舞い上がった土煙が、俺の視界を覆う。




 咳き込みながら土煙をかき分けて進むと、石のタイルとその上に石材やら木材で建てられた町並みが顔を覗かせる。さらに人々の飛んできた俺へ注がれる好奇の目も現れた。




 誤魔化すように後ろ首をかくと。街の住人達は視線外し、自分たちのやって作業へ戻る。




 俺はフゥと肺の奥に溜まった古い空気を吐き出す。服にしがみついている土を払い、街の中心……天から降り注ぐ光に最も近い場所へ足早に向かった。


 








「ふい〜〜、やっと着いたぜ」




 額の汗を拭い一息つく。目の前には、はるか上にある光玉に手が届くのではないかと錯覚する程の、巨大な建物があった。




 ここが目的地、ギルド会館である。




 相変わらずデカさに関心しつつ、上を見上げる。そこには、十時十二分を指した時計がギルド会館の外壁に高々と掲げられられていた。




 まぁ十二分くらい誤差だろう。




 今頃開会式が行われているであろうと予測し、ゆっくりと扉を開けていった。190cm近くある身長をめいっぱい屈めて、ゆっくりと入っていく。




 まず真っ先に目に入ったのが、横に数列、縦に数列と見事な長方形に整列した同級生達の背中だった。




 このどこかに顔見知りやらピテアがいるはずだが上手く見つけられない。それほど多くの人数が並んでいるが、それでもなお、この会館には余裕があった。




 ずらりと並んだ後頭部の向こうには、壇上に上がり、難しい言葉をつらつらと並べ、開会を宣言しようとしているお偉いさんが見える。




 そして同級生達を囲うように立ち並んでいる、大人達。恐らく親御さんやらギルドスカウトの類だろう。




 怖いくらい真剣な眼差しを、中央に並ばされたティーンエイジャーに注いでいた。自分達が授与式に参加する訳でもないのにだ。


 しかしそれほど重要なのだ、この授与式は。




 俺が周りの様子を伺っていると、バタン!と扉の閉まる音が後方から、この緊迫した空間に響き渡った。


 油断したぁ……。


 当然視線はこちらに注がれるわけで。




「ど、どうもッス」




 熱い視線に、軽い会釈で答える。冷ややか反応を残しつつ、元々置いてあった場所に彼らは視線をそれぞれ戻し始める。




 しかし保護者達は、まだ俺に興味があるようで、チラチラと目の端に捉えたり、コソコソと話し始めたりしているようだ。




 それに構わず、中央に並べられた人の群れに俺は飛び込んでいく。人の肩と肩の隙間を縫いながら、何とか自分並ぶべき場所にたどり着く。




 それと同時に、拍手が鳴り響いた。どうやらお偉いさんのありがたいお言葉が、終わったようだ。




「それではこれより、神器授与式に移ります。名前の呼ばれたから、壇上にお上がりください」




 待ちに待った授与式の、始まりを実感する。


 心臓の拍動が強くなり、期待に身体が熱くなるの確かにを感じた。

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