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アマトゥスと共に  作者: 鼈甲飴
第一章 夢想の大地編
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第十話〈予感〉






「…………“扉”、開かないなぁ」

「そうだねぇ」



のんびりとした休日。エルフの里では、6日に1度、働かないという休日が設定されている。人によってもちろん日にちは異なるが、オーヤとアリシアの休日は同じだ。


エルフの里に来て、6日目。


2人は、初めての休日を持て余していた。



「やる事無いなぁ」

「そうだねぇ」



寝そべるコンドル君の背中に寝転がり、日を浴びながら、流れる雲を眺める2人。相変わらず、白い月が二つ、重なるようにして空の奥に座っている。


“扉”は、未だ開く気配はない。エルフの長曰く、どうやら今回の“扉”はかなり大規模なようで、もしかするとそのせいでかなり現世(セグ)魔力(アムテル)を消費していて、開くのが遅れている可能性がある、とのことだった。



「畑はどうなんだ?」

「んー、この時期は種蒔きだから、あんまり面白いことは無いかなぁ。でも、みんな優しいし、楽しいよ」

「そっかぁ」

「オーヤはどう? 森の方は」

「初日以外は、ヤコウオオカミは見てないからなぁ。まぁでも、里の子供達を守るためだと思えば、やり甲斐はあるけど」

「……変態」

「何で⁉︎」



初日こそヤコウオオカミに襲われたとはいえ、それ以降は特に何もなく、バヤルフ達と共に哨戒任務をこなしてきたオーヤ。


子供達と遊んだり、狩りに同行したりもしたが、休日は何もするなとホルゼに言われたので、今日は二人ともこうしてのんびりとしているというわけだ。


オーヤとしては是非第二回コスプレ大会を開催したいと懇願したのだが、予想外にもアリシアよりもホルゼの猛反対にあってしまった。

曰く、自分がいないのにオーヤだけアリシアのコスプレ姿を拝むなんて許せないとか、オーヤが欲情してアリシアを襲う危険性があるだとか。


全く、酷い言い掛かりだ。





“扉”が開けば、ホルゼ達とはお別れ。もう、二度と会えないかもしれない。それくらい、“扉”の出現頻度は低い。その上、同じ場所に開くことなど、皆無と言ってもいいくらいらしい。だからこそ、何でもない会話にも、価値を見出してしまう。


少し、センチメンタルな気分なのかも知れない。


しかし、それを態度に出すとアリシアを心配させてしまう。こう見えて、アリシアは心配性だ。あまり心労はかけたくない。




「何か眠くなってきちゃった」

「そうだな」



しかし、偶には休日も悪くない。里はいわゆる限界田舎で、マトモな娯楽など何一つもないが、それでも、それはそれで良いものなのだ。





いつの間にか、眠ってしまったのだろうか。横を薄目で見てみれば、アリシアも可愛い寝息をたて、眠ってしまっている。髪をそっと触ってみる。スベスベだ。顔を埋めたくなるが、後でバレた時に、アリシアの反応よりもホルゼの逆鱗に触れる気がして、怖くなり、そっと手を離す。

あの小屋で暮らしていて、一体どんな事をすればこの髪質を維持できるのか聞いてみたい所だ。



まだ、昼下がり。もう少し、アリシアとの2人の時間、この素晴らしい、何にも変え難いかけがえのない時間を味わいたい。

そう思い、アリシアの寝息を聞きながら再び目を閉じるが、何やら気配を感じ、寝返りをうつふりをしてこっそりと庭の外へ目を向ける。



(子供たちか。遊びに来たのか?)



何人かいる子供たちが、門の塀の向こうからオーヤのいる庭を覗いている。しかし残念、ここにいるのはアリシアとオーヤ、しかも、2人はコンドル君に乗っているため、子供達から見えるのはオーヤだけだ。



(お、ミーたん)



ミーたんもいる。相変わらず可愛いな。今日は編み込みを入れている。そのヘアアレンジ、最高だ。出来ればオーヤが直々にやってあげたいものだが。しかし、ミルに触れるとホルゼがこれまた激昂する。一体何が気に食わないというのか。


子供達が何やら頻繁にテレパシーを飛ばしあっているのを感じるが、オーヤの方までは届かない。ホルゼクラスになれば、遠くからでも、自分に発せられたテレパシーでなくとも聞き取れるらしいが、オーヤはそうもいかない。やはり、まだまだ訓練が必要か。まぁでも、盗み聞きは良くない。


しかし、どうやら遊びにきたようでは無いようだ。いつもなら、彼らは遠慮なく庭に押し入ってくる。


あれで隠れているつもりのようだ。仕方がない。このまま寝たふりをしてやり過ごすことにしよう。



『……!』

(ん……?)



子供達の方から、若干の緊張感と、それから高揚感を感じる。どうやら、テレパシー程のハッキリとした信号では無いものの、子供達から漏れてきた感情が伝わってきたようだ。


練習すれば、血の契約を行なっていない者の心を読む、なんて事も可能だとホルゼは言っていた。


オーヤとしてはアリシアとテレパシーが通じれば何の問題も無いので、特に心を読む必要性も感じないが。心を読んだところで、人間社会のドブのような闇が見えるだけだ。



青空には、ゆっくりと雲が流れている。緩やかな風。森の香り。元気な子供達。微睡むアリシア。


何と、平和なことか。


エルフの里。


最高の異界(ロア)ライフだ。



以前、アリシアは、現世(セグ)に帰っても、もし記憶が戻っても、共にいてくれるかと、オーヤに聞いた。


しかし、聞きたいのはオーヤも同じ。



(アリシア。君は……現世(セグ)で、家族のもとへ戻っても、俺をそばにおいてくれるか……?)



アリシアの、役に立つようにならなくては。せめて、アリシアの弾除けになれるくらいには。そのために、オーヤはホルゼの特訓を受け続けている。



「お?」



そんな事を考えていたら、いつの間にか子供達はいなくなってしまっていた。このままこっそり入ってきたら、いきなり起きて驚かせようと思ったのだが。



『ダメだよ、そんな事しちゃ。こわがらせちゃう』

「あら、起きてたか」

「心の声、ダダ漏れだよオーヤ。気をつけなきゃ」



何と、心の声で起こしてしまったか。しかし、無意識の心の声とは、どんなのが漏れていたのか、少し心配になってしまう。まさか、ミーたんにまで聞こえてはいないだろうな。



「これ、どのくらいの距離まで届くんだろうな」

「うーん、どうだろう。ホルゼちゃんは、よく知ってる相手でも、テレパシーじゃない心の声は近くまで行かないと聞こえないって言ってたよ」



ほうほう。ならば、先程の心の声が子供達に聞こえていたという事は無さそうだ。今でこそ普通に使ってはいるが、それでもオーヤはテレパシー初心者。良くも悪くも能力不足だ。



「しかし、テレパシーを使いこなせるようになったら、それはそれで便利そうだけど」

「私たちもちょっと練習してみる?」

「そうだなぁ。遠くまで飛ばせた方が使い勝手いいか」

『じゃあ、これからなるべくテレパシー使おうか』

『マジか……』



アリシアは、何だかんだこういうところがある。即断即決、即行動。自分に厳しいところも、また良い。



『だって、オーヤの心の声で起こされるのヤダもん』

『…………すみません』

『でも、子供達、どうしたんだろうね』

『うーん。隠れんぼでもしてるんじゃないか?』

『でも、みんな一緒にいたよ?』

『あー、それもそうか』



じゃあ、オーヤに会いにきたとか?



『……ダダ漏れ』

「ふっ……」



ダメだ。オーヤにテレパシーは向いていない。ここまで心の声が漏れるとは。いや、しかしバヤルフ達はそんな素振りは見せていなかった。アリシアの心を読む能力が優れているだけではなかろうか。


いや、心の声が聞こえやすいのは親しい相手、もしくは集中している時だとホルゼが言っていた。つまり、アリシアは既に家族だという事だ。既成事実、万歳。


しかし、漏れるのがアリシアだけならばさほど問題は無いないだろう。



現世(セグ)だと、テレパシー使える人なんていないよな?』

『うん、いないと思うよ。少なくとも、私は聞いたこと無いかな』

『じゃあ大丈夫か』

『…………』



おっと、今は何となくアリシアが呆れているのが伝わってきたぞ。心からではなく、表情からだが。



『ホルゼ、今日は早上がりって言ってたよな?』

『うん。戦士長が、私たちが休みだからホルゼちゃんも早く上がれるようにしてくれたんだって』

『良い職場だ』

『そうだね』



遅めの朝ごはんを食べ終わってから、ずっとこうして庭でのんびりしているから、もう昼過ぎだろうか。もうそろそろ、ホルゼが帰ってくる時間だ。



『今日はオーヤがご飯作ってよ』

『え? マジ? 記憶喪失だよ? 一応』

『でも、作れそうだと思うけど……』

『そう? じゃあやってみるかぁ』

『私も手伝うね』

『おぉ……2人の、初めての共同作業……』

『やっぱやめとこうかな』

『冗談! 冗談です!』



正直なところ、あまり気が進まない。というのも、なんというか、調味料がオーヤの知るものと違うのだ。アリシアは何とも思っていないようだが、それはここ、異界(ロア)で5年過ごしたせいなのか、それとも現世(セグ)でもそうだったのか分からない。


しかし、ホルゼの家に常備されている調味料は、オーヤにとって全く馴染みのないものばかりだった。だから、味付けやなんかは全く手探り状態なのだ。



『よし、そうと決まれば、早速仕込みに入ろう!』

『え? まだホルゼ帰ってきてないぞ?』

『いいから! 作っといて、驚かせよう!』







ここに取り出しますは、アトキントの森で獲れたミツメイノシシの燻製。ほんのり甘い香りがする燻製肉を切り分け、里で栽培している植物から採れた油で炒めます。謎の薬味と一緒に炒め、臭みを取ります。そこに、里で主食として食べられているイモを練ったものを細く切った麺と、畑で採れた色とりどりの野菜を投入し、よく炒めます。後は、こちらの、アリシアが選んだ謎の調味料数種類を混ぜ合わせたタレを入れ、よく炒めたらあら不思議。焼きそば風の何かの完成完成。



『何、これ?』

『うーん……焼きそば?』

『もうちょっと、お洒落な料理が、よかったかも』

『…………』



そう言われましても。初心者にオシャレな料理は難易度が高い。

まぁ、味は不思議な味だが、美味いと言えなくもない。食べられればいいのだ、食べられれば。





「…………」

「…………」



夕方。


日は沈みかけ、窓から見える空は、既に赤く染まっている。カラスの鳴き声。夕刻を知らせる鐘。


2人は、すっかり冷めた焼きそばもどきをテーブルに置き、向かい合って黙りこくる。


ホルゼは、まだ帰ってこない。



「なぁ、遅くないか?」

「……うん」

「なぁ、もう食べようぜ」

「……もうちょっとだけ」

「…………この会話、1時間前もしたぞ」



昼過ぎに帰ってくる予定だったホルゼ。もう夕刻なので、軽く3、4時間はオーバーしてしまっている。仕事が長引いているのか。初日の事があるだけに、心配になってくる。しかし、緊急事態ならば鐘が鳴るし、何かあれば誰かがここまで来るだろう。


だが、その3、4時間を待ち続けるアリシアも、なかなかに強情だ。オーヤは焼きそばを作る段階で空腹のピークを過ぎてしまったので、待っても別段構わないのだが、アリシアは作り始めた時から今の今までずっとお腹を慣らしている。美少女の腹の虫はなかなかに可愛らしいが、一度決めた事は曲げない性格らしい。



「でも、折角オーヤが作ってくれたのに」

「こんなので良いんだったら、また作るから。それより、これだけ遅いと流石に心配だな。ちょっと見に行ってみよう」

「そうだね。物見に行けば誰かいるかな?」

「あぁ。今日は多分戦士長のチームが見張りだったはずだから、戦士長がいるかな」



冷めた焼きそばを置き去りに、2人は外へ出る。庭には、コンドル君はいなかった。コンドル君は、こうして時たまいなくなる。アリシア曰く、エサを取りに行っているらしい。



「ん?」



ホルゼの家は里の端にあり、中心からはかなり離れている。


だから、気づいていなかった。


いつもは静かなエルフの里が、騒がしい。テレパシーも飛び交っている。



「何だ?」

「どうしんだろう……」



自然と、2人の足取りも早まる。何だろうか。嫌な、予感がする。何か、あったのか。緊急事態の鐘は、間違いなく鳴っていないが。


この感覚。物見に行くより、集会所に行く方が早い。2人は顔を見合わせ、一気に駆け出す。



「戦士長!」



里の中心、戦士団の集まる集会所の前に、戦士長と隊員、そしてエルフ達が集まっていた。



『オーヤ……! 良かった、今呼びに行こうと思ってたんだ』

『何かあったんですか?』

『それが……ヤコウオオカミが出たんだが』



ヤコウオオカミだと。また、逸れ個体か。もしかして、死傷者が出たのか。ホルゼは……ホルゼが……



『いやいや、違う。今回は死傷者なしで倒した。ホルゼ達の部隊はさっき帰ってきた』

『何だ、それで帰りが遅かったのか……』

『だが、さっき里の親御さん達から子供達が帰ってきてないと報告があってな。里を探したんだが、どこにもいない。それで、もしかして森に入ったんじゃないかと、ホルゼ達が森に捜索に入ったところだ』

「子供、達……?」

「もしかして……」



思わず、アリシアと顔を見合わせる。スッと、血の気が引く。こういう時だけ、頭が回ってしまうのは何故だろう。


子供達。


里の子供は、それほど数が多いわけではない。せいぜい、幼い子供は、数十人といったところだ。



『何だお前ら、知ってるのか?』

『何人、でした?』

『行方不明は全部で7人。あぁ、お前の騒いでたミルもだ』



別に騒いではいない。あんなに可愛い娘はいない、俺が育てたいと声高に宣言していただけだ。だけだが…………確定だ。


ホルゼの家は、里の中の家では一番森に近い。

子供達は、遊んでいたのではない。


森に行くために、人目を避けて里の端まで来ていたのだ。



「ど、どうしよう……」



アリシアが呟く。2人とも、事の重大さに気づいてしまった。


アトキントの森。


浅い領域だとしても、暗くなれば当然、危険は増す。初日の事態もある。それに、ヤコウオオカミ。最近は逸れ個体も多く出現し、何より今日も出たばかり。


さらに。



「もう、5時間は経ってるぞ……」



子供達を見たのは焼きそばを作る前、つまり昼前だ。


子供の足でも、5時間も経てば相当な距離を進める。森に土地勘の無い子供達だ。どんどん里から離れていってしまった可能性もある。



「団長……」



オーヤは、昼間に子供達を見た事を団長に伝える。団長の表情が険しくなり、最後に頷く。



『よし、分かった。お前も捜索班に加われ』

『……了解』

『緊急事態の鐘を鳴らせぇ! 子供達は森へ入ってから既に5時間は経ってる! 事態は一刻を争うぞ!』



一気に、里が騒がしくなる。


緊急事態の鐘が鳴ると、非番の戦士はもとより、動ける成人男性が総出で出張ってくる。今回は獣による被害では無いため、女性達も出てきて、子供達が連れ帰られた時のために、あらゆる事態を想定して準備を始める。



「オーヤ、私も行く」

「いや、危ないからアリシアは……」

「オーヤ、お願い」

「マジで言ってんの?」



しかし、アリシアの表情は真剣そのものだ。最近分かってきたが、アリシアはこの表情の時は人の意見を全く聞かない。オーヤが言っても意見を変えないだろう。だが、戦士長の言い分となればまた違うはずだ。



『いや、オーヤ。アリシアは頼りになる。是非連れて行くんだ』

『えぇ……?』



しかし、オーヤの予想に反して戦士長は大賛成。思わず戦士長に対して怪訝な表情になってしまうが、しかし戦士長自身は至って真剣な表情。何か、考えがあるのか。それとも、アリシアの特性を知っていてのことか。知っていてのことなら、尚更連れていきたくはない。しかし、今のところはアリシアよりもミル達、子供達の方が危険に晒されている度合いは高い。



『分かりましたよ。アリシア、俺の後ろだぞ』

『分かってる』



迷っている時間の方が惜しかった。アリシアが力強く頷く。




日が、沈む。


夜の森。


しかも、アリシアを連れて。


ここから先は、未知の世界だ。



「バヤルフ!」

『オーヤ! もう皆準備できてる!』

『すまん、アリシアも連れてって良いか?』

『おぉ⁉︎ アリシアさんも来てくれるのか? 心強い』

(どうなってんだ……?)



先程からみんなのアリシアに対する反応がおかしい。まるで、アリシアが最強の戦士みたいではないか。ホルゼじゃないんだぞ。


バヤルフを先頭に、軽装備の部隊員とオーヤ、そしてアリシアが森へ入る。



『僕たちの捜索範囲はゴダ湖周辺だ! あそこは里から近いけど、草木が高くて、入り組んでるから慎重に探そう!』

『「了解!!」』



鼓動が早まるのを感じる。


何だか、予感がする。





これは…………悪いことが起きる、そんな予感だ。

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