ボイスログ:2
本日は、2話更新です。
電気の点いていない特別研究所の中で、スマホの明かりと月明りだけがマリアを照らす。
「2026年8月10日、曇り。
完全思考補完型チップだけを主軸とするプランAだけでは、間に合わないと考える。
中旬に、京都で行われるシンポジウムにて、何か手がかりが得られないか、努力したいと思う。
しかし、もしもの事を考えて、プランBも同時並行で始めようと思う。
……………覚悟が必要だ。
何といったって、初めての試みなのだから。
それでも、もし、その時が来たならば受け入れなければいけない。この研究を始める前に、科学者としての自分をすべての注ぎ込むと誓ったのだから。それはつまり、マリアという自分全てを勝負に賭けたということであり、その結果を受け入れないという事は、自分の根源を否定する事に繋がるからだ」
私はそこで区切り、録音を終えようとしたところで、最近自身について回る事になった男に思いを馳せる。
別に男について話す必要はなく、余分ではあった。
ただ、その余分を取り入れられなければ、先が思いやられると考え、消さずに続ける。
「最近、傍においてやっている。星野優胡についての所感を語る。
まぁ、悪くない。というか、容姿はかなり私好みだ。
身体がそんなにゴツくなくて、髪が長めなのがいい。
特に、顔なんて美少年のように綺麗で可愛い。まったくもって、私が好きそうな容姿だよ。
本人はコンプレックスに思ってそうだがな」
そこで、言葉は途切れ、クツクツとした笑い声に変わる。
一通り、笑うと、また所感に戻る。
「もしかしたら、藤原先生が気を回したのかもしれない。それにしたって、あんな美少年を送って来るとは、さすがだな」
窓の外、夜空を揺蕩う小さな雲と積乱雲を眺めながら続ける。
「性格の方も、わりと分かってきた。
あいつ、可愛い顔に反して、中々性格が黒い。あとは、仕事だからだろうが、意外と私に付き合ってくれるのは、悪くなかった。
この前なんかは、初めて二郎系ラーメンとやらに挑戦した。思いのほか、美味かったな。次の日は胃もたれがヤバかったがな」
思わず、笑みが漏れる。
普通だったら、嫌な記憶も、笑える記憶になるのだから不思議だ。
私にとって、初めての感情だった。
何故なら、いつも孤独にして孤高であり、閉ざしていたから。
「ふっ、少し話過ぎたか。
明日は早い。ここら辺で寝るとする。
それでは――」
終了。
その言葉が、煙と共に吐き出される。
凪いだ夜の東京湾は、地獄の底のような恐怖を想起させた。




