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京都での冒険

 食事を終えた後、俺とマリア先生は八坂神社に向かいお参りをした

 祇園の総本山とあり、多くの観光客では溢れていたが、それでもこれから行く場所に比べれば、現地の人も負けないくらいの多くの人が足を運んでいた。

 めちゃくちゃ、大きい神社とまではいかないが緻密で繊細な雰囲気を纏っていた。

 俺とマリア先生は、そこで籤を引くことにした。


「せーの」


 で、籤を開く。


「おっ、大吉だ!」


 俺の籤は大吉だった。

 対して、マリア先生の籤は、真反対だった。


「げっ、大凶じゃねぇか。最悪だ」


 思いもよらない結果に苦笑する。

 なんだか、先行きが不安になるな。


「ま、しょうがないですよ。こんな日もあります」


 思いのほかガッカリしているマリア先生を励ましながら、次へ向かった。

 次は京都の主役である清水寺だ。

 流石にここは、観光客を主役に多くの人がいた。

 俺は入り口でもらったパンフレットをみながら、清水寺の解説をする。


「清水寺は歴史ある寺院で、778年に僧・延鎮によって創建されました。

 清水寺の最大の見どころは、本堂にある「清水の舞台」です。釘を一切使わずに組み上げられた伝統的な木造建築で、高さ約13メートルの舞台からは京都市内を一望することができます」

「ま、見ればわかるよな。そこが一番有名し」

「そうですね。てか、釘を一切使わずに組み上げられているんですね。

 東京タワーも命綱やヘルメットも使わず何度もあるリベットを受け渡しして、建設したらしいですし、昔の人の技術ってやつは凄いですね」

「そうだな。今では到底考えられないようなことを平然とやってのける。東京タワーだけではなくて、他にも探せばいっぱい出てくるんだろうな」


 俺とマリア先生は、その舞台へと移動する。確かに、京都の街が一望出来た。

 昨日や今日で、京都の街をいろんな角度から眺めているが、それでも一切飽きることはない。

 緑と青の都があった。


「そんなことを今の社会では出来ない。だから、たまに今の人間は昔に比べて弱くなってしまったと思いますよね」

「そうだな。でも、そんなことはないのさ。

 今も昔も良くも悪くも人間は変わらない。強く欲深い人間だ。だから、決して弱くなってはいない。ただ、時代と共に形を変えているだけだ」


 それは、何というか、悲しい裏付けだ。

 今の人間を肯定しているが、その背景はネガティヴなものであった。


「…………この壮大な構造から、「清水の舞台から飛び降りる」ということわざが生まれ、大きな決断を意味する言葉として今も使われています。また、本堂の下には「音羽の滝」があり、三本に分かれて流れ落ちる清らかな水には、それぞれ学業成就・恋愛成就・延命長寿のご利益があるとされています。参拝者は柄杓を使って水を飲みますが、一つの願いごとに絞って飲むのが良いとされているらしいです」


 俺たちは本堂から移動し、実際にその滝へと来ていた。

「おお、凄いな。こんな歴史的建造物の敷地の中に滝があるなんて」

「そうだな。滝っていうのが、日本っぽい。

 私は少し、あっちの滝に行っているよ。お前は適当にそこの学業成就の滝で祈っていろ」


 マリア先生はそう言いつけると、一人でスタスタと奥に進んでしまった。

 はて、どこの滝に行ったのだろうか?

 ………。

 …………………。


「すごいな。これが東方見聞録にあったやつか」

「でも、それだけですよ」


 次は金閣寺だ。

 正直、ここは観光としてはかなり淡泊であると思う。

 金色の建物とそれらが水面に浮かぶ様は確かに圧巻であるが、それは最初の数分だけで意外と目が慣れる。そして、慣れてしまえば。あとはやることがないのだ。

 俺たちは、金閣寺の周りを歩きながら、そのまま敷地を出てしまった。


 #####


 金閣寺を数分で出た後、最寄りの駅で出た俺たちは哲学の道を通して銀閣寺に向かった。

 哲学の道は、京都の中でも数少ないお気に入りスポットであった。

 だから、少し無理を言って、哲学の道を歩けるようにしてもらった。


「ここは気持ちがいいな」


 そういって、マリア先生は傍らの小川に目を向ける。

 俺の傍らには新緑が生い茂っていた。

 なんてことのない、川沿いの道であるが、しかし、観光客で賑わう京都の中心地から外れた静かな京都の住宅街が広がっているのが良かった。


「落ち着きますね」

「ああ」


 俺とマリア先生は、少しの間無言で、雰囲気を楽しむ。

 そうしていると、不意に尋ねられる。


「お前、進路はどうするんだ?」


 また、その話か。

 内心でそう思った。正直、この話題には清々していたが、まぁ、そういう年齢という奴だろう。


「いやー最悪ですよ。

 毎朝6時や7時に起きて9時に出勤。

 それから、18時ごろまで働く日々が待っているなんて、耐えられません。

 あー社会人は嫌だ」


 少し就職の事を考えたら、胸がどんよりとした思い霧のようなものが満たされ、身体が重く感じられる。

 こんなにも、空気は美味しいはずなのに、気分は最悪だ。


「そうか?始めてみれば案外、楽しいことが待っているかもしれないぞ」


 マリア先生が慰めのような言葉を口にする。


「そりゃ、確かに楽しいことが待っているかもしれません。他の大人もみんなそんなことを言っています。

 でも、そんな大人たちは、最初には言わないんですよ。まず、社会人の辛いところを述べて、その最後に言うんです『でも、楽しいこともあるぞ』とね。

 もし、本当に楽しいなら、最初に言うはずでしょ?」

「つまり、辛いことが100コくらいあったとして、その中に楽しいことは5コくらいしかないだろ。だから、楽しくないだろと?」

「そういうことです」


 まさしく、俺の思いを代弁してくれた。ありがとう。


「ま、楽しいわけないわな。

 毎朝起きるのも辛いし、上司と喋るのもダルいだろうけども、そんな中で成果を勝ち取るから楽しいんじゃないかな」


 木の葉の陰で隠れるマリア先生の顔を見る。


「毎朝寝坊して、お前に起こしてもらっている、私が言えたことではないけどな」

「それは本当にそうですね。

 あ~~マリア先生の所で働きたいなぁ」

「なに?私の所でか?どうして?」


 マリア先生は驚いて、俺の方を向く。

 俺は気楽に頭に置きながら、素直に答える。


「だって、凄く緩そうですもん。何しても許してくれそう。楽そう」


 実際、寝坊しても何も言われ無さそうだ。


「おいおい、さすがにそれは舐め過ぎだ。

 私でも許さないことはあるぞ」

「へぇ、例えば何ですか?」


 俺は何でもない雑談のつもりで尋ねる。尋ねてしまった。


「例えば…………自慰行為とか」


 その単語が出てきた瞬間、俺の足だけが止まる。

 まさか、気付いていたのか。

 一気に背中が冷や汗で埋め尽くされる。悪い汗が止まらなかった。


「へっ」


 マリア先生も足が止まり、振り返る。

 その顔は馬鹿にするような笑みを浮かべていた。


「まさか、気付かれていないと思っていたか?

 馬鹿が。この私があの臭いに気付かないわけがあるか。

 よくも、私のトイレでマスターベーションをしてくれたな。

 なにか、申し開きがあるなら言ってみろ」


 完全に怒っていた。拳を強く握り、怒りで体を震わせていた。

 ここは、それだけ俺が悪かろうと、弁明だけでもしておいた方がいい。


「ちょっと、待ってください!聞いてください!

 俺が悪いです。それは認めます!

 でも、マリア先生も悪いと思います!」

「ほう、どういう理由で私が悪くなるのかな?こっちは、自分の家のトイレで自慰行為されているんだぞ?」


 さらに怒りで拳を震わせるマリア先生。


「マリア先生だって、裸で寝るのはナシでしょ!

 あんなの……あんなの見たら………こっちだって抑えられるわけがない!」


 脳に焼き付いたその光景を思い出し、否応なしに身体が火照り出す。


「マリア先生は、自分の美しさをもっと自覚してください!

 貴方の身体は、誰にでも見せていいような代物ではないんですから!」


 俺のド直球な言葉に驚き、次いで顔を赤く染め上げる。


「なっ、なっ、な、何言ってるんだ!?

 バカか馬鹿なのか君は!」


 その姿が意外だった。この程度の言葉では、動じないと思っていたが、かなり動揺していた。

 マリア先生ほどの美貌を持っていれば、もっと良い男からロマンティックな言葉を囁きかけられていると思っていた。

 しかし、この反応を見るに、そうでもないらしい。

 それに、よくよく考えれば男性不信の人間が、数時間後には男が来る部屋で裸になって寝ているというのは、不思議だった。素直に男性不信というだけではないのかもしれない。


「バカなのは、マリア先生です。天才科学者だと持て囃されていますが、所詮は学術の範囲なんですね!」

「なんだと、学術の範囲で天才であれば十分だろ!」

「確かに!」

「はん、あんまり舐めた口きいていると、減給にするぞ」

「あっ、卑怯だ!そんなこと言うなら、ストライキを起こしますよ!」

「ああ、そもそもお前の方が舐めた口をきく―――」

「ゴホン」


 俺とマリア先生とは別の第三者の咳払いが入る。

 それは通行人であり現地の人間であった。

 どうやら、声が大きくなり過ぎて、迷惑をかけてしまっていたらしい。

 それに、話の内容もあまり良くなかった。自慰とかマスターベーションとか、裸とか単語を口にしていたからか、怪訝な目で見られていた。


「「すいません」」


 俺とマリア先生は急いで頭を下げて、そそくさと早歩きで、その場を去った。


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