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中之島でバスケをしようじゃないか

 マリア先生とワチャワチャと新幹線で、じゃれ合っている間に気付けば、京都駅に到着していた。

 京都駅に着くころには12時を回っており、お互いにお腹ペコペコであった。

 特に揉める事もなく、京都駅の上階にあるレストラン街で食事を摂る事にした。

 そして、俺たちは今、マリア先生の要望で牛タンのお店に来ていた。


「どれも美味しそうですね」


 メニュー表の写真から和をモチーフにした内装とお店の雰囲気や居心地は最高であるが、その分値段も高かった。


「ああ、私は牛タンを食べるのは初めてだから楽しみだ」


 そういって、メニュー表と睨めっこするマリア先生。

 最近、分かったのだが、マリア先生は意外にも「初めて」が多い。前回の二郎系であったり、富士山、今回の牛タンであったりと、普通に日本に居れば経験するものではなかろうか。

 まぁ、マリア先生は天才科学者なのだから、そのような事に時間を割いている暇はなかったのだろう。


「よし、私は決めた。お前はどうする?」


 マリア先生は決めたらしい。

 俺も急いで決める。

 一応、良いなと思っていたものはあるが、如何せん高い。1万円もするのだ。

 流石にアホすぎる。しかし、この夏休みのアルバイトのおかげでお金はある。

 ここは、奮発しても良いのではないか?

 そう、頭を悩ませていた俺に救いの手が差し伸べられる。


「ここは、私が奢ってやる。なんでも選べ。遠慮するなよ」


 お金持ちからの施し。

 俺はにべもなく、その手を掴んだ。


「じゃあ、これでお願いします」


 すぐに1万円の牛タン定食を指さす。

 マリア先生は驚きに目を見張り、そして――


「アホか!ちょっとは遠慮しろ!

 てめぇみたいなガキは、これでいいんだよ」


 メニュー表で、バコンと叩かれた。痛かった。

 結局、俺は一番安い1200円の牛タン定食に決められてしまった。


 #####


 昼食を終え、お腹を満たした俺たちは、予約しているらしいホテルへと向かった。

 京都駅から出ている市営バスに乗り、出町柳駅前に行く。

 数年、京都を離れていても、変わらず京都のバスは市民や観光客でギュウギュウであった。これも一つの京都の景色。おかげで京都を思い出した。まぁ、満員バスで思い出すというのも悲しい話であるが。

 30分ほどかけて、出町柳に着いた。

 そのまま、北に向かって歩くと住宅街の中に、こぢんまりとした旅館があった。

 マリア先生は迷いのない動きで、旅館の扉を開く。

 すると、すぐに着物を着た女将が奥から姿を現す。


「おこしやす」


 丁寧な所作で頭を下げる。


「予約していた御舟マリアだ」

「はい。お部屋の準備は整っています。こちらへどうぞ」


 女将さんは立ち上がると、しずしずと俺たちを部屋まで案内する。

 木張りの床と狭い廊下を行く。マリア先生はボストンバッグを肩で担ぎながら、後に続いていた。


「こちらです」


 そういって、開き戸を引く。

 部屋は和室であり、非常によく手入れされていた。ほこり一つ落ちていない。


「それでは、私はこれで失礼します」


 しかし、アメリカ育ちのマリア先生が和室を選ぶとは思わなかった。意外だ。

 女将さんは、そそくさと音もたてずに去っていく。さすが、京都の女将さんだ。格がちげぇ。

 そんなことを思いながら、俺も部屋に入ろうとすると、マリア先生に手のひらで止められる。


「私はこれから、明日の研究発表の準備の最終調整に入らなければならない」

「はい、つまり、どういうことですか?」


 尋ねると、マリア先生はため息をつくと、やれやれと言った様子で口を開く。


「察しの悪い奴だ。

 つまり、集中するから出てけ」


 そういって、マリア先生に押される。

 1歩、2歩と後ずさり部屋を出される。そのうちに扉はバコンと閉ざされる。

 締め出された。


 #####


 一応、荷物は部屋に置かしてもらえたので、帰ってくることは出来るだろう。ただ何時ごろにマリア先生の調整が終わり、部屋に入れるのかは分からなかった。ま、適当に連絡してくれるだろう。最悪、連絡がなくとも実家に帰ればいいのだ。

 さて、そんな事よりも俺は暇だ。特にやる事が無くて、辛い。危急、暇つぶしが必要だろう。

 そういう事で、俺は高校時代の友人に連絡した。

 そして、友人はちょうど、現在、中之島にいるらしく、バイトの時間までバスケをしているらしい。

 そこに、合流させてもらう事にした。

 俺は出町柳駅から京阪本線特急に乗り京橋まで行く。そこから区間急行に乗り換え、中之島駅で降りた。計1時間ほどで行くことが出来た。その後、10分ほど歩き、友人がいる公園に到着した。

 友人は相変わらず、バスケットボールを構えて、リングめがけて投げ入れる。そのバスケに情熱と真摯さで向き合う姿は高校の時と全く変わていなかった。


「おーい、元気してるか?」


 俺は視線の先にいる高校時代の友人である高山純に声を掛けた。

 純は俺に気付くと、手を挙げて応える。


「おーっす、久しぶりだな!ユウゴ!」


 純は手に持っていたバスケットボールを俺に向かって強く投げる。

 それだけで、純の意図は伝わる。


「ふっ、1on1やるか。どれ、俺が軽くひねってやるよ」

「言ってろ。お前の方こそ、どうせ、東京に行って鈍ってるだろ。急な運動でケガするなよ」

「ハッ」


 俺は純の言葉に鼻で笑う事で応える。

 ボールをダムダムしながら、どうやって純を突き崩すか考える。

 身体を左右に揺らしながら、リングに向かって走り出した。

 …………。

 ……………………。

 ……………………………………。

 その後、1時間ほどバスケをし、お互いクタクタになったところで近くのベンチに移動する。

 コンクリートジャングルの中で、オアシスのようにある中之島公園は、気持ちが良かった。こういう都市の中にある自然って、田舎の自然よりもありがたく感じるから不思議だ。置かれている自然が、特に違うという訳でもないのに。


「はぁ、はぁ、はぁ。

 やるじゃねぇか。まだまだ動けるな」


 純が口の端を吊り上げながら言う。


「お前も相変わらず、運動量が凄まじいな。

 俺もう、死にそうだわ。お前についていくので精一杯だ」


 さっきは、イキったことを言っていたが、純はバスケがクソ上手い。

 普通に西日本で1,2を争うほどのプレイヤーだ。

 俺とは段違いなのだ。


「ほらよ」


 純は先ほど、そこの自販機で購入していたペットボトルの水を投げ渡される。俺はそれをキャッチし、開栓すると、口の中に含む。

 冷たい水が喉を通り、胃に入る。身体全体の熱が一気に引いていく感じがする。


「うまー」


 死ぬほど汗を流して体を動かした後に飲む水は、美味いな。


「それで、どうしてお前は帰ってきたんだ?」

「あぁ、それな。いま、とある天才科学者の家政婦バイトをしててさ、その人の学会かシンポジウムが京都であるらしくて、俺もそれに同行する事になったんだよ」

「へぇ~~、大分気に入られているんだな」

「ははっ、どうなんだろうなぁ」


 マリア先生のツンツン具合から、俺の事を気に入ってくれているのかは分からなかった。

 シンプルに雑用が欲しかったという理由の気がする。


「いや、そうだろ。じゃないと、仕事に連れてか無くないか?」

「だと、嬉しいけどな。美人だし」


 少し人使いは荒いが、美人にあれやこれやと言われるのは、正直苦ではなかった。


「マジか!美人なのかよ?

 勝手にヨボヨボのおじさんかと思っていた」

「わかる。俺も最初はそう思っていたんだけどな。

 でも、実際会ってみたら、クソ綺麗だったわ。欧米系の美女だよ」

「うわーずりぃ。俺もそのバイトやりてぇよ。幸せな仕事だな」

「いやいや、お前簡単に言ってくれるなよ。結構大変なんだからな。実験で変な薬とか飲まされるし」

「ははは、それは確かに嫌だな。

 でも、もしかしたらその科学者の人、お前の事好きになってるんじゃないか?」

「はぁ!?」


 純が唐突に素っ頓狂な事を口走るせいで、変な声が出てしまった。

 なぜ急に好きという話になるのか。


「いや、だって、お前高校の時から割かしモテただろ」

「え~~そうか?こんなチビより三橋の方がモテてただろ」


 三橋とは俺たちと同じ高校で同学年の生徒だ。サッカー部に所属し10番のストライカー。性格と顔が良く、学校で1番モテていた。


「いや、お前はモテたよ。

 確かに、三橋ほどじゃなかったけど、裏で何人かの女子に「実は星野君も可愛くていいよね」って言われていたんだぞ」

「可愛い枠かよ。カッコいいって言われる方が嬉しいけどな」


 思わず感想を呟くと、反論される。


「バカ、かわいいって言われるだけマシだろ。

 世の中には、可愛い子が好きな女の子もいるんだからな。例えば、その天才科学者も可愛いい男の子が好きかもしれないぞ………ぷっふ」


 途中で言っていて、ありえないと思ったのだろう。純の奴はよりにもよって笑いやがった。

 一応、俺もマリア先生が可愛い男の子を愛しているのを想像する。

 初めて、マリア先生をそういった視線で意識した。

 あまりにも似合わなかった。

 マッチョニズムに憑りつかれているアメリカにおいて、アメリカ生まれアメリカ育ちのマリア先生が、日本の童顔を好きになるわけがない。


「やめよう。この話は」

「ぷっふふふ、そうだな」


 依然として、笑う。

 このままではいじられ続けると思い、純をしり目に、別の話題を提供する。


「お前、進路はどうしたんだ?」


 大学4年生の夏休み。友人の今後を知りたがらないわけがなかった。

 純は大学生になってまで、バスケを真剣にやっている為、密かにプロに行くのではないかと思っていた。

 しかし、返答は違った。


「いや~~今は、トレーナーになろうかなって思ってる」

「そうなのか」


 想像とは異なる進路に驚く。


「ああ、俺さ、大学1年の時にさ、前十字靭帯損傷したの覚えてるよな?」

「もちろん」


 覚えている。

 その時は、俺も病院に駆け付けたものだ。

 純が大きな怪我をし、もうバスケは出来ないかもしれないと診断されてしまったほどだ。

 その時は、俺ですら大きなショックを受けた。もう、純とは一緒にバスケをすることが出来ないかもしれないと。友人の俺が大きなショックを受けたのだから、当の本人は、途轍もない複雑な感情であったのだろう。

 スタメンも奪われ、無気力になっていた。

 それでも、純は立ち直り、現在ではキャプテンとして戦っているのだ。

 そしてーー


「その時に、俺はそのトレーナーに凄い助けられたんだ。体だけでなく、メンタルの面でもな。だから、俺も同じように苦しむアスリートや選手、スポーツを愛している人を助けたいと思うんだ」


 そう、少し照れながら、純は自分の思いを口にする。

 その姿はかっこよかった。

 相性が良く、趣味嗜好を知る長年の友人でも、どんな考えを持って未来を選択するのかは分からない。でも、だからこそ、言葉を交わす。そして、それが楽しい。

 感傷的かもしれないけど、そう思った。


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