熱海注意
ここに取り出したるは何の変哲も無い一枚のタオルでございます。
このタオルを船の上からゆっくりと垂らし、海面に浸します。
タオルが濡れているのを確認したらゆっくり引き上げ、濡れたタオルをそっと触ってみます。
「あっつい!?」
「・・・何をやってるんですか」
・・・いやね、温度がどれくらいか確認しようと思っただけなんだよ。
現在、俺たちが乗っている船は【サラマンデル島】が沈んだ海までやって来ていた。
正確には湯気が上がっている海のギリギリ手前といった所だが・・・もうこの時点でサウナのように暑苦しくなっていた。湯気で視界も悪いし、これ以上進むのは困難だと判断してこの場に船を止めて貰っているわけだ。
本来であればさっそく海の中に潜って探索を・・・となるわけだが、さしもの俺でもこんな沸騰している海の中に、いきなりル○ンダイブする勇気は無い。
という事でタオルを使って海水の温度を確認してみようとしたわけだ。・・・まあ案の定、火傷じゃ済まされないくらいの温度だっていうのは分かったが。
地味にダメージ食らったし。
せめてちょっと熱い温泉くらいの温度だったら良いなぁという俺の希望的観測は脆くも崩れ去ったわけだ。
「これでは直接海に潜って調査するというわけにも行きませんわね」
まったくだ・・・というか、マルコ村長は何で俺たちをここに連れて来たの?
「お主らも冒険者なら何かしらの手段を持っておるんじゃないのか?」
マルコ村長は冒険者をなんだと思っているのだろうか? 冒険者だって人間・・・じゃないのもいるが、普通に熱い物は熱いんだぞ?
・・・まあ、俺たちに調査手段は無いのかと言われればそうでもないんだけどな。
「【ビートル君】、【ガタック君】全機射出!!」
皆さんご存知、小型偵察メカである【ビートル君】と【ガタック君】を全機海中に放つ。さすがに溶岩の中は無理だが、高温の海中くらいなら【ビートル君】と【ガタック君】でも十分に偵察できるはずだ。
「へぇー・・・さすがトップクランの【アークガルド】ですわね。便利な【兵器】をお持ちですわ」
うむ、アヴァンが作ってくれた【兵器】にはいつも助けられているからな。もうアヴァンには足を向けて寝られないな。・・・睡眠とか無いけど。このゲーム。
とはいえ、【ビートル君】と【ガタック君】はあくまで偵察メカだ。仮に重要なアイテムを見つけたとしても持ち帰る事はできないし、モンスターや【邪霊】に見つかれば逃げるしかない。
つまり・・・
「偵察はあくまで偵察なので・・・いざという時のために僕たちも海中に潜る方法を考えなければいけませんね」
「そうだねー・・・一番手っ取り早いのはアークカイザーに乗って潜ることかな?」
【クランメカロイド】に乗り込めば、高温の海水から身を守ることはできるだろう。
しかし、そうなるとクランメンバーではないアニスを置き去りにしないといけないんだよなぁ。それはそれで仕方無いと諦めるのか、もしくは・・・アニスを【アークガルド】のメンバーに加えてしまうか、だな。
しかし、メンバーに加えるとアニスの事がアテナやアルマにばれてしまうんだよなぁ。
現状、アニスは自身の記憶を封印しているようだから、二人に会ってもとぼけるだけだろうし、それ以上の追求はできないだろうから・・・表面上は問題は起こらないだろう。
ただし、アニスの記憶の封印はいつ解けるか分からないし、記憶が戻れば二人に危害を加えかねない。
かといって置いていくのもなぁ・・・さて、どうしたものか。
俺が悩んでいると、アニスは突然立ち上がり・・・船から飛び降りた。
「えーー!?」
「ちょ、ちょっと!?」
突然の動きに止める暇もなく・・・俺たちは慌ててアニスが飛び降りた場所まで駆け寄った。
「・・・大丈夫ですわね」
しかし、当のアニスはいたって平然としていた。
彼女は海面から顔を出している状態だが、彼女が熱がる様子は無い。いや、それどころか濡れてすらいない。
なぜなら・・・彼女の周囲にはバリアのような薄く透明な膜が張られており、それが海水を弾いているからだ。おそらく、球状のバリアがアニスの全身をすっぽり覆い、中に海水が入ってこない状態にしているんだろう。
「【封印の結界】ですわ。文字通り外部からの攻撃を弾くことができます。先ほど、アルさんが海水に浸したタオルを触ってダメージを受けていたのを見て、この場の海水は攻撃として判定されるのではないかと思い試してみましたが・・・正解だったようですわね」
・・・なるほど! 海水が攻撃判定になるのなら、防御スキルで身を守ることができるというわけか。
ここの海に潜る為には全身を守るような防御スキルが必須というわけだ。結果論だが、確かにマルコ村長の言うとおり、冒険者ならこの海にも潜れる可能性が高いな。
とはいえ・・・
「でもいきなりは心臓に悪いですよ。せめて一言ことわってから試してください」
確かにアスターの言うとおり、急に身を投げ出すから驚いてしまった。ほとんど自殺行為と変わらないなわけだしな。心臓に悪い。
「フフフ、申し訳ないですわ」
当のアニスはまるでイタズラが成功した子供のように笑うだけだった。反省してないな、これは。
しかし・・・アニスの奴、最初会った時は冷酷な襲撃者という感じだったのに、今のアニスは普通の女の子のように感情をあらわにしている。こんな子が何故俺たちを襲ってきたのかますます分からなくなってくる。
・・・今はその事を考えてる場合じゃないか。
アニスのおかげで海に潜る方法は分かったが・・・
「僕、バリア系のスキル持ってないんだよねぇ・・・アスターお兄ちゃんは?」
「・・・うーん、【サイコウォール】を全方位に・・・でもそれだと消耗が・・・」
問題は俺たちに全身を守るような防御スキルを持っていないってことだな。
強いて言うなら・・・鎧スキルの【ガードアーマー】か? しかし、あれは防御力を上げるけど熱を防ぐスキルじゃないし・・・【結晶の障壁】で全身を守る? いや、それだと移動が出来ないしな。
アニスは単独で行動してもらって俺たちはアークカイザーで潜るのが無難か?
「ふぁい! ふぁーい!!」
俺とアスターが悩んでいると、カリンがなにやら自分を指差しながら自己主張し始めた。
「どうしたんだ?」
「・・・多分、自分の力を使えば大丈夫って言いたいんじゃないですかね?」
「ふぁい!」
カリンが嬉しそうに頷いた。どうやら、そうらしいが・・・
「え? カリンはアニスがやってるみたいにバリアを張れるってこと?」
「ふぁう!」
俺の言葉にカリンは首を・・・横に振った。え? 違うの?
「ふぁい、ふぁーい!!」
カリンはアスターと自分を交互に指差している。
「・・・あ、もしかしてカリンと【精霊憑依】すれば大丈夫って言いたいのかな?」
「ふぁい!!」
カリンは今度は首を縦に振った。
なるほど、【火炎の精霊】であるカリンと一体化すれば高温の海くらい問題ないってことか。
・・・って俺は?
「マスター・・・ココハ、マスターハ本機ニ搭乗シテモライ、三方ニ分カレテ探索スルノガ得策カト」
・・・ふむ、それが一番現実的かな。全員で一箇所に固まってても効率が悪いし。
「わかりました。・・・では、ミコトをそちらで預かってもらえますか?」
アスターはカリンと一体化して大丈夫だとしてもミコトは生身のままだからな。彼女単体で高温の海の中に入るのはさすがに無理があるだろう。
「わか「あい!」・・・嫌だってさ」
俺が返事をする前にミコトの方から拒否されてしまった。ミコトの方もアスターから離れるのが嫌らしい。・・・決して俺が嫌われているとかそんなんじゃない、はずだ。
「こら、ミコト。あんまりわがままを言って困らせちゃ駄目だよ」
「あい!あーい!!」
アスターが説得しようとするもミコトは聞き入れない。うーむ、いつも聞き分けの良いミコトにしては珍しいな。
・・・これはあれか。新しく出来た妹に父親を取られたくない姉の心境ってやつなのか。
アスターもそれが分かっているのか、ミコトに強く出れないみたいだ。しかし、だからと言ってどうすれば良いのか・・・
「一緒に行けばよろしいのでは?」
と、いつの間にか船の上に上がってきていたアニスが提案してきた。・・・俺たちがグダグダしてたから戻ってきたのかな? なんかゴメンね?
「一緒にって言われても・・・ミコト一人でこの海に潜るのは無理でしょう」
アスターはあくまでミコトのために言っているんであって、ミコトを邪険にしたいわけでは決して無い。しかし、ミコトの気持ちもわかるわけで・・・
「あら? それならミコトさんとカリンさん、両方と【精霊憑依】すれば解決なのでは?」
・・・アニスの言葉に、俺とアスターは思わずお互いの顔を見合わせてしまった。
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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