火炎の精霊
【精霊】が生まれる条件というのはいくつか存在するらしい。
例えば自然の力が強い場所、強い想いが宿った物、長い年月を経て力を持った存在、そして力ある【精霊】が作った分身などだ。【精霊】が森羅万象に宿る存在なだけに、生まれてくる場所、条件、特性などは多種多様なのだそうだ。
当然ながら【ガティアス】によって火山島へと変貌した【サラマンデル島】も、一つの自然環境である事には変わりなく、そこでも【精霊】は生まれてくる。
「【サラマンデル島】で生まれた【精霊】は特に強い火の力を持っておった。じゃから当時は多くの【精霊士】が島生まれ【精霊】と【契約】を結び、その力を使って島の安定に努めておったのじゃ。当然、この子もその内の一人・・・になるはずじゃった」
マルコ村長は赤髪の幼女、もとい【火炎の精霊】の頭を撫でながらそう言った。
「しかし、この子が生まれた直後に島が沈み、ワシらと共に脱出したわけなんじゃが・・・自分の生まれた場所を失ったせいなのか、どうにも不安定になってしまったんじゃ。誰かと【契約】を結び、【霊力】の供給を受ければ安定すると思うんじゃが・・・不安定なせいか誰とも【契約】を結ぶことができず、今日に至るというわけじゃな」
さっきまでボーっとしてたり、反応が無かったりしたのはその不安定さが原因ってことなのか。・・・その割りには猛烈な勢いでカレーを食べていたと思うが。
「じゃからこそ驚いておるんじゃよ。この子は【精霊】としての何かが欠けておるんじゃないかと思っておったが・・・もしかしたら、この子は単に自分の思った事を表に出すのが苦手なだけじゃったのかもしれんのう」
・・・要するに閉ざした心を開くきっかけが必要だったってわけね。アーニャの作ったカレーはどんだけすごいんだ。
「・・・そういえばこの子もそうなのですが、この場にいる【精霊】たちはマルコ村長と【契約】を結んでいるわけでは無いようですわね?」
アニスが周囲を再び元気よく走り回る【精霊】たちを見ながらマルコ村長に質問した。・・・きっとこの子たちは文字通りの意味で疲れってモンを知らないんだろうなぁ。
「うむ。先ほども言ったがワシの家の庭は【精霊土】を敷き詰めて【精霊】たちを実体化させておるだけじゃ。ここにいる【精霊】たちはワシと契約しているわけではない。この場所はこの村の住人たちが【精霊】たちと【契約】を結びやすいようにするための、いわば儀式場を兼ねておるんじゃよ。やはり互いに認識できた方が【契約】は結びやすいからのう」
だから、わざわざ【精霊界】から土をここに持ってきているのか。しかし・・・
「それなら直接【精霊界】に行った方が早いんじゃないですか?」
確かにアスターの言うとおり、【精霊界】にだって視認できる【精霊】はたくさんいるし、【転移装置】もあるんだから移動にそれほど手間がかからないはずだ。
「無論、それも一つの手なんじゃが・・・【精霊】にも相性の良い場所と言うものがあるんじゃよ。何かしら因縁があったり、生まれた場所じゃったりとな。この地で生まれた【精霊】たちは、当然この地と相性抜群じゃ。より強い力を行使できる。・・・お主らの【精霊】にも、そういう場所があるはずじゃぞ?」
そういえばミコトはよく知らないが、アウルに関しては【精霊界】以外にも【剣鎧王の遺跡】がどこかにあるはずなんだよな。マルコ村長の言うとおり、そこがアウルにとっても重要な場所なら、どうにかして見つけてあげたい所だ。
「だう?」
・・・まあ、当の本人は全く気にしている様子は無いのだが。俺はぐしぐしとアウルの頭を撫でてやる。
「・・・」
ちらっとアニスの表情を見てみるが・・・なにやら目を瞑って考え込んでいる。【封印の精霊】である彼女にもそういう場所があるのかね?
「・・・おっと、すっかり話しこんでしまったのう。お主ら、【サラマンデル島】へ行くんじゃろう?」
おお、そうだった。別に忘れてたわけじゃないが、つい話し込んでしまったな。・・・あと今、【火炎の精霊】ちゃんがピクッと反応したような気がするな。
「港にワシの船がある。その船でお主らを【サラマンデル島】が沈んだ海域まで連れて行ってやるわい。もっとも、さしものワシも海中まで案内はできんぞ」
ふむ、現地の海域まで行ったらあとは自分たちで探せってことか。まあ、広大な海の中を闇雲に探せって言われるよりマシだよな。
「それはありがたいね。それじゃあ皆、行こうか?」
こうして【精霊】たちと戯れているのも楽しいけど、俺たちの目的はあくまで【火の大精霊】だ。道草食ってる暇は・・・無いわけじゃないけど、遊びに来るのならまた次の機会でも良いわけだしな。
「そうですね、行きま「・・・ふぁい!」・・・え?」
アスターが歩き出そうとした所で彼の服を引っ張る人物が。
・・・【火炎の精霊】ちゃんだった。
何かを言いたげに、アスターの服をくいっくいっ引っ張りながら、彼を上目使いに見つめている。
・・・これはまさか・・・
「えっと・・・もしかして・・・カレーのおかわりが欲しいの?」
「ふぁう!?」
違うよ!? と言わんばかりに首をぶんぶん横に振る【火炎の精霊】。・・・なんだ、おかわりのおねだりじゃないのか。
「あい? あいあいー?」
「ふぁう! ふぁいふぁいふぁいー!!」
「だう!? だうだうだー!!」
「ふぁい!!」
・・・すまん、ちびっ子達よ。多分、どうしたのか話しているんだろうが・・・何を言ってるのかまるでわからんぞ。
カイザー! 翻訳プリーズ!!
「・・・もしかして自分も連れて行ってと言っているのでは無いでしょうか?」
「ふぁい!!」
・・・すまん、カイザー。翻訳は要らなかったようだ。代わりにアニスが答えてくれたわ。
・・・だからってそんなに落ち込まなくて良いんだぞ? いつも俺たちが君にどれだけ助けられてると思ってるんだ。
「・・・え? それって僕と【契約】を結びたいってことですか?」
「どうやら、そういうことらしいのう・・・今日は驚く事ばかりじゃわい」
確かにな。【火炎の精霊】がカレーで釣れるとは思わなかったわ。
「ふぁい!!」
「あっちー!?」
なんかいきなり、火の玉を飛ばしてきましたよ、この子!?
「今、なにか失礼な事を考えたのではありませんか?」
・・・なんでわかったんだろうか?
と、とにかく【火炎の精霊】ちゃんはカレーに釣られたってわけじゃないのね。・・・となると、やっぱり【サラマンデル島】が気になるのかな。
「うむ・・・島に行きたいという想いもあるのじゃろうが・・・それ以上にお客人を主として見込んでいるようじゃ。・・・どうじゃろう、お客人。この子と【契約】を結んでやってくれないかのう」
「え!? 良いんですか!?」
おっと、これは予想外な展開だな。まさか、ここで新たな戦力アップが図れるとは・・・
アスターがマルコ村長を見た後、俺とアニスを見比べている。
多分、自分だけ【精霊】と契約しても良いのだろうかと迷っているのだろうが・・・本人がアスターを選んだんだから俺としては文句は無い。
アニスも同様のようで無言で頷いている。
「あい!!」
「だう!!」
さらにミコトもアウルも歓迎している模様。これはもう断る理由は無いだろう。
「・・・わかりました。君もそれで良いんだね?」
「ふぁい!!」
どうやらアスターも覚悟を決めたらしい。
さっそく向かいあうアスターと【火炎の精霊】。
そしてアスターが右手を【火炎の精霊】に向けると・・・
「それじゃあ行くよ・・・【契約】!!」
アスターの言葉と共に【火炎の精霊】が光に包まれる。
後は彼女に名前を付ければ【契約】完了だ。
「君の名は・・・カリンだ!!」
「ふぁい!!」
アスターが名付けると同時に光が弾け、【契約】が完了した。
カリンか・・・漢字で書くと火燐といった所かな。良い名前じゃないか。これで【火炎の精霊】・・・カリンはアスターの【眷属】になったわけだ。
「・・・うう、良かったのう。ほんに良かったのう」
・・・なんでマルコ村長がハンカチで目頭を押さえて涙を流しているのだろうか。まるで娘を送り出す親父みたいじゃないか。・・・まあ、四百年も一緒にいたんだからそんな感じになっても無理は無いのかもしれないが。
マルコ村長だけじゃない。
先ほどまではしゃいでいた【精霊】たちも一斉にアスターとカリンを取り囲んでなにやらワーワー言っている。言葉は分からないが・・・多分、祝福の言葉を投げかけているんだろう。
「これからよろしくね、カリン」
「ふぁい!!」
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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