伝説と約束
『某国【レッドフィル海岸】沖合にかつて存在し、現地の住民たちに今もなお語り継がれている伝説の島があった。
その島は【サラマンデル島】【サラマンデル火山】などの名称で呼ばれていたが、現在ではその姿を確認する事ができない。
海底に沈んだとされているが、その島が存在していたとされる海域は海底火山地帯となっており現地の住民たちはおろか冒険者たちでさえ迂闊に近寄る事はできない危険海域となっている。
そのため、【サラマンデル火山】に関する情報は記録や口伝で残されるのみとなっており、その伝説の真偽を確かめる術は無い。
しかし、それでも現地の住民たちは伝説を強く信じており、その伝説を後世に語り継ぐ事こそ自分たちの使命だとしている』
また新たな地名が出てきたな。
やはり【人間界】の方の【サラマンデル火山】は海の底か・・・それで伝説になってしまっている、と。【人間界】の方の情報が中々見つからなかったのはこのせいなのか?
『では今なお語り継がれる伝説とはどのようなものなのか。
伝説に曰く、【サラマンデル島】は元々自然溢れる豊かな島だったとされている。
多くの植物が咲き誇り、多くの動物たちが生まれ、そして多くの人間たちが暮らしていた。
人間たちは自然の豊かさに感謝し、その自然に宿る様々な【精霊】たちを信仰していた。
【精霊】たちもまた、それに応えて人間たちに力を貸していた。
多くの【精霊士】を輩出したこの島は自然と人間が共存する、まさに楽園と呼ぶに相応しい場所であったのだ』
・・・自然溢れる島だった? 楽園? 【精霊界】の【サラマンデル火山】は・・・どんな生命をも拒む死の山という印象だったが・・・どうなってんだ?
『・・・やがて楽園と呼ばれた【サラマンデル島】に災厄が訪れる。
ある日、突如として赤く燃える炎の塊が天より飛来したのだ。
炎の塊が島に落下し、島はその姿を大きく変えることとなった。
豊かだった自然と生命は一瞬で消し飛び、島の地形すらも大きく変わってしまった。
島の大地は隆起し、やがて三つの山となった。
三つの山から溶岩があふれ出し、島全体を覆い尽くしていった。
島はもはや人の・・・否、生命が存在できる場所ではなくなってしまったのだ。
辛うじて災厄を逃れた島の住人たちはその光景に涙を流し、その島を去らざるを得なくなった。
さらに自然が失われた事により、【精霊】たちも姿を見せる事は無くなっていった。
しかし、全ての【精霊】たちがこの地より失われたわけではなかった。
自らこの地に留まり、災厄を封じ込める役割をかって出た者たちがいたのだ。
それが【火の精霊】たちである。
【火の精霊】たちは災厄から住人たちを守り、さらに災厄が他の地へとあふれ出ぬよう島を封印する役目を自らに課したのである。
人間たちは【火の精霊】たちに深く深く感謝した。
そして人間たちと【火の精霊】たちは約束した。
いつか・・・いつか災厄が完全に消えたとき、人間たちは島に戻り、元の豊かな・・・人間と自然と【精霊】たちが共存する豊かな島を取り戻すことを』
天より飛来した炎の塊・・・要するに隕石か。察するに、元々火山島だった【サラマンデル島】に隕石が落ちてきて火山が活性化してしまい、【サラマンデル火山】になってしまったという所か。そして噴火を抑えるために【火の精霊】たちが頑張ってくれた、と。
・・・しかし現在、島は海に沈んでしまっているということは、この約束っていうのは・・・
『その約束を胸に人間たちは島から一番近い【レッドフィル海岸】近郊に村を作り、そこで生活を始めた。
そして島に残った【火の精霊】たちは災厄を封じ込める為、その力を使い続けた。
しかし、災厄が収まる気配は一向になく、時は過ぎていくに連れて、かつて自然の溢れる豊かな島だった【サラマンデル島】は、生命を寄せ付けぬ【サラマンデル火山】へと変貌していったのであった。
長き時の中で人間たちは【火の精霊】たちとの約束を忘れぬ為に親から子へ、子から孫へとその約束を語り継いでいった。
口伝から伝承へ、そして伝説となった【精霊】たちと人間との約束の物語である。
しかし、その伝説の舞台・・・約束の島はもう既に存在しない。
ある時、大きな地震と共に島は海の底へ沈んでいったとされている。
それが自然の天変地異によるものなのか、あるいは災厄によって引き起こされた災害なのか、もしくは【火の精霊】たちが・・・
真実を知る術は無い。
それでも現地の住民たちは、いつの日か【精霊】たちが戻ってくる事を信じ、今日も伝説を語り継ぐ』
「・・・」
俺は静かに本を閉じた。
なんというか・・・色々予想外の話だったな。
人に歴史ありというが【精霊】にも歴史あり、だな。まあ、その事はアウルやルドラ・・・【剣鎧の精霊】や【拳武の精霊】の件でも分かっていた事だが。
しかし、妙だな・・・この話の中には【火の精霊】の話は出てきても【火の大精霊】の話が出てこなかった。
冒険者エルクスの本の記述だと、【人間界】の【サラマンデル火山】は近隣の住人からは【火の大精霊】が住んでいる山だと言われているんじゃなかったのか?
【精霊界】の【サラマンデル火山】に出てきた【溶岩の上級邪霊】との関係も気になる。この本の記述から察するに災厄とやらが関係しているみたいだが・・・とにかく、この本が手がかりである事は間違いないだろう。アスターやアニスにも読んでもらおうか。
・・・
・・
・
「・・・」
「・・・」
二人は『海底に沈んだ三つ子山』を読み終わったようだ。
「・・・【サラマンデル火山】にこんな逸話があったんですね」
「人間と【精霊】の美しく、そして切ない友情の物語ですわね」
・・・なんかアスターもアニスも感情移入している感じ。アニスなんてハンカチ出して涙をぬぐう仕草までしてるし。まあでも、気持ちは分かる。【剣鎧王】と【拳武王】の話といい、なんで【精霊】にかかわる話は切ない系ばかりなのだろうか。
なんとなくしんみりした気分になっているが・・・俺たちはそこで立ち止まるわけにはいかない。
「・・・しかし、この本からは【火の大精霊】の事は分かりませんね」
確かにアスターの言うとおり、俺たちの目的は【火の大精霊】を見つけること。【サラマンデル火山】のことは分かったが、それが【火の大精霊】にどう繋がっているのかが分からない。
「そうですわね・・・この【サラマンデル火山】の伝説の詳細が書かれた本が他にあるのでしょうか?」
ふむ、二人はまだ【精霊図書館】に手がかりがあると思っているようだ。まあ、それは俺も否定しきれないが・・・この本にはもう一つ、重要な手がかりがある。
「何を言ってるの、二人とも? 確かにこの本には【サラマンデル火山】の事とは別に重要なキーワードがあったじゃない」
「「?」」
分からない様子の二人。
そんな二人と絵本を読んでいたアーテルたちを連れて一旦【精霊図書館】の外にでる。
やって来たのは・・・図書館前に設置されている【転移装置】である。
「・・・やっぱり!【転移装置】の行き先に【人間界】の【レッドフィル海岸】が追加されてるよ!!」
「「!?」」
他の世界ではフィールドを自力で移動して、移動先で【転移装置】に登録する必要があるが、【人間界】の場合、最初から行ける場合を除いた場所へ行く為には、クエストなどで現地の場所を入手すると【転移装置】に場所が登録され、行けるようになる場合がほとんどだ。
【人間界】の【サラマンデル火山】は【転移装置】の移動先リストに出てこなかったから【人間界】側の方へ行くことは出来ないのかと思っていたが、どうやら【レッドフィル海岸】には行けるようだ。【レッドフィル海岸】に行けるようにするのがあの本の役目だったってわけだな。
「【レッドフィル海岸】近隣住民には今なお語り継がれてるって書いてあるし、現地の人たちから話を聞けばもっと詳しく分かるんじゃないかな? それに海底まで潜って行くことができればもう一つの【サラマンデル火山】に行く事も出来るかもしれないし」
「なるほど!」
「確かにそうですわね!」
二人も納得して興奮気味のご様子。
なんかこうやって一歩ずつ前進して行く感じ、いかにもゲームっぽいな。
(*・ω・)*_ _)ペコリ
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