次の方針とアニスへの対処
封印というのは消去とは違う。
消去の場合は文字通り消し去ることを意味しており、取り戻す事は出来ない。
対して封印というのは取り戻すのは簡単だ。封印を解けば良い。
まあ、あくまでの俺の考えではあるのだが。
そういう意味では封印という力は実に便利な物だ。どんな悪事を働いた記憶があったとしても封印してしまったら、本人にとっては無かった事になるのだから。演技だとかとぼけるだとかそういうレベルではない。
いや、本人だけじゃないか・・・他人の記憶まで封印できるんだから、客観的証拠がなければ事実上何もなかったことになっているのと変わらない。
そして封印を解けば元通り、と。
アニスが自分の記憶を封印しているとしたら・・・情報漏えいの防止のためかな。万が一、俺たち【アークガルド】のメンバーに遭遇したとしてもシラを切れるように。もしかしたらアギラたち他の連中も同じように記憶が封印されているのかもしれない。カオスと会ったときはそんな素振りは無かったが・・・重要な情報とかは封印されていたのかも。
そうなってくると、とてつもなく厄介だ。仮に俺が連中を捕まえたとしても情報を引き出す事ができないということだからな
・・・本来なら、だが。
俺が相手では事情が変わってくる。
なぜなら、俺は【固有能力:天醒者】の力の一つ、【天醒:浄化】を使えばアニスの記憶の封印を解くことができるからだ。
今この場で俺がアニスに対して【天醒:浄化】を使えば、アニスの記憶の封印を解くこと自体はできるだろう。
しかし・・・今それをやっても意味はない。
なぜなら・・・おそらくアニスの実力は俺よりも上だ。
そんな状態でアニスの封印を解いても逃げられるのがオチだ。むしろ俺に封印を解く手段があるという事をアニスたちに知らせる事になる。そうなったら連中が次にどんな手を打ってくるかわかったもんじゃない。
確実にアニスを捕らえる方法、そしてアニスから情報を引き出す方法がなければ俺としても行動を起こせない。
となると、今の俺にできる事は・・・この状況を利用することだけだ。
「ま、まあアルク兄ちゃんのことはどうでも良いから放っておくとして・・・アニスさんは悪い人じゃないみたいだし、アテナお姉ちゃんやアルマお姉ちゃんには『良い人だった』って伝えておくよ」
「ほ、本当ですか!?」
・・・アニスは本当に嬉しそうな顔をしているな。これじゃあまるで俺のほうが悪い奴みたいだ。
「うん、約束したからね。・・・あ! 連絡の為にフレコ交換したいんだけど大丈夫?」
「はい! 勿論です!!」
・・・マジかよ。いくら記憶が無かったとしても普通、もうちょっと警戒心くらいは残しておくもんじゃないのか? アニスは一体どのレベルまで自分の記憶を封印しているんだ? 敵ながら心配になってくるな。
「はい、これで交換完了、と。とりあえずアニスさんの容姿についてはもうこれ以上詮索しないよ。それで次の、というか最後の質問なんだけど・・・」
「はい? なんでしょうか?」
「なんであんな所にいたの?」
アニスが自分の記憶を封印しているとしても、【サラマンデル火山】までやってきた以上はなにか目的があったはずだ。さすがにその目的まで封印して忘れているなんてことはないはずだ。
「あ、それはですね・・・」
とアニスがあっさり話そうとしたところで・・・やっぱり色々大丈夫なのか? コイツ・・・と思わなくも無いが・・・
「あ! ストップストップ! 先に僕のほうから事情を話すよ。形はどうあれアニスさんをあの場から強引に連れ出した形になっちゃったし、一方的に情報を聞きだすのはフェアじゃないからね」
これは俺にとっても本心だ。相手がアニスだろうが関係なく。・・・まあ、アニスがなにか俺たちの知らない情報を持っていないかっていう打算はあるが。
というわけでまずは俺の方から【サラマンデル火山】で起こった事を話した。まあ、ぶっちゃけ情報量はそれほど多くないんだが。【火の大精霊】を探しに行ったら【溶岩の上級邪霊】相手にどうにもならず撤退してきたっていうだけの、な。
「それなら私も目的は同じですね。私も【火の大精霊】を探していましたの。ただ、私には飛行手段が無かったので地道に山登りをしていましたが・・・」
・・・やはりアニスの狙いも【火の大精霊】か。探してどうするのかは分からないが、おそらく目的は戦力アップだろう。
問題はそれを俺が見過ごすかどうか、だな。
できればアニスたちの戦力アップは食い止めたいが、妨害なんてしたらそれこそ通報されそうだ。本来ならアニスだって通報できるような立場ではないはずなのだが、都合の悪い記憶を封印している今のアニスなら・・・構わず通報してしまうだろうな。
となると、俺に取れる行動は一つしかない。
「それならアニスさん、僕たちと協力して【火の大精霊】を探さない?」
「え?」
これしかないだろう。
食い止められないなら、せめてどういう戦力アップが行われるのか・・・それだけでも知っていれば俺にとっても有利になるはずだ。
「それはありがたいのですが、しかし・・・」
急な提案に戸惑い気味なアニス。まあ、それが普通の反応だよな。
「実は僕たちの方もこれからどうやって【火の大精霊】を探そうか悩んでいた所なんだよね。だから人手は多いほうが良いんだよ。でも今、【アークガルド】の他のメンバーはそれぞれ忙しくてね。中々時間が取れないんだ。だから、もし良かったら一緒に【火の大精霊】を探さないかと思ってね!」
あくまでこちらも困っているから、という協力の提案だ。アニスとしても一人であの溶岩巨人を相手に出来るとは思っていないだろう。
「・・・確かにそれは願ったり叶ったりですが・・・本当によろしいんですの?」
不安そうな顔のアニスだが、それを吹き飛ばすような(自称)爽やかな子供の笑みを浮かべる俺。
「勿論だよ! アニスさんだってエリア5を一人で探索できるくらいの実力者なんでしょ? だったら戦力的にも問題ないしね。・・・そうだ! 結果次第では僕のほうからアニスさんを【アークガルド】に入れてもらえるよう推薦するよ?」
「え? ほ、本当ですか!?」
本来であればアニスにとって敵地に招かれるも同然の提案なんだが・・・
「ありがとうございます! 是非、協力させていただきますわ!!」
喜々として受け入れた。ここまで来ればもう、アニスが自分の記憶を封印していることは間違いないな。じゃなかったらいくらなんでも無防備すぎる。
「良かった! じゃあ、今日のところはもう遅い時間だし準備もあるから明日、ログインしてきたら僕の方に連絡くれない?」
「はい! 私の方でも準備を万端に整えておきます! それでは今日のところは失礼しますね!!」
そう言ってアニスは近くの【転移装置】の中へと消えていった。
と、同時にアークカイザーからアスターたちが降りてくる。
「アルクさん・・・本気ですか?」
俺の真意を見極めようとしているのか、ジッと俺を見るアスター。
「ん? まあな。ちょっとアニスさんを騙しているような感じになっちゃって悪いと思ったから、その分【火の大精霊】探索に協力してお詫びにしようと思ってな。勿論、本人に実力があって【アークガルド】にどうしても入りたいっていうのなら歓迎するし」
「・・・ああいう容姿の女の子がアルクさんの好みだから誘った、とかではないんですよね?」
「そんなわけあるか! 俺をなんだとおもってんだよ!! アスターやアシュラを【アークガルド】に誘った時だって似たような感じだっただろうが!!」
「・・・そういえばそうですね」
アスターに納得してもらえた所で今日のところは解散することになった。
なお、その際に『アニスの事はサプライズにするつもりだから他の皆にはまだナイショな!』と口止めしておく。
・・・うーん、アニスだけじゃなくアスターたちまで騙すような形になっているのは申し訳ないな。とはいえ本当のことも話せないし・・・なにかお詫びを考えないとな。
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