厄介な相談
===ログイン===>【アークガルド】クランホーム
「おはよう、諸君」
翌日、俺は何時もよりかなり早めにログインしてクランホームの会議室に来ていた。ちょっと、他のメンバーには聞かせられない内容なので誰もいない時間帯を狙ったらかなり早い時間になってしまった。
なので今、この場にいるのは・・・
「いや、早いなんてもんじゃないよ? リアルだとまだ日の出前だからね?」
「普通、こんな時間に呼び出したりせんじゃろうに・・・」
俺が呼び出した二人・・・ラングとガットだけだ。アーテルたち【眷属】は例によって外で遊んでもらっている。
「なに言ってんだ。いつもの時間だとお前ら忙しいんだろ? そんな時間帯にお前らが抜け出したらクランの他のメンバーに迷惑がかかるだろうから気を使ったんだよ」
俺の気遣いに感謝して欲しいところだ。
「できれば、まず僕たちへの迷惑を考えて欲しいんだけど・・・」
・・・が、俺の気遣いはコイツラには届かなかったようだ。
「そう言いつつ来てくれたじゃないか」
「あんなメールが送られてきおったら来ざるをえんじゃろうに」
・・・はて、なんの事かな? 俺は普通に時間を指定して、来てくれとメールしただけだぞ? 無理そうなら無理って返信してくれって書いておいたし。・・・ただ、昔の恥ずかしいエピソードも一緒にのっけてメールしただけだけど、それがなにか?(笑)
「ガットから直ぐに返信が来たのは意外だったな。てっきりまた引き篭もってるのかと思ってたのに・・・あのまま返信が来なかったらヴィオレに同じメールを送って呼び出してもらう所だった」
「勘弁してください」
ガットがいつものキャラを忘れて懇願してきたので、もうこの話題には触れないでおこう。
「深くつっこむとやぶ蛇になりそうだから僕からも何も言わないよ・・・それで何の用なんだい? こんな時間に僕たちを呼び出して、さらに他の【アークガルド】のメンバーがいない所を見ると・・・あまり人には話せない用件みたいだね?」
・・・ふむ、バレバレか。
「そうだな。まずは・・・何も言わずこの映像を見てくれ」
そう言って俺は【スタッグ君】が録画した昨日の一部始終の動画を二人に見せる。実際に見てもらってから説明するのがてっとり早いだろうし・・・率直にどう思うか聞いてみたい。
動画を見終わるのに少し時間がかかるだろうから、俺はアーニャが作ってくれた特製ハーブティーを飲みながらゆっくりと待つ。うむ、良い香りだ。
なお、ちゃんと会議室の扉前には『男と漢の熱い会議中につき立ち入り禁止』という立て札をかけておいたので万が一誰かがログインしてきても入ってくる心配はないだろう。
・・・
・・
・
「・・・」
「・・・」
少しの時間の後、映像を見終わった二人は無言のまま難しい顔をしていた。
「・・・で? 見た感想は?」
俺の問いに対しラングは重々しい口調で答えた。
「・・・これは一体なんのイベントだい?」
・・・あー、ゲームのイベントか何かだと思ってしまったのか。ガットもウンウン頷いている所から見て同じ考えのようだ。確かに俺も他人事だったら、そう思ってしまうかもしれんが・・・
「残念ながらイベントでは無いな。一体どういうことなのかは俺にもわかっていない」
結局アニスたちの目的は不明のままだ。とりあえずアテナたちに何かしたのと俺をどうにかしようとしたみたいだが・・・それで何をしようとしたのかは分からない。
「イベントでは無いじゃと? 確かにお主の所の二人とそっくりな者たちがおったし、カオスやいつぞやのジェスターもいたようじゃが・・・」
「ジェスターは皮だけ被った偽者らしいけどな」
少なくとも俺はこんなイベントに参加した覚えも無いし、連中を招待した覚えも無い。
「んー・・・要約すると、この連中はクランホームに無断で侵入してきて、君とアテナくん、アルマくんに危害を加え、去って行ったと・・・しかも記憶を・・・封印?された、と?」
さすがラング。もうこれ以上ないっていうくらい簡潔にまとめてくれたな。言ってる内容はまるで意味不明だが。
「・・・ますます何かのイベントのようにしか聞こえんわい。百歩譲って悪質なハッカーがハッキングしてホームに侵入してきたのじゃとしても・・・記憶の封印というのはなんじゃい」
あー、やっぱりそこが気になるよな。他の事はゲームの世界だからいくらでも説明できるかもしれんが・・・人の記憶を封印っていうのはなぁ・・・
「言葉通りだ。この後で俺が目を覚ました時、アニスたちのことをすっかり忘れていた。カイザーたちも何も覚えていなかったし、まだ確認はしていないがアテナたちも同様だろう。・・・俺だけが【固有能力】とやらで思い出すことができたみたいだが」
今にして思うが、もしあのまま・・・記憶を封印されたままログアウトしていたらどうなっていたのだろうか? リアルでも記憶が無いままだったとしたら・・・ゾッとするな。というかかなりヤバイ事態なんじゃないか? ゲームの世界の出来事が現実に影響を及ぼすとかラノベみたいだが・・・実際に起こるとなると笑えないな。
「うーん、聞いたことも無い事例だね。それに【固有能力】というのも初耳だ。このゲームにそんなステータス項目は無かったはずだけど・・・それで、通報したのかい?」
ラングの疑問に対し、俺はきっぱりはっきりざっくりばっさり答える。
「してない」
「・・・なぜじゃ!? これだけの事態になっとるんじゃぞ!?」
俺の通報してない発言でガットの奴が怒りだした。というよりようやく事態を認識できてきたというべきか。
「落ち着きなよ、ガット・・・ハッキング案件ならアルクが通報するまでもなく運営が動いているはず。このゲームは管理AIが24時間不正を監視しているんだからね。それが無いとなると・・・そうか。アルクは運営側に黒幕がいると思っているんだね?」
「なんじゃと・・・」
相変らず話が早くて助かるぜ、ラング。話が早すぎて、むしろ何でそんな早く順応できるのか疑問に思えるレベル。
「そういうことだ。下手な動きは逆効果・・・と考えている」
「しかし、記憶を消されるなど一大事じゃろう!? 黙っておくわけには・・・」
「消されるんじゃなく封印な。・・・それこそ証拠がないんだよ」
「何言っとるんじゃ! 記録された映像がここにあるじゃろ!!」
ガットの言ってることはもっともなんだが・・・
「それはあくまでそれっぽい映像が残ってるってだけで、証拠にはならんだろ。実際に記憶が封印されたかどうかは俺にしか分からない」
「・・・たしかに。現状ではアルクの証言だけ。【眷属】たちの記憶はNPCのAIへのハッキングで一応の説明ができてしまう。後はアテナくんとアルマくんに証言してもらえるならまだ望みはあるかもしれないけど・・・」
「それをやったのが完全な第三者ならともかく、同じ顔をしたヤツだからな・・・おまけにゲームの世界で起こった出来事っていうのも輪をかけて事態を面倒くさくしている。それこそ第三者から見れば仲間内のおふざけにしか見えない、とかな。・・・実際、俺自身もなにがなんだかって感じだしな」
「・・・ぬぅ」
「・・・なるほど、だから僕たちに相談、か」
「そういうこと」
ラングは物知り顔で頷いた。ガットは納得いかないといった顔をしているが。
「とは言っても方針は既に決めてあるんだけどな」
「君、相談の意味わかってるかい?」
うって変わって理解できないといった顔に変わるラング。
「では何でワシらを呼んだんじゃ?」
俺は二人の疑問に答えるように掌を二人に向ける。
「決まってるだろ?・・・【天醒:浄化】」
俺が唱えると掌から放たれた光が二人を包み込んだ。
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