影に交わる者
「これで記憶の封印は完了しました」
「メモリー消去完了」
アニスがそう言うと、俺とアーテル、アウルの頭部を覆っていた光が消えた。
アギラも立ち上がった。その足元には【ヒューマロイド】形態に戻ったカイザーの姿がある。
「それでは彼らを元の場所に・・・偽ジェスターさん?」
「ヒャハハハハ! まったく人使いの荒いお・ひ・め・さ・ま・だ・ぜ?」
今度はジェスター(偽)が手をかざすと、アーテルたち【眷属】の皆がひとりでに宙に浮き、バラバラの方向に散っていく。・・・【念動力】か? それに・・・元の場所? ・・・そうか、カイザーの話では【眷属】の皆はカクレンボをしていたと言っていたな。おそらくその最中に捕まり、噴水前まで集められたんだろう。そして、また元の場所に・・・要するに偽装工作だな。
一方でアニスとアギラは・・・俺の体からはじき出させた【ガティアス】の核を拾っていた。
アニスが拾った【ガティアス】の核は・・・相変らず、様々な色を発しながら点滅していた。
「・・・この【ガティアスコア】はもう使い物にはならなそうですね。・・・かといって回収しないわけにもいきませんか」
「・・・」
そう言ってアニスは拾った【ガティアス】の核をアギラの持っていた箱に収めた。・・・チッ、回収し忘れていたら後で探しに行こうと思ってたのに・・・さすがにそんなヘマはしないか。
その後、アニスは俺を噴水前のテーブルとイスの元に運び、アギラはアテナとアルマをクランホームの入口に寝かせた。
・・・これで、さっきの俺が目を覚ました時の状況に繋がるわけか・・・しかし、これじゃあアテナたちも目を覚ました時に違和感を感じるんじゃあ・・・いや・・・もしや記憶の封印とやらは目を覚ました後も有効なのか?
つまり、目を覚まして違和感を感じた、それ自体の記憶も封印されるようにできるとしたら・・・記憶がない以上、違和感なんて感じようがない。
となると俺だけが違和感を感じていたのは・・・【固有能力】とやらのおかげか。それ自体、どういうものなのかまるで分かっていないが・・・おかげで助かったみたいだ。
「これで終・わ・り!!・・・おっとぉ! ちょうどお迎えが来たみ・た・い・だ・ぜ!」
その言葉と共にジェスター(偽)が空を見上げると・・・
バサッ!バサッ!!
「カァーーー!!」
空から巨大な鳥が現れた。
「・・・!!」
俺には・・・その鳥に見覚えがあった。
漆黒の巨大な鳥。
三本足の巨大なカラス。
つまりそれは・・・
「・・・【ヤタガラス】?」
そう、様々な場所での話で出てきたり、俺自身も一度だけ見たことがある導きの神とも呼ばれる存在だった。
なぜ【ヤタガラス】がここに?
その【ヤタガラス】がアニスたちの前に着地する。その様はまさに仲間を迎えに来たといった所だ。
何故、【ヤタガラス】がアニスたちと?・・・まさかあの【ヤタガラス】は誰かの【眷属】なのか?
俺が驚いていると、その【ヤタガラス】の背から更に人影が現れた。
「!!??」
その人影にも・・・俺は見覚えがあった。
当然だ。
なにせ昨日、激戦を繰り広げたばかりなんだからな。
そう・・・あの全身真っ白な人影は・・・
「・・・カオス・・・」
そう、その人影は昨日のトーナメント決勝で俺が戦った相手、カオスだった。
どういうことだ? なんでアイツまでここに? カオスもアニスたちの仲間だったのか?
・・・あの野郎の忠告っぽいセリフはこのことを言ってたのか?
「ヒャハハハハ! お迎えご・く・ろ・う・さ・ん、カオスっち! つーか、お迎えに来てくれるくらいなら手伝ってくれてもよ・か・っ・た・ん・で・な・い?」
ジェスター(偽)が親しげ・・・かどうかは謎だが、カオスに話しかける・・・やはり、カオスも連中の仲間なのか。
「・・・俺の顔はコイツラには割れている。それに俺は万が一の戦闘要員として控えておくという話だっただろう」
「ヒャハハハハ! 相変らずかったいねぇ。それにこーんなヤツラ、俺っち一人でじゅ・う・ぶ・ん・さ!!」
「・・・フン」
・・・戦闘要員・・・これでカオスも連中の仲間なのは確実だな。まあ、大分まえから怪しい奴だとは思っていたが・・・いや、忠告してきたってことは、そうでもないのか? それとも、それすらも罠なのか?
「暢気に話していないで戻りますよ」
「了解」
「へーい!」
そう言ってアニス、アギラ、ジェスター(偽)も【ヤタガラス】の背に乗り込む。
なお、その間にカオスは俺を一瞥し・・・
「・・・フン」
鼻で笑いやがった・・・ように見えた。いかにも、あれだけ忠告してやったのにざまぁないな、と言わんばかりに・・・とことんむかつく野郎だ。
「フフフ、それではアルクさん。またお会いしましょう」
「カァーーー!!」
最後にアニスが意識のない俺にそう言い残して【ヤタガラス】と共に空の彼方へと・・・消えていった。
・・・ここのクランホームは隔絶されたエリアで入口・・・つまり【転移装置】を使わないと出入りできないはずなのに・・・そんなゲームのルールすらまるっきり無視してやがる。
・・・これがあの後あったことの全てか。
映像の中では、すぐに目を覚ましたアテナたちが俺の傍まで寄ってきている。やはりと言うべきか、目を覚ました直後は、何故眠っていたのか疑問に思っているようだったが、歩き始めるともうそんな疑問すらも忘れているように見える。
この後の流れはさっきの通りだ。
俺は【スタッグ君】の映像を切る。
さて、これで俺の身に起こったことは確認できた。
それを踏まえて・・・どうするべきか。
普通に考えて、アニスたちの行為は完全にゲームの規約違反のはずだ・・・本来であれば通報すべきなんだろうが・・・そもそもこれだけの規約違反が行われたんだ・・・このゲームの優秀な監視AIたちがすぐさま動いて対処しても可笑しくないはずなのに・・・今もって何の動きもない。
掲示板や公式ホームページ、その他を確認しても特に変化はない。昨日までのトーナメントの話で今もって盛り上がっているようだ。
明らかに不自然・・・もしや、このゲームがハッキングされているとか? それならそれでもっと動きがありそうなもんだが・・・あるいは黒幕とやらが運営側の人間だとか? 前者なら即通報ものだが、後者なら・・・最悪だな。通報しても握りつぶされる可能性が高い上に、こっちが口封じのために垢バンされてしまうかもしれん。
そう考えるとアニスたちが俺たちの記憶を封印したと思い込んでいる現状は・・・俺にとっても都合が良いか? 何も知らないていを装って連中の出方を警戒しつつ裏で調べ上げる・・・いずればれるにしてもそれまでの時間を稼ぐことにはなる、か。
それにしても・・・アニスとアギラ・・・三人目と四人目と言っていた。つまり、アテナ、アルマに続く、第三、第四の人格という事らしいが・・・本当なのだろうか? 結局何が目的だったのか、アテナとアルマは・・・連中の仲間なのかどうか・・・分からない事だらけだ。
・・・分からない事ことを悩んでいても仕方が無い。
アニスはまた会おうといっていた・・・つまり、連中はまた俺の前に現れるということだ。その時に空き放題やってくれた落とし前はきっちりつけてやる。
・・・それに記憶の封印とは・・・そもそもゲームの範疇なのか? NPCたちならともかくプレイヤーまで・・・そんなことがありえるのか?
あー、駄目だ! 次から次へと疑問が湧き出してくる!!
・・・一人で考えていても埒があかないな。
こういう時は便利で使えそう・・・もとい頼りになるヤツらに相談しよう。
今日これからはさすがに無理だろうから明日早い時間に呼び出そう。それに俺の方でもこのゲームのことを調べておきたい。
と、言うわけでメールを送った後、俺はログアウトした。
・・・あ、【獲得券】の確認、俺だけまだ終わってないや。
・・・明日やろう。
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