影は表へ現れ出でる
そいつは・・・その女は地面に足を付けず、宙に浮いて移動していた。
紫のドレスを身に付け、紫の長い髪をなびかせ、紫の瞳が真っ直ぐ俺を捉えていた。
その顔は・・・声は・・・体格は・・・アテナと、そしてアルマとまったく同じものだった。
「・・・アニス・・・三人目、だと? ・・・アテナとアルマは二重人格じゃなく三重人格だったっていうのか?」
アテナとアルマは確かに自分たちのことを二重人格だと言って・・・いや、違う。以前に聞いた話では医者がそう言っていたというだけで自分たちも良く分からないと言っていた。このゲームを始めるまではお互いの存在を認識できなかった、とも・・・なら、この女の言っている事は本当なのか?
当のアニスはクスクスとまるで面白い物でも見ているかのように俺を見ている。この女の容姿から言っても嘘を言っているようには見えないが・・・
「・・・お前が三人目の人格だとして・・・この鎖はお前の仕業か?」
地面から生えてきた四つの鎖が俺の手足にそれぞれ絡みつき、身動きが取れない。さっきから無理矢理引きちぎろうとしてもまるでビクともしない。
「ええ、勿論ですわ」
・・・当のアニスはまるでそれが当たり前であるかのように答えた。
「・・・何故こんな事をする?」
コイツがアテナとアルマの三人目の人格だとして、俺を捕らえる理由が分からない。アテナとアルマは二重人格とはいえ記憶の共有はされていないと言っていた。ならばコイツ・・・アニスにとっても俺は初対面のはず・・・こんな事をされるいわれは無いはずだ。
「フフフ、貴方に暴れられると厄介なので・・・ご心配なさらずとも用が済んだら、すぐにでも退散いたしますので」
「・・・用、だと・・・?」
・・・そもそもコイツはどうやって俺たちのクランホームに入った? 誰かから許可を得ない限りここには立ち入れないはずだ。
アテナかアルマが招き入れた? だが、二人の姿はここには無い。それに招かれたのなら、なおさら俺を拘束する理由がわからない。
「何の用だか知らないが、俺が暴れる事を懸念していると言う事は・・・それだけやましい事がある、ということだな?」
俺は目一杯の力を込めて鎖を引っ張る・・・ギシギシと音を立てる鎖だが砕ける様子は無い。
「フフフ、ご想像にお任せ致しますわ。まあ貴方にとっては・・・面白くない事でしょうね」
・・・こんにゃろう・・・そっちがその気なら!!
「だったら、俺も全力で抵抗させてもらう!【力天の強豪】!!・・・なんだと!?」
スキルが・・・発動しない、だと?
「フフフ、私は【封印の精霊】、その鎖に縛られた者はあらゆる力を封印されてしまうのですわ。スキルも・・・腕力も・・・意識さえも・・・」
クスクスと可笑しそうにアニスが答える。
・・・くそっ、そういうことか!
俺はチラッとアーテルたちを見る。アーテルたちが眠っているのは、この鎖に一度捕まって意識失ったからか。
「フフフ、ご心配なく。貴方がたの【眷属】も邪魔になりそうだったので、意識を封印させてもらいました。しばらくすれば目覚めるでしょうが・・・それまでは意識が戻る事はありません。なので助けを期待しても無駄ですよ」
・・・チィ、気づかれていたか。
確かに今見てもアーテルたちには鎖で拘束されてる様子は無い。しばらくすれば目を覚ますというのも本当だろう。
・・・だが・・・邪魔になると分かっていながらアーテルたちを拘束せず放置しているのはおかしい。それに、よくよく考えてみればこんな場所で一箇所に固まって寝かされているのは不自然だ。
つまり全ては・・・アーテルたちが倒れているのを見た俺の動揺を誘うため・・・そしてその隙に俺を拘束するためか!
・・・話を聞いたせいか立ってるのもしんどくなってきた。
「・・・なにが目的だ?」
なんとかこらえながらも肝心の目的を聞く。わざわざ俺たちのホームに乗り込んできてこんな事をする目的・・・それがまったく分からない。
「目的は勿論、貴方がたですよ・・・こう見えてかなり苦労して入り込んだんですよ? 私たちは」
・・・貴方がたということは目的は俺だけでは無いということか? それに・・・私たち? コイツ以外にも誰かいると言うのか?
カシャン、カシャン・・・
疑問に思っていると、アニスが出てきた扉の向こうから音が聞こえてきた。機械的な・・・金属音のする・・・足音。
「・・・!?」
扉から出てきたソイツの姿を見て俺は・・・再度絶句する。
「・・・」
ソイツはアニスの後ろで、無表情かつ無言のまま・・・俺を睨みつけていた。
ソイツは真っ白な肌の上に緑色の機械の鎧を身にまとっていた。緑色の長い髪は人間のそれのように見えるが、手、足、そして瞳は緑色の・・・アンドロイドの物だった。
「・・・ああ、失礼。彼女は極端に無口でして・・・彼女の名はアギラ、【ラグナマキナ】という種族です。あとはまあ・・・見ていただければ分かりますよね?」
体はアンドロイドでも、その顔は・・・同じだ。アテナとアルマ・・・そしてアニスと。
「そう・・・四人目です」
・・・四人目の人格・・・一体、どうなってるんだ?
アテナたちは何人もの人格を抱える多重人格者だったのか?
なんでそいつらが急にここに現れる?
一体、何が目的なんだ?
混乱に支配されそうになった所で、もう一つ気づいた。
気づいてしまった。
緑色のアンドロイドの四人目・・・アギラが抱えているものを。
「アテナ!アルマ!!」
そう、アギラが抱えていたのは・・・ピクリとも動かないアテナとアルマの二人だった。
「フフフ、ご心配なく。眠っているだけですわ。もう用は済んだので・・・離してさしあげなさい、アギラ」
「・・・」
ドサッ! ドサッ!!
アニスがそう言うとアギラは無造作に二人を放り出した。
・・・まるで要らないものを捨てるかのように。
「・・・!?」
地面に落とされてもなお動かないアテナたちにはもう興味が無いのか、アニスとアギラの二人が・・・俺に迫ってくる。
「フフフ、さあ、アルクさん・・・後は貴方だけです」
「・・・」
そう言って手を伸ばしてくる二人に対し、俺は・・・
「・・・お前ら・・・ふざけるなよ!!」
両手両足に残った全ての力を込める。
ピピピッ!!
「謎のエネルギーを検知」
「・・・へぇ」
アギラからアテナたちと同じ声が聞こえてきたが、今の俺に構っている余裕は無い。
ビキ、ビキビキビキッ!!
「「!?」」
スキルが使えない? 腕力を封印? そんなこと知ったことか!!
例え手足が引きちぎれようとコイツらを!!!
我を忘れそうなほどの怒りに身を任せ、無理矢理に鎖を引っ張る。
「・・・フフフ、私の鎖にヒビを入れるとはさすがですね。それでこそ私たちが来た甲斐が有りますわ。ですが・・・」
ファサッ・・・
「!?」
なんだ? これは・・・粉? 何かの粉をかけられた?
「・・・グッ!?」
全身から・・・力が・・・抜けていく。
この粉は・・・まさか【弱体粉】!?
「ヒャハハハハハ! さっすがトーナメント優勝者!! し・ぶ・と・い・ねぇ!!」
力が入らず、片膝を地面に突いてしまった所で背後から男の声が聞こえてきた。
・・・チィ! まだ仲間がいやがったのか!!
俺としたことがすぐ後ろまで接近されていることに気が付かなかったとは・・・コイツが俺に【弱体粉】なんて物をふりかけやがったのか!
俺は力の入らない頭をなんとか動かして背後を見る。そのふざけた野郎の顔を見るために・・・
「・・・!? ・・・お前は・・・」
しかし、俺は・・・その野郎の顔を見て驚いた。
「おっ!? おれっち特製の【弱体粉】を食らってま~だ動けるとはさ・す・が・だ・ねぇ~?」
そうだ・・・この男の声、以前に聞いたことがある。
雰囲気は大分違うが、この男は・・・
「・・・ジェスター・・・」
「ヒャハハハハハ! ひっさしぶりだねぇ~、ア・ル・ク・く~ん?」
その男はかつてアテナとアルマをナンパしようとして俺が撃退した・・・ジェスターだった。
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