仏に仕えし者
このゲームにある7つの世界の一つ、【神仏界】は文字通り神様と仏様の住む世界だ・・・と言われている。
ただし、俺は【神仏界】には行ったが、神様には会っても仏様には会ったことがない。他のメンバーにもいなかったし、【インフォガルド】にも情報は無かった。
神様からは【加護】や【祝福】を与えられるが、仏様からはどうなのか。同じなのか違うのか・・・トーナメントで仏様の力を使うプレイヤーがいるかもしれないと期待はしていたが・・・まさかここで当たるとは。
「しかし、【帝釈天】の名はともかく【真言】や【印】までよく存じていたな。一般的には【帝釈天】の名は知っていても【真言】や【印】まで知らぬだろうに」
【真言】とは仏様の真実の言葉、秘密の言葉を意味する。また【印】とは印相、契印とも言い、手の指で様々な形を作ることで仏様の力を示すものだ。
リアルにも存在する物だが、【真言】や【印】に詳しいのは当然、仏教徒や修行僧の類だろう。
では何故俺がそれを知っているのかというと・・・
「・・・昔はまった漫画に出てきてたからな。一時期調べた事がある」
いやー、昔はかめ〇め波を真似するみたいに、【印】を真似したり早九字を真似したりしてたんだよな。
「・・・孔〇王?」
・・・おいおい、ナユタが名前出しちゃったよ。・・・しかし、間違ってはいないので無言で首肯する。
なぜかナユタが親指を立ててきたので俺も親指を立て返した。
まさか、ここで同好の士に出会えるとは・・・俺とナユタの間で何かが通じ合った気がした。
「では納得した所で続きといこう。【オン・イダテイタ・モコテイタ・ソワカ】!」
通じ合った所で試合再開となった。・・・そういえば試合中だった。
再びナユタが【印】を結び、【真言】を唱えた。
すると・・・
「ガァアアア!!」
「グゥオオオ!!」
【前鬼】と【後鬼】が淡い光を発しながらこちらに向かってきた。
・・・しかも先ほどよりも断然早く。
「うおっ!? はっ!! とおっ!!」
金棒と刺又による猛攻を必死に避ける俺。
「【韋駄天】の【真言】と【印】だ。効果は・・・身をもって体験しているであろう?」
・・・要するにスピードアップの強化の効果か! また厄介なものを・・・しかも・・・
「仏の力を鬼に使っても良いのかよ!?」
自身に力を使うならまだしも【式鬼】とはいえ、鬼に使うとは・・・神様の力を魔物に使うようなものなんじゃないの?
「鬼が邪悪であるとは限らん。仏教において鬼とは己の心に潜む一面であり、鬼が仏になることもある」
・・・なんか坊さんの説法みたいな事言い出したぞ。確かに鬼とは粗暴で人に災いをもたらす魔物のイメージがあるが、一方で地獄の獄卒のような管理者だったり、神として神社に祭られる場合もあると聞いた事があるが・・・
「・・・それは仏教の話だろう?【前鬼】と【後鬼】は陰陽道の【式鬼】なんじゃないのか?」
ぶっちゃけて言うと・・・宗教違いじゃないのか?・・・詳しくは知らんけど。
「・・・そんな細かい事は気にしないから拙僧は【破戒僧】なのだ」
コイツ・・・開き直りやがった!?
そもそも【破戒僧】のクセに仏の力を借りてんじゃねぇ!
「正道を見極める為にはあえて道から外れる事も必要なのだ」
「それっぽいこと言って誤魔化すな!?・・・って、ああもう、うっとうしい!!」
ナユタと会話しながらも【前鬼】と【後鬼】は容赦なく攻撃を繰り出してくる。幸い、スピードアップといっても俺に追いつけないほどのスピードではなかったが・・・避け続けるのも限界がある。
俺は【妖刀オロチ】も取り出し、いつも通りの二刀流で構える。
「【双覇・疾風連斬】!!」
二刀を振り回し、一気に二匹の鬼を斬ろうとしたが・・・
「【オン・バザラ・ヤキシャ・ウン】」
ナユタの【真言】と共に、【前鬼】と【後鬼】がまた違う光に包まれる。それでも構わず斬ろうとしたが・・・刃が通らない!薄皮一枚斬れただけでそれ以上斬ることが出来なかった。
「これは・・・!?」
「【金剛夜叉明王】の【印】と【真言】だ。その御力により身を傷つける事あたわず」
今度は防御力アップの強化かよ!? 【霊刀ムラクモ】や【妖刀オロチ】で斬れないとは相当な防御力だぞ。おそるべし、仏の力。
「だったら直接お前を狙う!【双刃・疾風連斬】!!」
【前鬼】と【後鬼】を無視して直接ナユタ本人を狙う。【障壁符】を使われてもこれだけの飛ぶ斬撃を放てば障壁を壊し、ナユタにも届くはずだ。
「【オン・アミリテイ・ウン・パッタ】」
しかし、俺が飛ばした斬撃はナユタに届く事はなく、まるで何かに弾かれるかのように斬撃があさっての方向に飛んでいってしまった。
「【軍荼利明王】の【印】と【真言】だ。その御力により、この身に降りかかる災厄を退ける」
・・・結界?のような物でこっちの攻撃が逸らされたということか?
何でもありか、アイツ。
「ではこちらからもお返しと行こうか。【ナウマク・サマンダ・バザラダン・カン】」
またナユタが新たな【印】を結び【真言】を唱えると、今度はナユタの周囲から青い炎が発生した!
「【不動明王】の【印】と【真言】!」
「これは知っていたか。さあ、【不動明王】の浄化の炎だ。どういたす?」
浄化の炎とやらが渦巻くようにこちらに向かってくる!
と、同時に【前鬼】と【後鬼】が退いた?
・・・あの炎は鬼達にも有効なのか? しかし、このゲームはフレンドリーファイヤは無効じゃあ・・・あと浄化って・・・人の事を不浄みたいに言わないで欲しい。
・・・って今はそんなこと考えてる場合じゃねぇ!!
「【アクアストリーム】!!」
【水魔法】で青い炎を消火しようとするが・・・消えねぇ!!
「【不動明王】の炎だ。その程度では消えはせん。敵を燃やし尽くすまでその炎は止まらん」
「ちぃ!!」
向かってきた青い炎を辛うじて避けるが、まるで生きているかのように青い炎が避けた俺に向かってくる。
追尾機能も搭載かよ!・・・万事休すか・・・
・・・いや、待てよ。敵を燃やし尽くすまで、か・・・
「・・・行け、【ビートル君】!!」
そしてすまん、アヴァン!!
俺は【ビートル君】をあえて青い炎の中へ飛び込ませた。予想通りというべきか・・・【ビートル君】は消し炭になってしまったが、青い炎も消えていた。
「ほほう、気が付いたか・・・」
・・・どうやら何か代わりになる物を差し出せば食い止める事ができるらしい・・・とはいえ、こんなこと何回も出来ないぞ。【ビートル君】だって数に限りがあるわけだし・・・
いや、それ以上に武器や防具にあの炎が当たったら・・・【ビートル君】のようになってしまうかもしれない。
青い炎が消えた事で再度【前鬼】と【後鬼】が向かってくる。・・・連発されないのは僥倖だが・・・このままじゃあジリ貧だ。
・・・一人では厳しいか。ここは助っ人を呼ぶことにしよう。
「【限定召喚】! 来い、アーテル!!」
俺はアーテルを召喚しようとしたが・・・
「【オン・マユラ・キランデイ・ソワカ】」
・・・だが、アーテルがこの場に現れる事はなかった。
「なん・・・だと・・・!?」
「・・・【孔雀明王】の【印】と【真言】・・・その御力は災厄を取り除く」
・・・召喚が打ち消されたというのか。
・・・大ピンチじゃないか、俺?
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