魔法は頭を使わないとね
エルフという種族を一言で言い表すのは・・・実は難しい。【魔法】に対して強い適正を持つ者もいれば、身体能力の高い者もいる。・・・中には農業に特化した者もいる。
では満遍なく高い能力を持っているのかと言われればそう言うわけでもない。【魔法】が強い分、身体能力が落ちる、またはその逆、などと言った感じに特化した能力がある分、別の能力が落ちるといった具合に極端に偏る傾向がある・・・らしい。by種族検証掲示板。
つまり、一概に相手がエルフだからといって、その相手がどの分野に特化しているかは分からないというわけだ。
そして特化した分野におけるエルフはかなり強い。掲示板なんかでは【魔法】に特化したエルフと【魔族】との間でどちらがより【魔法】に強いか、という議論が頻繁にある・・そうだ。by種族検証掲示板。
話が逸れたが、ラングの種族は【ハイエルフ】だ。通常のエルフとの違いは分からないが、ラング自身は【魔法】に特化していると見て良いだろう。
つまり、純粋な【魔法】勝負ではラングの方に分があると思ったほうが良い。
俺がラングに勝つもっとも確実な方法は、接近戦を仕掛け、強力な【武術】系の一撃で一気に勝負を決める、といった所か。
となると後はどうやってラングに近づくか、だ。
思いつくのは【俊天の疾走】による高速移動、もしくはアーテルを召喚し乗っけて貰うか、くらいか。他にも方法はあると思うが確実性、という意味ではこの2択だろう。
問題なのはどちらを取るか、だが・・・ラングは両方を既に見て知っている以上、何らかの対策を立てていると考えた方が良い。となると2択といえど迂闊に選択するのは危険だ。
ならば、何らかの方法でラングの隙を作り、状況によりどちらかを選択して一気に決める。
・・・と俺が考えるとラングの奴は考えるだろう。
もっと言えば俺が、ラングの奴はそう考えるだろう、ということもラングは考えているだろう。
・・・なんかややこしくなってきたが、要するにお互い考えてる事は筒抜け、というわけだな。・・・本当にいやらしい奴だ。
「・・・今、失礼な事考えたね?」
・・・ほらな?
「・・・考える時間を奪うほど熾烈に攻めてくる奴にドン引きしてただけさ」
そう、先ほどからラングの野郎は熾烈というか苛烈というか・・・隙間無く【魔法】を放ち続けてくる。
【ファイヤボール】【ウォーターボール】【サンダーボール】【ウインドボール】【アイスボール】【ロックボール】【ライトボール】【ダークボール】・・・初級とはいえ、【魔法】のオンパレードだ。
その数は・・・ゆうに百を超えている。
『これはすごい! ラング選手、初級とはいえこれだけの数の【魔法】を一度に出せるとは!!』
『あの【魔道書】の力ですね。【魔法】をストックすることが出来る【魔道書】ですが、当然容量は決まっています。大抵、【上級魔法】を一つか二つストックすれば一杯になってしまうのですが・・・あえて威力も消費も少ない【初級魔法】や【中級魔法】を大量にストックしていたのでしょう。まさかこんな使い方があるとは・・・』
『あれだけの数を一辺に操れるラングさんもすごいと思いますけど、それら相手に一歩も引かないアルクもすごいと思いますけどねぇ』
司会者たちが言っているように俺は百を超える【魔法】の玉を時に避け、時に受け流し、時に反撃しながらも思考していた。当然勝つ方法を、だ。
「考える時間が無い? とてもそうは思えないけどね?」
面白そうに笑うラングはやはり手をくねくねさせながら俺を見下ろしている。・・・百を超える【魔法】を自由自在に操るとは・・・アイツの頭の中はどうなってるんだ? あと、見下ろされてるのが若干むかつく。
いっそダメージ覚悟で特攻仕掛けてやろうかとも思ったが、それも駄目だった。
俺の周囲を飛び交っている【魔法】の中には・・・爆発系の物が混じっている。
【ハイ・フレイムボム】【ハイ・アクアボム】【ハイ・ボルトボム】【ハイ・ストームボム】【ハイ・フロストボム】【ハイ・グランドボム】【ハイ・フォトンボム】【ハイ・カースドボム】・・・これがまた中々の威力。一発でHPが全損するほど強力でもないが、何発も食らい続けるとさすがにヤバイ。
何より問題なのは威力よりも爆発だ。攻撃を食らった瞬間に発生する爆発により一瞬とはいえ立ち止まってしまう。
俺がダメージ覚悟でラングの奴に近づこうとすると、常に爆発系の【魔法】が先回りしていて足止めされてしまう。その隙にラングを乗せたグリフォンのヒュントが離れていく・・・舞台の広さが恨めしいぜ。
こんな状態じゃあ【俊天の疾走】を使おうが、アーテルを召喚しようが結果は同じだ。いや、消耗を考えればむしろ逆効果か。
一発一発なら簡単に対処できる【魔法】でも、こうも数を揃えられた上に変幻自在に操られると、ここまで苦戦するのか・・・
完全に持久戦に持ち込まれてるな。これじゃあラングの奴の思う壺だ。
「ほらほら、余計な事を考えてる場合じゃないよ。【ウッドバインド】」
「うおっ!!」
地面から木が・・・なんとか避け・・・駄目だ。右足が絡め取られた!
ドゴッ!ドゴッ!!
【閃槍アーディボルグ】で右足に絡まっていた木を切り、脱出したが・・・また何発か【魔法】を食らってしまった。
これで周囲だけじゃなく足元まで注意しなきゃいけなくなったな。というか足を止める事さえ出来なくなったというべきか。・・・俺を休ませないつもりかな。
予選の時のように【ビートル君改】で【グランディスエナジーバリア】を張るという手もあるが・・・全方位をカバーできる分、身動きが取れなくなるんだよな、あれ。単体で張る【グランディスエナジーシールド】なら移動しながらでも使用できるんだが・・・全周囲に【魔法】が飛び交ってるんだから焼け石に水だよな。
・・・さて、いよいよ取れる手が限られてきたぞ。まるで詰め将棋で徐々に追い詰められている気分だ。
・・・いや、実際にそうなんだろうな。ラングからしてもこのまま時間切れになったとしてもHP残量で言えばラングの勝ちだろうし、俺がヤケを起こして特攻しようとしたとしても対処手段を用意しているだろう。
さらに問題なのは、ラング自身はほとんど消耗していないということだ。
先ほどから【魔道書】ばかりを使用しているのもラング自身のMPを温存するためだろう。
つまり・・・本命はまた別にある、ということだ。
おそらく、こちらが防御に回ったときに一気にトドメをさせるような強力な【魔法】が・・・
「どうしたんだい? もう万策尽きたのかい?」
ラングは余裕そうな笑みを浮かべてこちらを見ている。・・・しかし、その余裕とは裏腹に俺とは付かず離れずの距離を保っている。
この距離が多分、ラングの【魔法】の射程距離なんだろう。
つまり、ラングの奴は微塵も油断していない、ということだ。
『おおーっと! ここまで怒涛の快進撃を続けてきたアルク選手も絶対絶命のピンチかー!!』
・・・司会がうるさいな。・・・まんまその通りだけど。
『でも~ここから逆転してくれますよね~、アルクさんなら』
・・・何、その無茶振り。っていうか司会が一選手に肩入れして良いのかよ。
・・・まあ、ここから逆転するつもりなんだけどな!!
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