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【書籍化】コンビニで夜勤バイトを始めまして。  作者: 天野 肇
第4話 深夜アニメと薄い本

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1

「はじめまして! 青山さんから聞いてると思うけど、わたしが平井です。下の名前は、かなめっていいます! えっと、袴田君……だよね?」


 声にならない叫びって、このことを言うのか。


 俺はバックルームから出てきた平井さんを見て、軽く固まっていた。さっきとは打って変わって、邪気のない幼い顔で俺に笑いかけている。


 あれ……おかしいな。


「袴田君?」


 いや、おかしいだろ。


 さっきこの人、煙草吸ってたよな。めちゃくちゃ目つき悪かったし、口調なんて暴走族の総長みたいだったぞ。


 吊り上がっていた大きな目は柔らかく垂れ下がり、言葉からも棘が消えている。声の調子までさっきとはまるで違った。


 あれほど威圧感のあった人が、今は目の前で天使みたいな笑顔を浮かべている。しかも、童顔なのに胸がやたらと大きい。


 いや、それは今どうでもいい!


 つまり何が言いたいかっていうと、さっきとはまるで別人なのだ。いやいや、同じ人なんだからそんなはずないんだけど。人間、気分や相手によって態度が変わることもあるだろうし……いや、それにしたって変わりすぎじゃね?


「どうしたの? わたしの顔、なんかついてる?」


 俺の困惑に気づいたのか、平井さんが笑顔のまま首を傾げる。


「ん?」

「あ、いや……」


 慌てて顔を逸らした。無邪気に笑う彼女が、思いのほか俺の好みだったからだ。


 ちょっと待て、袴田。さっきの見ただろ。あんなに怖い思いしたのに、笑顔一つで何ドキドキしそうになってんだ!


 落ち着け、落ち着け……。


「え……と、よろしくお願いします」

「うん、これからよろしくね!」


 平静を装いながら、俺は謎めいた平井さんと改めて挨拶を交わした。


 その後の平井さんは、最初に見た時のような荒っぽい口調で話すこともなければ、俺を威圧するような素振りも見せなかった。喋ってみると案外おっとりしていて、時折見せる笑顔がとにかく可愛い。


 さっきのは一体なんだったんだ。夢でも見たのか?


 そんなふうに思えてくるほど、第一印象が薄れていく。


 それにしても幼い顔してんなぁ。いくつだろう。二十歳か、そこらかな。あんな顔して煙草吸ってたんだもんなぁ。ギャップがすごい。


「平井さんさ、今日竹中さんと代わったんだよね」

「はーい、そうだよ! 急にシフト変わっちゃって、びっくりしたよね」

「あ、ああ。いやいや、別に?」

「今週の木曜日、どうしても休みたくって。竹中君にお願いしてシフトを交換してもらったんだ。えへへ」


 はー、やっぱり野郎と一緒にバイトするより、可愛い女の子と働く方が断然いいよなー。


 まずは打ち解けようと、なんとなく話題を振ってみる。平井さんは一つ一つの言葉にゆっくり応じてくれて、仕草もどこかふんわりしている。


 青山さんがこの前、変なこと言ってたけど……なんだ、思ってたより普通じゃないか。


 さっきのアレは気になるものの、こうして話している分には可愛らしい女の子そのものだ。


「へぇー、なに? それって彼氏とデートとか?」


 さりげなく聞いてみると、平井さんは隣のレジの前で口元に手を当て、くすくす笑った。


「ふふっ、違うよぉ。どうしてもリアタイしたいものがあって」

「へ、へえ。ドラマかなんか? それともバラエティ?」

「ううん、深夜アニメだよ!」


 ん。


「今週が最終回だから、絶対リアタイで観たいんだよね!」


 深夜、アニメ……?


「……どうしたの?」

「あ、はは。へ、へぇえ、アニメかぁ」


 予想外の答えに一瞬呆けてしまった。まあ、今どきアニメ好きなんて珍しくもないか。それにしても、アニメの最終回を観るためにシフトまで交換したのか。よっぽど好きなんだな。


「そこまでして観たいって、かなりハマってるんだね。面白いの? どんな話?」

「恋愛ものだよ! すっごくキュンキュンするの。今期の中でも一番好き!」


「ほー……」


 恋愛ものかぁ。そういうのが好きなんだな。


 よほどハマっているらしく、平井さんはそのアニメの魅力を楽しそうに語り始めた。正直、俺にはさっぱり分からない話だったが、あまりにも嬉しそうなので、つい聞き入ってしまう。


「もうね、主人公の照れ顔が尊すぎて! あの表情は反則だよ、ほんと!」


 ん。尊すぎて?


 あれ、なんか急にテンション上がってないか。


 平井さんは目を輝かせ、身振りまで交えながら話している。さっきまでのおっとりした雰囲気はどこへやら。聞き慣れない言葉も飛び出してきて、俺の理解が追いつかない。


 ハッ――まさか。


「ああもう、ああいうのもっと見せてほしい! ほんと、最高なんだよね!」


 青山さんが言ってたのは、これか――!?

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