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【書籍化】コンビニで夜勤バイトを始めまして。  作者: 天野 肇
第2話 勝手に開く自動ドア

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4


 今まで開いたままピクリともしなかった自動ドアが、勢いよく閉じた。かと思えばすぐに開き、また閉じる。自動ドアは俺の目の前で、異常なまでに開閉を繰り返し始めた。


「……おいおい」


 さすがの俺もこれには気味が悪くなって、思わず半歩下がる。開閉のたびに機械音とチャイムが断続的に鳴り響く。


 もしかして……故障じゃないのか……? だって、明らかにおかしい。


「うひっ――」


 思わず間抜けな声が出たのは、その時だった。俺の右脚のすぐ横を、何かが通り抜けたような感覚がしたのだ。なんて表現すればいいのか分からないけど、ひやりとした風が脚を掠めた。


 なんなんだよ……。


 右脚をさすりながら顔を上げると、今まで激しく開閉を繰り返していた自動ドアが、何事もなかったかのように静かに閉まった。それきり、勝手に開くこともなくなった。


 ドアにこんなことを言うのも変だけど、落ち着きを取り戻したみたいだった。


「――袴田くん」

「あ……青山さん!」


 呼ばれて振り向くと、青山さんがさっぱりした顔をして店内の奥のトイレから出てきた。どうやらこの人、俺がイカレた自動ドアと格闘している間、ずっとトイレに籠もっていたらしい。


「どこに行ったかと思いましたよ」

「ごめんねぇ、お便秘四日目でやっと今思うように出せたのよぉ……! はァー、すっきり!」


 おいおい……そんなリアルな話聞かせないでくれ。


「それより袴田くんはなんでこんなところに立ってるの?」

「あー、それなんですけど……」


 青山さんがいない間に起こったことを一通り話した。


「この自動ドアって壊れてるんですか?」


 今はすっかり大人しくなった自動ドアを指差すと、青山さんの口元がわなわなと震えた。


「また来ちゃったのね……!?」

「は……?」


 突然の大声にびっくりした。両腕を揺らして明らかに怖がる素振りを見せる青山さんに、俺は先ほどの荒ぶる自動ドアよりも気味の悪さを感じてしまった。


 ぽかんとする俺の肩を、青山さんがバシバシ強く叩いてくる。


「時々あるのよ! 二時ぐらい過ぎると突然ドアが開いたり閉まったりって……! あたしも見たもの……! 故障だと思うでしょ!? でも違うの……」


 青山さんは俺の耳元に顔を寄せ、小声で囁いた。


「実はあれね……小さい男の子がドアを出たり入ったりして遊んでるの……」

「え……小さい男の子って……なんなんですか」


 吹きかけられた息にまたぞわりとして、耳を押さえながら聞き返す。


「男の子の幽霊よ」

「ゆ、幽霊!?」

「そう、竹中くんが教えてくれたの。ドアの前で男の子が遊んでるって」


 普通の人なら、ここで怖がるんだろうか。俺はその話を聞いた途端、インチキ臭いと思ってしまったのだから救いようがない。


「それ本当の話なんですか?」

「あらやだ、信じてないの!?」

「んー……俺、そういう目に見えない話はなかなか信じられないんで」


 なんだかんだ言って、やっぱりあれは故障としか思えない。その男の子っていうのが俺に見えていれば、そんなこと思わないんだろうが。


「珍しいわね。この話聞くと大概みんな気味悪がって、早い子なんて次の日には辞めちゃうのに」


 って。


「俺をおどかすために言ってるんですか?」

「やだわ、全部本当の話よ。あなたも竹中くんに会えば分かるわよ」

「……」


 また竹中さんって人かよ……。まだ会ったことないけど、なんか胡散臭そうなんだよな。


 青山さんの話からすると、幽霊が見えるって言ってる人なんだろうけど、そもそもドアの前で男の子が遊んでいるなんて、どうやって確かめたんだ。他の人達も他の人達だ。なんで赤の他人が言った、そんな根拠もないことを簡単に信じられるんだろう。


 幽霊なんて、そんなもの本当は存在しないのに。


「まぁ、そういうふうに自分の考えを曲げずにいた方が、長続きするのかもしれないわねぇ」


 腑に落ちない顔をしている俺に、青山さんは苦笑しながら言った。


 それから日が昇るまで、特に目立ったことは起きなかった。こうしてニコニコマートでの初勤務は終了したわけだが、正直言って謎は残る。


 とはいえ、あれを一概に霊の仕業だなんだと騒ぎ立てる必要はない気がする。俺は自分の目で確認したものしか信じない。他人の話に振り回されて、いちいち怯えてたまるかってんだ。


「なかなか深夜ってのも、ふぁっ……楽じゃないなァ」


 客は来ないし、暇だし。眠い目を擦りながらバイクに跨り、俺は自宅のアパートへ帰るべく、朝日に照らされた道路を走っていった。


 それから数日後。休憩中、防犯カメラに映し出された奇妙な影を目撃して、俺は思わず飲み物を噴き出すことになる……。


 あの自動ドアの一件など、あのコンビニではまだまだなんてことのない。序の口だったのだ。


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