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今まで開いたままピクリともしなかった自動ドアが、勢いよく閉じた。かと思えばすぐに開き、また閉じる。自動ドアは俺の目の前で、異常なまでに開閉を繰り返し始めた。
「……おいおい」
さすがの俺もこれには気味が悪くなって、思わず半歩下がる。開閉のたびに機械音とチャイムが断続的に鳴り響く。
もしかして……故障じゃないのか……? だって、明らかにおかしい。
「うひっ――」
思わず間抜けな声が出たのは、その時だった。俺の右脚のすぐ横を、何かが通り抜けたような感覚がしたのだ。なんて表現すればいいのか分からないけど、ひやりとした風が脚を掠めた。
なんなんだよ……。
右脚をさすりながら顔を上げると、今まで激しく開閉を繰り返していた自動ドアが、何事もなかったかのように静かに閉まった。それきり、勝手に開くこともなくなった。
ドアにこんなことを言うのも変だけど、落ち着きを取り戻したみたいだった。
「――袴田くん」
「あ……青山さん!」
呼ばれて振り向くと、青山さんがさっぱりした顔をして店内の奥のトイレから出てきた。どうやらこの人、俺がイカレた自動ドアと格闘している間、ずっとトイレに籠もっていたらしい。
「どこに行ったかと思いましたよ」
「ごめんねぇ、お便秘四日目でやっと今思うように出せたのよぉ……! はァー、すっきり!」
おいおい……そんなリアルな話聞かせないでくれ。
「それより袴田くんはなんでこんなところに立ってるの?」
「あー、それなんですけど……」
青山さんがいない間に起こったことを一通り話した。
「この自動ドアって壊れてるんですか?」
今はすっかり大人しくなった自動ドアを指差すと、青山さんの口元がわなわなと震えた。
「また来ちゃったのね……!?」
「は……?」
突然の大声にびっくりした。両腕を揺らして明らかに怖がる素振りを見せる青山さんに、俺は先ほどの荒ぶる自動ドアよりも気味の悪さを感じてしまった。
ぽかんとする俺の肩を、青山さんがバシバシ強く叩いてくる。
「時々あるのよ! 二時ぐらい過ぎると突然ドアが開いたり閉まったりって……! あたしも見たもの……! 故障だと思うでしょ!? でも違うの……」
青山さんは俺の耳元に顔を寄せ、小声で囁いた。
「実はあれね……小さい男の子がドアを出たり入ったりして遊んでるの……」
「え……小さい男の子って……なんなんですか」
吹きかけられた息にまたぞわりとして、耳を押さえながら聞き返す。
「男の子の幽霊よ」
「ゆ、幽霊!?」
「そう、竹中くんが教えてくれたの。ドアの前で男の子が遊んでるって」
普通の人なら、ここで怖がるんだろうか。俺はその話を聞いた途端、インチキ臭いと思ってしまったのだから救いようがない。
「それ本当の話なんですか?」
「あらやだ、信じてないの!?」
「んー……俺、そういう目に見えない話はなかなか信じられないんで」
なんだかんだ言って、やっぱりあれは故障としか思えない。その男の子っていうのが俺に見えていれば、そんなこと思わないんだろうが。
「珍しいわね。この話聞くと大概みんな気味悪がって、早い子なんて次の日には辞めちゃうのに」
って。
「俺をおどかすために言ってるんですか?」
「やだわ、全部本当の話よ。あなたも竹中くんに会えば分かるわよ」
「……」
また竹中さんって人かよ……。まだ会ったことないけど、なんか胡散臭そうなんだよな。
青山さんの話からすると、幽霊が見えるって言ってる人なんだろうけど、そもそもドアの前で男の子が遊んでいるなんて、どうやって確かめたんだ。他の人達も他の人達だ。なんで赤の他人が言った、そんな根拠もないことを簡単に信じられるんだろう。
幽霊なんて、そんなもの本当は存在しないのに。
「まぁ、そういうふうに自分の考えを曲げずにいた方が、長続きするのかもしれないわねぇ」
腑に落ちない顔をしている俺に、青山さんは苦笑しながら言った。
それから日が昇るまで、特に目立ったことは起きなかった。こうしてニコニコマートでの初勤務は終了したわけだが、正直言って謎は残る。
とはいえ、あれを一概に霊の仕業だなんだと騒ぎ立てる必要はない気がする。俺は自分の目で確認したものしか信じない。他人の話に振り回されて、いちいち怯えてたまるかってんだ。
「なかなか深夜ってのも、ふぁっ……楽じゃないなァ」
客は来ないし、暇だし。眠い目を擦りながらバイクに跨り、俺は自宅のアパートへ帰るべく、朝日に照らされた道路を走っていった。
それから数日後。休憩中、防犯カメラに映し出された奇妙な影を目撃して、俺は思わず飲み物を噴き出すことになる……。
あの自動ドアの一件など、あのコンビニではまだまだなんてことのない。序の口だったのだ。




